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28.孫策、また出世する

建安6年(201年)1月 揚州 丹陽郡 建業けんぎょう


 ハッピーニューイヤー、エブリバディ。

 孫策クンだよ。


 無事に秣陵ばつりょうを建業と改名し、俺の本拠とすることができた。

 これについてはちゃんと朝廷に上奏して、許可も得ているんだぜ。

 それに合わせて、曹操からも俺の昇進について連絡がきた。

 なんと俺を荊州牧けいしゅうぼくに任命し、安南あんなん将軍へ昇進させてくれるそうだ。

 やったね、策ちゃん、大出世だ!


 安南将軍とは文字どおり、南を安定させる立場であり、南の方面司令官みたいな位置づけである。

 今までの4品の雑号将軍から3品の将軍となり、着実な昇進を遂げたことになる。

 現代の軍隊でいうと、少将から中将へ昇進した感じかな。

 今さら漢王朝の将軍職に、どれだけの価値があるかってのは微妙だが、権威が増すことは喜ばしい。


 それよりも嬉しいのは、俺を荊州牧にしてくれたことだ。

 これによって俺は軍事力のみならず、正式な権威に基いて、荊州を治めることが可能になったのだ。

 おかげで反乱勢力の鎮圧が、ずいぶんと楽になった。

 まあ、いまだに俺のことを、下賤な田舎者と馬鹿にするヤツはいるが、それは仕方ない。

 どこにも時勢の見えないヤツはいるもんだからな。


 それにしても、曹操が俺を荊州牧にしてくれるとは、ちょっと意外だった。

 絶対に誰か子飼いの部下を、派遣してくると思っていたからな。

 しかしこれも、考えてみれば当然のことかもしれない。


 なにしろ曹操は、”官渡かんとの戦い”で袁紹に勝ったとはいえ、まだ袁家を滅ぼしたわけじゃない。

 いまだ袁紹は健在だし、その支配領域は州、へい州、せい州、ゆう州と、4州も残っているのだ。

 結果的に袁家は盛り返すことなく、曹操に呑みこまれるわけだが、それにはまだ何年も掛かる。


 つまり、南方で俺がブイブイいわしていても、曹操にはそれをとがめる余裕なんてないのだ。

 俺がおとなしくしていてくれるなら、官職の大盤振る舞いをしても、なんの不思議もない。

 その辺の心理を、許都に駐留する張紘ちょうこうが、うまく突いてくれたのだろう。


 その結果、荊州牧と安南将軍の地位が、手に入ったって寸法だ。

 俺も献帝には、南方の産物とか貢いでたしね。

 おそらく献帝の口添えとかもあって、今回の結果になったんじゃないかな。


 なんにしろ、張紘、グッジョブ。

 戻ってきたらハグしてあげよう。

 え、そんなの嬉しくないだろうって?

 まあ、それはそうかもな、ハハハ。



 さて、建業を本拠地にするに当たって、襄陽じょうようとの通信体制の確立が急務となっている。

 せっかく荊州牧になったのに、そこを統治できないなんて、大問題だからな。

 本来ならば襄陽に常駐して、荊州の統治に専念してもいいぐらいだ。


 しかしやっぱり俺は江東の人間だし、建業は丹陽、呉、廬江、九江の4郡を束ねるのに都合がいい。

 この4郡だけで2百万人を超える人口を擁するし、何より海が近いのがいい。

 おかげで交州を介して、東南アジアやインドとの貿易もしやすいからな。


 その交州だが、着々と経済的な侵攻を進めている。

 手法としては、まず水軍を送りだして、海賊狩りをさせる。

 ”俺たちも商売したいから、パトロールに協力するよ~。一緒に海賊を取り締まろうね~”

 てな感じで、呼びかけながら。


 そのうえで交州を治めてる士燮ししょうに話を通し、交州の東端である南海郡に、水軍の拠点を置かせてもらった。

 あとは俺たちの息が掛かった呉、会稽の商人がそこへ進出し、南海の商人と直接取り引きができるよう持っていく。

 今までは士燮一族が独占していた商売に、食いこむのだ。


 そしてその後ろ盾は、俺の水軍になる。

 さすがに千人規模の水軍がバックに付いていれば、士燮一族も文句は言いにくい。

 おかげで揚州の商人は、今までよりも南海の産物を、安く買えるようになるって寸法である。


 今のところ大商人だけだが、いずれは中小の商人にも組合を作らせて、共同で船を出させようと思ってる。

 これによって、ますます揚州の商業は活発になるだろう。

 そして金のあるところには、人も集まる。


 それは回り回って、揚州の軍備強化にもつながるだろう。

 いずれ来る曹操との激突に際して、大きな力となるのだ。

 そのために当面は、建業を中心とした開発に集中するつもりだ。



 じゃあ、荊州は放っておくのかといえば、そんなことはない。

 荊州全体には6百万人を超える人口があり、膨大なポテンシャルを秘めているからだ。

 しかしあいにくなことに、その4割近い人口は、俺が押さえていない南陽なんよう郡に住んでいたりする。


 なにしろ南陽郡は中原に接している、というか中原の一部みたいなもので、全体を守るのは難しい。

 そのため俺に恭順する太守から税金を取ってはいるが、その他は放置状態なのだ。

 あくまで俺は襄陽を防衛拠点とし、曹操の侵攻に備えるつもりだからだ。


 とはいえ、襄陽以南の荊州にだって、合計で4百万人近い人口がある。

 揚州は4百万人を超えるので、合わせて8百万人もの大人口を、俺は統治するのだ。

 しかも中原からは、継続的に難民が流れこんできているから、その数は増えるばかり。


 幸いにも江南は水資源が豊かで、水稲すいとう栽培がやりやすい。

 これは面積当たりの人口扶養ふよう力が高いということに他ならず、食糧危機にも強い土地柄である。

 ただし、その代わりに長江流域は洪水が起きやすい。


 そこら中に河が流れてるんだから、当たり前の話だ。

 つまり長江流域を発展させるには、治水と水運の推進が重要ってことだな。

 自然の力を完全に抑えることは無理でも、堤防や運河、港を整備すれば、多少は暮らしやすくなる。


 俺はそんなことを軍師・文官たちと話し合って、揚州・荊州の開発を進めることにした。

 揚州では主に張昭が、荊州では韓嵩が中心になり、それぞれ開発に取り組んでくれている。

 おかげで俺は、建業で仕事に励むことができるってわけだな。


 もちろん荊州を放置しないため、襄陽と建業の通信手段は整えた。

 それにはまず、主要な水路と陸路に駅を設置し、情報をリレーするものがある。

 これによって手紙を送ることができるが、いかんせん時間が掛かる。

 最短でも数日掛かるし、水路は天候によっては使えなくなる。


 これを補うため、建業ー襄陽間に、狼煙のろし台を設置している。

 これも天候の影響と無縁ではないが、うまくすれば数時間で連絡が可能だ。

 まあ、敵が攻めてきたとか、誰かが死んだとか、限られた情報しか送れないけどな。


 そこで俺は、伝書バトによる連絡網も検討している。

 これはカワラバトなどの帰巣本能を利用したもので、概念自体はすでに伝わっていた。

 なにしろ西欧では、紀元前から使われてた通信手段だからな。


 こっちでもしばらく研究すれば、使い物になるだろう。

 そしたらわりと複雑な内容も、1日ぐらいで連絡できるようになるかもしれない。

 担当者にはがんばってもらいたいものである。



 ところで俺は、形式上とはいえ漢王朝に従っているので、ちゃ~んと上納金を払っている。

 これは職貢しょくこうといって、各郡の太守が漢の中央朝廷に納めるお金である。

 もちろん、バリッバリに下方修正しているが、ちゃんと納めているのだ。

 洪水が起きたとか、山賊の討伐にお金が掛かったとか、減らす言い訳はいろいろあるからな。


 しかしそうは言っても、荊州と揚州の大部分からの上納金である。

 張紘の話では、戦争ばかりしてる曹操が納める額に、迫る勢いらしい。

 やったね、策ちゃん、高額納税者だ!


 ちなみにすでに亡き劉表は、曹操が献帝を許都に迎えた時点で、職貢を停止していた。

 ”首都から逃げた皇帝なんて認めねえぜ、これからは俺の時代だ” みたいな感覚だったんだろうな。

 俺はそんな劉表を倒して、職貢を復活させた忠臣として、献帝の覚えも悪くないんだとか。

 うむうむ、実際にそんなつもりはないが、せいぜい感謝しておくれ。

 そのうち、また出世させてくれると、嬉しいな。

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それゆけ、孫堅クン! ~ちょい悪オヤジの三国志改変譚~

今度は孫堅パパに現代人が転生して、新たな歴史を作るお話です。

― 新着の感想 ―
[一言] 着実に地盤を固め成長をしていく様は読んでいて気持ちがイイZOI! 死亡フラグも叩きおったし勝ったな、ガハハ
[良い点] 大学生向けの世界史資料で古代でも米は麦に比べて3倍程の収穫量があると読んだ覚えかあります。古代の麦は塩害との戦いですから実際はもっと開きもあったかも
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