よりによって転生とは。⑪
できれば明日で一区切りしたいのですが…どうだろう?
「各ギルド長の皆様が到着されました!順にお部屋に入って頂きます」
ギルド職員の女性が謁見室の両開きの扉を開く。
「わかった。失礼の無いように頼む」
アルフが目礼で応えると、女性職員は奥に戻っていった。
すると奥の方から賑やかな声が聞こえてくる。早速誰かがドカドカと部屋に入って来た。おいおい仮にも首長がいるんだから、もうちょっとこう、ないの?
「うーヒック。何だよ何だよ辛気臭い顔してお前ら―?! グーちゃん、オッス! うぃー」
初っ端から酔っ払いが入ってきた。う、相変わらず酒臭い女性だなあ…。
しかもこんな公式な場で首長グラコスを「グーちゃん」呼び?!というか首長、家ではグーちゃんって呼ばれてるのかな?ほんの少し親近感を感じる。
彼女こそが戦士ギルド長であり、首長グラコス・オルタ=デイン・ギガボルトの第二夫人。クオリキ・ギガボルトである。
ただ戦士長であるクオリキの見た目は8歳くらいのチャイナっぽい服装の酔っ払った幼女にしか見えず、知らない住民によく衛兵詰め所まで連れられるのが日常茶飯事という何かと問題のある人物だ。恐らく今夜集まるギルド長のメンツで一番のトラブルメーカーには違いない。今も右手に持つグラスに左手に持ったワインを注いで飲んでいる。こんな見た目だが俺と同じ個体値総評Sを持つ怪物である。ちなみに首長がロリコンな訳ではない。見た目はウサギ系の獣人だが、ギルド統括補佐のアルフの種族である変身獣人のような変身能力を持つという。それと彼女は不老長寿の古き血であるため見た目は非常に若過ぎるが、250の御年を誇る首長よりも年上ではないかとの噂もある。お袋の容姿が若すぎるのも同じ理由らしい。
「おー、タゴン! 聞いたぞお?お前バカザメを蹴り一発で仕留めたってなあーっヒック。やっぱりお前はセンスあるよ。バイトなんかやめてさー?さっさと私のギルドの修練場に詰めろよお。なあー。うーヒック」
彼女は戦士ギルドの長だが最高位の戦闘師範でもある。特に徒手空拳においては”酔眼のクオリキ”と恐れられる武術の達人だ。その昔、ちょっかいを掛けてきた貴族の屋敷を蹴り上げたことがあるらしい。
俺は12の頃、親父殿にくっついて戦士ギルドを訪れた時に運悪く見つかり暫く扱かれたことがあるのだ。俺の蹴りは彼女から学んだと言ってもいい。
「よさんかクオ。タゴンに絡むでない。それにしてもお前は相変わらず酒癖が悪いのお」
「ヒック。ごめんねグーちゃんっ!許してっ? 大好きっ!!」
ちょっといい歳過ぎるカップルがイチャつかないで欲しいんだが…
「んもお~ヤダヤダ!見てらんないわあ。アンタ達そ~いうのは家に帰ってからやってくれる?これだから戦士ギルドの豆チビは嫌なのよねえ~?このアル中脳筋はぁ」
「なんだあ?! やるかーこのクソ髭ジジイめ!」
「アンタこそ!酒はいい加減卒業しなさいよお!? というかアタシ達知り合ってもうかれこれ200近く暦が巡ってんのよぉ!アンタも十分BBAじゃあないの!?このBBA!」
また濃いのが部屋に入ってきた。魔法ギルドの長、マギアオリアハットだ。通称”白髭のマギー”。
彼もまた《ケイブマン》という珍しい種族で、3メートルを超す身長に全身をモサモサの毛で覆われ、水鳥のような手足を持っている。フォー・リバーでは恐らくケイブマンは彼一人だ。そして一度会ったら忘れられないようなキャラをしている。
「あらーハングちゃんにカナンちゃん!それに坊ちゃん!久しぶりねえ。会いたかったわあ!それと私の可愛いシトリーちゃんは来てないのかしらん?残念ねえ…まあ、また明日会えるからいいけどね!」
ちなみにマギーの爺さんとは家族ぐるみの付き合いで、特にお袋とは旧知の仲であるという。俺の姉であるシトリーを孫のように溺愛しており、魔法ギルドでシトリーの為だけに私塾を開く始末である。しかも俺を何故か坊ちゃんと呼ぶ。変人だが昔からしる仲だ、悪い人ではない。
「もうシトリーちゃんたらカナンちゃんに似てマナの才能あるわね~。もうあの年で《カンテラ》の他に《解毒》のマナまで使えるようになったんだから!そうだ、坊ちゃんもいつも送りにくるだけじゃあなくてマナの基礎だけでもやってみたらどうかしら?坊ちゃんだってカナンちゃんの息子だし、個体値の魔適性Aもあるんでしょ?やってみなきゃ勿体無いわよお」
そうマギーが俺たちをモサモサと抱擁してくる。別に嫌いじゃあないんだが凄いモサモサだ。なんか暑い。
「んんっ! …マギアオリアハット殿。申し訳ありませぬが拙僧と後続の者が中に入れませぬ故。」
「アラ!ああゴメンなさいね?神殿長。 にしても相変わらず硬いわねーアンタ?見た目は柔らかそうなのにね~」
次に入ってきたのは神殿ギルドの長、サイナモン司祭である。フォー・リバーには各女神の神殿が複数存在しているが、彼がその代表となっており、また彼の信仰は水の大女神なので、ここフォー・リバーでは他の火・風・木・土の女神よりも水の勢力が強い。
サイナモン司祭はシーモンク族だ。見た目は司祭服を着た人面タコである。すごくニュルニュルしている。一瞬、モンスター種のようだが列記とした魚人の一種である。タコだけど。
「これはタゴン様。ご機嫌麗しゅう。先日も《捧げ物》による手厚い施しを受けたと神殿の者から聞いておりまする。女神の思し召しとはいえ、拙僧からも日頃の善意を含め感謝の礼が尽きませぬ。誠に有難う御座います、タゴン様」
そう言ってサイナモン司祭は体をくねらせ、頭を深く下げた後「では」と言葉を残して部屋の隅へと移動していく。
次に入ってきたのは生産ギルドの長、ドラムカン・ノースだ。漁師ギルドの長であるスカーレット・ハープーンも一緒だ。彼女は俺のバイト先のボスだ。その彼女が無遠慮に近づいてくると俺の背中をバシンと叩く。
「なんだいタゴン!水臭いじゃないかっ?皆に遠慮して仕事の成果を隠してたんだって?なんでアタイに言わないんだい!?困ったことがあったら何でもいいなって、いつも言ってるだろ」
スカーレットが俺を心配してくれたのか珍しく困ったような表情を浮かべている。俺は嬉しかったが思わず視線を逸らす。
ドタプン!だろうがそれともブルリン!だろうか彼女が俺の肩を揺する度に豊か過ぎる双丘?双球か?がたわんで揺れる。その雑に縛ったシャツから今にでも零れ落ちそうで目のやり場に困る。
彼女はアカエイの魚人とギルマンの混血で赤い髪と目が覚める赤と白の美しいコントラストの肌を持つ野性的な美人だ。しかも姉御肌で付き合いも良く、漁師・漁師外から非常に好意を寄せられている漁師ギルドいちの華なのだが、実力もSに迫るAランクでクラスも《水上の女戦士》という上級戦士系クラスに就いている。彼女が銛を振るえば、狩れない魚はいない、と呼ばれるほどだ。ちなみに俺の友人であるテューンも彼女には弱い。
「彼を責めるのは御門違いじゃあないのか?スカ―嬢。失礼、お初にお目にかかる。僕は生産ギルドの長、ドラムカンだ。いやそんな大層な器ではないのだがね。ハハハ」
そう名乗ったハーフエルフの男、ドラムカン・ノース。彼は発明王とも呼ばれる経歴を誇る錬金術師である。ギルドの収納空間とアイテムの出し入れができる《ギルドポーチ》も彼の発明したアイテムがベースであり、その功績から首長にギルド長の地位と家名ノースを与えらている。
ちなみにハーフエルフとは精霊種族であるエルフとの混血全般を指し、エルフのような不死性はない。
「今の生産ギルドの一部は正直、タゴン君で持っていると言っても過言じゃあないからね?君からもたらされる素材は珍しいものや入手困難なものが多くてね。僕も非常に助かっているんだ。それに君は非凡な発想力を持つとも聞く。どうだね?採取班ではなく開発部門には興味はないかね。いつでも歓迎するよ」
「ちょっと!タゴンはアタイら漁師ギルドのエースなのよ?! あげないわよ。絶対に」
俺は腕を引っ張られて何かとても柔らかいものに挟まれる。
「決めるのは彼だろう?スカー嬢。僕としては生産ギルドの傘下である漁師ギルドで活躍して貰っても何の問題もないがね。まあ選択の余地ということだよタゴン君?考えてみてくれ」
そう言ってドラムカンは首長の下へと歩いていく。スカーレットも「また後でね」と言って彼の後ろを追っていった。
「おいおいおいン。こんな夜中に何もこんなに集める必要があるのン?バカ騒ぎは止めて欲しいのン」
そう言って恰幅のいい魚人の男が入ってくる。魚人にしては珍しく高そうなスーツを着ている。
「うわ。ホントに来たのかよ?はあ~。 おい叔父貴!アンタはもう帰っていいぞ?」
親父殿がその魚人に向かって手で部屋から追い払おうとしている。
「何を言うのン!まったく恩知らずな甥を持ったものだのン!お前が住む家だって、貴族と揉め事を起こした時だって、海の傭兵にしか過ぎなかった小僧を首長に仲介したのだって俺が力を貸してやったんだろン?!それなのお前は…」
親父殿が「また始まったよ。あーやだやだ」と言って耳を塞ぐ。子供か?!
その彼こそが商人ギルドの長、スクーン・サウスレフト。ニシキゴイの魚人で非常にのっぺりとした顔をしている。そして親父殿の実の親戚である。俺ははじめて会うがな。
「おお、君がハングの息子だのン。不肖の甥には勿体無いほどできた息子だと聞いているのン!困ったことがあれば何でも相談してくれて構わないのン」
親父殿が「うるせえ!余計なお世話だ!」と吠えるとまた小言合戦が始まってしまった。やれやれ。
「私めが最後ですか?申し訳ないが扉を閉めて貰えませんか」
そう言って最後に入ってきた男が後続の職員に声を掛け、謁見室の扉が閉められる。
それにしてもデカイな。マギーの爺さんを遥かに超える4?下手したら5メートル近いな。見上げる首が痛くなる。混血かもしれないが恐らく亜竜だと思われる大男。いやもう巨人だな。
基本的にこの世界の建物は色んな種族がいる関係上、高く造られているんだが余裕で天井に手が届きそうだな。
「首長。冒険者ギルドのギルドマスター、マーティアス。ここに推参致しました!」
そう言って片膝をつく。それでもマギーの爺さんよりデカイ。そうか話には聞いてたが、この人が”大震のマーティアス”か。元Sランクの個体値を誇った冒険者。現在は現役を退いていると聞く。
冒険者ギルドは戦士ギルドの傘下だが、実際は独立した運営を行っている。それもあってこのメンツの中で一番立場が低い。
「大儀である、大震の。 アルフ、これで一応は揃ったのか?」
そう言って首長グラコスが周りを一瞥する。
「はい。皆様、今夜は急なお呼び出しをして申し訳ありませんでした。」
そう言って各ギルド長の顔を伺っていき、最後に俺を見る。 何で?
「では急使に持たせた文にもあった様に、今夜お話し、決を取りたいのは東区衛兵1番隊長ハングオン・イースト氏の御子息、タゴン様の今後における扱いについてです。」
え? 俺どうなっちゃうの?
とてもキャラが多い。でも巨乳ヒロインっぽいキャラを登場させられて満足(遺言)




