表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/76

幕間: 劉備クンはふっきれた (地図あり)

建安9年(204年)9月 りょう州 漢陽かんよう郡 ろう


「ギャ~ッハッハッハ、ほらほら、もっと飲め」

「ガハハッ、わりいな。おう、お前らも遠慮すんなよ。飲め飲め」

「は、はあ。どうも……」


 俺の名は劉備 玄徳。

 漢の皇族 中山靖王ちゅうざんせいおう 劉勝りゅうしょうの末裔だ。

 たぶん……


 つい先ごろ、孫策の野郎に益州を追い出された俺たちは、涼州へと流れてきた。

 そしてそこで韓遂かんすい馬騰ばとうという武人に出会ったんだ。

 この2人、ただの下品なおっさんかと思ってたら、実は鎮西ちんせい将軍とぜん将軍という、けっこうなお偉いさんだった。


 幸いにも俺は2人に気に入られ、その下で働かせてもらってる。

 実をいうと俺は、漢王朝を牛耳る曹操に目をつけられてるんだが、韓遂たちはそんなの気にしない。

 俺たちがそれなりに戦えると分かると、細かいことは言わずに使ってくれた。

 ありがてえことだ。


 それにしても、今日はやけに機嫌がいいが、どうしたのだろうか?


「あの~、韓遂どの? 今日は機嫌がいいみたいですけど、なんかあったんですか?」

「おお、よくぞ聞いてくれた。実はな、これが来たんだ」


 韓遂はそう言いながら、懐から手紙らしき束を取り出した。


「これは江南の孫策からの親書だ」

「なっ、孫策!」


 つい最近まで争っていた仇敵きゅうてきの名前に、思わず声を荒げてしまう。

 すると韓遂がちょっと驚いてから、合点がいった顔をする。


「ああ、そういえばあんたら、益州で孫策に負けたんだったか」

「ま、負けてなんかない! ただちょっと……居場所がなくなっただけ、です」

「ん~、そうなのか? まあいいや。それでこの孫策だがな、これがなかなか見どころがあるんだ。俺たちが体を張って、北を守ってることを理解してるんだな」

「ほう、そうなのか? ちょっと俺にも、見せてくれ」


 韓遂の言葉に、馬騰も興味を覚えたのか、孫策の親書を読みはじめた。

 するとしばらくして、馬騰が歓喜の声を上げる。


「おいおい! こいつ、分かってんじゃねえかよ!」

「ああ、そうだろ? 普通は遊牧民どもの脅威なんか、まったく分かっちゃいねえからな。それを抑えている俺たちの貢献を、孫策は認めてくれてるんだ。おまけに酒や食料だけでなく、布や南海の珍品まで送ってくれたんだぜ」

「マジかよ。そいつは豪儀ごうぎなもんだな」


 そんな話を聞かされて、俺も中身が気になった。


「あの、俺にもその親書、見せてもらえませんか?」

「おう、いいぞ。ただし汚すなよ」

「もちろんですよ」


 紙束を受け取って読みはじめると、関羽や趙雲も寄ってきた。

 彼らにも見えるように持ち直し、先を読み進めると、そこには実に調子のいい話が書かれていた。

 要約すると、


”いつも北方辺境を守ってくれて、ありがとう。今回、私は益州の混乱を治めることに成功したので、ささやかながら贈り物をさせてもらいます。これらの物品で英気を養って、今後も北方の防衛に励んでください。また珍しいモノが手に入ったら、送りますね。孫策”


 てな感じである。

 へりくだってはいるが、やけに親しげである。


「なんか親しそうですけど、前からつき合いがあったんですか?」

「ああ、2年くらい前から、たまに手紙や贈り物をくれるんだ。中央の情報なんかも教えてくれて、いろいろと助かってる。それにしても、前はせいぜい揚州だけだったのに、とうとう益州まで治めるなんてなぁ。まったく大したもんだ」

「そうそう。”江東の小覇王”だったのが、とうとう”江南の覇王”になっちまったって、もっぱらの噂だぜ」


 それを聞いて、思わず負け惜しみを言ってしまう。


「俺だって、一時は徐州で牧をやってたんですよ」

「ああん? ああ、そういえばそんなこともあったっけか。だけどよう、お前。呂布に乗っ取られてちゃダメだろう。あんな脳筋にさ」

「おお、そうだ、呂布な。でもあいつ、脳筋のようでいて、けっこうずる賢いとこあるから、仕方ねえだろう。災難だったな、劉備どん」

「あ、いえ、どうも……」

「なんだよ、顔がくれえぞ。せっかくいい酒もらったんだからよ、飲め飲め。ワハハハハハッ」

「おう、そうだそうだ。嫌な思い出なんて、忘れちまおうぜ。ギャハハハハハッ」


 その後、2人のオヤジにさんざん飲まされた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ふう、ようやく抜け出せたな」

「ああ、飲みすぎて、気持ち悪い……ウップ」

「ハッハッハ……しかしなんだな。やはり我らは、負けるべくして負けたんであるな」

「ああん? なんの話だよ? 関さん」


 ようやく韓遂たちから解放されたと思ったら、関羽がおかしなことを言いだした。


「孫策であるよ、長兄。益州を取って油断しているかと思えば、とんでもない。すでにこの涼州にまで、手を回しているとはな」

「なんだとっ、あいつがここまでやってくんのか?」

「いや、それはないであろう。おそらく韓遂どのや馬騰どのを、味方につけようとしているのではないかな」


 先走る張飛を関羽がたしなめると、趙雲もそれにうなずく。


「ああ、それは私もそう思いました。彼らを味方につけて、曹操に対抗でもするんですかね」

「いや、必ずしもそうではなかろう」

「そうじゃないって、他に何があるんだよ? 関さん」


 すると関羽は、どこか遠くを見るような目で語る。


「もちろん牽制ぐらいには考えておるかもしれんが、孫策の狙いはさらにその先であろう。おそらく今後の北の守り、ではないかな」

「北の守りって、どういうことだよ?」

「漢王朝もさんざん、遊牧民どもに苦しめられてきた。今後もそれは強まることすらあれど、なくなりはしないであろう? ゆえに孫策は、韓遂どのや馬騰どのに、敬意を表しているのではないかな」

「なんだよ、それ? 孫策はもう、曹操にすら勝ったつもりってことか?」

「いや、そういうわけでもないだろうが、ヤツは先を見据えているということだ。我らより1歩も2歩も先をな」


 そう言われて、正直くやしかった。

 俺なんか、足元にも及ばないんだと、言われてるようで。


「くっそ。だから俺はダメだってのか? 俺が考えなしだから!」

「そうではない、長兄よ。孫策は多くの武将を従え、さらに優秀な参謀もついているのであろう? それに対抗するなら、それなりの陣営を作る必要があるのだ。仮にそれができないなら、いさぎよく諦めるのも、手だとは思うがな」

「なんだよ。結局そうなるのかよ、くそっ…………だけどまあ、そうかもしれねえな。ここは下手に焦らず、機会を待つのも手か」

「うむ、そうだな」

「でも、あにい。そんなことしてたら、俺たちそのうち死んじまうぜ」

「そん時はそん時よ。それが天命ってもんだろ?」

「ずいぶんと悟っちまったなぁ、あにい」

「しゃあねえだろうが」


 まあ、そのうち、なるようになんだろう。

劉備一行が流れ着いたのは、涼州(左上の茶色部分)の漢陽郡、ろう県。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

ちなみに涼州の人口は、この広さでたったの40万人という超過疎地。

曹操のいる冀州の約6百万人と比べると、その差は歴然です。

そんな辺境へ流れ着いて、ちょっと悟っちゃった感じでしょうか。


最初、舞台を金城郡にしてたんですが、漢陽郡へ修正しました。

よく考えたら、金城郡と隴西郡には宗建そうけんという群雄が、王を自称して居座ってたんですね。

そこで州都である漢陽郡の隴に、韓遂たちが常駐しているという形を取りました。

また、涼州の西部は194年に雍州として分割されていたようですが、話の本筋には絡まないのでこのままとさせてもらいます。


地図データの提供元は、”もっと知りたい! 三国志”さま。

 https://three-kingdoms.net/

ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。

それゆけ、孫堅クン! ~ちょい悪オヤジの三国志改変譚~

今度は孫堅パパに現代人が転生して、新たな歴史を作るお話です。

― 新着の感想 ―
[良い点] その涼州40万人って、なんかイメージとして住民の大半が中華の民として戸籍が無いだけなんじゃ……って気がしちゃいますね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ