表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/76

幕間: 曹操クンは間違った?

建安13年(208年)5月 州 国 ぎょう


「クハハッ、孫策のヤツ、まんまと命令を拒否してきおったわ。これで遠慮なくヤツを、攻め滅ぼせるというものじゃ」

「しかし曹操さま。うかつに攻め寄せるのは、危険ではないでしょうか? 聞けば孫策は、漢中、襄陽、建業において、軍備を強化しているようです」

「フン、儂はこの華北を制したのじゃ。そんなもの、恐るるに足らんわ」

「しかし……」

「くどいっ! ただちに襄陽へ向けて、軍を進めよ」

「……かしこまりました」


 儂が強く命じると、ようやく荀彧じゅんいくが動きだす。

 まったく心配性なヤツじゃ。

 華北を制した儂が、孫策ごときに負けるわけがなかろう。


 むしろ時間をおけば、孫策に余裕を与えてしまうであろうに。

 待っておれよ、孫策。

 貴様を倒して、この中華を手に入れてやるわ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


建安13年(208年)7月 荊州 南陽郡 鄧城とうじょう


「10万以上の兵が布陣しておるとは、さすがじゃな」

「は、しかも敵の城内にも、多くの兵が配置されていると思われます。城を落とすにはいささか心許こころもとないかと」

「フン、すでに追加の兵力も手配済みじゃ。まずはひと当たりして、弱点を探り出せい」

「は、かしこまりました」


 荀彧にそう命じてから、今度は郭嘉かくかに訊ねる。


「郭嘉。江南での反乱の手引きは、進んでおるな?」

「はい、予定どおりに進めております。すでに指示は出してあるので、いずれ朗報が届くかと」

「うむ、今後も手をゆるめるでないぞ。それから賈詡かくの方はどうじゃ?」


 賈詡には敵の調略を命じてあった。

 しかし彼は平然と報告するものの、その内容はかんばしいものではなかった。


「は、残念ながらはかばかしくありません」

「なぜじゃ? それほどに守りが堅いのか?」

「はい。ある程度以上の人物に接触すると、必ず密偵が捕まってしまいます。敵の重臣の忠誠心の強さは、生半可なものではないかと」

「くっ……おもしろくないのう。やむを得ぬ。今後は情報収集に励め」

「は、承知いたしました」


 くそっ、生意気な。

 あれだけの大所帯なら、普通は調略に困らないはずなのに。

 しかしまあ、反乱の手引きは進んでおるのじゃ。

 なんとかなるであろう。

 今に吠え面かかせてやるわい。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


建安13年(208年)8月 荊州 南陽郡 鄧城


 おかしい。

 孫策の討伐が、一向に進まん。


 こっちは20万もの大軍で攻めているのに、敵は城を巧みに使って、なかなかボロを見せない。

 それどころかこちらの消耗が多すぎるので、一時的に攻勢を控えねばならなかったほどじゃ。

 ようやく追加の兵力を加え、入れ替わり立ち替わりで攻めても、なお崩れん。

 郭嘉に命じて、江南で反乱を起こさせてもいるのに、考えられんほどのしぶとさじゃ。


 おまけに”官渡の戦い”で活躍した霹靂車を投入したら、同じような兵器で仕返しをされてしもうた。

 まったく、忌々しいヤツじゃ。

 そんなことを考えていたら、陣幕に伝令が駆けこんできた。


「曹操さまっ! 司隷や徐州で反乱が起きた模様です!」

「なんじゃとっ! それは確かか?!」

「はっ、許都からの正式な連絡です」

「ぐぬう……孫策めの謀略か?」


 儂が歯ぎしりしながら問うと、郭嘉がそれを肯定する。


「我々がやっているのですから、敵もやると考えるのが妥当でしょう。しかも戦闘が始まってすぐではなく、予備の戦力を呼び寄せてから、反乱を起こさせる辺り、実に狡猾です」

「たしかに、後方の戦力は極端に少なくなっていますから、効果的ですな。この分では、他の州でも反乱が起きている可能性が……」

「ぐうっ、孫策めぇぇ」


 儂は怒りに目がくらみそうになりながらも、考えを巡らす。


「……荀彧! ただちに兵の一部を返して、反乱を鎮圧させるのじゃ。同時に他でも起こっていないか、確認せよ!」

「はっ、ただちに」


 とりあえず手を打ったが、事態はそれだけで収まらなかった。

 なんと并州や青州でも大規模な反乱が起き、冀州や兗州えんしゅうでもそれに続く動きが見られたのだ。

 ここまでくると、兵の大部分を返さねばならん。


「……ぐううっ。悔しいが、兵を返さねばならんな。この鄧城で敵を足止めしている間に、残りの全軍で反乱を鎮圧するのじゃ」

「それしかありませんな。ただちに計画を作成します」

「うむ、頼むぞ」


 おのれ、孫策。

 なんと狡猾なヤツよ。

 この落とし前は、必ずつけてやる!



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


建安13年(208年)9月 州 潁川えいせん郡 許都きょと


「馬鹿なっ! 鄧城が落ちただと? 何かの間違いではないのか?!」

「はっ、残念ながら事実のようです。夏侯淵、徐晃どのは討ち死にされ、于禁、満寵どのは敵に降伏したとのこと」

「なんでじゃ~っ!」


 あまりの悲報に、机をひっくり返してしまった。

 兄弟同然の夏侯淵が、死んだだと?

 信じられん。

 いや、信じたくない。


 そもそも鄧城には、6万もの兵を残していたはず。

 それをこの短期間で打ち破っただと?

 まさか、密偵による内部工作か。


「何か謀略を仕掛けられたのか?」

「いえ、それが投石機による攻撃で、城壁が壊されたようです。こちらの想像を超えるような、新兵器を使われたのではないかと」

「ぐうっ、またか…………やむを得ん、鄴へ遷都せんとじゃ。天子を動かせ」

「そ、それは!」

「問答無用じゃ~っ! ただちに作業に掛かれ~っ!」

「「「ははっ」」」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


建安14年(209年)1月 司隷しれい 河内かだい郡 きゅう北部


「曹操さまっ、朝歌ちょうかが攻撃を受けています」

「なんじゃとっ! たしかか?!」

「は、太史慈が率いる軍に、奇襲を受けた模様です」

「くそっ、ただちに援軍を送れ!」


 河内郡で孫策と対峙しておったら、一部が後方に回りこんだという。

 おかげで兵が浮ついていたところへ、敵が総攻撃を掛けてきた。


「敵の騎兵隊が右翼の後方に回ろうとしています。右翼が壊走しはじめました!」

「くそ~っ、なんでじゃ~っ!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


建安14年(209年)3月 州 国 ぎょう


 とうとう我が城が、孫策どもに囲まれてしまった。

 冀州の各地に配置していた軍も、周辺から攻撃を受けていて、身動きが取れん。

 このままではジリ貧じゃ。


 いや、それどころか、孫策は新兵器を使って、城壁を破壊してきおった。

 かくなるうえは、天子を人質にして、撤退を迫るしかない。

 儂は孫策本人を呼び出して、じかに脅しをかけてやった。


「ただちに軍をひけっ! さもないと……」

「さもないと、なんです?」

「さもないとこうだっ! 分かったか?!」

「ひ、ひぃっ……た、助けてくれ」


 頭に来たので、劉協りゅうきょうに短剣を突きつけてやった。

 ここまで来たら、何をやっても一緒じゃ。

 しかし孫策は一向にひるまん。


「諦めなされ、曹操どの。もう勝敗は決しました」

「まだじゃ、まだ決まっておらんぞ。なにしろ天子は、この手にあるのだからな」

「しかし天子を人質に使っている時点で、もう誰も従いませんぞ」

「いいや、まだ儂には、忠勇なる兵士が何万人もついておる。まだまだこれからよ!」

「曹操どのっ! 目を覚まされよ。これ以上の――」


 その時ふいに、左わき腹に激痛が走った。

 驚いて後ろを振り向けば、そこには荀彧がいる。


「ぐ、ぐお……な、なぜじゃ、荀彧?」

「申し訳ありません、曹操さま。しかしやってはいけなかったのです。天子さまを人質に取るなど……」


 荀彧が泣きながら、儂にわびている。

 急激に力が抜けて地面に倒れると、短剣が抜けてさらに血がほとばしった。

 こんなところで、儂は死ぬのか?

 もう少しで中華を統一できたというのに。


 儂はどこで何を、間違った?…………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。

それゆけ、孫堅クン! ~ちょい悪オヤジの三国志改変譚~

今度は孫堅パパに現代人が転生して、新たな歴史を作るお話です。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ