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45.孫策、呉王になる

建安9年(204年)9月 揚州 丹陽郡 建業


 呉王の位を要求すると決めてから3ヶ月後。

 俺たちは新たな国造りに忙しくしていたのだが、そんなところへ漢王朝の使者がやってきた。


「天子さま、ならびに司空閣下は、孫策どのを呉王ごおうほうずる用意があるとのおおせである。ただしそれに際して、朝廷への二心なきことを示すため、弟の1人を出仕させるように」

「そ、それは……つつしんでお受けいたします」


 なんとそれは、俺を呉王にするとの連絡だった。

 弟を人質に出せとは言ってるが、よくもまあそんなことを、曹操が認めたものだ。

 しかしそれは使者の次の言葉で合点がいった。


「なお、それに先立って、司空閣下は丞相に昇進し、さらに魏王ぎおうに封ぜられる。以後、丞相閣下と手をたずさえ、漢王朝を支えるようにとの、天子さまのお言葉である」

「はは~、天子さまの御心みこころのままに」


 なんのことはない。

 曹操も魏王に就任するので、ついでにお前も王にしてやるということだった。

 あくまで一番は曹操で、俺はその下ってことだな。


 それにしたって、曹操が王位に就くことにも、抵抗は大きいだろう。

 史実でもたしか、曹操が魏公になろうとしただけで、腹心の荀彧じゅんいくと不仲になったはずだ。

 そんな意見を押し殺して魏王に就任すれば、相当な反発があるだろうに。

 これはつまり曹操は、かなりせっぱ詰まっているってことじゃないのかね?


 俺は使者の相手をしながら、そんなことを考えていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その日の晩、重臣を集めて、意見を聞いた。


「皆も知ってのとおり、俺の呉王就任が決まりそうだ」

「ああ、しかも曹操が魏王だなんて、あっちもなりふり構わなくなってきたね」

「しかし孫策さま! 弟ぎみを人質に差し出せとは、あまりに横暴ではありませんか!」


 俺と周瑜が他人事のように話していると、張昭が憤慨の声を上げた。

 諸葛瑾しょかつきん秦松しんしょうも難しい顔をしているので、同じ意見だろう。

 そんな彼らを落ちつかせようと、俺は張昭に話しかける。


「落ち着けって、張昭。その件については、ちゃんと対策を考えてあるんだ。なあ、魯粛」

「はい。今回、人質になっていただくのは孫翊そんよくさまですが、こんなこともあろうかと、影武者を用意してあります。許都へはその者を向かわせますので、人質にはなりませぬ」


 そんなことを、魯粛が平然と言う。

 そう、スパイマスター魯粛は、俺たち孫兄弟の影武者すら育成していたのだ。

 ちゃんと俺の影武者もいるんだぜ。


 もっともそれほど完璧な影武者とはいいがたく、顔と体格が似た者に教育を施した程度だ。

 しかし写真もテレビもないこの世界では、よほどのことがない限りばれっこない。

 特に孫翊なんて、大して顔も知られてないからな。

 それを聞いた張昭は驚きながらも、気になったことを問いただす。


「影武者だと? しかしいざという時、その者はどうするのだ? 我らが領民であろう」

「密偵としての訓練を受けておりますので、自力で脱出してくることでしょう。万一、殺されるとしても、それは覚悟のうえです」

「むう、そういうことか……しかしその間、孫翊さまはどうされるのだ?」

「しばらく名前を変えて、益州にでも行ってもらいます」

「ふうむ……それなら問題はなさそうだな」


 たとえ密偵でも良い気はしないものの、単純に人質を出すのではないことに、張昭は安堵していた。

 すると諸葛瑾が、自分たちの対応について訊ねる。


「それでは我らは、人質を取られることを、悔しく思うふりでもしておればよいのですかな?」

「ん~、どうだろうな。別に逆らわなければ、孫翊にとっては出世みたいなもんだ。素直に喜んでいてもいいんじゃねえか?」

「なるほど、それもそうですね。そちらの方が、無理がなさそうです」

「うむ、孫策さまは呉王になり、弟ぎみも出世なされる。良いことばかりですな」


 諸葛瑾に続き、秦松まで悪い顔で応じる。


「まあ、そうだな。それと影武者を出したら、張紘には帰ってきてもらおうか。もう何年も行ったままだから、言い訳も立つだろう」

「そうだね。あとは孫賁そんほんの娘か」

「ああ、そっちにも常に密偵を貼りつけてある。よほど運が悪くなければ、どうにかなるだろう」


 数年前に曹操と関係を深めるため、孫賁の娘が曹操の息子に嫁いでいた。

 一度、嫁にやったからには、孫賁もそれなりに覚悟はしていると思う。

 しかしできれば取り戻せるよう、手配だけはしてあった。


「なるほど。いろいろと手配りはしていらっしゃるのですな。さすがは孫策さまです」


 そう言ったのは、新顔の法正だ。

 彼ははかりごとに向いてるので、今後も謀議には出席してもらう。

 すると最大の謀臣が、楽しそうに言う。


「フフフ、孫策はこう見えて、意外に考えてるだろ? ただの猪武者に見えるかもしれないけど」

「こら、周瑜」

「フフフ、とんでもない。荊州にしろ益州にしろ、短期間で攻略した手腕は、お見事という他ありません。私もそれをお手伝いさせていただければと、考えております」

「ああ、頼むぞ、法正。ちなみにうちで一番、腹黒いのは周瑜だからな」

「とんでもない。孫策には負けるさ」

「抜かせ」


 そんなたわいないやり取りを、周囲の人間は生ぬるい目で見ていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


建安9年(204年)11月 揚州 丹陽郡 建業


 ハロー、エブリバディ。

 孫策クンだよ。


 あれから2ヶ月ほどのやり取りで、俺の呉王就任が正式に決まった。

 今は孫翊の影武者を許都へ送り、曹操の魏王就任を待つばかりだ。

 あくまで俺は曹操よりも下じゃなきゃいけないから、後回しにされてるわけだな。

 たぶん俺の呉王就任は、来年の2月くらいだろうか。


 ちなみに孫翊(偽)と入れ替わりで、張紘が帰ってきた。

 長い間、許都に詰めっぱなしだった彼は、久しぶりに帰還できて嬉しそうだった。

 俺がハグで出迎えてやったら、ちょっと驚いてたけどな。


 しかし彼はこの5年間、実に良い仕事をしてくれた。

 俺の爵位と将軍職を、何度も勝ち取ってくれたのだ。

 そして最後は、俺の呉王就任だ。


 やはり相当な抵抗があったのだが、張紘も強い態度で迫ったらしい。

 ”これほど漢朝に貢献した者を、正しく評価せねば、かなえ軽重けいちょうが問われますぞ” とか。

 ”多くの領民が孫策さまを慕っており、これを罰したりすれば、反乱も起こりかねませんな” とか言って脅したんだそうな。


 その結果、もうちょっとで曹操に斬られそうになったらしいけど、すげえな、ほんと。

 なんにしろ、ご苦労さま、張紘。


 そして張紘と一緒に、江東へ来た人間もいる。


「はじめまして、孫策さま。華佗かだ 元化げんかと申します」

「おお、貴殿があの有名な華佗どのか。歓迎するぞ」

「ありがとうございます。しかし、本当なのでしょうか? 私を士大夫したいふとして雇っていただけるとは」

「もちろんだ。たまに治療をお願いすることもあるだろうが、貴殿には江南の人々を治療する仕組みを作って欲しいのだ。期待しているぞ」

「くうっ……感謝いたします。この華佗、必ずや孫策さまのお役に立ちましょうぞ」


 そう言って涙ぐんでいるのは、後漢末期の名医 華佗である。

 彼は曹操に雇われて、偏頭痛の治療などをしてたんだが、ただの医者としてしか扱われないことに不満を覚え、田舎に帰ってしまう。

 しかし史実では、言い訳にしてた嫁さんの病気が嘘だとバレて、連れ戻されて獄死するという不幸な御仁なのだ。


 それではあまりにもったいないってんで、張紘にスカウトしてきてもらった。

 長年、許都に詰めていた張紘と華佗には、面識があったからな。

 今後、華佗にはこの建業で、士大夫として研究や弟子の育成に励んでもらう予定だ。


 ちなみに士大夫とは、中央官僚や地主などを含む支配階級のことである。

 華佗も名士として、認められたかったってことだな。

 これで江南の人々の命が、少しでも助かるようになるのなら、安いもんだ。

 ついでにトイレなんかの衛生事情も改善してもらおう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 そして205年初頭、俺は呉王になった。

以上で第2章のストーリーは終了です。

さらに曹操と劉備の状況を幕間として投稿し、3章へと移行します。

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新作始めました。

それゆけ、孫堅クン! ~ちょい悪オヤジの三国志改変譚~

今度は孫堅パパに現代人が転生して、新たな歴史を作るお話です。

― 新着の感想 ―
[良い点] 史実で婚姻同盟した孫匡かと思ったら影武者だった。 [気になる点] 各勢力で不義理を働き放浪している劉備はどこにむかうんだろうかと。異民族もワンチャン
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