よりによって転生とは。 番外編《砂の聖女編》
やってみたかった番外編。
やってみたかったキャラクター別視点。を試みる回となっております。
(ルルゥ視点)
私の名は、ラシー・ルルゥ・アルージュ。ただのラミアの女です。
原種還元として生を受けたのと偶然の血筋から周囲に多少持て囃されるだけの小さな存在です。私の家系は商人の血筋ですが、私は女神の慈悲に縋る神殿ギルドに就いた身。いつでも家を出る覚悟はできています。本当に親不孝のただの小娘に過ぎないのだから。
砂の邦を出てもう5曜は経った。人生で初めての遠征が許され海に出ることができたのは幸運なことであり、とても誇らしくも思えました。
しかし、陸地を離れ見渡す限りの大海原を眺め続けていると、やはり我々は砂地でしか生きてはゆけない種族なのだと痛感しました。
始めは1曜中、太陽が水平線の彼方に去っても海を眺めていたものですが、いまではすっかり辟易してしまい、船室に籠るようになってしまいました。 ああ、陸が恋しい。
しかし、挫ける訳にはいかない。これは試練。女神から私への導きだ。
今回の旅は砂の戦士団《砂の剣》の信頼おける11人と共に海を渡り、丘の邦の玄関口でもある《サヴァ》を目指す。そこから陸路で丘の邦一の繁栄を誇る水の都フォー・リバーの神殿ギルドに立ち寄って数曜を過ごし、準備を整えてから東の山岳地帯《火の邦》にある神殿ギルド本殿まで辿り着くことが最終目的となります。
海は火の邦の諸島沿岸域まで続いている。なので海路だけで火の邦を目指すこともできるが、そんな蛮勇は冒せない。火の邦の島々では常に強大なモンスター種の派閥と火の邦の連合軍が争っている紛争地域です。そんな死地に飛び込んでゆけるのは《戦の女神オーリーン》くらいでしょう。
海での旅路は辛いものですが、私には神殿から授かった祈りのスキル《聖者の道》がある。
このスキルは祈りを捧げ続ける限り、持続的に悪しきモンスターを寄せ付けなくすることが可能なのです。このスキルがあるからこそ今回の遠征が許されたようなものですね。
…少し過保護が過ぎる御父様は最後まで反対されていらしたけど。今回だけは折れることはできなかったし、神殿も味方につけて話を通したのでだいぶ助力してくれた皆様には無理をさせてしまった。
だが道中で私達を脅かすのはモンスターだけではない。ここまでに何度も水賊に追い回されたが何とか逃れられ続けている。
それも全て私が幼い頃から姉と慕う私の従者であり、砂の剣の戦士筆頭の《ネリ》とその従兄弟である副長の《ボウル》の尽力によるものです。
彼らが手傷を負う度に私は自分の不甲斐なさを恥じるばかり。
私は信仰系クラスに就いているものの、治療系のマナの才能が無かったから。
傷すら癒せない私に皆「我らは不死身を誇る砂域亜竜の戦士。尾がちぎれようとも腕を斬られようとも心配は無用」と笑顔で答えてくれる。
…涙が溢れそうになる。 このような無能が女神の慈悲に縋り、試練を無事に果たすことができるのだろうか? 否っ!必ずやり遂げてみせる。
そう、あの御方を王とする為に…
(ネリ視点)
私は船室におられるルルゥ様の様子を伺う。笑顔を無理につくられてまでコチラに手を振られておいでだが、やはり元気がない様に思える。
恐らく我らの傷を見て心を痛められているのだ。私はなんと不甲斐ないのか。
ルルゥ様は幼少の頃から私などを姉と慕ってくださる心優き砂の姫君だ。
大商で財を築いたアルージュ家の一人娘。ラミアとして生を受け《砂の聖女》と民からは崇められている。そんな彼女を幼い頃から見守る私も、不敬だが自分の姉妹のように愛おしい存在だ。
幼くして御母上を流行り病で約束の安息地へと見送られている。私が姫様と呼ぶと時折悲しそうなお顔をされて名前でよんで欲しいとよくねだられて困ったものだ。…恐らく身近な者の愛に飢えておられるのであろう。
それだのに砂の民に尽くすお姿を見て、我ら砂の剣は心からの忠誠をルルゥ様に捧げている。
拙い。次は躱しきれないかもしれない。
私は防いで腕に突き刺さった短刀を剣を握ったままの手で引き抜く。どうやら毒は塗られてはいないようだ。恐らく私の眼を狙って投げ放ったのだろう。私はその短刀を海に向かって無造作に放り捨てる。
しかし、丘の港サヴァまであと半リーフ(およそ50キロ)といったところで水賊共に追い付かれるとは…!
一旦突き放しはしたが、相手の数は恐らくコチラの倍はいる。皆の傷も決して浅くはない。
こうなれば女神に命を差し出してでもルルゥ様をお守りしなければっ!周りの戦士達も覚悟を決め力強く頷く。私は首の牙飾りを引き千切り、太刀の柄とそれを握る拳に巻き付ける。
「剣と復讐の女神!ジュナよ! 怨敵を我が命をもって討ち滅ぼせっ!血濡れの剣よ、我が犠牲を受け入れろっ!!」
私は決死の鬨の声を上げて水賊を迎え討とうと身構えたその刹那。
「っ俺は丘の民の勇士!タゴン!! 隣邦の義によって水賊討伐のおり、助太刀致すっ!」
突然の雄叫びに思わず竦み上がり、私は子供のように体を丸めたくなるのを必死に堪えた。
いつのまにか戦闘は終わっていた。水賊達はことごとく討ち取られ、船の傍で水草のように漂っている。
私は暫し、自分が見ているものが信じられずに体の震えを抑えていると波飛沫と共にやや大柄な男が目の前に降り立った。
ダークグリーンの肌と鋭く逞しい体躯とヒレを持つ水の戦士。
私は自らの鳴りやまぬ動悸にほだされ、声を出せずに戦士様を見つめていた。
(ボウル視点)
私は年甲斐もなく泣いていた。戦士団の副長である男が人前に限らず幼子の様に涙を流すのは耐え難い恥である。
しかし、自分の涙と嗚咽は止められなかった。
生き残れて安心したからではない。傷が痛いからでもない。姫様を守り切れなかったかもしれないという責からでもない。
ただ、目の前にいる大恩人であるタゴン様への感謝の涙だ。
私の一族の出身地は、オアシスからも離れた乾いた砂の中にあった。生きる糧を得るのも難しく、貧しい土地だ。何度も風の女神達の気紛れで砂に飲み込まれかけていた。
私の両親は私が生まれてすぐに約束の安息地へと旅立ってしまった。私は祖父母によって育てられた。いまでも深く感謝している。涙が出るほどに…!
私が砂の剣の副長を任され、アルージュ家のお傍近くに侍るようになった頃、砂の邦は飢饉に苛まれた。私の故郷のように貧しい土地ではことさら飢えと病が人々を約束の安息地へと連れ去ってしまっていた。私の祖父母も例外ではなく死の使いを待っているような小康状態であった。
だが2全節ほど前から友好邦の丘の邦から救済の物資が届きはじめたのだ。
砂の民は祈りを捧げ、涙を流してそれを受け取った。私もそのひとりで、過剰なほどと言える量の食糧を受け取らされた私は急いで祖父母の元へと走った。
「生きている内に海の魚が食えるとは…安息地の祖先に自慢ができる」それが祖父の遺した最後の言葉だった。祖父母は約束の安息地へと旅立った。しかし、安らかな眠り顔であった。
残りはお前の家族に食わせてやれ。とほとんど手がついてない食糧を背負い妻の待つグリーン・フォールへと帰った。
その後、神殿関係者からこれらの恵みは女神の名の下にフォー・リバーの奇跡の仔、タゴン様によるものだと聞かされた。
数節前に生まれた息子には祖父の名を付けた。
私も妻も息子も、あまねく全ての飢えに苦しむ民は貴方様に心からの感謝を捧げております。
どおしても感謝の言葉をかけたがったが、流れる涙で視界が霞んで前が見えない。
私はただ膝をつき、手を組んで頭を下げ続けることしかできなかった。
(再びルルゥ視点)
私は砂の聖女などと呼ばれる事を甘んじて受け入れていた自分が恥ずかしいっ!
ネリ達が命懸けで水賊と戦ってくれているのに、私は部屋で怯えているだけだなんて。
先ほどから外で怒号と剣がぶつかり合う音が聞こえ続けている。
私にも戦う力があれば!皆を守れる力があれば!!私は心の中でそう繰り返し叫び声を上げ、ひたすら女神達に祈りを捧げ続ける。目を二度と開かぬほどに強く閉ざして暗闇の中に居た。
永遠に続くかと思われた地獄が急に周りから消えたことに気づいた私は恐る恐る船室のドアを開いた。
そこには私と同じ原種還元と思われる男性が立っていたのです。
一目で解った。彼こそがダコン様であると。
彼がそれを肯定した瞬間、私は自分でも歯止めがきかなくなった。
気づけば私は彼に抱き着いていた。何とはしたない真似をしてしまったのでしょう。
後からこれは淑女の恥と恥だと気持ちが沸き上がるがもう自分を抑えられない。
美しいエメラルドにも勝る闇を帯びた翡翠色の肌。亜竜とはまた違う張りと艶やかさがある。
私をガッチリと支える鋼鉄の如き胸板。
そして私を包み込む逞し過ぎる腕。鋼すら斬り裂けそうな腕ビレも最高だ。
だ、駄目だ! …す、吸いたいぃぃ…!!
彼の素晴らしく美しい肩に。その筋肉質な首にぃ!彼の尊血をすすり飲みたいっ!
わ、私に、こんなふしだらな私にお情けをかけて頂きたいぃぃぃぃっ!!?!
視界が赤く染まり始め、喉が灼け付くように渇いて熱い。ああ!我慢しなくちゃ!!
ラミアは亜竜種のスネイクの先祖返りだけど、吸血行為の種族的特徴を持っている。だから目の前に意中の存在がいたら思わず襲い掛かかってしまうのです!(性的な意味も含めて)
ハァ…ハァ… 駄目よ。絶対にダメなんだから。タゴン様とはこれが初対面なのだから…
砂の民の救世主。フォー・リバーの奇跡の仔。私が為したいことを全てこともなさげにやり遂げる真の女神の使徒!タゴン様!!
ハァハァ…駄目だカッコ良すぎるっ! …はうぅ!フェロモンやっば。ずうっと嗅いでいたい。
何とか強引に誤魔化した上に私をルルゥと呼んで貰えることも約束できた!
タゴン様に対してこの仕打ち…恐らく女神達は私を許してくれないかもしれない。だが後悔はしていないっ!たとえ神罰が下ったとしても怖くはない。
多少落ち着きを取り戻した私は改めてタゴン様に礼を述べる。私が頭を下げようとする度に「やめてくれ」と言って庇って頂けた。
なんと清廉な方なのでしょう。屈強な戦士様の出で立ちですが、もしや高位の信仰系クラスに就かれているのでは?
しかも非常識なほどの大量の物資を砂の民に与えたことを威張るどころか歯牙にもかけておられない。
やはり、貴方こそが…
そう思っていた最中、船の直ぐ側から波飛沫が上がり、巨大なモンスターが襲い掛かってきたのです。
しまった!祈りの念を断ってしまったから、私のスキルの効果が切れたのか!?
くっ。また私は皆を…タゴン様を傷つけてしまうの?
「鋭利な歯と顎を持つ岩だ!? 姫様!お早くっ!」
ネリ達に引き連れられタゴン様から離れた私が見たものは…
まるでボールでも蹴るかのように巨大なサメ型モンスターを蹴り飛ばすタゴン様の御姿だった。
私を含め、ネリ達戦士団も愕然とした様子で眺めていました。
正気に戻った私はタゴン様のもとに駆け付けようとしたところ。タゴン様のポーチに先ほどのモンスターの亡骸が吸い込まれていったのです。
まさか、たったの一撃で屠ってしまうとは。ですが、タゴン様の表情は晴れません。
なんという事でしょう。タゴン様は自らを襲ったモンスターにまで慈悲を持つほどの器をお持ちの御方なのだ。私は感動に打ち震え、決意を新たなものとします。
「…偉大なるタゴン様。女神達の寵愛を受けるにたる器を持つ貴方を神殿に連なる我らは見守ることしかできませんが、私が必ずやタゴン様を 次世を担う希望、水の王にしてご覧にいれます…!」
何か毎回新し用語が増えていきますねえ…
現在私が思い描く異世界の痛い(誉め言葉)設定資料を随時作成中です。
じゃないといつか自分もよくわかんなくなりそうで寿司。