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第25話「予期せぬ敵」

第25話「予期せぬ敵」


初のスノボから帰ってきた三人。

それぞれ学校に着いて荷物を置いて帰宅した事は覚えている。


しかし、三人が三人ともどうやって帰ったか覚えてないし、帰ってお風呂に入って夕飯を食べたのだろうが、その記憶もあやふや。


強烈な睡魔と戦い、やるべき事を何とかこなして布団に入った。


そして泥のように眠る。


翌日目が覚めた時、既に外は明るくなっていた。

今日が日曜日じゃなかったら、間違いなく遅刻と言う時間だ。


それでもまだ寝足りない感じのまみは、正確な時間を知る為に布団に入ったままスマホの電源を入れる。


11時35分と表示されていたが、別に驚く事もなく、再び夢の世界に戻ろうとする。


だがそれをスマホが許さなかった。


ピロン♪


LINEの通知音がしたので寝ぼけ眼で誰からか確認する。


ゆき『みんな無事?』


何の事かわからない。

どうやら頭はまだ眠っているようだ。


立て続けにれぃの返信が表示される。


れぃ『無理。何をするのも苦痛』


ますます解らないが、何の事かを知ろうと言う好奇心もわかない。


ピロン♪


ゆき『まみは?』


しかしそう聞かれ、事態を把握しなくてはならなくなった。


まみ『何の話?あたし今起きた』


即座に2件の既読が付く。


ピロン♪


れぃ『とりあえず布団から起き上がってみ?』


何が何やらわからないが、ちょうどトイレにも行きたい事だし、もぞもぞと起き上がろうとしたまみだったが、その瞬間に全てを悟った。


まみ『無理!なんか全身痛い!』


既読が付くと同時にゆきとれぃからそれぞれキャラクターが爆笑しているスタンプが送られて来た。


三人は三人とも全身筋肉痛になっていた。


ひとまずトイレに行かなければならないまみだが、起き上がるのも一苦労。

階段も一段下りる度に「うぎぎ……」とうめき声が出る。


壁を伝うようにしてようやくトイレへ。


ここまで来ると流石に眠気はマシになっていた。

ようやくここに来て自分が空腹である事に気付く。


トイレを済まし、ダイニングまでまた壁を伝うようにして向かう。


そこにちょうどののこが現れる。


ののこ「あ、真由美、起きた?その様子だと全身筋肉痛ね」


いたずらな笑顔を浮かべ、まみをつつこうとするののこ。


まみ「ちょっ!お姉ちゃん!マジ止めて〜」


まみの悲痛な訴えはののこに届かず、筋肉痛になっている体をののこは指でピンポイントに突いてくる。


まみ「ぎゃあぁぁぁぁ!」


ののこ「あははははは!楽し〜」


まみ「お姉ちゃんひどい〜」


ののこ「じゃ、あたしは出かけるから。ご飯食べたらウェアとブーツ干しときなよ」


そう言い残すと、ののこはスタスタと玄関に向かった。


ののこのジムニーのエンジン音が聞こえる頃、ようやくダイニングにたどり着くまみ。


母「あら、起きた?この時間なら『あひるご飯』ね。ちゃっと食べちゃいなさい」


「あひるご飯」とは浅野家で使われる言葉で朝ごはん兼お昼ごはんの事で、朝ごはんの「あ」、昼ごはんの「ひる」を足して作られた造語だ。


まみ「無理。筋肉痛で動けない」


母「何甘えた事言ってんのよ。あたし知らないわよ」


そう言うと母親もダイニングを出て行ってしまった。


まみ「薄情者〜」


仕方なくまたノロノロとキッチンを徘徊し、シリアルと牛乳を揃え、たどたどしく食べ始める。


スプーンを持つ動きでさえ痛みを感じる。


あひるご飯を食べている途中でもゆきとれぃからのLINEは途切れない。


ゆき『足が筋肉痛なのは解る。でも二の腕とかも筋肉痛なのは何で?』


れぃ『あたしは特に膝の上の筋肉とふとももが痛い』


まみもようやくLINEの会話に参加する。


まみ『あたしも全身あちこち痛い』


ゆき『階段下りるのとか一苦労』


即座にれぃが「それな」と言うスタンプを貼る。


れぃ『あたし、おかげで全身シップ臭い』


そうか、湿布か。

そう思い、まみは母親の所に行く。


まみ「お母さん、湿布ある?」


母「お父さんのペロンサスならあるわよ」


まみ「あれ臭いからヤだ」


母「贅沢言わねぇの。嫌なら自分で買って来なさい」


まみ「全身筋肉痛で動けない」


母「あ、そう言えばお父さんが去年ぎっくり腰やった時に病院で出してもらった湿布があったはず。戸棚探してみ?」


まみはまたよたよたと、常備薬をしまってある戸棚にまるでゾンビの徘徊のごとき動きで近く。


戸棚をあさると湿布薬が出てきた。

サロンペスより大きめの湿布薬だ。


のたのたと湿布薬の袋を開ける。


まみ「おうっふ!」


立ち込める湿布臭に思わず顔を背ける。


まみ「お母さん、これも臭い〜」


母「サロンペスかそれか、どっちかしかねぇわよ!嫌なら買っておいで」


湿布臭がましな方をチョイスすべく、今度はサロンペスの袋を開ける。


まみ「おうっふ!」


どっちもどっちである。


止む無く病院から処方された湿布薬の方が効きそうと言う偏見的な理由でサロンペスはそのまま戸棚になおす。


足や二の腕は自分で貼れたが、肩と腰はどうにも上手く貼れそうにない。


まみ「お母さ〜ん、湿布、肩と腰に貼って〜」


母「いいよ〜。じゃあ服脱いで……。どこに貼ればいいの?」


まみ「この辺とこの辺」


母「は〜い………へぁっ!」


謎の掛け声と共に冷たい湿布をまみの肩に容赦なくベタっと貼り付ける母。


まみ「ぎゃあぁぁぁぁ!お母さん、ひどい!もっと優しく貼ってよ!」


母「あっはっはっは!面白れぇ!」


まみ「そっとよ!そっと!」


母「わかったわかった。じゃあ行くよ」


今度は湿布を非常にゆ〜〜〜〜っくり貼る母。


まみ「んぎぎぎぎぎぎ……ひ……ひとおもいにやって〜〜〜」


待ってましたとばかりに母親は満面の笑みで残りの湿布を貼り付ける。


母「へぁっ!」


まみ「ぎぃやあぁぁぁぁ!」


湿布の冷たさに、また悲鳴が上がる。


まみ「わかった!あたしが悪かった!でも、なんて言うか心の準備ってのがあるじゃん?そんだから貼る時にカウントダウンして!ね!?」


母「いろいろうるさい子ねぇ……わかったわよ!次、腰に貼るからうつ伏せで寝転がって」


寝転がる動作も筋肉痛の為に「んがっ!」とか「んぎぎ…」とか言いながらぎこちない動きでしかできない。


母「じゃあいい?さん……にぃ……いち……」


ぐっと体に力を入れて冷たい湿布が来るのに備えるまみ。


母「にぃ……さん……」


まみ「何でカウントアップしてんのよ!」


母「へぁっ!」


ベタっ


まみ「ぎゃあぁぁぁぁ!」


母「あ〜〜〜っはっはっは!おも……おもろっ!」


母親は涙を流さんばかりに大笑いしている。


まみ「もういい!最後1枚は自分で貼る!」


母「悪かった悪かった。次は普通に貼るから」


まみ「ホント?もうボケとかいらねぇからね?」


母「大丈夫、大丈夫。ほら、最後1枚、腰でしょ?行くわよ!5、4、3……」


ベタ〜


まみ「ぎゃあぁぁぁぁ!」


母「あ〜面白かった!また貼る時は声掛けてね〜」


まみ「に……二度と頼まん!」


悔しさと苦痛に涙を浮かべながら、部屋から出ていく母親を睨みつけるように見送る。


全身湿布臭を漂わせながら、まみはブーツとウェアを干す為に洗濯物干場になっている南側の廊下に向かう。

二重ガラスで日の光が入り、冬でも日中は暖かい。

ウェアを干し、ブーツをインナーとアウターに分けて干す。


そこに母親が来た。


母「真由美、ブーツとグローブの中にコレ入れておきな」


そう言うと、海苔に入っていたであろう乾燥剤がたくさん入ったチャック付のビニールを渡してくれた。


まみ「あ、なるほど。ありがと」


母「あ、その前に香り付きの消臭消毒スプレーしとくといいわよ」


ようやく後片付けも終わった。


タイミング良く今度は美紅里からのライン。


ピロン♪


美紅里『明日の終業式終わったら板のメンテナンスするから部室に集合する事』


即座にスタンプが貼られる。


れぃ『イエス、マム!』


ゆき『了解!』


まみもスタンプを選んで送る。


まみ『がってん!』


その後、昨日の疲れと筋肉痛で何もする気になれず、リビングでだらだらしていたらいつしか外は暗くなっていた。


夕食時に父親にスノボの事をあれやこれや聞かれ、それに答えながら食事を終える。


再びリビングでごろごろしていたら母親に急かされ、お風呂に追いやられた。


母「お風呂で筋肉痛の所、マッサージしておいで」


昼間貼った湿布を剥がし、お風呂に入る。


お風呂に浸かり、筋肉痛になった所をマッサージしながら、ようやく昨日の事をゆっくりと思い出す事ができた。


まみ「えへへ……楽しかったな……」


スノーボードが楽しかったのは当然だが、ゆきやれぃ達……もっと的確な表現で言うなら「友達と一緒に遊び目的で出掛ける」のは小学生の頃、唯一緊張せずに喋る事ができた幼なじみと出掛けた時以来の事だ。

その幼なじみも引っ越してしまい、それ以来は遊びに行くのは常に姉の紀子とだった。


湯船の中で目を瞑り、滑っている時の事を思い出す。


まみ「こう……シューッときて、ザッ!」


思わず体が反応してしまう。

と、同時に筋肉痛の所にピキっと痛みが走る。


まみ「んがっ!」


どぽんっ!


痛みでビクっと反応してしまい、湯船に滑り落ちるように頭が潜ってしまう。


まみ「ぶはっ!びっくりした〜。お風呂ん中でイメージするのは危険だな」


お風呂から上がり、再び湿布を貼ってもらう事に。


まみ『お母さんに頼んだらまた遊ばれそうだな……』


母親からテレビを見ながらビールを飲んでいた紀子に視線を移す。


まみ「お姉ちゃん、ちょっと湿布貼ってくんねぇ?」


ののこ「情っけないわね〜、あの程度で」


やれやれと言った表情のののこ。


ののこ「肩と腰ね?じゃあ貼るわよ」


まみ「ぎゃあぁぁぁぁ!」


ののこも母親と同じく、湿布を貼った時のまみの反応を楽しんだ。


風呂上がりで体が温まっているから湿布の冷たさはより強く感じられる。


どちらかと言うと、母親の方がマシなくらいに。


そしてこの光景は、ゆきとれぃの家でも同じ事が起きていた。


翌朝。


まみ「全然筋肉痛が治まってねぇ……」


ののこ「あんた湿布臭いわよ」


まみ「湿布剥がしてお風呂入ってから学校行く〜」


筋肉痛の体を引きずるように学校へ向かうまみ。


校門の所でぎこちない歩き方をしているゆきとれぃを見付けた。

ゆきとれぃもまみに気付く。


そしてお互いにロボットのような歩き方を見て爆笑。


ゆき「あんた何て歩き方してんのよwww」


れぃ「……人の事言えねぇじゃん……」


まみ「やっぱこんな歩き方になるしなぃ〜……あてて……」


ゆき「まさかスノボ後にこんな敵が待ち受けていようとは……」


まみ「敵?」


ゆき「筋肉痛の事」


れぃ「……ラスボス級の敵だな……」


そんな事を言いながら教室に向かう。

教室への階段も一苦労だ。

三人とも手すりにつかまり、登山の鎖場のような上り方だ。


ようやく教室に辿り着く三人。


ゆき「おはよ〜」


明らかにおかしな歩き方をしている三人にクラスメート達がどよめく。


石田「あんた達、どうしただ?」


ゆき「筋肉痛」


石田「三人とも?何やっただ?」


れぃ「……スノボ……」


石田「まみも?」


まみ「えっ……あ……うん。」


ようやく教室に辿り着いたのに、一息入れる間もなく校内放送がかかる。


放送「これより終業式を行います。全校生徒は体育館に集合して下さい」


れぃ「……殺す気かぁ〜……」


まみ「やっと教室まで来たのに〜」


ゆき「しかも体育館って、一番遠い所じゃん」


荷物を置いて体育館に向かう三人。

他の生徒がどんどん三人を追い越して行く。


ようやく体育館に着いた頃には既に終業式が始まっていた。


1年1組は一番左端の列。

その列のさらに左側は教師陣が並んでいる。


こっそり入っても絶対にみつかる位置だ。


既に校長先生の話が始まっている。


小さい声で「すみませ〜ん」と言いながら列に加わる三人。


列は出席番号順なので、まみが先頭で、ゆきとれぃは最後尾。


先生も小声で「早く列に入れ」と言うが、早く入れるならそもそも式に遅れる事はない。

ぎこちない動きながらも早足で列に加わろうとした時、まみは美紅里と目が合った。

まみの動きを見て美紅里は少し斜め下を向いて小さくプッと吹き出す。


それもあり、また他の生徒から注目を浴びた事により真っ赤になってまみは列に加わる。

式が終わるまでずっと俯いたままやり過ごすまみ。


どの先生が何を言ったか全く頭に入らない状況を耐え続け、ようやく終業式が終わる。


教室で通知表を受け取り、ようやく放課後。


三人は部室に向かった。


ゆき「ちゃーっす」


れぃ「……今日ほど『どこでもドア』が欲しいと思った事はねぇ……」


まみ「………」


まだ目立ってしまったダメージが抜けきってないまみは、部室に入る時の何か言ったようだが、他の人の耳にその声は届かなかった。


美紅里「おっ、来た来た。遅刻三人娘。しっかりしなさいよ。あれしきの運動で筋肉痛?」


ゆき「美紅里ちゃんは全然筋肉痛とかねぇの?」


美紅里「あるわけないでしょ。普段はあの10倍の距離滑ってるし、スピードも比じゃないレベルで滑ってんのよ」


れぃ「……あの10倍?死んじゃう……」


美紅里「あなた達はまだ余計な力を使いまくってるし、普段使わない筋肉を使ってるから筋肉痛になるのは当然よ」


ゆき「この筋肉痛、どのくらいで治まるの?」


美紅里「知らないわよ。2〜3日ってとこじゃない?」


れぃ「……まだ2日も続くのか……」


絶望したように天を仰ぐれぃ。


相変わらず賑やかなゆきとれぃだが、まみだけは机に突っ伏している。


美紅里「ん?まみ、どした?」


ゆき「終業式に遅刻して目立ってしまったダメージ」


その言葉を聞いて、まみのスイッチが入る。


まみ「そうだ!美紅里ちゃん酷いよ!終業式の時、あたし見て笑っただらずっ!」


突然の抗議に美紅里はキョトンとしたが、その表情はすぐにやれやれと言った表情に変わる。


美紅里「そりゃ笑うわよ。筋肉痛になってるだろうなとは思ったけど、予想どおりで……しかもまみ、手と足が同時に動いて歩いてんだもん」


まみ「え?」


れぃ「……あ〜、なってたなってた……」


ゆき「れぃ、あんたもよ」


れぃ「……マジか!?……」


美紅里「ゆきはお婆ちゃんみたいな歩き方になってたけどね」


ゆき「えっ!うそっ!」


れぃ「……おい、まみが安定の『魂抜けてるモード』に入ってるぞ……」


ゆき「まみ〜、しっかりしろ〜」


れぃ「……返事が無い。ただの屍のようだ……」


ゆきもれぃもまみの魂抜けてるモードに既に慣れている。


まみ「生きてるよっ!生きてるけど死んでる……。どうしずか……もう明日から学校来れねぇ(泣)」


れぃ「……明日から冬休みじゃん……」


まみ「あ、そっか」


ゆき「おっ?今回は復活早いな」


美紅里「は〜い、くっちゃべってないで、板のメンテナンス始めるわよ」


ゆき・まみ・れぃ「「「は〜い」」」



三人は制服から作業着に着替え、美紅里に教わりながら板のメンテナンスを始める。


ゆき「え?たった一日でエッジに錆が浮いてる」


れぃ「……あたしのもだ……」


美紅里「そ。だから早めにメンテナンスしなきゃダメなの。錆はどんどん進行するからね」


まみ「前使ったエッジシャープナー……だっけ?あれ使うの?」


美紅里「毎回シャープナー使ってたらエッジ無くなっちゃうわよ。そこで……これ」


そう言うと美紅里は砂消しゴムを一人一つずつ渡した。


美紅里「これで錆てる所を擦って錆を落とすの。まだ錆は表面にしか出てないはずだから、ちょっと擦ったらすぐ落ちるわよ」


れぃ「……じゃあ早速……」


美紅里「れぃ、軍手しなよ。手、エッジで切っちゃうわよ」


れぃ「……おっと、そうだった……」


ゆき「ホントだ。すぐに落ちた」


まみ「あ、ここもサビてる!」


エッジの錆取り、クリーニングワックス、そしてワックスがけまで終わったら既に午後1時を過ぎていた。


美紅里「あたしこのあと職員会議あるから帰る時はストーブ消して鍵締めしといてね」


そう言うと美紅里は理科準備室を出ていってしまった。


ゆき「お腹すいたね。みんなお弁当とか持って来てる?」


れぃ「……いや、こんなに時間かかるとは思って無かったから……」


まみ「あたしも持って来て無い。ゆきちゃん、お弁当?」


ゆき「いや、あたしも持って来てねぇんだわ。……久しぶりにファミレス……行く?」


まみ・れぃ「賛成〜」


三人は朝ほどではないが、まだぎこちない歩き方でファミレスへと向かう。


途中、屋根の上にスノーボードを積んだ車とすれ違い、どこに行くんだろ等と話しながら歩く。


店員「いらっしゃいませ〜、三名様ですか?ご案内致します」


テーブルと椅子で体を支えながらぎこちなく席に着く三人。


店員「ご注文お決まりになりましたら、そちらのボタンを……」


れぃ「……ランチ……」


ゆき「あたしも」


まみ「えっ……あっ……じゃああたしも」


店員「ランチ3つですね。スープバーとドリンクバーが付いております。あちらでお好きなお飲み物をお取り下さい」


店員が立ち去ったと同時にドリンクバーに向かおうと、立ち上がった三人だが、これまた同時に筋肉痛の痛みでそれぞれあちこちを押さえて小さく悲鳴を上げる。


あまりのシンクロ率に三人同時に吹き出す。


れぃ「……あたしらのポンコツ具合よwww……」


ゆき「とてもじゃねぇけど、華の女子高生とは思えねぇ」


まみ「まって……笑うと腹筋の筋肉痛に響くwww」


スープとソフトドリンクを両手に持ってそろりそろりと歩きながら席に戻る三人。

座る時に筋肉痛の痛みで飲み物をこぼさないように先にテーブルに置いてから、また呻きながら席に着く。


ゆき「では、スノボデビューを祝して乾杯しようか」


れぃ「……なに?そう言うノリなん?……」


まみ「しようしよう!」


ゆき「では……カンパ〜……いっ!」


れぃ「んがっ!」


まみ「あ痛っ!」


ソフトドリンクのグラスを掲げた瞬間、二の腕の筋肉痛が三人を襲う。


れぃ「……締まらねぇ乾杯だな……」


まみ「これだけ筋肉痛ならしかたねぇよ」


ゆき「まぁあたしらっぽいっちゃあたしらっぽいけどね」


ぐだぐだな乾杯を終えて、スープをすすっていると、食事が運ばれて来た。

食べながら話を続ける三人。

当然話題は昨日のスノボの話。


ゆき「あたし正直言うと、もっと簡単に滑れるようになると思ってた」


まみ「あたしも〜」


れぃ「……ってか、立つ事すら難しいとは想像して無かった……」


まみ「立ってるだけでもなんかめっちゃあちこち力入れなきゃ立てねぇもんね」


ゆき「あの勝手にスピードが上がって行く感じがどうにも怖くてさぁ……」


まみ「え?そう?あたしはそれは別に……」


れぃ「……それはまみがスピード狂だから……」


ゆき「そうそう。浅野家の血www」


れぃ「……ののこさんも速かったよね……」


まみ「お姉ちゃん最高80km/hくらい出すんだって」


ゆき「マジ?車じゃん」


れぃ「……そのまま高速道路走れる……」


まみ「美紅里ちゃんはもっと速いんだって」


ゆき「マジかぁ〜〜」


れぃ「……でも、スピードとかどうやって測るんだ?……」


まみ「なんかスキー場で滑走ログが取れるアプリがあるみたいだよ」


ゆき「面白そう!」


れぃ「……でもあたしら、美紅里ちゃんにスマホのゲレンデ持ち込み禁止されてんじゃん……」


まみ「上手くなったらスマホの持ち込み解禁してくれるかな……」


ゆき「転ばなくなるまでダメなんか?」


れぃ「……それ、めっちゃ先じゃん……」


まみ「そういやお姉ちゃんが『スノボは3回行ったらそこそこ滑れるようになる』って言ってたけど、『そこそこ』ってどのくらいなのかな?」


ゆき「初級コースをコケずに滑れる程度?」


れぃ「……あたしらまだ昨日のコースでもコケずに滑れねぇもんな……」


ゆき「あの美紅里ちゃんとののこさんの後輩さんくらい滑れるようになるのどのくらいかかるんだろ」


「後輩さん」のキーワードに、先日の事を思い出してれぃがクククと笑う。


まみはちょっと困ったような笑顔だ。


ゆき「あの後輩さん達……まぁチャラい感じはさておいて、クルクル回ったりして凄かったしない。あたし、シルフィードであれやりてぇ!」


れぃ「……うん滑りはカッコ良かったしない……中身はアレだったけど……」


まみ「あたしは美紅里ちゃんみたく、あのシュパ〜!って滑ってキュンキュンって曲がる感じのアレやりてぇ!」


ゆき「そういや美紅里ちゃん滑ってる途中で左足が前になったり右足が前になったりしてたよね」


まみ「そうそう!あれ!アレがあたしの巫狐のイメージなのよ!」


いつしか食事を終えて、ドリンクを飲みながらも話はとりとめなく続く。


ゆき「美紅里ちゃんで思い出したけど、そういや昨日美紅里ちゃんに撮ってもらった写真、まだ送ってもらってねぇね」


れぃ「……催促してみよ……お?美紅里ちゃん、ラインのアルバム作ってくれてんじゃん!」


ゆき「マジ?見る見る!」


三人はそれぞれ自分のスマホを取り出し、アルバムを確認する。


まみ「あ、これ最初の!めっちゃいい感じ!」


ゆき「この時はまだスノボの難しさわかって無かったしない〜」


れぃ「……あたしコケてるとこ撮られてんじゃん……」


ゆき「れぃ〜、お尻がキュートじゃ〜ん」


茶化すようにゆきがニヤニヤと笑う。


れぃ「……うっせぇ!……あ、ゆきがコケてる写真もあるぞ……」


ゆき「え?マジ?うわっ!ホントだ!」


まみ「痛そ〜……。ひょっとしてあたしがコケてる所の写真も……」


れぃ「……あった……」


まみ「って、いつの間に!」


ゆき「ちゃんと滑ってる所の写真もあるけど……どれもこれもへっぴり腰でカッコ悪い……。ん?れぃ?」


何やら一生懸命スマホを操作しているれぃ。


れぃ「……できた……送信……」


ゆきとまみのスマホに同時に写真が届く。


まみ「ぷっ」


ゆき「あ、てめっ!」


送られて来た写真はへっぴり腰で滑っているゆきの写真に「はわわわわわ」と言う描き文字と、頭の所に汗のスタンプが貼り付けられた写真だった。


ゆき「にゃろっ!見てろ!」


そう言うとゆきはスマホをいじり出した。


れぃも既に次の写真の加工作業に移っている。


ゆき「できた!送信!」


ピロ〜ン♪


まみとれぃに送られて来た写真はれぃがうつ伏せに転んでいる写真を加工し、野球の1塁ベースにスノーボードを履いたれぃがヘッドスライディングしているような雑コラ写真になっていた。

しかも審判の判定はアウト。


まみ「あはははははははは」


れぃ「……やるな、じゃあ今度はこれだ……送信……」


ピロ〜ン♪


今後送られて来た写真は、休憩時間に食べたぜんざいと、まみが両手を上げている写真を合成し、ぜんざいのお風呂にはまっているまみの写真になっていた。

しかもまみは満面の笑顔だ。


ゆき「これはいいなw」


れぃ「……だろ?……」


まみ「ちょっ……これじゃあたし、なんかめっちゃ食いしん坊みたいじゃん!」


わいのわいの……。


ひとしきり写真の加工で遊んだ三人は笑い疲れたように「はぁ〜……」と息をつく。


ゆき「体中筋肉痛で痛いけど……」


れぃ「……コケまくったけど……」


まみ「もうスノボ行きてぇ……よね」


そしてまた先日のスノボの余韻に浸るようなため息を「ほぉ〜〜」とつく。


そこに美紅里からラインが入る。


美紅里『あんた達、早速何やって遊んでんだか』


メッセージの後ろにちょっと困ったような表情の顔文字が貼られている。


さっきの加工写真のやり取りを美紅里も見ていたのだ。


ゆき「あ、この写真、美紅里ちゃんも見てんだった」


三人は顔を見合わせ、また爆笑している。


そこにさらに美紅里からラインが入る。


美紅里『年明け1月3日、竜神スキーパークのペア招待券が2枚あるけど行くか?』


ゆき・まみ・れぃ「「「行くっ!」」」


こうして次のスノーボードの予定があっさり決まった。


次の行き先は志賀高原にある竜神スキーパークだ。


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