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第16話「文化祭はどうするの?」

第16話「文化祭はどうするの?」


美紅里「このウェア?どれどれ?防寒……耐水15,000mm……耐湿、防水…、うんいいんじゃない?」


まみ「やった!」


ゆき「これかわいいよね〜」


れぃ「……今ポチった……」


まみ「早っ!」


一日挟んで部活の日。

早速、三人は美紅里に先日ネットショップで見かけたウェアの詳細を見てもらい、三人のウェアが決まった。


ゆき「あたし寒がりなんだけど、これだけでいいのかな?」


美紅里「寒ければインナーを着込む。暑ければインナーを脱ぐ。それだけの話」


れぃ「……美紅里ちゃん、ヘルメットはこれでいい?……」


れぃはスマホにネット通販のサイトを表示させ、美紅里に渡す。


美紅里「ん。このメーカーなら信用できるよ。スノボ用のヘルメットはバイク用のヘルメットに比べれば防御力は低いけど、スポーツ用として考えるなら十分。あ、でも派手にぶつけたりしたらヘルメットって割れるからね。ちゃんとチェックして使う事」


まみ「そんな簡単に割れるんか?」


美紅里「簡単には割れないけど、ヘルメットが割れるような転倒をヘルメット無しでやったら間違いなく病院行き。怪我をヘルメットが肩代わりしてくれたと思いな」


ゆき「後頭部用のプロテクターってのもあったんだが、これとニット帽じゃダメ?」


美紅里「無いよりマシな程度。初心者はヘルメットにしときな」


ゆき「ん〜〜〜……」


美紅里「納得行かないみたいね。OK、じゃあ実験しよう」


美紅里は棚をゴソゴソとあさり、ベニヤ板とスポンジと粘土、バスケットボールを取り出した。


粘土の上にスポンジを置き、バスケットボールを持つ。


美紅里「いい?この粘土があなた達の頭。スポンジが後頭部プロテクター。ここにバスケットボールを落とします」


バスケットボールはスポンジを直撃し、粘土が変形する。


美紅里「こんな感じね。衝撃をスポンジだけでは吸収しきれないの。次に……」


そう言うと美紅里は新たな粘土を置き、その上にスポンジとベニヤ板を重ねる。

その状態で同じ高さからバスケットボールを落とす。


その結果、粘土の変形はスポンジだけの時に比べて少なかった。


美紅里「見たとおり、外部からの衝撃があった場合、まずは硬い物で衝撃を分散して、その後柔らかい物で衝撃を吸収した方が効率がいいの」


れぃ「……ヘルメットが割れる時ってのは?……」


美紅里「最初の衝撃を外部の硬い素材が吸収しきれず割れたって事」


ゆき「よくわかりました」


まみ「やっぱりヘルメットの方がいいね〜」


美紅里「道具を買い揃える話もいいけど、あなた達、文化祭はどうするの?」


まみ「文化祭?何かするの?」


ゆき「不参加でよくね?」


美紅里「ダメよ。実績が無かったら例え同好会でも存続は認められなくなる事があるわよ」


れぃ「……それはマズい。あたしらのたまり場が……」


美紅里「たまり場言うな(苦笑)」


まみ「でもクラブ始めて、スノーボードの事しかやってねぇよね?」


ゆき「スノーボードの事を表に出すのはマズい。他の人が入って来ちゃう可能性がある」


れぃ「……何か適当な展示でもしてお茶を濁さずか……」


ゆき「賛成!」


美紅里「あなた達、ホント真面目に部活しないよね(苦笑)」


まみ「適当な展示って言っても、何を展示するの?」


ゆき「地元の特産品とか紹介する?『りんご美味しいよ〜』とか」


れぃ「……全員知ってる……」


まみ「地元の観光スポットの紹介とか?」


れぃ「……それもあらかたみんな知ってるんじゃね?……」


ゆき「いっそ、スキー場の紹介でもする?私達も勉強になるし」


れぃ「……おぉ、名案……」


言葉のわりに表情はいつもどおり無表情のれぃ。


まみ「どのくらいあるんだらず?あちこち看板は出てるけど、いざ考えるといくつあるのか知らねぇよね」


ゆき「えーっと……長野……スキー場……検索……っと」


まみ「……出た?」


ゆき「え?何これ?めっちゃあるじゃん」


れぃ「……長野、広いからね……」


まみ「エリアを絞ってみたら?」


ゆき「ちょっと待って……えーっと……それでもえれぇあるよ(汗)」


まみ「じゃあ、ここから近い所をいくつか絞って紹介する感じ?」


れぃ「……一人一場で、スキー場を3つくらい紹介したらいいんじゃね?……」


ゆき「どうやって調べる?」


まみ「ホームページを見に行くとか、ネットで調べて書き出せば?」


れぃ「……文字だけ?……」


ゆき「写真とかあれば、ちょっと見栄えするんだけどね」


まみ「美紅里ちゃん、スキー場の写真持ってねぇか?」


美紅里「あるとは思うけど、友達とのスナップ写真だから使えそうなのはたぶん無い」


ゆき「そういや写真部ってあったしない(あったよね)?そこに行ったらスキー場の写真持ってる人いねぇかな?」


まみ「写真部って言っても、スキー場に行く人じゃねぇと写真撮る機会も無いんじゃねぇ?」


れぃ「……それに、その写真を写真部の展示に使うかも知れねぇし……」


美紅里「とりあえずスキー場の紹介をするって方向で各自準備をしよう」


三人はどこのスキー場を紹介するかの検討に入ったが、やはり写真が無い事には話が進まないので、一旦保留となった。


翌日、三人はクラスメイトに写真部員が居ないか探す事にした。


と、言っても主に動いていたのはゆきで、れぃとまみはくっついてまわるだけ。


ゆき「ねぇ、このクラスに写真部に入ってる子って居ねぇかな?」


クラスメイト「えーっと、確か……大橋!お前写真部だっけ?」


大橋「そうだよ、どした?」


ゆき「ビンゴ!ねぇ、スキー場の写真って持ってねぇ?」


大橋「俺、鉄道の写真ばっかだからな……。同じ一年で、ポートレートも風景写真も色々撮ってるヤツいるから、ラインで聞いたるわ」


ゆき「サンキュー!」


大橋「お、返信早っ……。持ってるって。どこのスキー場?夏?冬?……って聞いてる」


ゆき「とりあえず近場のスキー場だったらどこでもいい。できれば3か所くらい。写真は夏も冬もあると嬉しいな」


大橋「了解……っと、送信」


ゆき「助かる〜」


大橋「何に使うん?」


ゆき「クラブで地元を活性化させる為の研究をやってて、文化祭でとりあえずスキー場の紹介しようて思ってね」


大橋「ふーん。あ、返信来た。近場のスキー場の写真、夏も冬も色々あるってよ。明日適当な写真をチョイスして持ってきてくれるってさ。部室どこよ?」


ゆき「ありがとう!部室は理科準備室。明日の放課後なら居るよ」


大橋「わかった。ラインしとく。4組の柳江ってヤツが行くから」


れぃ「……なんとかなりそうやね……」


大橋「あ、この前の体育祭で浅野の写真撮ったの、この柳江やから(笑)」


まみがわかりやすくビクっと反応する。


ゆき「あはは、まみ、大丈夫だから(笑)」


れぃ「……そうそう。交渉は全てゆきがやってくれる……」


ゆき「いや、れぃも参加しろよ(汗)」


あからさまにソワソワしているまみを見て大橋が笑いながらフォローを入れる。


大橋「浅野、柳江は写真にしか興味ねぇから心配しなくてもいいぞ(笑)」


まみ「う……うん……ありがと……」

まみは精一杯の愛想笑いで返すが、その笑顔は引きつっている。


この日、バイトをしながらその話になる。

昨夜それぞれがこの辺りのスキー場について調べていたので、その情報交換も兼ねていた。


ゆき「例のコスプレ滑走イベントやってたスキー場が巌岳スキー場。この辺ではえれぇ大規模なスキー場みたい」


れぃ「……あたしが見たのは栂原スキー場ってとこ。ここもえれぇ規模がでかいみたいだった……」


まみ「あたしが見たのは白馬78ってとこ。ネット検索したら凄い景色良かったよ」


ゆき「この辺の写真を……柳江君だっけ?その子が持っててくれたらいいんだけどね」


れぃ「……スキー場の写真持ってるって事は、スキーかスノーボードやってんのかな?……」


まみ「巌岳も栂原も白馬78もゴンドラあるみたいで、一般の観光でも乗れるみたいだったよ」


ゆき「そういやリフトって下りも乗れるのかな?」


れぃ「……乗れる所もあるみたい……」


まみ「じゃあ、登ったはいいけど降りて来れなくなってもリフトで降りれるね」


れぃ「……それちょっとハズくねぇか?みんな登ってるのに下りに乗ってたら注目の的じゃね?……」


まみ「……下りのリフトには乗らないようにしずか(乗らないようにしよう)」


ゆき「その柳江君だけど、大橋君に聞いたところ、けっこうガチなカメラ好きらしいぞ」


れぃ「……ガチ?一眼レフとか言うでっかいカメラ使ってんの?……」


ゆき「そうみたい。ってか、写真部の人はたいてい使ってるみたいだけど、何でも夏休みに撮影旅行に一人で行っちゃうくらいの人なんだって」


まみ「じゃあ写真、期待できるね」


れぃ「……でも一眼レフ持ってスキーとかできんの?一眼レフって防水?……」


まみ「転んだら壊れてしまいそう……」


ゆき「じゃあ、ゴンドラで登って写真撮ってゴンドラで降りてくる感じかな」


れぃ「……案外、スキー場の写真はスマホで撮ってたりしてな……」


ゆき「あ、それよ!スノーボードで転んだ時にスマホの液晶割れたりしないのかな?」


まみ「転んだ時の液晶割れも心配だけど、あたしのスマホ防水じゃねぇんだけど、それも心配」


れぃ「……それは大丈夫だらず。あたしスマホをチャック付きのビニールの袋に入れてお風呂で音楽聞いてるもん……」


まみ「あ、そっか。そう言えばあたしもしてる(笑)」


ゆき「でも液晶割れは心配じゃん。明日、美紅里ちゃんに聞いてみよ。何なら柳江君にも」


三人の最終目的がコスプレをしてスノーボードで滑走し、キャラクターの動きを表現した写真を撮る事にある以上、これは解決しておかなければいけない問題だった。


三人にとって、ゲレンデにスマホを持ち込まないと言う選択肢は無いのだ。


翌日の放課後、部室に行った三人は美紅里にこれまでの経緯を伝え、この後その写真部員が来る事を伝えた。


美紅里「なるほど。その子が写真を提供してくれるなら、文化祭は何とかなりそうね」


ゆき「うちのクラスメイトの話によると、けっこうガチなカメラマンみたい」


美紅里「へぇ〜。ん?まみ、どした?」


この後来るであろう写真部員に対して既に緊張モードのまみ。

部室の隅っこに隠れるように座り、気配を消していた。


れぃ「……まみだって写真見なきゃなんだから、ずっと隅っこにいるんじゃねぇよ……」


まみ「え〜…、だって……」


ゆき「こないだの体育祭の写真撮ったのが、今日来る写真部の子なんで、まみ、緊張してるんよ」


ゆきはヤレヤレと言った表情で美紅里に説明する。


美紅里も察して呆れながらも納得した様子だ。


そのタイミングで部室のドアをノックする音がした。


柳江「失礼しまーす。写真部の柳江だ」


現れた写真部員の柳江は、どことなくれぃと同じ雰囲気。

無表情で洒落っ気は全く無く、真面目と言うよりカタブツと言う雰囲気さえある。

掛けている眼鏡がその雰囲気を一層高めている。


ゆき「あ、わざわざありがとう。私が大橋君から連絡取ってもらった吉田だ」


柳江「あ、どうも」


れぃも無表情ながら軽く会釈する。

まみもれぃに隠れながらちょこんと会釈。


柳江「あ、自己紹介とかはいいですよ。もう知ってますんで。ゆきさんと、れぃさんと、まみさんだよね?」


ゆき『え?こわっ!』


れぃ『こわっ!』


まみ『ひぃ〜〜〜〜〜!』


軽く引いている三人を見て、柳江は経緯を説明する。


柳江「いや、だって、初対面じゃねぇし、相互だし」


ゆき「え?何の話?(汗)」


柳江「コスネットでフォロバもらいましたよ。コミゲの時に」


ゆき・まみ・れぃ「「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!」」」


柳江「三人とも写真撮らせてもらいましたし」


れぃ「はわわわわわわわわ」


柳江「それに体育祭の時、コミゲの時の衣装そのままだっただらず(でしょ)?まみさん」


まみ「……………」


ゆき「まみっ!まみっ?しっかりしろ!」


既にまみは魂が抜けている。


またタイミングよくののこが現れる。


ののこ「こんちゃーっす!え?何?どうしたの?」


柳江「あ、ののこ先生、こんにちは」


ののこ「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!」


悲鳴を上げ、ゆき達三人を睨みつける。


ゆき・れぃ「「違う違う違う違う!」」


首がちぎれんばかりに首を横に振り、否定するゆきとれぃ。


柳江「あぁ、ののこ先生とも初対面じゃねぇから。ほら、コミゲの時にまみさんとののこ先生の姉妹ツーショットをお願いしたけど、休憩中だから断られたじゃねぇか」


ののこ「えっ?あ?あぁぁぁぁぁ!あの時の!」


柳江「いや、僕も最初は気付かなかったんですけど、体育祭の時のまみさんの巫狐を見て、『あれ?コミゲで見た巫狐?』と思って家に帰ってコミゲの写真見直したら、『あぁ同一人物だ』ってなりましてね。ゆきさんとれぃさんもそれで気づきました」


ゆき・れぃ・ののこ「「「はわわわわわわわわ」」」


柳江「二階堂先生が和装レイヤーのつーちょんだて言う事は、前から知ってたんだが……」


美紅里「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!」


柳江「あ、二階堂先生がスタジオ撮影してるカメラマンが僕のカメラの師匠なんで、師匠の写真を見て勉強してたら二階堂先生が写ってたってだけだ」


ゆき・れぃ・ののこ・美紅里「「「「はわわわわわわわわ」」」」


柳江「いや、そう驚く事も無ぇだらず。カメラマンは被写体を見てるんで、メイクしてても輪郭や目の形なんかを見たらわかるよ」


柳江は、しれっと事も無げに表情一つ変えずに淡々と説明した。


ゆき・れぃ・ののこ・美紅里「「「「すみませんでしたっ!」」」」


柳江「何で謝ってるんだ?(笑)」


ゆき「えっと、この事は誰かに……」


柳江「わざわざ喋ったりしませんよ。被写体のプライベートや個人情報を喋ったりしたらカメラマンの信用にかかわるからね」


れぃ「……高1にして何だこのプロ意識は……」


美紅里「あ、ありがとう。で、この事は今後もご内密に……」


柳江「当然だ。僕もいつか先生からカメラの依頼がもらえるように頑張るんで、その時はよろしくお願いします」


美紅里「教え子の前であんなカッコや表情できるかっ!」


ののこ「エロいっすもんね〜……ひたたたたたたたたた!先輩、本気!本気でつねったっ!」


れぃ「……とりま、まみが死んだままなんだけどどうする?……」


ののこ「真由美!おらっ!起きろ!」


まみ「お、お姉ちゃん……。ど、どうしずか(どうしよう)!レイヤーだってバレて……」


ゆき「安心しろ、まみ。ここにいる全員がバレてた。……って、あ、また意識飛んでる……」


そんなまみを気にする事も無く、柳江はマイペースで話を続ける。


柳江「別にレイヤーだって事を誰かに言うつもりも無ぇですし、その事で皆さんにどうこう言うつもりも無ぇんで安心してくんなさい(下さい)。……で、本題ですが、スキー場の写真でしたよね」


一人通常運行の柳江。

いつの間にか椅子に座って、カバンからタブレットを取り出し、写真を見せる準備をしている。


ゆき「え、あ、はい。よろしくお願い致します」


柳江「どこにする?栂原、巌岳、78、八方自然公園スキー場あたりか?」


ゆき「あ、はい。栂原と巌岳と78でお願い致します」


柳江「じゃあ麓から山頂を見上げた構図、山頂からのパノラマ、その他見栄えのいい写真を何点かチョイスするんで……。データの受け渡しはフラッシュメモリ?SD?」


ゆき「あ、はい、柳江さんのご都合のよろしい方で結構です」


すっかり標準語のゆき。


柳江「夏と冬、それぞれ別ファイルに入れとくんで。展示で使う時に『撮影 柳江明』って入れてくれたらいいんで」


いつの間にか取り出していたノートパソコンにフラッシュメモリを刺し、テキパキと写真のデータを編集して行く。


その作業を見ながら、れぃが話しかけた。


れぃ「……これ、自分で滑って撮影してんの?……」


一番最初に通常運行に戻ったのはれぃだった。


まみは起きてはいるけど魂が抜けてる感じが続いているし、美紅里とののこは何となく跋の悪い雰囲気を誤魔化そうとしているのか、謎の整理整頓を始めている。


柳江「そうですよ。どこにいい撮影スポットがあるかわかりませんからね。自分で滑ってポイントを探す」


ゆき「凄い!スキー?スノーボード?」


柳江「基本的にスキーですね」


れぃ「……基本的って事はどっちもできんの?……」


柳江「できるよ。スキーの方が身動きしやすいので、スキーの方が多いが」


ゆき「すげぇ……」


柳江「ただ滑るだけじゃん。ただの移動手段だ」


れぃ「何歳からやってるだ?」


柳江「スキーの話か?カメラの話か?」


れぃ「……あ、じゃあどっちも……」


柳江「スキーは4歳の時から、カメラは中学に入ってからだなぃ」


それを聞いたれぃがゆきに小声で話しかける。


れぃ『……あたしらがコスプレで滑る時に見つかったら、ソッコー身バレするんじゃね?……』


ゆき『それは言えてる。逃げてもたぶん追いつかれるだらずし……』


れぃ『……まぁスキー場たんとあるし、同じ日に同じスキー場の同じ場所を滑ってるなんて事はそうそうねえだらずけど……』


柳江「どうかしましたか?」


ゆき・れぃ「「いやいや、何でもねぇだっ(汗)」」


全てのデータをフラッシュメモリにコピーし、「はい、できました」と一言言って柳江は席を立った。


柳江「フラッシュメモリは来週取りに来ますんで。じゃあ、失礼する」


またテキパキとタブレットやノートパソコンを片付け、柳江は部室から出て行った。


呆然と見送る部室に残った4人と未だ放心状態のまみ。


ゆき「えーっと、何だったんだらず?」


れぃ「……とりあえず文化祭に使う写真はゲットできた。それはわかる……」


ののこ「本当にあたしらのコスプレの話、黙っててくれるのかな……」


美紅里「何の根拠も無いけど、私の写真撮ってくれてるカメラマンさんのお弟子さんなら大丈夫だと思う……」


これは美紅里が言うとおり、何の根拠も無かった。

ただ美紅里がそう信じたかっただけである。

だが、この一言でその場にいた全員が、これまた根拠の無い安心感を得られたのも事実である。


ゆき「そ、そうだよね。なんか柳江君は趣味のアマチュアカメラマンだけど意識はプロっぽかったもんね」


ののこ「休憩中のまみとのツーショット断った時も、撮影を遠慮してくれたし」


実際、ののこはこの時の事を詳しく覚えていた訳ではなかった。

そう信じたいが故に記憶の改ざんが行われていた。

しかし、彼が撮影を諦めたのは事実であった。


彼は彼が言うとおり、写真を撮る事にのみ興味があり、アマチュアでありながら意識はプロカメラマンのそれであった。

それは彼がプロカメラマンに憧れるが故なのかも知れない。


れぃ「……ののこさんと美紅里ちゃんは立場があるからバレるのはマズいかも知れねぇ?けど、あたしはよくよく考えてみたら別にバレで問題ねぇかな。別に悪い事してる訳でもねぇし、恥ずかしい事してるとも思ってねぇもん……」


普段なら「ののこ」と言われた時点でほっぺたをつねりに行くののこだが、この時はまだ動転していたのであろう。

れぃが「ののこ」と言った事に気付かずスルーしていた。


ゆき「そ……、そうだよ。別に悪い事してる訳でもねぇし、恥ずかしい事してる訳でもねぇもんねっ!」


同意と言うより自身を納得させる為にゆきも同調したが、心の中では『でもやっぱりバレるのはちょっと』と思っているゆき。


皆が皆、それぞれの精神安定要素を見付け、平常心を取り戻し始めた頃、ようやくまみが正気に戻った。


まみ「お姉ちゃん、あたしどうしずか!」


完全にタイミングを逸したまみのパニック。

逆にそれが他の4人を冷静にさせた。


ゆき「まみ、大丈夫だよ。あの柳江君は……」


一通り4人がそれぞれの安心要素をまみに説明したが、未だ「でも」を繰り返していたまみ。

見かねたれぃが少し強い口調でダメ押しした。


れぃ「まみ。もし柳江クンがまみがコミゲのコスプレイベントでもコスプレしてたってのを喋る人なら体育祭の後にもっと大きな騒ぎになってるだらずし、あたしやゆき、ののこさん、美紅里ちゃんだってコスプレイヤーだってとっくに全校に広まってるはずだ!柳江クンは信用できる!」


この説得は効果絶大だった。

実際にその通りである。

全国的に有名なレイヤーの美紅里とののこが自分の学校の先生。

そしてののこの妹が体育祭で注目を浴びた同学年の女子生徒もレイヤーで、その友達もレイヤー。

情報を流して話題にする事を楽しむ性格なら間違いなくこの話を誰かにしているだろう。

しかし、この話がどこにも漏れてない。

その事が何よりの証拠だった。


まみを説得する為のれぃの言葉だったが、その場にいた全員がようやくホッとできたのだった。

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