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59.南陽郡の奪還 (地図あり)

建安13年(208年)8月下旬 荊州 南陽郡 とう


 新兵器 ”諸葛砲”の攻撃によって、鄧城はあっさり陥落した。

 城壁を崩されたところに我が軍が殺到し、主な武将を討ち取ると、敵兵は続々と投降してきたのだ。

 その中には于禁うきん満寵まんちょうという武将もいる。


 ちなみに討ち取られた武将は夏侯淵かこうえん徐晃じょこうで、やったのは甘寧かんねい呂蒙りょもうだった。

 甘寧と呂蒙、グレートジョブ!

 後でハグしてあげよう。


 そんな戦場跡を見回っていると、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。


「ここはこれぐらいでいいだろう。次は城壁の修理に当たるぞ」

「それだと手が足りないので、増援を呼んできましょうか」


 城門付近で、崩れた建物や城壁の修理に当たっている一団があった。

 そしてその中に、懐かしい顔を見つけたのだ。


馬良ばりょう馬謖ばしょく。久しぶりだな」

「あ、孫策さま。お久しぶりです」

「お、お久しぶりです」


 馬良が屈託のない笑顔を向けてくれば、馬謖はちょっと戸惑うように、あいさつをする。

 俺は彼らに近づくと、親しげに話しかけた。


「2人とも、元気そうだな。馬良はたしか、屯長とんちょうになったんだったか」

「はい、いろいろ大変ですけど、なんとかやれてます」


 屯長とは500人クラスの部隊指揮官で、馬良はその能力と家柄の良さから抜擢されていた。


「そして馬謖は副官か。少しはたくましい顔になったな」

「……はい。いろいろと、揉まれてますから」


 そう言って馬謖は、少し恥ずかしそうに笑う。

 彼は益州攻略でヘマをやって以来、戦場に出るのを禁止されていた。

 そのままでは、同じ失敗を繰り返すと思われたからだ。


 しかししばらく後に、馬良と一緒に俺のところへやってきた。

 そして馬謖は、馬良の副官として、また戦場へ出たいと言ったのだ。

 どうやら1人で腐ってたところを、馬良にいろいろ励まされ、やる気になったらしい。


 そこで俺は彼に訊ねてみた。

 ”なぜそんなに戦場へ出たがるんだ? お前なら、文官として成功するだろうに”


 すると馬謖はこう答えた。

 ”このままで終わりたくないんです。孫策さまに、無能だと思われたまま生きていくなんて、耐えられません”、と。


 どうやら俺は、思っていた以上に、彼に大きな影響を与えていたらしい。

 俺はため息をついてから、馬謖の従軍を許した。

 ついでに、”決して死に急ぐんじゃないぞ。常に生き残る努力をしろ”、と言い添えて。


 その後、彼らは山賊やら異民族の反乱鎮圧など、小規模な戦いに参加していたそうだ。

 その中で厳しい戦いに揉まれ、また兵士とのふれあいを経て、指揮官としての自覚に目覚めたらしい。

 相変わらず負けん気の強そうな顔をしているが、その言動には落ち着いた自信のようなものも垣間見かいまみえる。

 このままいけば、良い将になれるかもしれない。


「そうか。苦労したんだな。これからもがんばれよ。ただし、命は大事にな」

「はい、ありがとうございます」


 そう答える彼の顔は、とても誇らしそうだった。

 俺はちょっといい気分になって、さらに城内を見て回る。

 すると今度は、部下と話している太史慈を見つけた。


「よう、太史慈。今回はご苦労だったな」

「これは孫策さま。これぐらい、苦労のうちに入りませんよ。普通なら、何ヶ月も掛かったでしょうからね」

「いやいや、それでもお前たちが勇敢に戦ってくれたから、敵も降伏したんだ。ところで体調は大丈夫か?」

「ええ、華佗かだ先生に診てもらってから、だいぶ楽になりました」

「そうか。それは良かった」


 実は太史慈は、2年ほど前に体調を崩していたのだ。

 史実どおりなら、そのまま死んでいたところだが、幸いにも俺は後漢の名医 華佗かだを召し抱えていた。

 大至急、華佗に診てもらったおかげで、太史慈は持ち直し、今もこうやって戦場に立っていられるのだ。


 他には叔父の呉景ごけいも、史実では死んでいたはずだが、彼も生きながらえている。

 別に華佗が万能なわけでもないんだが、やはりまともな医者がいるのといないのとでは、大違いだ。

 加えてこの世界では、俺が勝ち続けることで、夢を見させられているのも、大きいのではないかと思っている。

 人間、やっぱり生活に張りがあると、より健康に生きられるもんだからな。


 ちなみに華佗には治中従事じちゅうじゅうじという役職を与え、衛生環境の改善や、医療従事者の育成に取り組んでもらっている。

 おかげで江南のトイレ事情が改善して、街中がきれいになったのは良かった。

 やっぱルールがないと、乱れるからな。


 こうして、ひととおり見て回っているうちに、今回の被害状況も判明した。

 俺たちは今回、約10万の兵力で鄧城を攻略したわけだが、2千人ほどの死傷者を出していた。

 対する敵は6万ほどの兵のうち、1万ほどの死傷者を出し、そして残りが降伏した。


 降伏した敵兵5万のうち、4万ほどは俺に雇われることになり、兵力が14万弱に増えたことになる。

 さらに襄陽から5万の増援を得て、俺たちは北進を開始した。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


建安13年(208年)9月下旬 荊州 南陽郡 魯陽ろよう


 鄧城陥落から1ヶ月。

 俺たちは漢水の支流である淯水いくすいをさかのぼり、次々と都市を攻略していった。

 朝陽ちょうよう新野しんや育陽いくよう棘陽きょくようえん西鄂せいがくという都市群だ。

 そこから陸路に切り替え、とうとう魯陽ろようにまで到達する。


 ここから先はもう州であり、首都である許都までは、百キロちょっとだ。

 ちなみにどうやって短期間でここまで来たかというと、都市住民の内応によって攻略してきた。

 そもそも曹操軍は大半を華北に引き上げたので、鄧城以外に大した兵力は残ってない。


 そんな都市の周囲に我が軍が布陣して、さらに密偵が住民をあおって反乱を起こさせれば、さほど待たずに敵は降伏するのだ。

 そりゃあ兵士が数百人しかいなきゃ、普通は諦めるよな。

 南陽郡は元々、俺の統治範囲だったので、俺を支持する声も大きく、そんな中で少数の兵だけで、抵抗し続けられるはずがない。


 そして魯陽の行政府にて、俺たちは会議を開いていた。


「許都の状況は?」

「現在、大慌てで引っ越し中です」

「なんだ、まだ終わってないのか」

「それはもう、持ち出せるものは全て、持っていくつもりでしょう」

「ご苦労なこった」


 鄧城が落ちたと判明した時点で、曹操は遷都せんとを強行した。

 俺が遠からず南陽郡を奪還するのは目に見えてたし、そうなれば許都は目と鼻の先だ。

 なので曹操は自身の拠点であるぎょうへと首都を移し、天子と朝廷機関を強制的に移動させたのだ。


 しかし許都は10年以上も漢の首都だったわけだから、いろいろと蓄積されているものも多いだろう。

 そんな諸々の資産を、大急ぎで鄴へ運んでいるらしい。


「敵軍の配置は?」

「一旦は反乱が起きた各地へ散ろうとしていたのですが、現在は冀州へ集結しつつあるようです」

「まあ、そうだろうな。今さら反乱鎮圧どころじゃない」

「ですな。それで、今後はどうされるのですか?」

「そうだな~……このまま冀州を目指してもいいが、許都も捨てがたいな」


 そう言うと、周瑜から助言があった。


「迷ってるんなら、許都へ行くべきじゃないかな。そして近隣の群雄を集めて、漢王朝の後継を宣言するんだ」

「う~ん、やっぱそうした方がいいか?」

「ああ、すでに曹操に漢朝を支える力がないことを、はっきりさせた方がいい。たぶんその方が、結果的に早いと思うよ」

「かもな……韓嵩かんすうはどう思う?」

「私も周瑜どのに賛成ですな。最後まで漢王朝へ敬意を示した方が、名士の理解も得やすいでしょう」

「なるほど。よし、それでは許都へ向けて進軍するか。ついでに近隣の豪族にも、声を掛けよう。許都で会盟しようとな」

「承知いたしました」


 かくして当面の方針は決定した。

 いろいろと面倒だが、味方は多い方がいいからな。

南側にあるとう県から上に伸びてるのが淯水いくすいで、それ沿いに北上して魯陽ろようまで到達しました。

ここから東に行けば許都もわりと近いし、北に行けば洛陽です。

挿絵(By みてみん)


地図データの提供元は”もっと知りたい! 三国志”さま。

 https://three-kingdoms.net/

ありがとうございます。

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それゆけ、孫堅クン! ~ちょい悪オヤジの三国志改変譚~

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