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44.江東への帰還

建安9年(204年)6月初旬 荊州 南郡 襄陽


 益州での仕事がようやくひと段落ついたので、俺は襄陽へ来ていた。

 そして襄陽を任せていた韓嵩と孫静に会い、話をする。


「さすがは孫策さまですな。ほんの1年足らずで、益州を制圧してしまうとは」

「フォッフォッ、まことに見事な手際でしたな」

「今回は運がよかったからな。みんなもよく働いてくれた」

「ええ、南部で反乱が起きた時は、どうなることかと思いましたが」

「ああ、朱治たちが、がんばってくれたらしいな」


 この頃になると、南部4郡で起きた反乱も、すっかり鎮圧されていた。

 元々、大した勢力ではなかったうえに、朱治、韓当、孫賁、孫輔がいい仕事をしてくれた。

 おかげで全体への影響はさほどでもなく、ホッと胸をなでおろしているところだ。


「こちらでも、諸葛兄弟がよい働きをしておりました」

「ああ、おかげで俺たちも物資に困ることがなかった。彼らを兵站担当にした甲斐があったというものだ。それに韓嵩も叔父上も、ご苦労だったな」

「もったいないお言葉」

「なに、大したことはしておりませぬ」


 基本的に兵糧は荊州から持ちこんだのだが、やはり諸葛兄弟がいい仕事をしてくれたらしい。

 そして襄陽を遺漏いろうなく統治してくれた、韓嵩と孫静にも感謝だ。


「そういえば、馬良や馬謖も戦場に出たようですな。彼らには文官として、成長してもらいたいと思っていたのですが」

「まあ、本人たちが望んだことだからな。しかし馬謖はヘマをしたから、ちょっと落ちこんでいる。韓嵩も気に留めておいてくれ」

「かしこまりました。ところで、わざわざここに寄られたのは、例のことでしょうか?」


 軽い世間話の後、韓嵩が本題に踏みこんでくる。


「うむ、軽く今後の話をしておきたいのと、よい人材がいないかと思ってな。この間、頼んでおいたことは調べてくれたか?」

「はい、貨幣経済に詳しい者については調べてあります。今度はそちらに手を付けるのですな。なにしろ益州は、銅の産地ですから」

「ああ、そのとおりだ」


 今回手に入れた益州は、銅の産地として有名だ。

 それはつまり、銅銭を作りやすくなるということである。

 そして俺の領地では今、銭不足が発生していた。


 インフラの開発と商業の発展を促進してるから、景気はいいのだが、銭が足りなくなってきたのだ。

 そこで韓嵩に手紙を送り、貨幣経済に詳しい者がいないか、調べてもらっていた。

 その結果について聞いていると、やがてお目当ての人物の名が挙がる。


「この劉巴りゅうはというのは?」

「はい、彼はまだ若いですが、都で貨幣の鋳造にも関わったことがあるとのことですな」

「おお、それはいいな。ぜひ一度、会わせてくれ」

「かしこまりました。手配しておきます」

「うむ、頼む」


 劉巴といえば、劉備が蜀を乗っ取った後、その財政を建て直したと言われる男だ。

 幸いにも荊州にいるはずなので、今回さがしてみたら、すでに仕官していたって寸法だ。

 せっかくなので、俺の仕事を手伝ってもらおうじゃないか。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その3日後に、劉巴に会うことができた。

 彼は30歳ほどの見た目で、あまり目立たない男である。


「はじめまして、孫将軍。劉巴りゅうは 子初ししょと申します」

「うむ、急に呼び出して悪かったな」

「いえいえ、将軍が貨幣経済にご興味をお持ちとのことですので、急いで参りました。何か、私がお役に立てることがありましょうか?」

「ああ、それだがな――」


 俺はしばし、揚州、荊州で起こっている事態について語った。

 さすがに劉巴はその道の専門家らしく、適切な質問をしながら聞いている。

 やがて俺は本題を持ち出した。


「それでな、劉巴。その方にはこれから建業へ同行して、貨幣政策について案をまとめ、推進して欲しいのだ。もちろん他にも何人かは参加する。この法正にも、一緒にやってもらう予定だ」


 そう言って俺は法正を紹介した。

 彼もこれから建業で働いてもらうため、同行していたのだ。


「法正 考直と申します。今後ともよしなに」

「こちらこそ、よろしくお願いいたす」


 こうして俺はまた1人、有望な人材を確保し、ようやく建業へ向かった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


建安9年(204年)6月下旬 揚州 丹陽郡 建業


 ハロー、エブリバディ。

 孫策クンだよ。


 ほぼ1年ぶりに建業へ帰還すると、俺はさっそく重臣を集めて会議を開いた。


「おめでとうございます、孫策さま」

「「「おめでとうございまする」」」


 すると冒頭に張昭から祝いの言葉が上がり、臣下が一斉にそれに続く。


「うむ、ありがとう。これもみなの働きがあってのことだ。おって恩賞については沙汰さたをするので、楽しみにしているように」

「ホッホッホ、それは楽しみですな。ところで今回の件、朝廷にはどのように対処するおつもりでしょうか?」

「ああ、それなのだがな、こちらは漢朝のために動いたのだから、新たな官位をたまわるよう、上奏しようと考えている」

「フハハ、今回の出兵を漢朝のためとは、ずいぶんとたくましくなられましたな」


 百戦錬磨の政治家である張昭も、俺の言葉に苦笑する。


「そうでもないさ。実際に劉璋は朝廷に呼び出しを受けていたし、曹操にそれを強制する余裕はなかったんだ」

「まあ、ものは言いようですな。それで、どのような官位を望まれるので?」

「うむ、呉王だ」

「「「は?」」」


 すかさず張昭の問いに答えれば、臣下一同があっけに取られてしまう。

 しかしすぐに立ち直った張昭が、慌てて問いただす。


「そそそ、孫策さま。今、呉王と言われましたか?」

「ああ、そうだ」

「そうだって、王になどなれるはずがないではありませんか!」

「そうか? たしかに今までの慣例では劉姓に限られていたが、こんな時代だ。例外が認められてもいいだろう?」


 すると今度は秦松しんしょうが、血相を変えて俺をたしなめる。


「何をのんきなことを言っておられるのです! そのようなこと、叛意はんいを疑われても言い訳ができませんぞ」

「もしも叛意を疑うものがいるとすれば、それは漢王朝ではなく曹操だ。ならば俺は、堂々とその挑戦を受けて立とうではないか」

「孫策さま! 何を言っているか、分かっておられるのですか?!」


 多くの者が、顔面を蒼白にしてうろたえはじめた。

 するとそんな中、居残り組の徐庶が、納得の声を上げた。


「なるほど。敵はあくまで曹操であって、漢王朝ではないということですな?」

「ああ、そういうことだ」

「そして我らは、君側くんそくかん 曹操を取り除くため、事実上の独立を果たす。そんな流れでしょうか?」

「フハハ、まあそんなところだ。万が一にも呉王を認めてくれれば、それでよし。そうでなくとも、やはり呉王を名乗るつもりだ。しかしそれが、ただちに漢王朝と決別することにはならない」

「し、しかしだからといって……」


 いまだに文官系の家臣は、納得がいっていない雰囲気だ。

 もう4年も前に、俺が天下を取ると言ってあるのに、現実にそれを突きつけられると、いまだに戸惑う者は多い。

 そんな配下の心情にも配慮して、俺はあくまで漢王朝に従うふりをする。

 こういうことには、時間が掛かるものだからだ。


 逆に武官どもは割り切ったもので、まったく違うノリを見せた。


「うむうむ、いよいよ孫策さまも呉王になられるか。めでたいのう」

「フハハッ、それでこそ江東の小覇王よ。いや、これからは江南の覇王か?」

「いや~、すごいっすね~。がんばってついてきた甲斐があるっす~」

「ううっ、生きてて良かった」


 そんな声を聞いているうちに、張昭たちも落ちついたのだろう。

 やがて諦めたように、今後の方針を口にする。


「ふ~~~……まったく、敵いませんな。しかし臣下に報いるという点では、呉王になるのはよい選択かもしれませぬ。なるべく朝廷とは対立しないよう、上奏いたしますか?」

「ああ、その方向で張紘と連絡を取ってくれ。今後も皆には苦労を掛けるが、よろしく頼むぞ」

「お任せあれ」

「ずっとついていくっす」

「「「うお~っ、孫策さま~っ!」」」


 こうして俺は、呉王を目指す方針を示した。

 それに対して曹操は、どのように出てくるのか?

 いずれにしろ俺は、その先を目指して走り続けてやろうじゃないか。

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それゆけ、孫堅クン! ~ちょい悪オヤジの三国志改変譚~

今度は孫堅パパに現代人が転生して、新たな歴史を作るお話です。

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