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第26話「全て正解だし、全て間違い」

第26話「全て正解だし、全て間違い」


ファミレスからの帰り道、ゆきが突如「クリスマスパーティしない?」と言い出し、クリスマスパーティ開催がその場で決定した。

場所は部室。

美紅里にも許可を取り付けたので心おおきなくできる。


れぃ「……ただお菓子とか持ち寄って飲み食いするだけじゃいつもと変わんなくね?……」


まみ「ケーキとか買ってしまう?」


ゆき「よし!プレゼント交換しずか!」


まみ「……」


れぃ「……まみ、どした?……」


まみ「あはは……、あたし家以外でクリスマスパーティとかやった事ねぇんで、プレゼント交換とかってどうやったらいいか解んなくって」


ゆき「おっけ!じゃあプレゼント交換のルール説明するよ」


まみ「ルールとかあるの!?」


れぃ「……ルールと言ってもそんな堅苦しいもんじゃねぇよ……」


ゆき「自分以外の人に1つずつプレゼントを用意する。プレゼントの購入価格は1000円をめど」


れぃ「……プレゼントのジャンル決める?……」


まみ「ジャンル?」


れぃ「……食べ物オンリーとか文房具オンリーとか……」


ゆき「スノボに持って行ける物限定でやってみずか!」


まみ「わかった!えーっと、何にしずかな……」


れぃ「……美紅里ちゃんにはどうする?……」


ゆき「お世話になってるし、サプライズプレゼントしずか」


まみ「賛成!」


れぃ「……美紅里ちゃんにもスノボ持って行ける物縛り?……」


ゆき「いや、美紅里ちゃんは何でも持ってそうだからジャンル無しのフリーで」


まみ「フリーはフリーで難しいね……」


れぃ「……そう難しく考えることねぇよ……」


まみ「でも他の人と被ってしまったら?」


ゆき「そん時ゃそん時よ」


まみ「そ……そんな物なんだ……」


ゆき「こんなの何が正解って訳じゃねぇから、テキトーにあたし達のノリで行かずか!」


そう言うとゆきはニカっと笑う。

この「ニカっ」と笑う表情はゆきがたまに見せる表情だ。

どこかいたずらな、何か企んでそうな、そんな笑顔だ。


れぃ「……だな……」


れぃは相変わらず傍から見れば無表情だが、わずかではあるがそれが笑顔である事もいつしかまみは判って来ていた。


ゆき「では、決行は明後日のクリスマスイブ!時間は部室に10時集合!明日はそれぞれ準備されたし、オーバー!」


少し芝居がかった言い方でゆきが話を締める。


れぃ「……あいあいさー……」


またも無表情だが、無表情のままれぃはピッと敬礼をして返す。


帰りの電車の中でまみはプレゼントを何にするか既に悩み始めていた。


まみ『スキー場に持って行ける物で1000円くらいの物で、明日買える物……う〜ん……』


家に帰っても心ここに在らずといった感じで眉間にシワを寄せている。


ののこ「真由美、どした?」


まみ「明後日、ゆきちゃん達とクリスマスパーティする事になったんだけど……」


まみの言葉に色めき立つ両親。


父「母さん!」


母「あなた!」


ののこ「お父さんもお母さんも、もうその下り要らねぇから」


まみもののこもやれやれと言った表情だ。


ののこ「んで、どした?」


まみ「プレゼント交換する事になったんだけど、スキー場に持って行くもの限定で1000円くらいの物を二人分と、あと美紅里ちゃんの分を用意しなくちゃいけねぇの。もう何を買って行けばいいのか……」


母「美紅里ちゃん?新しいお友達?」


ののこ「お母さん違うよ。二階堂先輩。うちにも来た事あるでしょ?」


まみ「え?そうなの?」


ののこ「あたしが高校の頃、何度か来てたわよ。あんた部屋に引きこもって出てこなかったけど」


まみ「知らなかった……」


母「二階堂さんと真由美がお友達になったの?」


ののこ「違う違う。二階堂先輩、真由美のクラブの顧問なの」


母「え〜〜〜〜っ、あたし聞いてねぇわよ」


どうやら人間関係を完全に把握していたのはののこだけだったようだ。


ののこ「で、まみ、何か思い付いたの?」


まみ「全然!」


ののこ「あんたが欲しい物買えばいいのよ」


まみ「え〜……だって好みとか人それぞれあるじゃん……」


ののこ「そんなの当たり前じゃん。それは当然他の子も把握してるわよ。そんだからあんたが欲しい物で、あげる子に合いそうな物をチョイスすればいいのよ」


ののこは実家に帰って来ているせいか、すっかり長野弁に戻っているが誰も違和感を感じていない。


まみ「ごめん、何言ってるかわかんねぇ」


ののこ「まったく……あんたって子は……」


苦笑いしながらビールを煽るののこ。


ののこ「ぷはっ!……ん〜……じゃあね、あんた文房具で欲しい物ある?」


まみ「ありある!ずっと芯が尖った状態で出てくるシャーペン!」


ののこ「じゃあ、それをゆきちゃんにあげんだら何色のシャーペンがいいと思う?ゆきちゃんが普段持ってる物とかで色の偏りとかあるだらず?」


まみ「ん〜〜〜、水色?」


ののこ「じゃあ、水色のシャーペンだ。こうやって選ぶの」


まみ「なるほど……。二人とも同じ物でいいのかな?」


ののこ「知らねぇわよ。それにスキー場に持って行くもの縛りだらず?こないだ一緒に行って、あの子達がどんなだったか想像してごらん」


まみ「う〜ん……。まぁ、ゆきちゃんとれぃちゃんのは何とか考えてみるけど美紅里ちゃんがまぁず想像つかねぇ」


ののこ「同じよ。あんたがどれだけ美紅里さんを見てるか。美紅里さんの好きな物とか思い出してごらん。例えそれが美紅里さんのストライクゾーンから外れた物であっても自分の為に考えてくれた物だと解ったら何でも嬉しいものよ」


まみ「そんなもんかぁ……」


ののこ「あたし明日ドンドンマートに行くから乗せてってやらずか?」


まみ「ホント?ありがと!」


翌日、ののこのジムニーに乗せてもらいドンドンマートに向かう。


まみ「ふわぁ〜〜〜」


ののこ「何?寝不足?」


まみ「何がいいか考えてたら眠れなくなった」


ののこ「何でもいいのよ。何をプレゼントしても全て正解だし、全て間違い」


まみ「なにそれ?」


ののこ「プレゼントなんてそんな物よ。1000円くらいの本当に欲しい物なんて自分で買うだらず。今現在買ってねぇって事は、基本的に要らねぇ物なの。だけど、自分の為に考えて選んでくれたプレゼントは欲しい訳じゃねぇけど嬉しい。そんだから何をプレゼントしても正解であり、間違い」


まみ「ふ〜ん……ちなみにお姉ちゃんだったら何が欲しい?」


ののこ「教えねぇ。それを教えたら真由美の思考がそっちに傾いて、真由美からのプレゼントじゃなくなってしまうから」


まみ「ケチ〜」


ののこ「ケチじゃねぇわよ。真由美が考えて選んだ物だから価値があるの。その価値を下げるような事になるからあたしはあえて何も言わないの」


そうこうしているうちにドンドンマートに着いた二人。


ののこ「じゃあ、あたしはあたしで買い物あるから。終わったらラインして」


まみ「えっ?お姉ちゃん行ってしまうの?」


ののこ「だ〜か〜らぁ……。あたしと一緒に店内回っても仕方ねぇだらず。それに何か見付けたとしてもどうせ真由美の事だから『お姉ちゃんこれどう思う?』ってあたしに聞いてくるのが目に見えるもん」


まみ「ちょっ……変なあたしのモノマネするの止めてよ。……でも、お姉ちゃんの予想どおりかも……」


ののこ「じゃねっ!」


そう言うとののこは店内に消えて行った。


まみ「ん〜……じゃあとりあえず店内を見てまわるか……」


店内に入るとお店のテーマソングが流れている。


ドンドンドンマ〜ト〜ドンドンマ〜ト〜♪


まず目についたのは化粧品だが、ゆきの家が化粧品も扱う薬局。


まみ『化粧品はダメだな……』


次に目についたのは時計のコーナー。


まみ『時計ならスキー場に持って行けるしない。みんな基本的に時間見るのはスマホだからスマホ持ち込み禁止が解除されるまでは必要だもんね』


ショーケースに入っている時計をチラっと見るが、桁が違う。


まみ『こんなブランド物じゃなくて……あった!』


メッシュラックに一つずつビニールで包装された時計のコーナーを見付ける。


まみ『値段は……ダメだ。まだ予算オーバー……もっと安いのは……』


さらに探すとワゴンに雑に入れられた腕時計を発見。

しかも980円均一と書かれている。


まみ『これなら!』


ワゴンを漁り始めるがまみだったが……


まみ『ダメだ。どれもこれも非防水な上にダサくてチャチい。これ、あたしならコレもらっても嬉しくねぇな……。時計は諦めるか……』


また店内をウロウロしていると衣料品のコーナーに来た。


まみ『ウェアの下に着るTシャツとか?……ん〜……なんか違うな……』


衣料品コーナーを立ち去ろうとした時、これまたワゴンセールでニット帽が山積みになっていた。


まみ『美紅里ちゃんにヘルメットにしろって言われてるから使えねぇ……』


そう思って立ち去ろうとした瞬間、ふとれぃの姿が頭に過ぎった。

ぜんざいを食べにレストハウスに入った時の事だ。


れぃ『……あたしくせっ毛だからヘルメット被ったら、脱いだ時に頭爆発してんだよね……まぁどうでもいいけど……』


まみ「これだっ!」


思わず声が出ていたが、本人はその事に気付いていない。

ワゴンの中のニット帽の山を漁り始める。


まみ『赤……は、グルキャナックちゃんっぽいけど、ちょっと違うかな』


一度手にした赤いニット帽をワゴンに戻す。


まみ『いっそゆきちゃんへのプレゼントもニット帽にしてしまわずか……。でも同じ物ってのもなぁ……』


ニット帽の山を掻き分けて他の物を探す。


まみ『これは……違う。これも……イメージじゃねぉ……もっとこう……あっ!』


ワゴンの底の方から出てきたのは紫色のニット帽。

それを引っ掴み、スマホを取り出して先日のスノボの写真を開く。


その写真に写ったれぃのウェアの色とニット帽の色を見比べる。


まみ「これだっ!すごい!色があらかた一緒!これならヘルメットを外した時にこのニット帽を被っても違和感ねぇ!ってか、れぃちゃんが被ったら絶対かわいい!」


ののこ「真由美〜どした〜?いい物見つけた?」


またいつの間にかののこが来ていた。


まみ「あひゃっ!お、お姉ちゃん、いつの間に?」


ののこ「ちょうどそこの角曲がったら真由美が居た。へ〜、それれぃちゃんに?いいじゃん!」


まみ「何でれぃちゃんのだってわかるの?」


ののこ「ゆきちゃん、れぃちゃん、美紅里さんの三人でその色が似合うのれぃちゃんだもん。わかるわよ」


まみ「そっかぁ〜……。えへへ〜〜似合うかぁ〜〜」


ののこ「いい物見つけたね。値段もちょうどいい感じじゃん」


まみ「あ、値段見るの忘れてた。これ、いくら?」


ワゴンに1000円均一と書いてある。


まみ「消費税入れたら1000円超えちゃうじゃん!」


ののこ「いいのよ、それくらい」


まみ「でもルールで1000円めどって……」


ののこ「誤差の内よそんなの。まさかレシートを提出する訳じゃねぇだらず?真由美がプレゼントしたいた思ったら、それでいいの!」


まみ「ん!じゃあ、これにする!」


ののこ「次はゆきちゃんと美紅里さんのプレゼント?頑張ってね〜」


まみ「あ、お姉ちゃん!待っ……」


ののこ「待たな〜い。自分で考えな〜」


そう言うとののこは手をひらひらと振って、また店内に消えて行った。


またポツンと残されるまみ。


仕方なく次のコーナーを回る。


まみ『車用品か……。美紅里ちゃんの車に使える物とか?でもあたし車の事わかんねぇんだよね〜』


そう思いながら運転する美紅里の姿を思い出した。


まみ『美紅里ちゃんって、お母さんやお姉ちゃんと違って運転する時なんか余裕あるって言うか、自然体って言うか……何だろ、スマート?おしゃれ?……なんだよね〜』


もちろんこれは浅野家の面々の運転が特殊なだけであり、美紅里は至って普通なのだが、まみの中で普通の運転は母親やののこの運転なのだ。


まみ『美紅里ちゃん、カップのコーヒー飲みながら運転してるもんね。お姉ちゃんの運転する車にカップのコーヒーとか持ち込んだら大惨事じゃん』


実際、カップのコーヒーどころか缶飲料でのかなりの大惨事になる。

ストロー付きのパック飲料かペットボトルでギリギリだ。


まみ『ん?そういや美紅里ちゃんってよくコーヒー飲んでるよね。コーヒー好きなのかな……』


そんな事を考えながらカー用品のコーナーを見て回るまみ。


そこにふと目についた商品があった。


まみ『真空断熱カップホルダー?コンビニコーヒーがすっぽり入って冷めにくい……これだっ!値段は!?』


ポップに書かれていた金額は1500円。

しかしその文字が赤線で消され「展示品につき特価1200円!」と書かれている。


まみに迷いは無かった。

すぐさま商品を確保。

さっきのれぃへの帽子の時にののこから金額についてのアドバイスが無ければ、また予算オーバーと言う事について躊躇していたであろう。


この様子をまた隠れて見ていたののこ。


スッと現れ店員を呼ぶ。


ののこ「すみません、この商品、化粧箱は無いんですか?」


店員「しばらくお待ち下さい……えーっと、こちらですね。あ、お入れしましょうか?」


ののこ「はい、お願いします」


あわあわしているまみをよそ目にののこの店員さんは作業を終える。


店員「ではこちらの札も一緒にレジに出して下さいね」


例の「展示品に付き〜」と言う割引を証明する札だ。


まみ「あ、あ、は……はい。ありがとうございます」


店員は一礼して売り場に戻って行った。


まみ「お姉ちゃん、ありが……あれ?」


既にののこはどこかに行ってしまって姿は既に無い。


キョロキョロと周りを見回すが、ののこを探すのを諦めてまた店内をまわり始めた。


まみ『あとはゆきちゃんのプレゼント……ゆきちゃんって何が欲しいんだらず?』


何かヒントになるものは無いかとスマホのアルバムを見直すが、コレと言った物は思い付かない。


気付けばレジの所まで来てしまった。


まみ『もう一度店内見てまわろ』


ドンドンマート店内は迷路のように入り組んでいて、余さず見て回るのはなかなか困難なお店。


あっちへウロウロ、こっちへウロウロ。

そしてその姿をこっそりと見守るののこ。

本人は否定するだろうが、かなり過保護な姉だ。


そしてやはり何も見つけられずレジまで来てしまったのを見て、見かねたののこが声をかける。


ののこ「ゆきちゃんのプレゼント見つかった?」


まみ「どうしよう……ゆきちゃんのプレゼントだけ思い付かない……。あたしゆきちゃんの事ちゃんと見て無かったのかなぁ」


既に半泣きのまみ。


ののこ「逆だらず。よく見てるからここにある物でゆきちゃんに合う物が見つからなかったのよ。よし、お店変えるよ。とりあえずそれ支払い済ませておいで」


促されトボトボとレジに向かう。


会計が終わろうかと言う時に、またののこが口を挟む。


ののこ「あ、それプレゼント用なんで包装お願いします」


デコレーションバッグの代金も払い、とりあえず2つプレゼントを用意できた事実に、少し安堵した表情のまみ。


ののこ「よし、じゃあ次はホームセンター行くよ」


まみ「ホームセンター?」


ののこ「ドンドンマートでいいプレゼントが見つからねぇ時は意外とホームセンターにぴったりの物があったりすんのよ」


また車で移動する事数分。

ホームセンター「コケコッコ」に到着。


まみ「いいのあるかなぁ……」


ののこ「さっき美紅里さんのプレゼント用に買ってたカップホルダー、あれホームセンターにもあるよ。なんならニット帽もね」


まみ「あ、そっか。そう言えばそうずゃん」


ののこ「じゃあ今度は真由美が欲しい物を売ってそうなコーナー行ってみな」


まみ「あたしが欲しい物買っても意味ねぇじゃん」


ののこ「同じ女子高生で同じ趣味でしょ?それもスキー場に持って行く物縛りのプレゼントじゃん?真由美がいいなと思った物って案外ゆきちゃんも興味ある物なんじゃねぇの?」


そう言われてまみが向かったのはスマホのケース等を取り扱うコーナー。


そしてまみの目が煌めき、迷う事なく商品を手に取った。


帰りの車の中、ホッとした表情のまみにののこが話しかける。


ののこ「良かったじゃん、いい物見つかって」


まみ「うん。お姉ちゃんありがと」


翌日


ゆき「メリークリスマ〜ス!」


れぃ「……いぇ〜ぃ……」


まみ「い……いぇ〜い!」


ノリノリなゆき、平常運行のれぃ、場馴れしてないまみ。


美紅里「あんた達、ホント元気ね」


少し呆れたように美紅里が笑う。


ゆき「だって美紅里ちゃん、クリスマスよ?冬休みよ?元気にもなるよ」


美紅里「もう筋肉痛はいいの?」


まみ「あたしまだちょっと残ってる」


れぃ「……あたしも……」


ゆき「そこはそれ!筋肉痛でもクリスマスは楽しめる!いえ〜い!」


れぃ「……とりまお菓子お菓子……」


ゆき「あたしケーキ買って来たよ!まみは?」


まみ「えっと……あの……スルメ……」


れぃ「ぶふっ!」


思わずれぃが吹き出す。


ゆき「まみ、コミゲ行く時もスルメ持ってたよね。どんだけ好きなん(笑)」


まみ「いや、あの、昨日プレゼント選ぶのに夢中になってて、お菓子の事すっかり忘れてて、コンビニで買わずかとも思ったんだけどみんなとかぶるといけねぇし……そんだからお父さんのおつまみをかっぱらって来てしまった」


れぃ「……まみらしい……」


まみ「あ、でも今日はカルパスもあるよ!」


ゆき「ツマミじゃんwww」


れぃ「……カルパスは有り寄りの有り……」


テーブルの上にはケーキとせんべいとスルメとカルパスが並ぶ。


ゆき「この統一性の無さよwww」


れぃ「……まぁいいじゃん……」


そう言うとれぃはクククと笑う。


ゆき「じゃあ、メリークリスマ〜ス!かんぱ〜い!」


紙コップなのでグラスの音は響かないが、そんな事を気にする者は誰も居ない。


ゆき「さっそく、プレゼント交換だ!……と、その前に……」


そう言うとゆきはカバンからプレゼントを取り出す。


ゆき「お世話になってる美紅里ちゃんにプレゼントだ!」


美紅里「え?そんな、いいのに……」


さすがに少し困惑する美紅里。


続けてれぃ、遅れてまみもプレゼントを持って美紅里の元に集まる。


押し付けられるようにして美紅里は三人からプレゼントを受け取る。


ゆき「んで、まみとれぃにも……って中身はみんな同じなんだけど……はい!」


まみ「ありがとう!」


れぃ「……んふふ……何だろ?……」


今度はタイミングを逃さずまみがゆきとれぃにプレゼントを渡す。


まみ「あの、気に入ってもらえるかわかんねぇけど……これがゆきちゃんで、これがれぃちゃん」


れぃ「……じゃあ、あたしも……はい、これ……」


それぞれにプレゼントが渡され、みんなが中身についてそわそわしている。


ゆき「はい、じゃあ開封の儀を行う!」


れぃ「……まってました……」


ゆき「あ、じゃあよかったらあたしのから開けて。みんな同じだからタイミングがズレるとサプライズ感無くなるから」


そう言うとニカっと笑う。


ゆきに促され、まみとれぃ、美紅里もゆきからのプレゼントの包装を開く。


美紅里「えっ!?ゆき、ちょっとコレ……」


れぃ「……おぉっ!日焼け止めだ……」


まみ「なるほど!実用的!」


美紅里「ゆき、これすごく高いやつでしょ?大丈夫なの?」


ゆき「へっへっへ〜、そこは家が薬屋兼化粧品屋の強みっすよ」


そしてまたニカっと笑う。


ゆき「いや〜……実はそれ、使用期限切れ間近なんじゃん。どれも3月には切れるんで、うちでワゴンセールやってる商品。冬場はあまり日焼け止め売れねぇから格安でお母さんに売ってもらっただ」


美紅里「それならいいけど……ほんとありがとね」


れぃ「……これ、そんな高級品なの?……」


まみ「あ……あたし、きっかり1000円だけどいいのかな?」


ゆき「いーのいーの!使用期限切れたら廃棄するしかねぇんだからうちにしてみりゃ一石二鳥」


そしてまたまたニカっと笑う。


れぃ「……え〜っとゆきの後はハードル高いけど、次はあたしのを開けてもらわずか……」


ゆき「じゃあさっそく……。あっ!シルフィードのパスケース!」


れぃ「……『ドジまぬ』のグッズ買いに行ったら売ってたの見つけたから……」


無表情ながらドヤ顔するれぃ。


ゆき「これ欲しかったんじゃん!」


れぃ「……本来は定期券入れだけど、カラビナ付けたらリフト券ホルダーになるかな……って思って……」


ゆき「う〜〜〜〜、スキー場で使うのもったいねぇ!」


美紅里「じゃああたしも開けさせてもらうね」


比較的コンパクトな包みから出てきたのは(かんざし)だった。


れぃ「……すんません、それ自作っす……」


美紅里「これ、れぃが作ったの?」


細かい装飾が施され、市販品かと思うくらいの出来栄えである。


れぃ「……ん……。そう言う細かい物作るの好きで前から色々作ってたから……」


美紅里「どうやって作ったの?」


れぃ「……あ〜、かんざし作る用のキットが売られてるんで、それをベースにレジンとかトンボ玉とか使ってちょいちょいと……」


美紅里「れぃ、器用なのね〜」


そう言うと美紅里はかんざしをまじまじと見つめる。

普段はショートボブのヘアスタイルの美紅里ではあるが和装コスの時はロングのウィッグを付けている。


美紅里「ありがとう。今度使わせてもらうわ」


れぃ「……またエロい写真たのんま……あたっ!」


即座に美紅里がれぃの頭をはたく。

お約束の流れだ。


ひとしきり皆で笑った後、いよいよまみがれぃのプレゼントを開ける。


まみ「え〜っと、あたしも開けていいかな?」


れぃは無言のゼスチャーでどうぞと促す。


れぃからまみへのプレゼントは他のプレゼントに比べると大きい。

むしろ嵩張っていると言った方がいいかもしれない。


まみ「何だらず?なんか外から触ったらふわふわしてる……」


そう言いながらリボンを解き袋の中を覗き込む。


まみ「キツネのぬいぐるみだ!かわいい!」


れぃ「……あわてんな……出してよく見てみろ……」


謎のドヤ顔のれぃ。


まみ「かわいいっ!キツネのぬいぐるみリュックだ!」


れぃ「……ペットボトルくらいなら入るぞ……」


まみ「れぃちゃん、ありがとう!」


れぃ「……なぁに、いいって事よ……」


ゆき「よくこんなの見つけたね」


れぃ「……ゆきのを買った帰りに偶然みつけた。ひと目見た瞬間、これまみのだって思ったね……」


いつになく口数が多いれぃ。

どうやら皆の反応に満足してれぃなりにテンションが上がっているようだ。


そしていよいよまみからのプレゼントを開ける順番が来た。


れぃ「……では、開けさせて頂きます……」


珍しくれぃが芝居がかった言い方をしてプレゼントを前に両手の指を複雑に動かす。

たぶんれぃなりのまみへのからかいなのだろう。


だが、からかわれている当のまみは緊張のあまり、からかわれている事に気付かない。


れぃはガサガサと包装を開ける。


れぃ「……おぉ……ニット帽だ……ウェアと同じ色……」


ゆき「へ〜、いいじゃん、かわいい」


まみ「えっと、ほら、滑ってる時はヘルメットだけどレストランとかで脱いだ時にれぃちゃん頭を気にしてたから……」


れぃ「……うん。これで爆発した頭隠せる……」


普段から髪の毛のハネとかに無頓着なれぃ。

今もクセのある髪がぴょんぴょんとあちこちハネている。


そしてそのまま髪を整える訳でもなく、そのニット帽をぎゅもっと被る。


れぃ「……どう?……」


ゆき「うん、似合ってる!」


まみ「あ、あと、なんか色合いがグルキャナックちゃんっぽいから……」


グルキャナックとは、れぃがしているコスプレのキャラクターだ。


たぶんちょっと照れているのだろう。

れぃは無表情ながら少し視線を横に外してピクリと口角を上げてニヤリと笑った。


その後れぃはよほど気に入ったのか、室内でも帰る時もずっとそのニット帽を被ったままだった。


美紅里「じゃああたしも開けさせてもらおうか」


まみ「え……あ……その、美紅里ちゃんは部室でも車の中でもよくコーヒーを飲んでるからコーヒー好きなのかなって思って……」


テンパっているまみは、プレゼントが袋から出てくる前に説明を始めてしまう。


美紅里「おぉ〜、真空断熱カップホルダーじゃん」


ゆき「あ、それあたしも欲しい!」


れぃ「……ステンレスシルバーが渋い……」


美紅里「あたしが頻繁にコーヒー飲むのよく見てたね〜」


まみ「あ、うん。お母さんやお姉ちゃんの車で飲み物飲むとかあり得ねぇから、美紅里ちゃんの車に乗せてもらった時に飲み物飲んでるのがなんか新鮮で……」


さもありなんと言った表情で無言で頷くゆきとれぃ。


美紅里「確かにあの子の運転でコーヒー飲むのは自殺行為だわ」


そう言うと美紅里はカンラカンラと笑う。


ゆき「じゃあ、最後はあたしが開けさせてもらう」


まみ「えっとそれは……」


ゆき「おおっ!なんかすごい!」


れぃ「……スマホの防水パックと自撮り棒、リモコンシャッターまで付いてるじゃん……」


美紅里「ゆき、すごい写真撮りたがってたもんね」


ゆき「これはバッチリどストライク!まみ、ありがとっ!」


まみ「えっと……あの……喜んでくれて良かったです……」


何故か顔を真っ赤にして俯くまみ。


ゆきはさっそくパッケージから自撮り棒を取り出し、スマホを装着して今日の記念写真を撮った。

それぞれもらったプレゼントを抱えてポージング。


その後ケーキやお菓子やスルメを食べながら笑いの絶えないクリスマスパーティが夕方まで続いた。


こうしてまみの初めての「友達とのクリスマスパーティ」は終わった。


後片付けしている時に美紅里が三人に声をかける。


美紅里「次、竜神スキーパーク行くの1月2日ね。車で2時間半くらいかかるからここに6時集合。いいわね?」


ゆき・まみ・れぃ「「「は〜い!」」」



部室の片付けを終えて、帰り支度をする。

部室を出る時に美紅里にそれぞれ「良いお年を」と挨拶し駅へと向かう。


ゆき「楽しかったね〜」


れぃ「……帽子あったかい……」


まみ「あたしもキツネのリュック、なんか背中があったかい」


ゆき「コートの上から?それは気のせいだろwww」


ゆきが軽く笑う。


まみ「あはは……でもなんかあったかい気がする」


ゆき「竜神スキーパーク、楽しみだね」


れぃ「……次こそ滑れるようになるぞ……」


まみ「ホームページ見たら、すごい大きいゴンドラあったよ」


ゆき「ゴンドラ乗って上がれるような高い所まであたし達行けるんだろか」


れぃ「……とりあえずそれを目標にしよう……」


まみ「ゴンドラ降りた所の景色が絶景らしいよ」


ゆき「よし、そこで記念撮影だ!頑張るぞ!」


ゆき・まみ・れぃ「「「おーっ!」」」


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