19.孫策、美人嫁をゲットする
建安4年(199年) 6月 丹陽郡 秣稜
袁術が死んで数日後、残党の消息について情報が入ってきた。
「やっぱり劉勲に取られてたか」
「はい、我々も手を伸ばしたのですが、一歩およばず」
「まあ、それは予想どおりだ。こっちも遠慮なく攻めてやろうぜ」
「そうですね。それでは呉景どの。劉勲へのつなぎをお願いできますか?」
「うむ、任せておけ」
魯粛の要請に、呉景が鷹揚にうなずく。
呉景は袁術の傘下で長く働いていたため、交友関係も広い。
今回、劉勲をターゲットに定めた時点で、呉景を通じて連絡を取ろうという話になっていた。
その後、2週間ほどで劉勲への渡りがつくと、俺は彼と親書を交わす関係になっていた。
「劉勲の反応はどうだい? 孫策」
「ああ、上々だ。こっちの贈り物が、よほどありがたかったらしい」
劉勲と結ぶに当たって、こちらからは兵糧を供与していた。
何しろ奴は、短期間に数千人の袁術残党を取りこんだのだ。
それならさぞ兵糧の確保に苦労しているだろうと思ったら、案の定だった。
こちらが低姿勢でのぞんだのもあって、劉勲は簡単に俺のことを信用してくれた。
元々、袁術の傘下同士だったってのも、大きいだろう。
俺の方から袁術とは縁切りしていたが、その原因が消えたのだから、一緒にやっていけると思ったのではなかろうか。
そうやって信頼を勝ち取ったうえで、さらに策略を仕掛けた。
”近頃、豫章郡の上繚に、1万戸以上にもなる一族が住み着きました。叶うならば、この一族を共に攻めて、傘下に収めませんか?”
という内容の手紙を送ったのだ。
ちなみにこの策の発案者は、周瑜である。
俺が前世知識で誘導するまでもなく、提案してきやがった。
顔に似合わず、腹黒い男である。
そして劉勲の野郎は、見事にこのエサに食いついた。
奴は麾下の主力部隊を率いて、意気揚々と上繚へ進発したのだ。
その報を受け取った俺たちは、2万の兵で劉勲の拠点である皖城を急襲。
主力を欠いた敵の抵抗は弱く、短期間で城を陥落せしめたのである。
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建安4年(199年)8月 廬江郡 皖城
落とした皖城には、袁術が抱えていた様々な技術者や、音楽隊などが避難していた。
さらには袁術の妻子もその中に含まれていて、俺は彼らを呉郡で丁重に保護することとなる。
なんだかんだいって恩人の家族だし、やはり袁家の名前はでかいのだ。
これによって袁術の元配下たちも、続々と帰順して、俺は大きく力を増したのである。
そして皖城といえば、忘れてはならないイベントがある。
「はじめまして。俺の名は孫策 伯符。世に名高い2橋に会えて光栄だ」
「まあ、こちらこそ光栄ですわ。孫将軍」
そう、この城には世にも名高い絶世の美女姉妹、2橋がいたのだ。
彼女たちは橋玄という名士の娘で、近隣にその名を轟かせていた。
実際に彼女たちは、噂にたがわぬ美女である。
するとそれを見た俺の中のソンサクが、いきなり暴走した。
「急な話でぶしつけだが、俺の求婚を受けてもらえないだろうか? 願わくば、あなたと生涯を添い遂げたい」
「まあ……」
ソンサクはいきなり大橋に突撃し、彼女は驚きながらも頬を染める。
やがて彼女は腰をかがめると、意を決したように俺の手を取った。
「ふつつかものですが、よろしくお願いいたします」
「おおっ、受けてくれるか。これは嬉しい」
しかしそれで収まらないのが小橋だ。
「もうっ、お姉さまだけ、ずるいですわ」
大喬によく似た美女が、不満げに頬をふくらませる。
すまん、俺の中身が暴走したんや~。
だけど俺は、この解決方法を知っている。
「むむ、しかし小橋どのにもふさわしい御仁が……」
そう言ってチラリと周瑜を見やれば、彼は涼しい顔で進み出る。
「そのお役目には、私が立候補しましょう。小橋どの、周瑜 公瑾と申します。私と孫策は兄弟同然の間柄。あなたと添い遂げる栄誉を、この私にお与えください」
「まあ、周瑜さまが……」
超絶イケメンの周瑜が、お願いしますのポーズを取れば、小橋はわずかに戸惑った後、すばやくその手を取った。
「とても嬉しく思いますわ。姉ともども、よろしくお願いいたします」
「「「おおっ」」」
天下の”2橋”が立て続けに縁談を成立させたのだ。
周りの者たちも大いに沸き立った。
「いや~、めでたいですな。若。これで孫家の未来も安泰じゃ」
「フォッフォッフォ、一番喜びそうなのは、張紘と張昭であろう。さっそく知らせてやらねばな」
「おめでとうっす、兄貴。メチャクチャ、うらやましいっす」
こんな感じで、配下たちが声を掛けてくる。
幸いにも城の占領はつつがなく終わりつつあったので、俺と周瑜は遠慮なく、新たな嫁とイチャイチャさせてもらった。
ちなみに、俺に今まで女がいなかったかというと、実はいる。
元服して間もなくねんごろになった女性がいて、すでに子供も産まれていたりするのだ。
しかし、俺は孫堅の跡取りとして身を立てるつもりだったので、正式な結婚はしていなかった。
もちろんちゃんと情はあるので、今後は側室として、取り立てることになるだろう。
ちなみに劉勲の方だが、本拠を乗っ取られたことを知り、引き返してきたところを、孫賁・孫輔軍団に待ち伏せされ、散々に打ち負かされた。
哀れ劉勲は戻る場所を失い、荊州の西塞山へと逃げこんだ。
今は劉表に援軍を請い、再起を図っているんだとか。
どの道、荊州には攻めこむつもりだったので、ちょうどいい。
まとめてひねりつぶしてやろうじゃないか。
ところで後日、孫賁に大橋のことを自慢してやったら、殴られそうになった。
”俺が戦ってる時に、てめえはっ!”と言って、殴りかかってきたのだ。
あいつ、マジでカルシウム足りてねえな。
まあ、自分が必死で働いてる間に、美人嫁をもらったと聞けば、怒るのも仕方ないかもしれないが。
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建安4年(199年)9月 廬江郡 皖城
ハロー、エブリバディ。
孫策クンだよ。
”劉勲なんかの袁術残党を排除したよ~”って、曹操に報告したら、討逆将軍と呉侯に任じられた。
やったね、策ちゃん、また出世だ。
張紘を使者にして、大げさにアピールした甲斐があるってもんだね。
さらに曹操は孫賁の娘と曹彰(曹操の息子)を,そして曹操の弟の娘と孫匡(孫策の弟)を結婚させないかと、提案してきた。
よほど俺を味方につけておきたいらしい。
俺にとってはメリットが大きいので、これは受ける方向だ。
しかし敵もさるもの。
曹操の野郎、張紘を引き止めて、いろいろと勧誘してるらしい。
あの人材コレクターめ。
まあ、張紘は忠誠心が高いので、なびくことはないと思うけどね。
ないよな?
それはそうと曹操の野郎、俺のことを、”狂犬が相手では、ケンカにならんわ”とか愚痴ってるらしい。
俺が狂犬?
失敬な。
大方、せいぜい袁術の気をそらせればよい、ぐらいに思ってたのが、予想以上に躍進してるのが、不安なんだろう。
まあ、彼はこれから、袁紹との決戦が待ってるからねぇ。
その間に俺は、さらに地歩を固めておかないとな。