難民キャンプ
三年前のあの日まではフィオラシアはサリアラインにとって誰よりも尊く美しくはかなげで優しい自慢の妹だった。
戦況がどんなに苦しくてもフィオラシアの存在は他のどの王よりも『光の大陸』を勇気づけたし、また癒し続けた。
フィリシアの乙女。
ただその存在を護るというだけで国々は活気づいていた。
故にヴァリシオンがひきいる『彼の地』とも互角に戦いぬいてこられたのだ。
だからサリアラインは戦況など知らずにただ花嫁修業としてカイルやリオンの面倒さえ見ていればよかった。
フィオラシアが足しげく通う野戦病院にも足を踏み入れたこともない。
ただうわさでしか戦況を知らなかった。
当時まだ十二歳だったフィオラシアが目をそらす事なく受け止めてきた現実を突き付けられた時、正直吐き気を覚えた。
だが同時にフィオラシアほどでなくとも王女である自分が声をかけることによって兵士たちを元気づけられることをしったのだ。
今はまだ幼くて一緒には連れて行けないけれどカイルにもいつかわかる日がくるだろう。
こんなふうにグリフォスの難民キャンプに足を踏み入れることのわけを。
「・・・増えてるわね」
荒野に敷き詰められたテントを前にサリアラインはつぶやいた。
「グリフォスの隣国であるカーマとザルバが難民を拒否したようですな」
シルヴァギアが言った。
もはやグリフォスの民を受け入れているのはルナ・ムーンだけだと。
そしてそれはもう限界なのだと。
「徴兵するしかないわね」
つぶやくように、けれどしっかりとサリアラインは言った。
限界だと彼女の頭も理解していた。
いくら大義名分を言い聞かしてももう難民たちに与える食料はない。
ルナ・ムーンの民ですら飢餓がせまっている。
グリフォスの難民にしてあげれることはなにもなかった。
やせこけてそれでも自分に感謝の意を唱える人々。
けれどしてやれることはもうないのだ。
絶望へと追い込む道しか。