波乱の日々
学園に入学してはや一年。
当初の好奇な視線は学園を過ごすと共に徐々になりを潜めていった。
というのも俺もこの世界の常識を学び徹底的に実力を隠すことに成功していたからだ。
「ねえ、カイト」
「どうしたシルフィ」
「んーん、どうして実力を隠すの?」
そう、実力を隠すことには成功していた。このシルフィードを除いては。
この一年間どこにも四六時中付いてくるものだから俺の鍛錬の際に嫌でも実力を知られてしまうのだ。
まったく面倒なことこの上ない。
そして幸か不幸かわからないが、俺と一緒にいるうちにシルフィも超一流の魔術師としての実力を身に付けてしまったのだから世の中はわからない。
「そりゃ色々と面倒なことに巻き込まれたくないからさ」
「例えば―?」
「戦争に巻き込まれたり、妙な因縁つけられたりとかさ」
「あー、カイトすぐ喧嘩売られるもんね!」
「そうそう、それに教師には実験動物みたいな目で見られるしな」
「あーテル先生とかひどかったねえ」
「だろ?」
そう、この一年間入学当初からずっと俺は担任のテルに見張られていたのだ。
事ある授業のたび、実技試験のたび、休憩の一挙一動をする様をすべて観察されていた。
しまいにはプライベートの時間まで偵察魔法で観察される始末だ。
修行をするときは偵察魔法が消えたのを確認しとても面倒くさかった。
そんな事を繰り返すたびにようやく俺への興味が失せたのか、偵察魔法を行使されることも、実験動物を見るような目もされることもなくなった。ついぞ最近の事だが。
「まあ上手く出し抜けたからよかったけどな」
「ふふふ」
「どうしたんだ?」
「んーん、私だけがカイトの秘密知ってるんだと思うと嬉しくて」
「……変なの」
そういいながら俺たちは今日も訓練を続けた。訓練を続けるには明確な理由があった。
この世界の定説で言えば十歳を過ぎる頃には魔力総量に関して、上昇することはほぼないという事であったが魔力総量の上昇を確認したからだ。
現にシルフィは当初400の魔力総量も今では1200と三倍に跳ね上がっているし、
俺自身は100万超えと当初の10倍以上の伸びを見せていたからだ。
おそらくそんな規格外なことも女神の祝福:極の成果なのだとも思う。
全世界の書物をみても、そもそも女神の祝福を持っていたという人がいないのだ。
万のスキルを所持していたとされる世界最強の魔術師でさえそのスキルを持っていたという話はない。
更に神殺しという称号&固有スキルを持っているというものも聞いたことがない。
称号とスキル説明にはこう記述されている。
神殺し:神を殺した者に送られる称号。現神、八百万の神へのダメージが倍増。
「いやいや現神とか八百万って色々おかしいでしょ、使う機会ないでしょ」
「んー、カイトのスキルすごいよねえ」
「すごいってかもうバグだけどな」
「ふーん」
このスキルにはシルフィはあまり興味がないのか自身の鍛錬へと集中していった。
はたから見ている分には集中をしている際のシルフィの魔力練度はかなりのものだと思われる
シルフィの魔力属性は風で、既に空中飛翔はお手の物だし風の刃も少なくとも、
余程の使い手ではない限り遅れを取らないレベルに達していると感じた。
それとは別に俺の魔力属性は万能ですべてに適性があり、明らかに前世より能力が向上していた。
軽く実験していたときも時魔法、いわゆる時間を操る魔法も使えそうだったし、
重力魔法、宇宙魔法、天候魔法などありとあらゆる魔法が使えると直感した。
そしてこの一年で最大に変わったことといえば各地にダンジョンが現れたことであろう。
今まではそのようなものは存在しておらず、人々は神々の悪戯と騒ぎ立てた。
そしてダンジョンを攻略しようと様々な冒険者が挑戦し、帰らぬ人になっていた。
そんな中俺たちの魔法学園アルフレッドもダンジョン攻略をすると名乗りを上げたのだ。
もちろん踏破された階層のみを攻略し、人材育成の糧にし将来の有力者を育てていこうという腹積もりらしい。
ほうほうの保護者や団体からは散々反対され、強硬は不可能かと思われたが毎回学園長先生がついていく、という条件をもとにとうとう
この無茶な要望が通ってしまったというわけだ。
そして初ダンジョン攻略が明後日出発することになっている。
ダンジョン攻略組は各1~5学年の中から成績上位者が先発されることになっており、もちろん俺とシルフィは二年生の代表として内定していた。
国内屈指の魔法学園の低学年~高学年の成績上位者ともなれば将来を約束されているレベルの人材達の集まりである。
更には学園長先生はじめ、学園の教師陣も遠征についてくることになっており、体制は盤石かと思われた。
「シルフィ、今度のダンジョン遠征怖いか?」
「んーん、カイトがいるから平気」
「大した信頼だなそのカイトってやつ」
「あんたの事でしょ!」
すかさず鋭い風圧の突っ込みで俺は吹き飛ばされる。
「いてて、お前風の扱いだけは天才的だよな……」
「だけはって余計!」
「ぐはっ!」
再び俺は風で吹き飛ばされる。いやー本当にここまでの使い手は前世でも高位の魔族ぐらいだったと思う。
「でもカイト、何かあったらちゃんと私のこと守ってね?」
「まかせろ」
「ん」
シルフィは俺の妹同然だ、言われなくても命に代えて守るさ。
そして俺たちは再び黙々と訓練に励み、いよいよダンジョン遠征の当日を迎える。