よりによって転生とは。②
楽しんで書いてます。
ストーリーなんて捨ててかかってこい!
「ハァ…」と溜息が思わず出てしまう。
俺はひとり、家の裏にある岸部に腰をかけて脚を波に遊ばせていた。
あれからあっという間に月日が経ち、俺は14になっていた。
イヤ早過ぎるな、俺の人生。
それも仕方なかったのかもしれない。激動の人生だった(多分これからも)のだ。
最も大きな理由が二つある。
ひとつめは俺の容姿である。
まごうことなき、かの有名な水属性を代表する雑魚キャラモンスター《サハギン》である。
まあゲームによってはさほど雑魚でもないかもしれないが…しかし見た目は完全にモンスターのソレである。
全世界のサハギン愛好家の皆さんには悪いがもう一度、あえて言うぞ?
コレ完全にモンスターだからなっ?!
そういって自分の水かきのある両手をグッ・パーしてみる。…うーむ。
客観視しても、思ったよりグロくなかったのが唯一の救いかもしれない。
というのも俺の種族である《鰓を持つ者》、通称ギルマンは普通に人間と変わらない容姿をしているのだ。違いと言えば肌の色や質感が多少違うくらいだし、まあ一番の違いは胸の両脇に存在する鰓だろう。
平たく言えばギルマンは水の種族。つまり水中での生活が可能なのだ。ただ殆どの者が水中だけではなく陸上生活を営んでいる。しかし、水の傍ではないと流石に生きづらくはあるらしい。
あと俺の生まれた街(というか国か)《フォー・リバー》にはギルマン以外の種族も普通に生活しており、交流もある。逆に生まれてこの方、人間は数えるほどしか見てない。人間は少ないのだろうか?
また同じギルマンでも下半身が魚であったりタコみたいな軟体動物のような種族も存在しており、その多くが海に棲んでいると言う。
それぞれ総称が違うのでややこしいが、例えば俗に言うところの人魚である《マーメイド》は女性だけの種族であるのだが、下半身を鱗のある人間の脚に変えることができるのだ。
ちなみに代償として声を奪われたり、激痛にもがき苦しむことはないそうだ。
少なくとも知り合いのマーメイドは俺の質問にそう答えてくれた。
たがしかし、文化の違いか彼女たちマーメイドは基本全裸なのだ。
この世界は驚いたことにあまり裸に偏見はない、そもそも服の文化があまりない。
俺が身に着けている、なんかレボリューションな革鎧もあくまで《防具》を装備してるに過ぎない。
正直、多少前世の記憶のある俺からすると嬉しい反面、目のやり場に困る。
これだけはいつまでもなれることがない。
おかげで俺がやたら女性に対してシャイであることが定着してしまった。別にイイけどな。
話を戻そう。そう俺と周りの容姿の違いだ。
周りは割と美男美女。そして俺は人間に近しいもののゴリゴリのモンスター。
しかも他の同じ種族の男と比べて一回り、イヤ二回りはガタイがデカい…うん、普通に怖いです。
これだけの違いがあれば、周りからは奇異や畏怖の目で見られ、いじめられそうなものだろう。
俺も成長するにつれその覚悟はしていたつもりだ。
だが実際はまるで真逆であった。
俺はいわゆる美男子と周りからもてはやされたのである。
なんの冗談だ? と、最初はむしろ疑いの目で周りを見ていたものである。
俺はいわゆる先祖返りのようなものだそうで、強力なスキルや加護を持って生まれるとされ、精霊や女神に愛された子として全種族から祝福されるうえに羨望の眼差しまで受ける存在であった。
うーむ、異世界文化。
そしてそれに輪を掛ける二つ目の理由。そう、俺のスキルと加護だ。
俺の生まれ持ったスキル《世界を泳ぐ者》。
それはどんなところでも自由に息ができ、泳ぐことができる能力。
水の中はもちろん土の中、空中すら泳ぐことができるのだ。
何を言ってるのかわからないだろうが、俺もわからん。
ただとんでもなくチート臭い能力ではあるし、しかもまだ成長途中っぽい…らしいのだが。
スキル鑑定の神官(この街でもかなり偉い爺さん)が震えてそれ以上教えてくれなかった。
『これ以上は女神様の怒りに触れることになるであろうっ!!許せ!』とか言ってたっけなあ。
…女神。そう女神様だが、俺が《女神ルサールカの加護》を持つことが命名の儀式の際にバレたのが最も痛かった。
命名の儀式ってのは全種族共通のお披露目式のようなもので規模は千差万別だが生まれた子供の名前を神前でつけたり、逆に名前を授かったりするそうだ。
俺が精霊どころか女神の一柱であるルサールカからの加護を得たと両親や周辺住民は狂喜乱舞し、それが国中、イヤ多分世界中に知れ渡ってしまったのは間違いない。
それを裏付ける様に2年置きくらいで俺と両親はこのフォー・リバーで一番偉い人(王様みたいなひとで間違いない)に謁見しているし、連日のように各国の有力者が神官などを引き連れて実家を訪ねてくる始末。
最近はだいぶ落ち着いたが、恐らく偉い人がいろいろと策を講じてくれたのだろう。有難いことだ。
褒められて嬉しいし、嫌われるよりも人気者の方が良いのは確かだが、何だかこう…疲れる。
人に囲まれるのも苦手なのでよく空中を泳いで逃げていたのだが、空に浮いてればそりゃ目立つし、有翼種族のやつに追いかけ回されるのも嫌なので、最近は専ら地面の中泳いで過ごしているくらいだ。
別に自分からヒーローを演じるつもりはないんだが、いろいろと大変なのである。
またひとり溜息をついていると後ろから聞きなれた声が掛けられる。
「ター君」
振り向くと、そこには俺を心配そうに見つめる美しい黒い天鵞絨の毛皮を持つ獣人の少女が立っていた。
ヒロインかな?