ダンジョンへようこそ!
ここはアルフレッド第二迷宮。
ダンジョンが世界各地に現れ始めてから我が領土に二番目に出来たことに因んで名づけられ迷宮である。
第一迷宮と比べ比較的獰猛度の低いモンスターや、希少なお宝が多く、数々の冒険者を虜にしている。
ダンジョンについてはいまだに判明していない事が多く、しかし少しの油断で命取りになることが少なくない為、準備には多大な時間と資金を費やしてもいた。
そして踏破された階層であること、多大な教師陣がついてきてくれていること、学園長先生が参加をしていることで、生徒たちも皆安心を仕切っていた。
しかしながら迷宮は刻一刻と状況を変え、この後に悲劇を与える事を今は知る由もない。
「よし皆、揃ったか」
「これよれダンジョンの攻略を開始する」
教員は生徒を一か所に集めるとダンジョン攻略の概要と主な目的を簡単に説明した。
教員曰く、ダンジョンでは様々な魔物が確認され、貴重な素材の数々やレアなアイテムをGETできるらしい。
また、授業用の霊薬の素材等も目的とした攻略ということだ。
「そんなんで生徒を危険に冒していいのか?」
「うーん、ちょっとこわいよねカイト」
「俺は怖くないけど他の生徒はたまったもんじゃないだろ?」
「う、うん」
そんな感じでシルフィは若干苦笑いしつつ俺に同意をしていた。
如何にシルフィが強くなったといえど、魔物と相対する経験等滅多にあるものではないので当然の反応ではある。
俺達がコソコソ雑談をしていると教員の冗長とした会話が終わり、いよいよダンジョンに潜るべく俺たちは隊列を組む歩を進めた。
先陣には学園の優秀な魔術教員6名、王都から派遣された騎士団長、その他騎士が配置されている。
その後ろを俺達、生徒が魔法で補佐するように並んで歩き、更に殿には学園長先生にテル先生が配置されている。
俺が杞憂していた背後からの奇襲には学園長先生とテル先生が背後にいるのであれば、ひとまずは安心だろう。
しばらく歩いているとすぐ傍に魔力反応を感じた。
「シルフィ、魔物が近くにいるから気を付けろよ」
「へ? カイトそんなことがわかるの?」
「ああ、魔力探知っていうスキルだけどお前もやってみればわかるよ」
「まず全身に流れている魔力を練って身体の全身に纏わす、それを薄く一気に周囲に拡散するイメージだ」
俺がシルフィに説明すると早速シルフィも試しはじめる。
「わ、なんか私達以外に離れたところに反応がある!」
「できたみたいだな、それが魔物の気配だよ」
「触れた魔物の魔力の塊の大きさでその強さを大まかにはかれるんだ」
「へー、この魔物は小さいから先にいるのは大した敵じゃないのかな?」
「うむ、そういうこと」
シルフィに講釈をしていながらも俺は少し別の事を考えていた。
どうもシルフィには感知出来なかったが明らかに現代にしてはあり得ないほどの魔力量を秘めた気配を感じたからだ。
(あれは……魔族……?)
魔族といえば前世でも幾多の同胞を殺された。根本的に魔物とは一線を画した頭脳を持ち、魔力量や身体的能力は魔物のそれとは比較にならない。
事前に読み込んだダンジョンの資料ではこの階層で確認されている魔物はスライムにゴブリン、あとはオークぐらいのものだ。
明らかに報告とは違う。
「嫌な予感がするな」
ふと呟く。俺の言葉にシルフィは首を傾げていると先頭にいる教員や団長から『今だ攻撃しろー!』という合図が聞こえた。
どうやら生徒の実地訓練のためにモンスター攻撃の指示をしているようだ。
遠視スキルを発動して様子を確認するとスライムが5匹おり、学園生たちが各々ファイアーボール、ウィンドカッター、サンダー等で撃退している姿を確認できた。
「どうやら討伐は順調のようだな」
「そうみたいだね」
そこからもしばらく生徒が魔物を討伐していき徐々に深部に差し迫ったころ、教員達が緊迫した表情をしはじめた。
「おい、なんだよこの魔力」
「しっ生徒に聞かれるぞ」
「ここは踏破したはずの階層だろ、なにかの勘違いでは?」
「いや、でもこれは魔族では……?」
遅れながらにしてようやく教員が魔族の存在に気付いたようだ。
会話を盗み聞きしていると騎士団長が「大丈夫、魔族とは何度も相対したことがある任せてください」と発言をしていた。
その言葉を信じ、教員達はそのまま歩を進めたが結果としてこの判断は間違っていた。
およそ数秒後、先陣から悲鳴が響き渡る。
どうやら向こうの魔族もこちらの存在に気付き、瞬時に間合いを詰め騎士団の一人の首をはね落としたようだ。
そしてその動きに反応出来ていた者は騎士団長や学園長も含め誰もいないようだ。
この集団で唯一反応出来ていたのは俺ぐらいだろう。
驚くべきことに魔族は数瞬後、棒立ちしていた教員と団長を一瞬で排除する。
「まずい!」
状況を正確に把握した俺は一目散に魔族の元へと駆け付けた。
周囲には悲鳴が響き渡り、俺達の学園生は烏合の衆と化していた。
魔族は掌に魔力を刃状に集結させ、生徒全員を瞬時に殺せる程度の魔力を練っている。
「やらせるかよ」
俺は魔族の頭を掴み地面に殴りつける。衝撃で地面は大きく割れ、そしてその弾みで魔族の魔力は暴発する。
その魔力量は生徒を含んだ周囲一帯を巻き込むはずだった。
が、それをさせない。
魔族の周囲にのみバリアを展開し爆発をそこに収めたからだ。
念の為バリアを三重詠唱で重複強化をしたものの、爆発は一つのバリアを破壊することなく周囲に反響するほどの音と衝撃を見事に吸収した。
「ふう」
爆発に直接巻き込まれた魔族は肉片を残すことなくその場で消滅し、その光景を見ていた一部の者たちは驚愕した。
「カイトすごい……」
「あれが彼の実力です……か」
「ほっほっ、彼のおかげで助かったわい……」
シルフィ、テル、学園長は三者三様の反応を示すもその場で彼の実力の深淵を確信した瞬間でもあった。
周囲の生徒は何が起こったのかわからず困惑するばかりではあったが、周囲からポツポツと『助かったのか…?』という声が漏れ始める。
「あー……やっちまったな……」
周囲が喜びの波に包まれる中、俺はこの後に起きるであろう展開を想像し一人憂鬱な表情を浮かべた。