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1.はじまり



(ふぅー)


少年は目の前に広がる広大な荒れ地を前に小さく息をはきだした。


精霊たちの恵みあふれる森を切り裂くように突如あらわれし荒野を人々はこう呼ぶ。


ーファシル・アルド・バード・・・古き光の王国。


それは確かにかつてこの場所に存在していたちっぽけな、それでいてどんな大国にも負けない豊かな王国の名だ。


いまは炎にやかれ、十五年たったいまでも黒く凍土だけがえんえんと広がっている。


少年は膝をおりその閉ざされた土に指ふれる。土は冷たくそして少年の心にも冷たくしみこんだ。


(これからどうすればいい?)


十五年前に突然おきた戦いにより一夜にしてファシル・アルド・バードは滅んだ。


かの世界第七次大戦の始まりだ。


世界はいま変動している。闇王子ヴァリシオンの目覚めにより・・・。


 はるか昔、まだ神々がこの世界に住まわし時、世界は『聖霊界』というひとつの国がすべてだった。


神々が選びし賢く慈愛にみちた王がおさめる王国。


そこには貧困もなく笑いに満ちた国。


けれど王家に双子の王子が生まれたことにより世界はふたつに分裂した。


ひとつは聖王ラディオンのもとに集う国々ー『光の大陸』であり、もう一方は闇王子ヴァリシオンの支配する国ー『彼の地』だ。


ながいながい時の中で戦は戦をよび、まるで核分裂するかのように無数の国が生まれ、そして消えいくらいにしえより存在したファシル・アルド・バードもその波にのまれてしまった


ーそういってしまえばそれまでのことなのだが・・・。


少年の肩にのりかかる運命はおもく、そして前にひらけし道は狭く険しかった。 


ークシャッ。


指先に力をこめて凍土につきたてる。


無数の氷の粒がまるでガラスの破片のように少年の指先を傷つける。


あかくあたたかな血が指先からあふれ氷の大地を染め上げた。


すると、まるでその血に魅せられたかのように凍土だった土に生気があふれた。


みるみるうちに至福の森から風にのり運ばれ、暖かくなるのを待ち望んでいた種子が芽吹きはじめる。


ーオカエリナサイ。


ーオカエリナサイ。


花々はやわらかく少年の黒髪をゆらす風に思いをのせて彼に伝える。


その声につられるようにはじめて少年の唇に笑みが浮かんだ。けれどー。


ーヒューッ。


突風にやっと芽吹いた花々は無残にもその短い一生を終えた。


ーこれが現実だ。


少年は唇をかみしめて立ち上がる。


そして振り返った。


そこにはこの世に生をうけてから十五歳のきょうまでずっと育ってきた森がある。


常人には見えない不思議な力に守られし森ー至福の森、またの名を妖精界。


彼はきょうで十五歳。妖精族でいう成人をむかえた。


人間の彼はおとなになればあの世界で暮らせない。


ずっと言われ続けてきたことだけど、目の前にある現実にはやくもくじけそうな自分がいる。 


ふと、未練がましく森を見つめていた少年の目に森から駆けでてくる一頭の馬が映る。


いや飛んで来たという方が正しいのかもしれない。


しなやかに宙をける白馬の背には力強く羽ばたく翼がある。


翼を持つ伝説の天馬ーシリウスだ。


「シリュー?」


不思議そうに自分をみつめる少年の寒さに紅潮した頬を天馬はぺろりとなめる。


まるでそうすることで少年を暖めようとするかのようにー。


「・・・一緒にきてくれるの?」


問いかけに、天馬は一声いななく。


「ありがとうシリュー」


そっと少年は天馬のたてがみに頬をよせた。


優しい臭いと体温はずっと幼き頃より彼のそばにあったもの・・・彼が一緒に来てくれるなら大丈夫だ。


やらなければいけないことは決まっているのだから。天馬から身をはなした少年はもう一度、限りない慈しみをくれた森をみた。


もう二度と踏み入れることは許されない森。気高く美しく、そしてなによりも強い者たちに深く頭をさげる。


(僕は生く!)


顔をあげた少年に迷いはなくなった。


 

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