「第19話 文化祭!〜後編〜」
「第19話 文化祭!〜後編〜」
前日の夜からまみの両親はソワソワしていた。
母「じゃ、じゃあお母さん達明日のお昼過ぎに行くからね」
父「父さん、何着ていこうかな」
ののこ「お父さん達テンション上げ過ぎ……」
当のまみは今日の疲れと、明日の緊張で会話がほとんど耳に入っていない。
晩ごはんを食べてお風呂に入ったら、早々に布団に潜り込んだ。
母「紀子、今日、真由美大丈夫だったの?」
ののこ「そんなの知らないよ。あたしだって演劇部の付き添いでずっと講堂に居たんだから」
父「お前、そんな薄情な……」
ののこ「大丈夫よ。あの子にはもう頼れる友達も仲間もいるんだから」
そして迎えた文化祭二日目。
ののこ「真由美、準備出来た?行くよ!」
まみ「はーい!じゃあ行って来まーす!」
これには両親もののこも驚いた。
てっきり死にそうな声でボソっと「行ってきます……」と言うものだと思っていたから。
ののこの車に乗せてもらい、学校近くの駅まで行く。
一応学校では教生と生徒と言う関係だから学校まで乗せては行けないのだ。
駅までの間、相変わらずの荒い運転のののこ。
普通の人なら会話など成り立たないが、そこはお互い慣れたもの。
ののこ「真由美、あんた大丈夫そうじゃん」
まみ「う……ん。色々考えたんだけどね……。不安は不安なんだけど、不安なまま一日過ごしても、カラ元気出して一日過ごしても変わらねぇのかな……って」
ののこ「あはは、そりゃそうだ。不安を抱えてたら不安が消えて無くなる訳じゃないし」
まみ「お姉ちゃんはあたしみてぇに人見知りじゃんから(人見知りじゃないから)こんな事で不安になったりしねぇんでしょ?」
ののこ「失礼ね〜。あたしだって不安になる事くらいあるわよ。教育実習初日に朝礼台に立った時なんて足や手の震えを抑えるのに必死だったんだから!おかげであの時何を喋ったか全然覚えてない(笑)」
まみ「ウソだぁ〜(笑)」
ののこ「ウソじゃないわよ!あたしだって人並みに緊張くらいするの!そりゃ演劇部での経験やコスプレイベントでの経験ってのはあるけど、それだって全く緊張してない訳じゃないし」
まみ「そんな風には見えねぇけど……」
ののこ「結局はさ……、失敗したくないとか、人から変な目で見られたくないって気持ちが不安に繋がるんだけど、どんなに完璧にこなしても否定する人はいるし、いまいちな時でも肯定してくれる人はいる」
まみ「否定されるの怖くねぇの?」
ののこ「そりゃ怖いし、嫌だよ。でも全ての人に肯定されようったって無理だし……。でも、やらなきゃ肯定してくれる人だって現れない訳じゃん」
まみ「うん……まぁ……」
ののこ「肯定してくれる人と同数の否定してくれる人が出て来る環境と、誰からも肯定も否定もされない一人ぼっちの世界とだったら、あたしは肯定してくれる人がいる世界を選ぶ……って、それだけの事」
まみ「否定する人ばっかりだったら?」
ののこ「それは辛いけど、それはただ単にその場に肯定してくれる人が居なかっただけ。ジグソーパズルでもぴったり合うピースは3000とか5000とか1万ピースのうち、多くて4ピースじゃん。数少ないぴったり合うピースがあって、始めて『絵』になるんだよ。1ピースじゃ『絵』にならないでしょ?……で、そのぴったり合うピースが見付かった時、それがあたしの居場所な訳」
まみ「……居場所……か……」
そうポツリと口にすると、まみは何となく流れる景色に視線を移す。
ののこ「真由美はもうゆきとれぃって言う友達を得たでしょ?もうあの二人に人見知りしてないでしょ?一緒に居て気持ちいいでしょ?つまりそこが真由美の居場所。で、真由美、ゆき、れぃの三人は1年1組と言う『絵』のピースなの。誰かが欠けても絵は完成しないし、あんた達三人だけでも絵は完成しない。人見知りでビビリな真由美も絵を完成させる大事なピースなの」
まみ「……でも、あたし欠点だらけで、みんなより劣ってるって言うか……」
ののこ「は?欠点?劣ってる?何言ってんの?『真由美は絵を構成するピースの一つ』って言ってんでしょうが。あえて表現するなら『色』!真由美の中では赤が優秀で青が劣ってて、黄色が綺麗で緑が汚くて、白が正しくて黒が間違ってる訳?違うでしょ?」
そう言うとののこは少し呆れたようにハッハッハッと笑う。
そしてまみが反論する前に続ける。
ののこ「それに真由美って、絵で言うなら縁の角っこに居たいタイプでしょ?モナリザで言うならモナリザの目や口元になりたいキャラじゃないじゃん。でも考えてみ?モナリザのパズルで角の1ピースが無かった時の事を。背景の、例え誰からも注目されないピースでも無かったらそれは絵として完成しないじゃん?つまり!」
会話に熱が入ったののこは人差し指を立て、まみに顔を向ける。
まみ「お姉ちゃん、前見て」
ののこ「つまり!背景には背景の、モブにはモブの、まみにはまみの必要性があるって事よ」
まみ「あたしはモブかよ(苦笑)」
ののこ「主人公になりたいか?(笑)」
まみ「それはちょっと……(汗)」
ののこ「でしょ?あんたほど物語の主人公が似合わない子いないからね〜(笑)」
まみ「ってか、お姉ちゃん、先生みたいだね」
ののこ「まだ卵だけど一応『せ ん せ い』だよっ!ほら、もう駅着くよ」
駅には待ち合わせた訳ではないのだが、ゆきとれぃがいた。
二人ともまみの事が心配で早くに来て待っていたのだ。
ののこ「じゃあね!あたしも時間できたらそっち見に行くから」
まみ「うん、ありがと!あばね(バイバイ)!」
そう言うとまみはゆきとれぃの二人がいる所に走って行った。
まみ「おはよー!」
れぃ「……おぉ?どっから来た?……」
まみ「お姉ちゃんに駅まで送ってもらったんだ」
既にののこの車は影も形も無い。
相変わらず爆速だ。
ゆき「てっきり電車で来るて思ってたよ。じゃあ行かずか」
れぃ「……まみ、大丈夫そうだな……」
まみ「うん。お姉ちゃんにも言われた」
そう言うとまみは少しバツの悪そうな笑顔を見せる。
まみ「あたしはジグソーパズルの端っこの1ピースなんだって」
れぃ「……わけわかめ……」
学校への道すがら、車の中でののこと話した事をゆきとれぃに話した。
れぃ「……驚いたな……」
ゆき「……だな……」
まみ「え?何が?」
れぃ「何でののこさんの運転する車の中で会話が成立するんだ!」
まみ「そこっ!?」
ゆき「そこ以外にあるか!」
まみ「ゆきちゃんも!?」
ゆきとれぃはあえて会話の内容については触れなかったのだ。
何故なら昨日と今日の文化祭では、まみはジグソーパズルで例えるなら、パズルの端の1ピースではなく、あきらかにモナリザの目とも呼べる存在だと感じたからだ。
それをまみに言えば、またまみはビビリモードに突入しかねないので二人はあえてそこは触れなかった。
学校に着いた三人はすぐさま衣装を取りに理解準備室に向かい、その足で更衣室へ。
前日に比べ、あきらかにリラックスしているまみ。
ゆき達からは楽しそうにも見えるくらいの落ち着きでカラコンを入れ、衣装に着替え、メイクを始めている。
ゆき達が驚くくらいにテキパキと準備を終わらせたまみ。
まみ「じゃあ、行かずか」
前日に比べ準備が終わった時間が早い事もあるだろうし、慣れもあるのかも知れないが、最初に更衣室から出る事を口にしたのはまみだった。
更衣室から教室までの道のりも、生徒がまだまばらであるのもあるだろうが、気遅れする事もなくスタスタと教室に向かうまみ。
ノリが良いと言うか、チャラい感じの上級生男子が遠くから「巫狐〜!」と大声で呼び掛け手を振っているのにも、笑顔で手を振って応える。
逆にゆきとれぃは面食らいっぱなしだ。
ゆき『れぃ、どう思う?』
れぃ『……わからん……無理してるようには見えねぇ……』
ゆき『ののこさんの説得の効果?』
れぃ『……それもあるだらず(あるだろう)し、昨日の慣れもあるだらずし、あと……』
ゆき『あと?』
れぃ『……わかんねぇけど、まみの中で何か心境の変化があったんじゃね?……』
ゆき『腹くくったって事?』
れぃ『……ん〜……何だら(何だろ)。ののこさんの話と相まって覚悟みたいなのが付いたのかな?……』
れぃの予想はおおかた当たっていた。
まみは喋り下手で説明下手。
ののことの会話の半分くらいしかゆきとれぃに伝わって無かったので、そこからの分析でこの予想に辿り着いたのはれぃの観察眼あっての事なのだろう。
まみは人見知りから来るあがり症、それに伴うコミュニケーション能力の低さにコンプレックスを抱いていた。
それが引き金になり、自分は劣っている。
劣っている自分は足手まといで迷惑をかける存在と思い込んでいた。
しかし夏のコミゲ以降、ゆきとれぃと友達になり、受け入れられないと思い込んでいたクラスから受け入れられた。
そして今日、最もまみを理解している人の一人、姉であるののこに自分の考えを言い当てられ、不完全な自分でも必要である事を知らされた。
まみ本人はまだ気付いていないが、目から鱗が落ちた状態なのである。
教室に着いたまみ達。
まみ「おはよー」
委員長「おは……よぉ!?」
いつもは聞こえるか聞こえないかギリギリの声量での挨拶のまみが普通の声量で挨拶したのだ。
まみ本人はいつも通りのつもりだが、クラスメイト的には意外すぎるまみの変化。
松原「まみ!おはよっ!今日も頑張らずか(頑張ろうね)!」
大橋「頼むぞっ!」
まみの変化を驚きながらも喜ぶクラスメイト達。
言われて一拍置いてから動くいつものまみと違い、今日は自分から動いている。
ゆき「あ、やべっ……」
れぃ「……どした?……」
ゆき「まみ見てたら、何か涙出て来た(笑)」
れぃ「……うん……」
開始までの慌ただしい時間。
委員長が割引券の配布と宣伝に行ってくれる人を募ったが、そこは流石にまみは立候補しなかった。
あくまで少し普通に行動できるようになっただけで、まだまだ普通の子や積極的な子に比べれば引っ込み思案で消極的と言える。
前日の反省点からシフトの変更が委員長から告げられた。
2時間交代の3シフトから、1時間交代の6シフトに変更になった。
これでクラスメイトも平等に文化祭を回れる。
今日は午前9時に校舎入口の規制ロープが外され一般の人も入って来る。
偵察に出ていた小森が戻って来た。
小森「開場30分前の時点で一般入場の列が既に学校敷地内から溢れて……ぶわははははは!」
報告途中で小森が崩れ落ちるようにして笑い出す。
それを気にする様子もなく、委員長がクラスメイトに最後の指示を出す。
委員長「はーい!みんな聞いて下さーい。一般の人は我々がコスプレ喫茶やってる事を知りませんっ。これから入場門にプラカード宣伝部隊を3人派遣しまーす。メンバーは松原さん、神部君、水野君!よろしくお願いしまーす。これにより1年1組のコスプレ喫茶の知名度はズバリ!飛躍的に上がるでしょう!」
委員長の呼び掛けに名前を呼ばれた三人が気合いの入った返事をするがどこか笑っているような返事で、またあちこちから笑い声も漏れる。
指名された三人は体育会系クラブ所属で声が通り、しかも前日のコスプレ喫茶で写真撮影の指名を受けた実績がある。
人選の的確さは、さすが委員長と言った所か。
また三人には昨日から今日にかけて漫画研究部所属の藤田が作ったプラカードが渡される。
当然その3枚には、巫狐、シルフィード、グルキャナックがディフォルメされたイラストが描かれている。
委員長「開場から待っている人の列が途切れるまでは入場門近くで、その後は校内に散らばって宣伝して来てくださーい!これで1年1組の成功はズバリ間違い無いと言えるでしょう!」
そう言うとかけている伊達メガネのツルに手を添えて、軽くメガネをかけ直す仕草をする。
……と、同時にクラス中が爆笑した。
昨日は一人制服姿だった委員長だが、今日はコスプレ参加である。
半ズボンに薄緑色のポロシャツ。
レンズが渦巻きになった伊達メガネを付け、髪型は変なマッシュルームカットのウィッグを着用している。
そう、委員長は国民的アニメ「まるチビ子ちゃん」に出て来るクラス委員のコスプレをサプライズでして来て、しかも口調まで似せて来ているのだ。
「あかん!こんなん笑うわ!」
「おま……、似すぎ!」
「その手で来たか〜〜〜」
まみ達も大笑いしている。
ゆき「いや〜、委員長やってくれるわ」
れぃ「くっそ……委員長がネタコスで来るとは(笑)」
まみ「すごいー、そっくり〜」
委員長「それでは広報部隊は出発してくださーい!」
クラスのボルテージが最大に高まったのを見計らい、委員長が開始号令をかける。
数分後、開場を前に放送部の秋桜祭特別放送が開始される。
放送部「それでは秋桜祭、二日目スタートです!」
委員長「さぁ、来ますよ!たぶん最初は本校生徒がほとんどです!」
委員長の読みどおり、来たのは同校の生徒ばかり。
ゆき「委員長、何で最初はうちの学校の生徒ばっかってわかっただ?」
そう聞かれた委員長は人差し指を立て、ニヤリと笑いながら説明する。
委員長「なぁに簡単な推理です。昨日来た生徒や噂を聞いた人は混むのが予想できるから最初に来るんです。また一般の人はまだお腹も空いてないし、お茶をするのもタイミング的に早いですからね」
いちいちモノマネを入れる委員長。
ノリノリだ。
昨日ほどでは無いが、またたく間に待機列ができる。
まみ「お待たせしましたー。こちら巫狐セット4つだねー」
信じられない声にゆきとれぃがバッと声のする方に顔を向ける。
れぃ「まみがウェイトレスやっとる!」
ゆき「すごいっ!」
れぃ「……ゆき、実はあのまみ、中身はののこさんって事ねぇかな?……」
ゆき「確かに似てるけど、それは無い(笑)」
もちろんこれはまみが望んでやった事ではなかったが、何となく流れでやる事になった。
まみは昨日、撮影の指名ばかりでほとんどホールの仕事ができてなかったが、いっぱいいっぱいながらもホールの仕事を見て覚えていた。
巫狐に巫狐セットを持って来てもらった客は大喜びだ。
スマホを取り出し、お盆を持った巫狐を撮ろうとしたが、即座に他のホール係が「撮影は退店時のツーショットコーナーでお願いします」とフォローした。
こうして今日のまみは、撮影指名もホール係もあたふたしながらではあるが、何とかこなしていた。
委員長の読みどおり、開場1時間を過ぎた頃から徐々に同校学生の客に加え、他校の客や一般の客が増えて来た。
相変わらず順番待ちの行列は出来ている。
まみとゆきは休憩に入った。
このタイミングにゆきとまみを休憩にしてれぃをホールに残したのは委員長のシフトの妙である。
れぃのグルキャナックは「ドジでまぬけな魔王がいたっていいじゃない」と言うテレビアニメのキャラクター。
ゆきのシルフィードは劇場版アニメ「四精霊戦記」のキャラクターでまみの巫狐は「裏十二支大戦」と言うゲームのキャラクター。
テレビアニメのキャラクターで、しかも主人公であるグルキャナックの知名度はシルフィードや巫狐に比べれば圧倒的に高いのだ。
また、そのアニメは中高生を中心に人気があるギャグファンタジー作品。
コンビニのくじ引きの商品にもなるくらいの人気作品。
たて続けにれぃにツーショット指名が入る。
またこの時間帯には松原のメイドやクラスで一番容姿の整っている男子生徒も配した。
ゆき「じゃあ、ここはれぃ達に任せて、あたし達もどっか行……かずか?」
ゆきが言葉を最後につまらせたのは、まみが巫狐の衣装のままどこかに行く事に躊躇するのではないかと思ったからだ。
しかしその心配は無用だった。
まみ「今日こそは焼きそば食べてぇ!」
予想外の反応に思わず聞き返す。
ゆき「あの……まみ?巫狐のままだけどいいの?」
まみ「あはは……うちのクラスがコスプレ喫茶やってるの学校中に知れ渡ってるみたいだし、もういいかな……って」
少し困ったような笑顔だが、それ故ゆきは逆に安心した。
ちゃんとまみが自我を保ったままで教室から出る事を決めたのだ。
ゆき「ん。じゃあ、行かずか」
二人は教室を後にして、校庭の屋台エリアに向かう。
途中、やはり「あ、巫狐の子だ」とか「シルフィードだ!」と言う声が聞こえるが、ゆき達は意に介さず、少し手を振り返しながら「休憩中でーす」と返して通り過ぎる。
焼きそばの屋台に着いた。
色めき立つ焼きそば屋台の卓球部員達。
「うお〜!巫女さん来てくれた!」
「女騎士の子もすげー!」
やはり裏十二支大戦や四精霊戦記を知らない層には巫狐はケモ耳が付いた巫女としか認識されないし、シルフィードも女騎士と言う認識でしかない。
それでも卓球部員は大喜びだ。
「おまけおまけ!大盛りサービス!」
そう言いながら普通の1.5倍ほど盛った焼きそばを出してくれた。
そのうちの一人が、「あの、一緒に写真撮ってもらっていいか?」と声をかけたが、ゆきは今が休憩中である事を説明し、またこの衣装がクラスの出し物の衣装で、そこで飲食した人だけ写真を撮れる特典である旨を伝えて断った。
ゆきは既に何人かの生徒が勝手に写真を撮っている事に気付いていたが、そこまでは咎めなかった。
焼きそばを受け取り、校庭に作られた休憩スペースで二人は焼きそばをほおばる。
まみ「ゆきちゃん、やっぱり凄いね〜」
ゆき「何が?」
まみ「あたしだったらなし崩しに写真撮影に応じてたよ」
ゆき「あ〜……、アレね。あたしだってあまり角が立つ事はしたくねぇけど、何度も並んであたし達のクラスのコスプレ喫茶に来てくれた人になんか悪いじゃん。……ま、勝手に撮ってる人もいたけど、それは気付かねぇフリしたし」
まみ「あ、いたんだ。気付かなかったよ」
ゆき「そりゃ、まみはずっと下向いてたし(笑)」
まみ「……うん。今朝お姉ちゃんに言われて、ちょっと気分が楽にはなったけど、やっぱり急には変われねぇや」
そう言うとまみはちょっと困ったような笑顔を見せた。
まみは今、浅野真由美と巫狐の2つのキャラクターがちょうどバランスを取ってまみの中に混在していた。
体育祭の時のように巫狐になりきって浅野真由美を封じ込めるのではなく、しっかりと浅野真由美である事も実感しながら巫狐を演じている。
お祭りでもないのに祭りのハッピを来て街中に行くのは恥ずかしいが、祭りの開場で祭りのハッピを着るのは恥ずかしくないと言った感覚。
まみの説明でやっとゆきは今朝からのまみの変化に合点が行った。
まみの変化でこのまま無事に文化祭を終えられると思ったが、トラブルはすぐそこまで来ていた。
休憩から戻ったまみとゆき。
そろそろお昼ごはんがてら利用する客が入ってくる。
商品もケーキやお菓子から、おにぎりやいなり寿司が売れ出した。
ゆきとまみがホールに戻ると店内に歓声が湧き上がる。
委員長の戦略でもあるが、この昼食時間前にゆきとまみを休憩に出す事により、広告効果を狙ったのだ。
委員長の思惑どおり、またクラスの前には行列が育ち始めた。
ゆきもまみも、また忙しくホール係と写真撮影に応じる。
そんな時だ。
「あなたっ!ほらっ!真由美!」
「ホントだ!あんなに堂々として(泣)」
「あなたっ!(泣)」
「母さん!(泣)」
メイクをしていてもまみの顔が青ざめるのがわかる。
まみの両親だ。
瞬間移動するかの如くスピードでキッチンに逃げ込むまみ。
れぃ「……まみ、どした?……」
キッチンにいたれぃはいまいち状況を理解できない。
まみ「お父さんとお母さん来てしまった」
れぃ「……マズいの?……」
まみ「マズくはないけど、なんか嫌じゃん!」
れぃ「……うん、まぁ、わかる……」
二人はキッチンスペースからそーっとホールを覗き込む。
するとまみの両親に対応しているのはゆきだ。
ゆき「まみのお母さん、こんにちは〜。以前お家にお邪魔させてもらった吉田です。あの、すみません、個人情報保護の観点から娘さんの名前を出さないで欲しいんですが……」
ここはさすがに家が客商売でその手伝いをしているゆきだ。
小声ながらもテンションが上がっているまみの両親をたしなめる。
ゆき「真由美さん、今日は勇気出して頑張ってるんで、そっと見守ってあげて下さい」
そう言うと、ゆきは小さく会釈してキッチンに戻って来た。
ゆき「大丈夫。言っといたから」
そう言うとニカっと笑う。
ちょうどその時タイミング良く、いや悪く、まみの両親が注文したメニューの準備ができた。
巫狐セット2つだ。
ゆき「どうする?まみ、持って行く?」
あきらかに嫌そうな顔をするまみ。
今度は本当にタイミング良く、ツーショットの指名がまみに入る。
大橋「巫狐さーん、ご指名だー!お願いしまーす」
まみ「あ、じゃ、じゃあ、あたし写真の方に行くから……」
れぃ「……おっけ。じゃあ、あたしが持って行く……」
本来はキッチン係のれぃだが、見かねてまみの両親の所に持って行くと言ってくれたのだ。
まみは小さく手で『ごめんっ』とれぃにゼスチャーして撮影ブースに向かった。
れぃはそれを見て少し笑い、巫狐セットが2つ乗ったお盆を持ってまみの両親の所に向かう。
れぃ「お待たせしました。こんにちは、以前お宅にお邪魔させてもらいました向井です。あ、こちら巫狐セットお二つです」
いつもの無表情はどこへやら。
見事な営業スマイルで挨拶しながら配膳するれぃ。
まみの母「あらっ!いつも真由美がお世話になってます!ほら、お父さん!前に話した真由美のお友達の!」
まみの父「いや、いつも真由美と仲良くしてくれてありがとう。これからも真由美の事、お願いしますね」
両親共に立ち上がってお辞儀しそうな雰囲気だったので、れぃはあわててそのまま座ってもらうように手振りで伝える。
その時……
「あ、ねぇちゃん居た!」
「おっ!ホントだ!おーい玲奈ー!父さん来たぞー!」
「お父さんも聡太も騒がない!玲奈!こっちは気にしなくていいからね!」
今度はれぃの家族の襲来である。
聡太「ねぇちゃん、相変わらずイカれたカッコしてんな(笑)」
れぃ「うっせぇ!黙れ!」
れぃの父「そうだぞ聡太!お姉ちゃん、かわいいじゃないか!」
れぃ「いや、ここでそう言うのは止めろ」
れぃの母「だから玲奈、こっちは気にしなくていいって」
れぃ「気にしたくはないけど……あぁっ!もう!」
そのやり取りに全員が爆笑する。
ポーカーフェイスが得意なれぃであってもこれはたまらない。
れぃは笑いを取るのは好きだが、この場での笑いは笑かしたと言うより笑われている感が強い。
耳まで真っ赤にしてキッチンに逃げ込んで来た。
れぃ「聡太、帰ったら殺す!」
ゆき「まぁまぁ(苦笑)」
れぃの家族はキッチンに逃げ込んだれぃが出て来るのを待つように、キッチンの出入り口を凝視している。
ゆき「じゃ、あたしが対応してくるから、れぃは隠れてな」
れぃ「スマン!」
そう言うとゆきはホールに戻る。
と、同時に……
「おお、美幸。お父さん来たぞ。お母さんはお店休めないからって……」
今度はゆきの父親の登場だ。
ゆき「ちょっ……お父さん!」
ゆきの父「あー、皆さん、美幸がお世話になって……」
ゆき「……………」
声にならない悲鳴をあげるゆき。
またそこにひょっこりとののこが入って来た。
演劇部の午前の公演が終わって、様子を見に来たのだ。
ののこ「お疲れ様!どう?順調?」
まみの父「おー!紀子!」
ののこ「げっ!」
一瞬でクラス中がざわめく。
「え?浅野さん(まみ)のお父さんが浅野先生を名前で呼んだ」
「浅野さん(まみ)で浅野先生……」
「え?姉妹?」
ざわざわ……
石田「あー、まみと浅野先生、姉妹じゃん」
「「「えぇ〜〜〜〜〜〜」」」
石田はののこが教育実習生として挨拶した時に、まみが思わずポロっと言ったのをきいていたのは石田だけだった。
石田は気さくな性格だが、非常に気遣いの人で、自分からペラペラ他人にまみとののこの関係を喋るタイプでは無かった。
その為、まみとののこが姉妹である事を知っているのはクラスメイトではまみ本人を除き、ゆきとれぃ、そして石田の3人だけだった。
それがとうとうクラス中にバレたのだ。
「そう言われて見たら浅野先生とまみ、似てる!」
「何で気付かなかったんだろ?」
「ってか姉妹なのに全然キャラ違うじゃん」
ののこ「ちょっ!お父さん、学校ではダメだって!」
学校では教師たらんとして、それなりに教師のキャラを演じて来たののこだったが、父親の登場、そしてまみと姉妹である事がバレた事に動揺し、すっかりただの大学生に戻っている。
ゆき達三人は既にキッチンスペースの隅っこにうずくまってしまっている。
コスプレ喫茶の主力三人が戦力外になり、ホールは大荒れ。
見かねた委員長がホールに出て来た。
そしてやや演技ぶった口調で、ホールにいる全ての客に聞こえるように大声で喋り出す。
委員長「いらっしゃいませ。僕はこのクラスの学級委員長です。1年1組のご家族の皆様にお願いします。店内で個人の名前を出す事は、ズバリ!個人情報の流出でしょう!店内のスタッフおよび来店しているお客様も、その点をご理解頂き、聞いてなかった、聞こえなかったフリをして頂く事が、ズバリ、1年1組の応援となるでしょう!」
丁寧に事情を説明するが、その姿がまるチビ子ちゃんの学級委員のキャラクターである。
しかも国民的アニメのキャラクターなのでこの場にいる全員がそのキャラクターを知っている。
一瞬静まり返ったが、その直後教室中、割れんばかりの拍手と爆笑。
れぃ「……くっそ!……なんか悔しい……」
笑いを取る事が好きなれぃにしてみれば、この爆笑は悔しいが、そのれぃ自身も笑ってしまった。
笑いながらも悔しがるれぃ。
さっきまで頭を抱えていたまみもお腹を抱えて笑っている。
まみ「あー、ヤバいwww涙でメイク落ちちゃうwww」
この委員長の効果は絶大だった。
両親の登場で浅野真由美と巫狐のバランスが崩れ、浅野真由美寄りになっていたまみだったが、大笑いしたおかげでまた元気になれた。
委員長は注意ではなく、お願いで。
また笑いを取る事で険悪な雰囲気を回避しつつしっかりと注意喚起し、場を収めた。
委員長「それでは業務に戻りますよ!シルフィードさんも巫狐さんも、グルキャナックさんもよろしいですね?」
そう言うと委員長はパンパンと手を叩き、再開を促す。
クラス中から「うぇ〜い」とも「は〜い」とも取れる返事が上がり、さっきまでと変わらないコスプレ喫茶が再開した。
大橋「委員長……じゃなくって、丸山くん!ご指名だー!」
委員長「承りました!ズバリ喜んで記念撮影に応じましょう!」
もう、いちいち面白い委員長。
委員長は子供を中心にツーショットの指名を集める事になった。
その後、ゆき達の親達は自分の娘を指名し、ゆき達は苦笑いしながら写真撮影に応じた。
午後3時前にして、とうとう1年1組のコスプレ喫茶で用意した飲食物は完売し、早めの閉店となった。
それでもまだ数人の待機列のお客がいたので、委員長が事情を説明し、無料でツーショット撮影サービスする事で丸く収まった。
その待機列の客はまみ達のファンクラブのメンバーだったので、ファンクラブメンバーも出費無しで写真が取れたのでホクホクだ。
打ち上げの為の飲み物とお菓子を買って来た小森が到着したのが午後3時過ぎ。
そこから1年1組メンバーだけでささやかな打ち上げが始まった。
「「「かんぱ〜い!」」」
もちろんこの時は売り上げ関係無しにお互いのスマホで写真を撮り合う。
ここでもまみ達はひっきりだこだ。
また、教室の黒板前で写真部大橋の一眼レフカメラで集合写真を撮った。
この写真は後々まで、彼らの高校時代の「宝物」になった。
もちろんまみ達にとっても例外無く。
ささやかな打ち上げを楽しんでいると、松原が通る声でみんなに呼び掛けた。
松原「ねぇ!後夜祭もこのカッコで行かずか!?」
皆、口々に賛成し、1年1組メンバーはコスプレ衣装のまま後夜祭に行く事になった。
もちろんまみも率先して賛成はしなかったが、以前のように尻込みする様子も無い。
打ち上げ中も隅で会計担当と売り上げの計算をしている委員長。
それが終わったらしく、委員長と会計担当はハイタッチをしている。
委員長「皆さーん!今日の売り上げを発表しまーす!今日の売り上げは、ズバリ!12万5500円でしょう!」
前日の10万7500円も驚くべき数字だったが、今日はそれを上回ったのだ。
売り上げ結果を聞いたクラスメイトは「うおぉぉぉ!」と歓声を上げ、いつの間にか万歳三唱へと変わった。
午後4時を前にして放送部の特別放送が秋桜祭の終わりが近い事を告げる。
教室から校庭を見渡しても、かなり人影が少なくなっている。
放送部「2日間に渡る秋桜祭もまもなく終わろうとしています。三年生は最後の秋桜祭を存分に楽しめたでしょうか?また一年生は初めての秋桜祭はいかがでしたでしょうか?さて、午後4時になりましたら、チャイムが鳴ります。チャイムが鳴りましたら生徒の皆さんは所定の場所に集まって下さい。そこで校長先生からの閉会の挨拶があります。閉会から午後5時までは各自後片付けをお願いします。また午後5時30分からは後夜祭となります。後夜祭は自由参加ですが、皆さん是非参加して下さい。では、チャイムです」
聞き慣れた学校のチャイム。
学校のあちこちから拍手が上がる。
チャイムの後に校長先生の閉会の挨拶が始まるが、既に後片付けに入る生徒達。
どうやら5分ほど喋っていたようだ。
校長先生の話が終わると、スピーカーから蛍の光が流れ、放送部の秋桜祭最後の特別放送が流れる。
放送部「本日は当校の秋桜祭にお越し頂きありがとうございました。どうぞお気をつけてお帰り下さい。なお、落とし物、忘れ物が何点か実行委員会に届いております。お心あたりのお客様は校門横、実行委員会テントにお立ち寄り下さい。これにて秋桜祭を終了致します。また来年度の秋桜祭へのお越しをお待ちしております」
教室の窓から外を見ると、秋桜祭に来場した一般のお客さんがぞろぞろと駅に向かって帰って行くのが見える。
委員長「さっ!それでは後片付けを終わらせてしまいましょう!」
委員長の掛け声で、全員が動き出す。
飾り付けを外してゴミ袋に押し込む。
松原「メニューシートと店員コスプレ一覧シート、ぶちゃって(捨てて)しまっていいの?」
小森「あ、俺欲しい!」
石田「あたしも!」
委員長「では、欲しい人は集まって下さい!ズバリじゃんけんで決めるのが公平でしょう!」
すっかりキャラが定着した委員長は、喋り方の癖がついてしまっている。
秋桜祭の思い出になるメニューシートやコスプレ一覧シートを巡ってじゃんけん大会。
「「「最っ初はグー!じゃ〜んけ〜んポン!……っしゃあ〜!」」」
高橋「整理券はたんとあるから一人1枚以上あるよ!」
小森「あ、俺グルキャナックのが欲しい!」
松原「あたし、まみのがいい!」
後片付けと言うより記念品の争奪戦。
それも一段落し、机を元に戻し、全員の服以外は日常どおりの風景。
大橋「あ、この状態で全員が自分の席に座ってる写真撮りてぇ」
松原「いいね!やろやろ!」
大橋は一眼レフカメラのレンズを広角レンズに変え、クラス全体が写るように三脚を据える。
タイマーをセットし、急いで自分の席に戻る。
パシャ!
写り具合をみんなが一眼レフカメラの液晶を順繰りに覗き込む。
石田「いいねこれ!えれえ面白い!この写真欲しい!」
大橋「後日、注文取るよ」
その写真もまたクラスメイト達の宝物の一枚となった。
そうこうしているうちに後夜祭開始の時間が迫る。
放送部「まもなく後夜祭が始まります。参加する生徒はグラウンドに集合して下さい」
ゆき「まみ、れぃ、行こっ!」
1年1組メンバーは皆コスプレのままぞろぞろとグラウンドに向かう。
他のクラスの生徒から声が上がり、それぞれが手を振る等して応える。
グラウンドはカクテルライトで照らされ、その中央には櫓が組まれている。
放送部「お待たせしました!後夜祭のスタートです!」
放送部の声と同時にカクテルライトが消え、松明を持った生徒が数人がグラウンドの四方から現れ、櫓に火をつける。
櫓に火が移り、やがて大きな炎になり、キャンプファイヤーの炎が校庭を照らす。
軽快な音楽が流れるが、フォークダンスを強要される訳でもない。
各々に秋桜祭の後の後夜祭を楽しむスタイル。
ここでも放送部が後夜祭特別放送を続けている。
まみ達は何となくキャンプファイヤーの炎を眺めていた。
実際の所、どうしていいかわからず何となくその場から動けずにいたのだ。
そんな時、まみ達に声をかけていた生徒がいた。
柳江「こんばんは」
ゆき「わっ!びっくりした!」
柳江「すみません、驚かしてしまいました。えーっと、ちょっとお願いがありまして……」
まみ「え?……え?……」
柳江「あのキャンプファイヤーの炎……あれだけ大きな炎がある事は珍しいんで、そのシチュエーションを無駄にしたくねぇんだ!あの炎を背景に皆さんの写真を撮らせて下さい!」
ゆき「……どうする?」
れぃ「バックが炎の写真……乗った!」
まみ「……えっと……ゆきちゃん達がいいなら……」
柳江「是非お願いします!」
先日の冷静な柳江と違い、今日の熱量は高い。
今日の柳江はカメラマンとしてテンションが上がっているようで、まみは柳江がコミゲの時に居たカメラマンと同一人物であると、ここに来てようやく実感した。
キャンプファイヤーのまわりは同じくキャンプファイヤーと一緒に写真を撮る生徒がまばらに点在している。
他の生徒が写真に入り込まない位置を確認して撮影開始。
一番手はこの話に一番乗り気になったれぃ。
アニメの作中でも炎をバックにした効果のシーンが多数出て来る。
れぃはノリノリでポージング。
柳江もいいアングルを探してシャッターを切りまくっている。
次はゆきだ。
ゆきのシルフィードは風の精霊騎士だが、炎の精霊騎士との戦闘シーンが映画のTVCMにも使われたほどの見せ場で、皆の記憶にも残っている。
映画のシーンの再現を撮影していると、いつの間にか人が集まって来ている。
そしてまみの番。
柳江「じゃあまずは狐火乱舞の動きをやって見てくんなさい。『ポーズ』じゃなくて、『動き』で。カメラでその一瞬を切り取るから」
まみ「は……はいっ!」
まみは左足を軸に大きく腕を広めて振りかぶり、反時計回りに回転し、最後に両腕を頭の上で手を揃えるように伸ばす。
偶然ではあるが、その動きに呼応するかのように、櫓の木の一本が焼け落ち、無数の火の粉が上がる。
「「「おおおおおぉぉぉぉぉ!」」」
ギャラリーから思わず声が上がる。
柳江「次は狐幻神楽の動きをしてみてくんなさい」
まみ「は……はいっ!」
まみは足を揃え、両手を胸の前で合掌した後、手を前に突き出し、その流れのまま両腕を大きく広げる。
さっき焼け落ちた木の影響か、炎がさっきに比べて少し大きくなる。
「「「すっげぇぇぇぇぇぇ!!」」」
柳江「ありがとうござんっす!えれぇいい写真が撮れたて思う。後日、皆さんの写真を印刷して部室に持って行く」
柳江の言うとおり、後日彼が部室に持って来た写真は三人とも飛び上がって喜ぶレベルの出来栄えだった。
後夜祭も終盤に差し掛かった。
キャンプファイヤーの炎もだいぶ弱くなって来ている。
放送部「お待たせしました。秋桜祭の各部門賞の集計が終わりましたので、発表致します!」
2年生と3年生はこのタイミングで発表される事を知っていたので、大いに盛り上がる。
後夜祭のメインイベントと言ってもいいだろう。
放送部「まず、売り上げ部門の優勝は……1年1組!コスプレ喫茶!」
グラウンド中のあちこちに散らばっていたクラスメイトが「いえ〜〜〜!」「やったぁ!」「おっしゃぁ!」とそれぞれ声をあげる。
放送部「続いて人気投票部門の優勝は……売り上げ部門に続き、1年1組コスプレ喫茶!」
「「「っしゃあっ〜〜〜」」」
こうして1年1組は体育祭の雪辱を文化祭で2冠達成と言う形で晴らした。
放送部「最後に学校長賞の発表です」
学校長賞は校長の独断で「最も良かった展示」に与えられる賞である。
生徒達はあまりこの賞に対しては、正直「どうでもいい」と言う感覚さえあり、売り上げ部門と人気投票部門の2つが競い合うメイン。
放送部「学校長賞は……えっ……と、きょ…、郷土活性化研究部です!」
生徒のほとんどは学校長賞に興味が無いし、またほとんどの生徒が郷土活性化研究部の存在を知らない。
何となくパチパチと拍手があちこちでまばらに起きるが、ほとんど聞こえないくらい。
だが、これはこの学校における歴史的快挙が成された瞬間だったのだ。
学校史始まって以来、初の売り上げ部門、人気投票部門、学校長賞の三冠をまみ達三人が獲得したのだ。
まだこの快挙に気付いている者は居ない。
当のまみ達でさえ。
各賞の発表が終わり、後夜祭も終わりが近づく。
コスプレのままの1年1組メンバーは早めに撤収し、着替えに入った。
更衣室でも二冠獲得に沸き返るクラスメイト達。
クラスメイトもまみ達が郷土活性化研究部である事は知らない。
まみ達もお茶を濁した程度の展示で学校長賞なんてものを獲得してしまったので、わざわざそれを口にする事も無かった。
クラスメイト達が着替えを終えて更衣室から出た時、頬に冷たい物が当たる。
ゆき「あっ!雪だ!」
れぃ「……さっきまで火の近くにいたからあまり感じなかったけど、確かに今日は冷えてるな……」
まみ「つめたーい(笑)」
空を見上げると、初雪が降り始めていた。
なお後日談ではあるが、まみはこの日の冷え込みで体を冷やしたせいか、はたまた疲れからか、それとも気疲れなのか、翌日から2日間熱を出して寝込む事になる。
また秋桜祭翌日は振替休日。
まみが熱を出して休んでいた翌火曜日の朝礼で秋桜祭の各賞の受賞式が行われた。
そこで、まみ達が秋桜祭三冠である事がクラスメイトには知れ渡った。
受賞式に郷土活性化研究部の部長として壇上に上がったのはゆきであり、シルフィードの時とは違い、メガネを掛け、さらに身バレ防止の為に髪をツインの三編みにしていた為、他のクラスの者からは、ゆきがシルフィードと認識される事が無かったからだ。
二学期は残すところ期末テストだけ。
いよいよ三人にとっての初シーズンが始まろうとしていた。