女神のお茶会
~時は半年ほど遡る~
「ねえ、トロンってば聞いてる?」
「んん、なーにー?」
「なーにー?ってあなた、私はなんでこんな少年なんかに肩入れするの?ってずっと聞いているじゃない」
女がそういいながら指を指す先には、写真に写るカイトの姿があった。
ここはアシュトロンの自室。そこで二人の女神がお茶会をしていたのである。
丸い脚立のついたテーブルの片側には金髪の小柄の少女アシュトロンが座っており、
逆側の席には、はたまたアシュトロンとは対照的なムチムチボディの蒼髪の美女が座っていた。
蒼髪の美女の名前は美の女神フラン、アシュトロンとは比較的年齢が近いお茶会仲間である。
女神フランはついぞ最近アシュトロンの様子がおかしいことに気付き、普段から探りを入れてはいた。
そしてとうとう今日にその原因であろうものを発見したのだ。
それが今フランが指を指している一枚の写真である。
「最近どうも、ここ半年ぐらいあなたの様子がおかしいじゃない」
「聞いても何も答えてくれないし、常に上の空みたいな状態だし」
「そんなことないよ!」
ムッとしたアシュトロンはフランに対して反論する。
しかしそんな反応はフランはとっくにお見通し済みで「じゃあこの写真はなに!」と強めの口調で、
写真にドンドンと指を指しアシュトロンへと再度問いかける。
「うっそれは……」
「それは……?」
そしてアシュトロンは再び口を閉ざして呆けてしまう。
今日はずっとこの繰り返しであり、さしものフランも飽き飽きとしていたところだった。
(察するにトロンの様子がおかしいのはこの写真の子が原因でしょうし、まさか恋……? まさかね……)
美の女神フランは知っている。女神は恋をしないということを。
百歩譲って神が同列の神に恋をすることはあるだろう。
しかし下等な人間などに恋をするという事は断じてありえない、断言できる。
では一体トロンのこの様子はなんなのであろう……?
考えれば考えるほどにフランの悩みは増していき、イライラが募っていく。
正直な話、フランには『悔しい!』という気持ちが根底にあった。
いままで何百年、数千年と一緒にいた話相手のトロンが何者かに奪われた、という気持ちが心の奥底を占めている。
(なんで…なんで私じゃダメなの…?)
美の女神フランにとって、自分は常に寵愛を注がれる対象であった。
しかしそんなフランが唯一寵愛を注いでいたのは、ほかでもないトロンだったのだ。
先程の神が神に恋をするという言葉は、まさに自身の事を指していたことにほかならない。
しかしフランは自分の気持ちをトロンに打ち明けることをしようとは思わなかった。
トロンの傍にずっと、永遠にいれればそれでいいと考えていたからだ。
勿論トロンの身体目当てで近付いてきた神は今まで数多もいた。
そのたびにフランは陰でひそかに、その神を陥落しては排除してきたのだ。
そんなフランにとって何よりも悔しかったのはトロンが私に対して何も打ち明けてくれないという事だった。
(聞くところによればトロンはこの転生できなくなった人間を、自らの力を分け与え転生させたそうじゃない…)
フランが何気なく聞き及んでいたトロンの噂に関してはこの写真を見つけたときに合点がいった。
写真をみた瞬間感じたのだ『この男だ』と。
瞳からは意識せず、ツツゥっと一粒の雫が零れ落ちた。
フランはトロンに悟られぬよう顔を拭うと、何事もないようトロンに告げた。
「いいわトロン、もうその男について言及しない」
「だからこれまで通り、私といるときはお茶会に集中して、私の事だけを考えて接して?」
「う、うん! わかったよフラン!」
「ありがとうトロン……」
なんとも言えない感情をフランは隠し、トロンだけを見つめる。
(ああ……私はこんなにもトロンの事を……)
フランはこの感情をずっと打ち明けられないだろう。
でもトロンの笑顔をずっと見続けれれるのならそれでいいと、
トロンの綺麗な髪を撫で続けながら思うことにした。