追憶①
「遠いとおーい昔に俺は小さな農村で生まれた。
農村といっても荒廃した大地、荒廃した世界で食べるものもロクにない、
世界にはどこもかしこも魔物で溢れ続けてたな。
この世界とは、まあどこもかしこも違う。
近くの森には普通に魔族が歩いているし、こっちの世界では高位の存在の不死者とかでさえ普通にうろついてる世界だ。
父さんと母さんはそんな世界で俺を産んでしまったことをすごく後悔していたっけな。
常に俺の事を考えてくれて、わずかなご飯を俺と姉さんに最優先で与えてくれた。
強くなければ生き残れないあの世界で、俺と姉さんは必死に魔法を学び、魔物を狩り自分たちの身を守るしかない。
俺の世界には神様っていう存在がしっかりと目に見える形で存在していて、戦う術のない者はみな神様に信仰を捧げていた。
神はその信仰の力で、俺達人間を魔物から守ってくれていた。
しかし、神も万能ではなくすべての人間を救うことは出来ない。
多少なりとも魔物に襲われ食われ嬲られる、そんな人間は一定数存在していた。
そんな犠牲者は神への信仰心が足りないと人間からもバカにされ、死者には最低限の尊厳さえも無い世界だ。
……俺の両親もそんな犠牲者の一人だ。
ある時俺と姉さんは魔物の大群が俺たちの村を襲ってくるという情報を掴んだ。
村には戦える人なんてロクにいない、老人と子供だらけの村だ。
当然魔法を使いこなせるレベルだった俺と姉さんは討伐隊に名乗りでて、迎撃しやすいポイントで魔物を待機していた。
ついでに戦闘もできないのに俺についてきた、幼馴染のシルフィも隣にいた。
シルフィって名前に驚いただろ…? 俺がこの世界にきて転生したときシルフィルという名前を聞いて、俺はシルフィが転生してきたものかと錯覚したもんさ。
その場で三人息を潜めながら一時間ほど待っていただろうか、次第に森が騒がしくなり、情報通り魔物の群れが現れた。
それなりに高位な魔物や魔族もいた、集団で襲ってくる程度の知恵を持った奴ら、
人語を理解し、ある程度の統率を持っていた。
当時俺が使えた最大の魔法は『インフェルノ』
ファイアーボールから派生していく魔法『ファイアウォール』の最上級魔法だ。
この世界にはおそらく存在すらしない魔法だろうな。
俺のインフェルノのとにかく火力が凄くて、辺り一帯の森を焼け野原にするレベルだったんだが、
その時に進行してきた魔物たちを退治するにはこれでも生ぬるいのではと感じられたもんだ。
迎撃ポイントは荒野だったんだが、俺の姉さんは土属性の魔法が得意でな。
大規模な土魔法の『ロックプリズン』……前面を岩で囲んだ密室のような魔法で魔物を捕縛し、
俺がインフェルノでロックプリズンの中央に座標を指定し爆発させた。
逃げ場を無くし、数千度の熱で標的を焼き払い続け、最終的には酸素を燃やしつくすこの技は、
俺と姉さんとのコンビネーション技で大規模な集団に対して、特に効率的に働いた。
ただ、まあ姉さんのロックプリズンは地形を利用した技で燃費が良かったんだが、
俺のインフェルノに関しては燃費が悪すぎて当時じゃ1日2~3回使用が限度だったけどな。
そんなこんなで魔物と魔族を壊滅させて俺達3人は意気揚々と村へ帰ったんだが、
俺たちが帰る頃に村は全滅していた。
俺達は3人でその光景をみて泣いた。
生まれ故郷がこんなにも呆気なく滅ぼされてしまうのかと、
そしてシルフィの両親すら守れない自分の不甲斐なさに泣いた。
ちなみに前回のアルフレッド第二迷宮で俺が魔族を倒した方法は、姉さんとの連携技の応用だ。
相手の暴発エネルギーの部分が俺のインフェルノの代わりで、俺が三重詠唱で張ったバリアがロックプリズンの代わりだな。
まあ姉さんのロックプリズンの比較にならない強度ではあるし、今は連携しなくても一人で魔法を行使できる。
そうして途方に暮れた俺達3人は魔物退治を含め、困っている人たちを助け出す旅にでた」
「にしても風呂あちぃな、シルフィのぼせてないか……?」
「ううん、私はカイトの膝に乗ってるからそれほどでもない」
「そうか」
そう言いながらのぼせそうになった俺はシルフィを持ち上げ、浴場の淵部分に座り直し、
シルフィを膝に乗せなおす。
「話はまだ続くけど大丈夫か?」
「うん、もっとカイトの事を聞かせて」
「ああ」
シルフィのむっちりとした肉感を膝に感じながら、また俺は過去を思い返すようにシルフィに語り掛ける。