お風呂でパニック
この魔法学園に入学して一年と一か月余りでシルフィは驚くほど成長した。
主に、身体周りの成長が1年前とは雲泥の差だ。
「小さい頃は女として意識してなかったんだけどな……」
気付けばシルフィに対して女を感じていた俺は、それでも昔と変わらずシルフィと接しようとしている。
一年前から俺にべったりのシルフィは魔力の素質を開花させるにつれ、身体も大人のそれへと成長した。
いつの間にかシルフィと家族ぐるみの付き合いになり、何故かシルフィが俺と一緒にお風呂に入りたがるものだから、小さい頃から俺はいやいやながらもシルフィと一緒に入浴をしていた。
当時はシルフィはぺったんこだなーとか色々思ったりしていたものだ。
今でも一緒に風呂に入らないと怒りだすものだからたまったものではない。
「俺とて思春期の男なんだぞ」
贅沢な悩みだと思いつつも股間の膨らみを気にしてしまう年頃でもあるのだ。
シルフィは性に少し無頓着なところがあり、俺がしっかり世話をみてやらなければとより一層思わされる。
そう思いながら俺は脱衣所のかごの中に衣服があるのを確認し、シルフィの所在を冷静に確かめる。
間違いなくまだ湯浴み中であろう。
「邪魔するぞ」
『ガララララッ』と浴室のドアを力一杯開くとまさに湯浴み中のシルフィの姿が俺の視線一杯に収まる。
豊満なボディは果実を思わせるほどたわわに実り、すべすべな透き通った素肌は産まれたての赤ちゃんを連想させた。
「あ、カイト―?」
「ああ、そうだ」
「今髪の毛洗ってるからちょっとまってねー」
「ああ」
返事をしつつ俺はシルフィに近寄り指を髪に絡ませる。
「ひゃっ! くすぐったいよぅ!」
「久々に髪の毛を洗ってやるからじっとしてろ」
そういうともじもじ抵抗していたシルフィはグッとおとなしくなり、首根っこを掴まれた子猫のようにおとなしくなった。
静寂の中、ぽつりとシルフィが話し出す。
「ねえ?カイト」
「どうした?」
「カイトってさ、この国から出て行っちゃうの?」
「んー必要があれば、かな」
「そんなの嫌だよ私」
「……」
唐突にそんな事を言われて俺は黙りこくってしまう。
正直な話、越境の許可さえ出てれば他国の迷宮を攻略したいのが素直な心情だ。
これは皆にも黙っていたことなのだが、俺が初めてダンジョン深層に潜り全階層を攻略したとき、
ある物を見つけてしまった。
(あれが何なのかを確信を得るためには各国の迷宮を回る必要がある……)
「なあ、シルフィ」
「なに、カイト?」
シルフィは俺の真剣な雰囲気を感じ取り、緊張した面持ちで発する言葉を待っているようだ。
「実はな、世界各国の迷宮を回ろうと思ってるんだ」
「なんで!」
「!?」
普段温厚なシルフィのこんなにも怒気を孕んだかのような声を初めて聴き少し焦る。
一体こんな身体のどこにあんな声を出す力があるというのだろう。
一瞬の逡巡を経て、俺は再度口を開くことにした。
「話せば長くなるが、俺は別の世界から転生してきた人間なんだ」
こいつだけには本当の事を一から話そう。
シルフィの髪を手早く流してから、シルフィを浴槽に連れて行き、お湯に浸かりながら膝に抱き寄せる。
今日は長い長い風呂になりそうだ。