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第12話「まみ、死す」

第12話「まみ、死す」


ピロン♪

三人のグループLINEに発言があった着信音が鳴る。


ゆき『メンテナンスの事調べたんだけど、スノーボードってワックス塗らなきゃいけねぇんだって』


れぃ『ヘアワックスなら持ってる』


まみ『いや、それじゃダメだらず(笑)』


ゆき『スノーボード用のワックスがあるんだって』


れぃ『高いの?』


まみ『またお金が飛んで行く(汗)』


ゆき『しかもワックスかけたりするのにある程度道具が必要みたい』


れぃ『道具?』


ゆき『アイロンとかスクレーパーってプラスチックの板みたいなのとか、汚れを落とすブラシとか』


まみ『アイロンならお母さんが使ってるのがあるけどそれでいいのかな?』


9時くらいから始まったメンテナンスについての話題は日付が変わる頃まで続いた。


ゆき『だめだ。なんか色々ありすぎてわからん。これだけ調べたら美紅里ちゃんに質問してもいいだらず』


れぃ『あたしも調べたけど、ワックスひとつでも固形とかペーストとかリキッドとかスプレーとか、もうわけわからん』


まみ『とにかく安くやる方法が知りてぇよ』


こうしてこの日のLINE会議は終了した。


翌日はアルバイトしながら購入しなければいけない物の相談。


ゆき「ウェアも調べてみたんだけどさ、ほんとピンからキリまでって感じでどれにしたらいいかわかんねぇよね〜」


れぃ「……あたしも調べた。中には働く男の店で買ったものでもいいって言ってる人もいたし……」


まみ「買うんだら(買うんなら)かわいいのがいいよね〜」


ゆき「そもそも値段の差って何だらず?それだけ機能がいいって事なんかな?」


れぃ「……どのメーカーのサイト見てもいい事しか書いてねぇから比べようがねぇ……」


まみ「これも美紅里ちゃんに質問じゃん」


スノーボードをすると言う目的でアルバイトをしている三人の話題はやはり必要な物の買い物についての話に集中する。

だが、同じ時期にクラスメイト達が話題にしているのは2週間後に控えた体育祭の話題だ。

三人は全く体育祭については興味を示していない。


翌日のホームルームでどの競技に誰が出るかを話し合う時間になるまで、どこか自分には関係無い話とさえ勘違いしていた。


クラス委員「ではリレーのアンカーは、50m走のタイムが一番速かった向井さんでよろしいだらずか?」


教室に拍手が湧き上がる。


れぃ「……は?聞いてねぇんだけど……」


抗議の声を上げるも、既に決定状態。

どうやら全員何かの競技に参加しなくてはいけないようだ。

ここに来てやっと三人も体育祭が近いと言う事を実感した。


そしてめんどくさい事に何故かクラスが本気で優勝を目指して盛り上がっている。

さらにめんどくさい事にクラス委員がやたらやり手で出場選手がどんどん決まって行く。


クラス委員「借り物競争はコミュ力の高い吉田さんが適任だて思うのだがどうか?」


ゆき「えぇ〜〜〜〜っ!」


パチパチパチパチパチパチパチ


この高校の体育祭は学校が掲げる「文武両道」の精神により、体育系クラブ所属者以外も脚光を浴びるシステムになっていた。

その最たる所は各競技の得点だ。

各競技の得点は事前に決まっておらず、各競技の1着獲得者が、かかえるくらいある大きさのサイコロを振って得点を決めるシステム。

10点が3面、20点が2面、30点が1面のサイコロを振って決める。

2位以降は1着獲得者の半分から1点ずつ獲得点数が減る。

仮にサイコロの目が10点ならば、1着10点、2着5点、3着4点……となり、当然0点もあり得る。

これにより、体育会系クラブ所属者が多いクラスでなくても逆転する可能性が高くなり、また体育会系クラブ所属者の各競技への分散が計られている。

つまり、この競技は得点が高いから有力な選手を集中させて……とか、この競技は得点が低いから運動が苦手な選手を充てがうとかそう言う話が無効化するのだ。


そしてまみ達のクラスの戦略は「全ての競技で1着だったら必然的に優勝」と言うとんでも理論で優勝を狙いに行っていた。


そのプランを立てたクラス委員はリーダーシップを遺憾なく発揮し、適材適所と思われるクラスメイトを各競技に配置。

結果、運動会系クラブ員ではないが運動神経が高く、陸上部員も度肝を抜かれるくらいの俊足であるれぃは走る競技に何度も起用される。

しかし、クラスでも運動神経がにぶく、ドジっ子認定されているまみはなかな指名されない。

実はまみは運動神経が良いとまでは行かないが、そこまで運動神経が鈍い訳ではない。

人見知りでいつもテンパって、それで失敗が多いのでいつしかクラスではドジっ子認定されてしまった感じだ。

50m走でも、スタートで遅れるのでタイムは遅いが、走っているスピードはそこまで遅くなかった。


だからまみは正直なところ、この体育祭において自分は人数合わせ要員だと思っており、指名される事なんて無いと高を括っていた。


クラス委員「では次に、仮装レースですが、これは浅野さんがいいのでは無ぇかて思いますが、皆さんどうか?」


一瞬クラスがざわついたが……


パチ……パチ……パチパチ……パチパチパチパチパチ


と次第に拍手が揃い、まみの仮装レースへの出場が決まった。


……が、その決定をまみはまだ知らない。

クラス委員が仮装レースの指名に自分の名前を上げた瞬間に気絶していたからだ。


仮装レースは各クラス、何かに仮装して簡単な障害物をクリアしてゴールを目指すレース。

もちろん1着には得点もあるが、この競技の仮装の評価が得点として加算される。

各クラスの体育祭実行委員が自分のクラス以外のクラスに投票し、その投票票数がそのまま点数になる。


仮装が凝れば走る速度は落ちるし、あからさまに走る速度を重視した仮装は審査員からはウケない。

故に走るのが苦手な選手でも一発逆転が狙える。

この競技にまみを指名したのはクラス委員の人選の妙である。


また、仮装レース出場者はいつしかそのクラスの応援マスコットとして一日その姿で応援をすると言う事になっており、そう言う意味での大役も兼ねていた。

故に実は誰もなりたがらない。


まみが意識を取り戻したのはホームルームも終わり、休み時間にれぃ達に声をかけられた時だ。


完全に呆けていたまみと噛み合わない会話を続け、ようやくまみ自身が仮装レース出場選手に選ばれた事を認識した。


れぃ「まみぃ〜、大役仰せつかったなぁ〜」


いつもはボソボソ喋るれぃだが、よほどこの状況が楽しいのか、ニヤニヤと笑いながら楽しそうに喋りかけてくる。


ゆき「あ、また意識飛びそうになってる(笑)」


れぃ「おーい、帰ってこーい」


まみ「どどど……どうしようっ!」


れぃ「いいじゃん、適役じゃん(笑)」


まみ「そんな事言うんだら、れぃちゃん代わってよっ」


れぃ「いいぞ〜。ただ、この役を引き受けたら一日中仮装しとかなきゃいけねぇから、リレーとか出れねぇなぁ。まみ、リレーのアンカーやってくれるか?」


ひっ!と小さい悲鳴を上げて、涙目で今度はゆきを見る。


ゆき「私、借り物競争じゃん?見ず知らずの人に『○○貸してくださ〜い』てか『一緒にゴールまで来て下さ〜い』てかやらなきゃじゃん?まみ、代わる?」


ひぃ〜ん(泣)


れぃ「ま、諦めて応援席でかわいく鎮座して、仮装レースの時は順位気にせずやればいいさ」


ゆき「そうだ!委員長っ!仮装レースの仮装ってどんな仮装するの?」


クラス委員「あー、任せた!エロいのとかじゃ無かったら何でもいいみたいよ」


ゆき「そりゃエロいのはマズかろうて(汗)」


れぃ「……丸投げ、わろた……」


ゆき「とりあえず過去の仮装レースにどんな衣装で出てたか、調べに行こっ」


そう言うと、ゆきはまみの手を引き、引きずるように図書室へと向かった。


そしてまた卒アルを調べて片っ端から体育祭の写真を見る。


れぃ「……ほうほう。男子が女子の制服……、こっちはクラブのユニフォーム……、おっ!段ボールでロボット作ってる人もいるぞ……」


ゆき「あ、これかわいい!大正ロマン風の和服にスカートに傘!」


れぃ「……案外ドンドンモールとかで売られてる着ぐるみで出てる人多いね……」


ゆき「おわっ!全身タイツ!これは引くわ〜」


れぃ「……つーちょんと、ののこさんもこの競技に出てたりしねぇかな?……」


ゆき「それだっ!卒アル取ってくる!」


れぃ「……ってか、まみ、また死んでんじゃん……」


ゆき「持って来たよ!」


れぃ「……まずはつーちょん……あ、やっぱ和服だ(笑)……」


ゆき「花魁だね、走る気ゼロだ(笑)」


れぃ「……あ、でもこれ審査員得票で優勝してね?……」


ゆき「ホントだ。審査員得票、自分のクラス以外の票、全部持っていってる。すげーっ!」


れぃ「……あ、ここに何か書いてる。『仮装レースで優勝した二階堂さんが扮した花魁はスタートからゴールまで一度も走る事なく、1着入選者から10分遅れてゴール。その余裕とも取れる圧倒的な雰囲気から仮装レース始まって以来の全票数獲得を成し遂げた』だって……」


ゆき「美紅里ちゃん、すげーっ!鉄の心臓だ(笑)」


れぃ「……アップの写真もある。うっわっ!何この色気!これで高3?ヤバー……」


ゆき「ののこさんは!?」


れぃ「ののこさん、キターっ!」


ゆき「おおおおおおおおおっ!」


れぃ「少女維新アテナ!」


ゆき「カッコいい〜っ!」


れぃ「あ、また何か書いてる!『本校仮装レース史上初の1着入選、全票数獲得で優勝した浅野さんは……』って、すげーっ!」


ゆき「ゴールの写真もあるじゃん!カッコいぃ〜〜〜!しかも2位を大きく離してぶっちぎり!あ、しかも2位の人サッカー部のユニフォームじゃん!」


れぃ「運動会系部員でユニフォーム出場した人をぶっちぎってガチコスのののこさんが優勝、熱い!熱すぎる!」


ゆき「ほらっ?まみ、ののこさん凄いよっ!……って、まみ?」


れぃ「……返事が無い。ただの屍のようだ(笑)……」


この日、まみは一日中魂が抜けた状態だった。


放課後になりクラブに行った三人。


ゆき・れぃ「「ちゃーっす」」

まみ「……………」


美紅里「おー、来たかー。あら?まみ、どした?ゾンビみたいになってるぞ」


ゆき「カクカクシカジカで、仮装レースに出場が決まってからずっと魂抜けたままなんじゃん」


れぃ「……美紅里ちゃんの仮装レースの写真も卒アルでみたよ……」


ガタガタっ


美紅里があからさまに動揺する。


ゆき「美紅里ちゃん、さすがっすね〜」


美紅里「いや、あれは、その……違っ……」


れぃ「……レースなのに一度も走らなかったって書いてましたよ……」


美紅里「いや、だからね、あれは私も仮装レース出場を押し付けられて腹立ってさ、んで、『じゃあ絶対に優勝どころか走る事さえできない衣装にしてやる』って、私を勝手に仮装レース出場を押し付けたクラスメイトに復讐するつもりで、だから、あの……」


ゆき・れぃ『『反応が面白い』』


美紅里「それに、花魁で走れる訳ないでしょ?衣装だけで20kgあるのよ、あれ!しかも三枚刃の高下駄で……。」


ゆき・れぃ『『ガチだ……この人ガチだ……』』


美紅里「歩くのだけで精一杯だから、走るどころか障害物をクリアする事なんてとうてい無理だし、普通に歩いて行ったらみんながお昼休みに入れないから、コース無視してゴールまでの最短距離を歩いたのよ……。でも、それやったら実行委員に止められるじゃない?だから花魁の雰囲気を全開にして『わっちはこの道を行くでありんす。わっちに構わないでおくんなまし』ってやるしかなかったんだからっ!」


ゆき「え?そこまでは書いて無かったんだが……」


れぃ「……美紅里ちゃん最強、ワロタ……」


そこにまたタイミング良くののこが現れる。


ののこ「美紅里さん、ちゃーっす!」


ゆき「あ、ちょうどいい所に」


ののこ「ん?どした?あれ?真由美、死んでんじゃん。どしたの?」


れぃ「……体育祭で仮装レース出場が決まって……」


ののこ「失礼しまーす」

仮装レースのキーワードが出た瞬間、ののこは踵を返し部屋を出て行こうとする。


ゆき「ちょっ!待って下さいよ、ののこさん!」


ののこ「わたしを『ののこ』と言うのはこの口かっ!」


ゆき「ひたたたたたたたたっ!」

秒で反応したののこはゆきのほっぺたをつねり上げる。


れぃ「……の……浅野先生、仮装レースのアテナ、カッコ良かったっす………って、ひたたたたたたたた!」


ののこ「その話はするなっ!」


れぃ「ほうりゃくはんたい(暴力反応)、ほうりゃくはんたい!」


どうやら教師二人にとって在学中の仮装レースは黒歴史らしい。


少し時間を置いて、やっと場が落ち着いた。


ののこ「で、真由美は何の衣装着るの?アテナ貸そうか?あれならまだ実家にあるはずだし」


まみ「ひっ!」


美紅里「勝手に押し付けられたんなら、仕返しに花魁やるか?(笑)」


ゆき「まみの体力だったらゴールまで辿り着けねぇんじゃねぇか?」


れぃ「……ドンドンモールで売ってる着ぐるみあたりが無難かな……面白く無いけど……」


まみ「面白いとかいらねぇからっ!」


既にまみは涙目になっている。


ののこ「もう、巫狐の衣装で行きなよ。映えるし。」


まみ「映えとかいらないよ〜」


ゆき「の……浅野先生からアテナ借りて、『浅野先生から借りました』って事にしたら……ひたたたたたたたた!」


ののこ「貸すのはいいけど、私の名前を出すな!」


れぃ「……過去のパターンを見て、できそうな仮装となると……水着?……」


またまみが卒倒しそうになる。


ゆき「まみに水着は無理だろ(笑)」


れぃ「……あたしのグルキャナックの衣装はサイズが合わねぇだろうし……」


ゆき「やっぱドンドンモールの着ぐるみかな?」


まみ「……お金無い……。スノーボード用品買わなきゃいけねぇし、まだお給料日は先だし……」


ののこ「ようは目立ちたくないんだろ?でもスノボで仮装滑走するのが夢なんだろ?いいじゃん、いい練習だと思いなよ」


ゆき「そうそう!滑るか走るかの差じゃん」


れぃ「……衣装は知り合いに巫女さんやってる人がいる事にしとけば大丈夫……」


美紅里「巫女……いいね……」


ゆき「美紅里ちゃん、それ美紅里ちゃんの趣味(笑)」


れぃ「まみ『狐幻神楽』だっ!」


まみ「あっ!」


「狐幻神楽」とは裏十二支大戦内で巫狐が使う技のひとつで、妖気が最大限に高まった時に出せる大技。

霧を出し姿を消し、技が発動している間は一切の当たり判定が無い無敵状態と言う技だ。


まみ「そうかっ!『狐幻神楽』があった!」


追い詰められたまみは、正常な判断ができなくなっていたのか、それとも現実逃避に至ったのか。

それは判らないが、こうして体育祭の仮装レースにまみは巫狐の衣装で臨む事が決まった。

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