よりによって接待とは。①
本日より新章開始となります。
いままで強調するのに《》を使ってたんですがルビと混同しがちなので、色々と変えていこうかと思います。
よりによって接待とは。
御貴族様相手の接待とか考えただけでも逃げ出したくなるじゃあないか。
しかも数曜(数日)中にはここフォー・リバーに到着してしまうのだ。これは決定事項だ。
だが、1番の問題はそこじゃあない、なんで接待する相手がほぼ同時にふたりもいるのかということだ。
ひとりは昨曜会った、砂の邦の姫君である【ラシー・ルルゥ・アルージュ】だ。
彼女は俺の邦である丘の邦の友好邦の大きい商家の出身だという。
彼女の一団の目的は多分だが俺じゃあない。封書には、フォー・リバーを経由してここから北東にある炭鉱街であるバーニング・ストーンを通り抜け、神殿ギルドの本殿がある山の邦の首都【エターナル・ファイア】に向かうと書かれていたからだ。
恐らく俺を接待役に名指ししたのもフォー・リバーの神殿ギルドとの顔合わせに付き合って欲しいからだろう。彼女達はここの神殿ギルドで数曜滞在するとも書かれていたしな。
…まさかその間ずっと傍に居ろって訳じゃああるまいな?
イヤ、最悪それでもいい。だがルルゥの相手ならまだしも、もうひとりの方への対応は全くの未知数なのだ。
山の邦の剣姫【カルシナート・リズ・ガガー】だ。
こればかりは本当に寝耳に水だ。彼女は紛争が未だ続く山の邦の連合軍、その中で【四天王】と呼ばれる将の最強の女剣士。しかも個体値は最低でも俺と同じS。それ以上のSS(災害)クラス、モンスターなら邦が動くほどの討伐対象になるレベルの実力があると、俺の親父殿であり、フォー・リバーの東区衛兵隊1番隊長の英雄ハングが俺にそう注意してくれた。
だが疑問なのはその目的だ。何故、俺を指名したかだ…。
ルルゥと違ってコッチは全くの接点がない。封書では今回はお忍びで、慰安も兼ねての遊学であるという。フォー・リバーでの滞在曜数も未定。その後の予定についてもだ。
おかしい話だよなあ?相手は山の邦の超重要戦力。もとい人物のはずだ。
彼女の存在は、常に【諸島沿岸域】と戦争しているような邦にとってそう簡単に手放してもよいものではないはずだ。うーん。
俺と親父殿、それとギルド統括補佐であるアルフと暫く考え込んだが、良い案も浮かばず、結局できるだけのことはして当日本番ぶっつけの、かつ俺にほぼ丸投げという現状では最悪に近い処遇を言い渡されたのであった。
「申し訳ありませんが、ここはタゴン様に頑張って頂く他ありません。我々もできる限りの助力はさせて頂きますので。では各ギルドへの連絡を急がねばなりませんので私はこれで失礼させて貰います。では」
そう言ってギルド統括補佐のアルフが逃げ、 イヤ部屋から去っていった。
「まあ諦めろ。父さんも貴族が相手なんてゲンナリだが、相手側からの直々のご指名だ。こりゃあ首長でも突っぱねられない案件だからな。砂の方はまだ予想がつくが、問題は山の剣姫の方だろう? 相手が相手だからな、下手すりゃあ衛兵隊が束になってかかっても返り討ちに遭うかもしれねえなぁ…。よし!俺は戦士ギルドに寄ってくっからお前は先に家に帰ってろ! カナンには遅くなるかもしれねえって伝えといてくれよ?」
そう言って親父殿も逃げていく。 だが、部屋の扉の前で不意に振り向いた。
「でもよ?考えてみりゃあお前、結構な役得なんじゃあねえの? だってよ仮にも邦の姫様が二人もだ。両手に花ってやつじゃあねーのか?うははっ! じゃあな、頑張り給えよ我が息子。ジョンタウロ君っ!」
聞く相手によっては不敬罪でシバかれそうな事を言って手をヒラヒラと振りながら部屋から出ていった。
はあ。俺にどうしろというのかね?
あ~。もうなんか疲れたな。 帰ろう。
…NOW LOADING…
家に帰ってくるなり、俺はお袋に捉まってしまった。
正直、もうふて寝したい気分なんだけど。
「ター君おかえり!随分遅かったわねえ? あの人は?」
俺は親父殿が戦士ギルドに行ったことや、ついでに貴族2組の接待役に俺が指名されたことも話した。
「あらら。大変ねえ?ター君。アルージュ家のルルゥ様の方はわかるけど…まさか【凶刃カルシナート】の相手に選ばれちゃうなんてね~。流石、私の息子はモテるわねえ」
そんな呑気な事を言ってる場合ではないのだが…というか、モテる?
「でもター君は相変わらずタイミング悪いわよねえ。さっきまでスカーちゃんが家でター君待ってたのよぉ?」
ん?スカーレットが? ああ、そうか。漁師ギルドに顔を出してくれと言ってたっけ。
もう夕暮れ近いが、取り敢えず行って話を聞いてくるか。
俺はこれから漁師ギルドに行ってくるとお袋に言って玄関へと歩き出した。
「フフフ。それにしてもスカーちゃんがねえ…。まあ私は嫌いじゃないし、きっとあの人もシーちゃんも気に入ってくれるはずだわ。ホント考えていてはいたけど、タウゴよりター君の方が先にお嫁さんを貰っちゃうわね? クスクス…」
ん?嫁? 何の話をしてるんだ?まさかスカーレットの仲を勘ぐってるんじゃあないだろうな。
イヤ余計な事を考えても始まらないな。さっさと漁師ギルドへ行こう。
あ、因みにタウゴってのはタウゴサーク。俺の兄貴の名前ね?
…NOW LOADING…
俺のバイト先である漁師ギルドはフォー・リバー中央に鎮座し、4つの運河を股に架ける【十字大橋】の北区の麓近くにある。俺の家のある東区から歩いて行けば数時間は掛かるが、俺のスキル【世界を泳ぐ者】で空中を泳いでいけばほんの数分で到着だ。ちょっと目立つがな。
お、ギルドの前に所属する漁師達が集まってる。 …? 多すぎないか?
確かに漁師ギルドに所属するものは100をゆうに超えるが、ここにいるのは軽くその倍はいそうだぞ。別ギルドの関係者も集まってるのか?
俺が空中から様子を伺っていると、その中に俺の友人を見つける。
テューンとそいつの彼女のロディ。それにあのデカイのはスカーレットの兄弟のブルースだな。
"袋"を担いでいる。ということは漁から戻ってきたばかりなのか。
スキルを解除し、「テューン」と声を掛けて俺は近くに着地した。
「おわっ! な、なんだタゴンじゃあねえか?…あんまり心臓に悪い真似はやめてくれよ。てかどっから降ってきたんだ?お前」
そんなに驚かせたか? ほんの7、800メートルくらい上から降りてきただけだけど。
「あ!タゴン様ー!タゴン様も戻ってきてたんですねっ!イヤー今回はありがとうございましたぁ!凄く良い漁場教えて貰っちゃって。ホラ?見て下さいよ~」
「感謝。我が兄弟」
「…んんっ!」
テューンが肘で軽くロディを突っついた。
いかんな。まだ下らん事を考えて顔に出してたかな?
「あ。ゴメンね?タ、タゴン…君。改めてありがと。今節のうちの班のノルマは達成できたよ。テューンをマーダーピラニアの餌にしなくても済んだし」
俺は気にするなと首を軽く振る。そしてテューン達にこの騒ぎについて聞いてみた。
「お前も聞いて飛んできたんじゃあないのか?なんか知らんが漁師ギルド関係者は可能な限り集合する様に昼から伝達があったらしいぜ? 周りを見ろよ。生産ギルドの上役や商人ギルドの連中まで来てやがる」
「アタシ達も門の所で呼び止められて、真っ直ぐここまで来たんだよ。もう歩き疲れたから脚戻したいんだよね~?早く始まんないかなあ」
「緊急」
ふうむ。十中八九、コイツらを集めたのはスカーレットだ。だが何の話だ?
まさか、俺の例のポイントの件やらギルド研修の話をするためじゃあないだろうな?
…そりゃないか。あっても困るが。
「おお!タゴンやっと来たか!待ちくたびれたぜっ!おいっ!誰かギルドん中入ってスカーレット様を呼んでこねぇか!」
「はいっ!俺がいってきやすっ」
俺と顔見知りの仕事頭のひとりが俺を見つけてそう叫ぶ。
なんだ俺を待ってたのか? …嫌な予感がする。
「タゴンよお、何やらかしたのかは知らんがよお。スカーレット様は相当気合いの入った顔をされてたぜ?そりゃあ思わずあの銛でぶっ刺されるじゃあないかと冷や冷やしたもんさ。まあこのギルド一番の稼ぎ頭であるお前さんが殺されるこたあねえとは思うがよ? とりあえず船着き場の前にある檀上に立っててくれねえか?俺っちも何の話かは教えられてないんだが、とりあえずそう頼まれてるんでな」
うわー。もう公開説教決定じゃあないですか!やだあ~。
しかし最早逃げることも叶わず、俺は泣く泣く檀上へと上がる。すると数分後にギルドの扉が開け放たれる。
それまで興味本位で俺に向けられていた視線が一瞬でそこへと集まる。
そこにはスカーレットがいた。しかしいつものシャツに網を巻いただけのスカートの様相とは違い、ライダースーツの様なものを身に纏っている。確かこの世界では女性用の正式な礼服だったはずだ。
だが、そのスーツが余計に彼女のボディラインを強調しており、正直ここにいる者の大半には眼の毒であった。
俺の隣へと迷いなく颯爽とやってくると俺を一瞥し、集まった者達に声を掛ける。
「皆!アタイから急に招集をかけて悪かったね!今曜は大事な話があるんだ。どうか驚かずに聞いて欲しい…」
そうスカーレットが前置きを述べつつまた俺を横目で見やる。何やら大事の様子だ。
あ。コレあれか?クビになっちゃう系のやつか。あ~あの後ギルドでまた何かで揉めたのかなあ。
しかし、心なしかスカーレットの呼吸が荒く、微かに唇は震えている。
「アタイは今っ!この時をもって漁師ギルド長の座を辞めるっ!これは決定事項だっ!!」
はぁっ?!
「そして次のギルド長の座を… ここにいるタゴンに譲り渡すからねっ!皆、わかったかいっ?!」
はぅあ。
できればサハギンとミキサーを交互に更新していけたらと思う所存。




