表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それゆけ、孫策クン! ~転生者がぬりかえる三国志世界~  作者: 青雲あゆむ
第3章 覇王激突編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/76

47.江南の防衛戦略 (地図あり)

建安10年(205年)4月 揚州 丹陽郡 建業


 事実上の交州の支配者であった士燮ししょうの要請を受け、俺は太史慈を交州牧とすることを上奏した。

 士燮との連名でもあったため、それはすんなりと受け入れられ、太史慈は交州牧に就任する。

 これにより俺は、漢帝国の南過半を、本格的に支配することとなった。

 するとその影響を受けて、長江の北岸にも変化が生じた。


広陵こうりょう郡の南部が接触してきたって?」

「はい、孫策さまとよしみを通じたいとのことです」

「う~む、しかし丞相じょうしょう閣下の方はどうなのだ?」


 曹操は魏王就任に合わせて、丞相の官職も兼任していた。

 もうなりふり構わずに、漢朝を牛耳ろうとしてる感じだ。

 そして広陵郡はそんな彼が支配する徐州に属するため、俺が指摘すると、張昭は苦笑いしながら答えた。


「表向きは引き続き、徐州として扱っていただきたいそうです」

「それは少し、虫がよすぎはしないか? 彼らは何を望む?」

「ホッホッホ、丞相閣下は北のことで忙しいですからな。いざという時に、孫策さまの庇護下に入りたいのでしょう」

「ふ~む、まあ徐州にも賊はいるだろうからな」

「お察しのとおりです」


 曹操は今、躍起になって華北を攻めている。

 そうなると当然、徐州からも兵力を引き抜いているわけで、治安状態はあまりよろしくない。

 そんな中で俺は、負け知らずで領地を増やし、とうとう呉王にまで成り上がった。


 そりゃあ、俺とよしみを通じて、守ってもらいたいと思っても、不思議じゃないだろう。

 表向きは、俺も漢朝の臣だしな。

 そんなことを考えつつ、俺は指示を出す。


「ふむ。それでは広陵郡へもすぐに兵が出せるよう、準備はしておこう。それと広陵郡と九江きゅうこう郡のどこまでが、俺の庇護を受けたいか、改めて確認してみてくれ」

「はい、そのように手配しましょう。広陵と九江の調略については、すでに動いております」

「さすがは張昭だな。よろしく頼む」


 その後、九江郡の各県に接触してみると、南部の大半が俺への恭順を示してきた。

 九江郡は俺の統治する揚州に属するが、元の支配者であった袁術が、曹操に敗北した時点で彼の勢力範囲になっていた。

 さすがに長江の沿岸は俺が押さえているが、郡都である寿春には、曹操の息が掛かった太守が陣取っており、九江郡のほとんどはそれに従っていた形だ。

 しかし今回、その南部が俺に恭順の意を示し、同様に広陵郡の南部も従う意思を見せた。


 これによって俺は、長江の北岸に数十キロ幅の勢力圏を得たことになる。

 史実でも孫呉は同様の地域を支配していたので、これは自然な成り行きとも言える。

 しかしそれはそれで、困った問題があった。


「いざ曹操と敵対した時に、どうしたもんかな?」

「そうだね。住み家を追われる民は、なるべく減らしたいからねえ」

「しかし今から、”ここは戦場になる” などと喧伝けんでんするわけにも、いきませんからなぁ」

「だよな~」


 史実でも長江北岸は戦場となり、多くの民が土地を追われている。

 それどころか曹操は、北岸の民を中原に移住させようとして、大混乱を引き起こしたのだ。

 北岸の民からすれば、中原など気候や文化の異なる、なじみのない土地である。

 それに比べれば江南の方がよほどに暮らしやすいので、その多くが孫呉に移住してきたらしい。


 この世界でもそうなる可能性は高いが、それは人口が増えて喜ばしい反面、ひどい混乱を巻き起こすであろう。

 可能であれば、それなりの時間を掛けて移住させ、混乱を回避したいところである。


「やはり協力的な県を巻きこんで、民屯みんとんを進めるべきでしょうな。そしていざというときに迅速に避難できるよう、手配をしておくのです」


 そう言ったのは魯粛だ。

 彼の言う民屯とは、民間人に土地を与えて耕作させる、屯田制とんでんせいのことだ。

 あらかじめこちらのヒモがついた人々を住まわせておけば、たしかに混乱は減るだろう。

 それに長江北岸を集団農場化すれば、効率的な土地開発もしやすいかもしれない。


「民屯を進めるったって、どう説得するんだ? 曹操と戦うから出てってくれなんて、言えやしないぞ」

「それはもちろんです。なのでまず、噂を流します。魏王さまと呉王さまの支配領域の境界には、賊が住み着きやすい、とかですね。そして孫策さまはそれを憂い、開発の進んだ江南に代替地を準備しているとも」

「う~ん、その程度で土地を明け渡してくれるかな?」

「別に全ての民を移す必要はありません。半分でも移住してくれれば、よほど混乱は避けられるでしょう」


 俺の問いに、魯粛はすました顔で答える。

 すると周瑜が、さらなる改善策を提案した。


「まあ、当面はそれで済ませておいて、並行して江南で軍屯ぐんとんを進めたらどうかな?」

「江南で軍屯をして、どうする?……ああ、いざという時に入れ替えるのか」

「そういうこと。代替地を準備しておけば、北岸の人間も移りやすいだろう? そしてその代わりに軍を入れれば、北岸の守りも固められる」

「なるほどね……北岸の人々が、どこまで応じてくれるか分からないが、そうでもするしかないな。どうしたって混乱は、避けられないだろうし」

「だろうね。民を守るのは必要だけど、それ以前に勝たないといけないからね」

「そのとおりだ」


 結局、魯粛と周瑜の合せ技で対処することになった。

 最初は徐々に北岸に民屯を増やしながら、江南で軍屯も進める。

 そしていざという時には北岸へ軍を送りこんで、民を江南へ避難させるのだ。


 いっぺんで全てを済ませるのでなく、あらかじめ協力者を送りこむことで、避難の円滑化と軍事的な隙を減らす案だ。

 事前に噂をばらまいておけば、より混乱も減らせるだろう。

 こうして俺たちは、廬江、九江、広陵の3郡の住民を少しずつ入れ替え、来たる曹操との戦いに備えるのだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


建安10年(205年)5月 荊州 南郡 襄陽


 ハロー、エブリバディ。

 孫策クンだよ。


 揚州の防衛方針が決まれば、今度は荊州だ。

 俺はまた襄陽へ来て、黄蓋、韓嵩と話をしていた。


「防衛の準備はどんなもんだ?」

「それはもう、日夜けんめいに取り組んでおりますぞ」

「はい、あまりおおっぴらにできないのは難ですが、着々と進めております」


 彼らは自信たっぷりにそう言ってのける。

 俺は益州を制したあたりから、彼らに防衛網の強化を命じていた。

 それは襄陽城、樊城の防壁を改修したり、周囲に支城を作ったりすることだ。

 さらに襄陽と樊城の間に流れる漢水に浮き橋を掛け、いざという時に連携を取れるようにも計画している。


「うむ、そうか。まあ、さすがにすぐに戦というわけでもないが、着実に頼むぞ」

「はい、それはもちろん」

「ところで、武器の開発の方はどうだ?」


 俺はここで、同席していた諸葛兄弟に話を振る。

 すると弟の諸葛均が、待ってましたとばかりに口を開く。


「はいっ、最近ようやく、改良型の強弩きょうどの開発に成功しました」

「ほう、どんなやつだ」

「これです!」


 彼はおもむろにいしゆみを取り出し、それを誇らしげに披露する。

 それは少し大ぶりな弩で、なにやら複雑なレバーが付いていた。


「おお、なかなかよくできているな。これでつるを引く力を、軽減するんだな?」

「はい、孫策さまに指示された構造について、私と兄さんで検討したんです。生産性を確保するのに、ちょっと苦労しましたけど」

「うむうむ、作りやすさは大事だからな」


 そう言いながら俺は弩のレバーを引き、弦を発射位置まで持ってくる。

 普通なら、足を引っ掛けて全身で引っ張らねばならないような、重労働だ。

 しかしテコの原理でその力を減らしているので、上体だけでもなんとか弦が引ける。


 それでいて威力は高そうで、矢を300メートルは飛ばせるとか。

 これがあれば、戦闘で大きく役に立つだろう。


 一般に弩は、通常の弓よりも威力が高く、素人でも使いやすいと言われる。

 しかしその分、構造は複雑だしメンテナンスもいるので、それなりにお金が掛かるものだ。

 加えて弓の方が、連射速度は優れているし、射程距離だって弩に劣らない場合がある。


 有名なイングランドの長弓兵なんて、弩の数倍もの連射能力を持っていたし、有効射程も長かったという。

 しかしこれは毎日きびしい訓練を、何年もしてものになるような兵種だったりする。

 それに比べれば、狙いもつけやすく、射撃前の状態で待機できる弩は、いろいろとメリットが多い。


 しかしまあ、前述のようにとにかく金が掛かるので、通常の弓と組み合わせて使うのが理想であろう。

 俺の場合、野戦に行くような精兵には弓を持たせ、砦や城には弩を蓄えておく。

 弩なら、さして訓練していない徴集兵にも使えるからな。


 さらに大規模な騎兵部隊との戦いにも、強弩は威力を発揮するだろう。

 元々、強弩ってのは、漢民族が遊牧民の騎兵に対抗するために開発したものだからな。

 それをさらに連射性と生産性を高めれば、曹操との戦いにも役立つというものである。


 こうして俺たちは、江南の防衛体制を着々と固めていた。

今回いろいろと相談してたのは、長江の北側について。

九江郡の右側の白い部分が、広陵郡になります。

廬江郡は19話の流れで制圧済みですが、九江郡と広陵郡のほとんどは曹操の勢力圏でした。

それが今回の動きで、南部が味方についたというお話。

長江沿いに九江郡の南半分と、その延長線上の広陵郡南部が勢力圏になったイメージですかね。

挿絵(By みてみん)


ただし九江郡の合肥ごうひは戦略的に重要なので、曹操にガッチリ押さえられてるという設定。

挿絵(By みてみん)


地図データの提供元は”もっと知りたい! 三国志”さま。

 https://three-kingdoms.net/

ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。

それゆけ、孫堅クン! ~ちょい悪オヤジの三国志改変譚~

今度は孫堅パパに現代人が転生して、新たな歴史を作るお話です。

― 新着の感想 ―
[良い点] 話のテンポが良いですね!一話毎の尺とか、更新頻度も丁度良いです。勿論面白いですよ!!自分がコー〇ーの三國志で孫策やる時も大体、荊・益を押えて江南の体制を整えてから曹操と決戦してます。 [気…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ