表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

魔法学園へようこそ

 あれから部屋を出て居間に向かうと既に、父は朝食を食べ終えていた。

 母は食器を洗い、俺に気付くと「おはようカイト」と透き通る声と笑顔で俺に語り掛けた。


「母さんおはよう、父さんもおはよう」

「おはよう、カイト」

「カイトお誕生日おめでとね」


 そうか、今日が誕生日だったのをうっかり忘れていた。

 どうやら俺はこの世界ではまだ十歳らしい、十歳の誕生日はこの国では事前成人の儀というのが

行われるらしい。


 事前成人の儀というのは簡単に言えば魔力総量や魔術適性を評価する場である。

 今朝、起きたとき軽く部屋の書物を流し読みした情報で得た情報で言えば、

 この世界では十歳にして魔力総量や適性がほぼ決定をしてしまうということだった。


 その為十歳になった時点で国が魔力や職業適性を把握し、将来の職業に役立てようという趣旨だ。

 例えば魔力適性がこの時点で無しと認められれば、この国では魔法学園に通うことは出来なくなる。

 その時点で騎士の道、学者の道、多岐多様な個人にあった学園に通うことになる。


 当然俺は前世ではどちらかといえば魔法メインであったため、今世でも魔術師を目指そうと思っている。

 国では魔術師が優遇されおり、評価試験の際も、魔術適性→騎士適性→学者適性などと、

 重要な順番から適性を測っていくことになっている。


 たとえば魔術適性で合格をすれば、そのあとの適正検査はすることなくその場で帰宅することが可能だ。

 また適性がほとんどない場合、評価試験は丸一日中かかる例もあるらしく、子供ながらに深い傷を負って

しまう例も少なくないとか。


 ちなみに母さんは魔術適性が、父さんは騎士適性があり、各々見合った職業についている。


「いやーカイト、お前の適正はどっちだろうなー?」

「きっと私の子ですから魔術適性ですよお父さん」


 俺の両親はこの日を待ちわびていたらしく妙に二人はソワソワはしゃいでいる。


「いやいや母さん、俺の子だからきっと騎士適性さ!」

「あらいやだお父さん、魔術に決まってるわよ私の可愛いカイトなんだから!」


 と、こんな風に本日の適正如何でその後の将来がほぼ決まってしまうため、どの家庭でも十歳の誕生日

というのは家庭に様々な風を巻き起こす。


「まあ……この風は母さんの魔力が物理的に漏れ出しているものだけど……」


 そして重要なのが魔法属性である。人にはそれぞれ得意とする魔法属性がある。

 見ての通り母さんは風の属性を持っている。風属性は主に風を使役し、術者の能力によっては空を自由に飛べたり、

目に見えぬ刃を飛ばし敵を切り裂いたりと汎用性はかなり高いようだ。


 もちろん魔術適性が無い人でも魔法属性は備わっている。父さんの例でいえば、父さんは騎士ではあるが火の

属性を持っており剣に火を纏う攻撃を得意としている。前世では魔法剣士という職業があり、攻守共に優れた存在であった。


 そんなこんなで本日の我が家では今までにないぐらいの殺伐とした後継が繰り広げられていた。

 母さん、風でスカートがめくれて下着が見えてるよ……。

 

「まあまあ、二人とも落ち着いてよ」

「二人の子だから絶対俺にも二人の適正引き継がれてるから」


「お、そうか……?」

「カイトありがとね」


 二人の争いを収めるべく俺が気を遣うと二人は争いをやめ、ニコニコとイチャつきだした。

 まったく仲が悪いのか良いのか全然わからない。


「いただきまーす」

 

 用意されていた朝食のトーストに目玉焼きをちゃちゃっと口に詰め込んでいく。


「そういえば、父さん母さん、俺魔術師になっていいんだよね?」


 ふと思った疑問を口に出す。俺自身は魔術師がいいのだが両親の意向がまったくわからない。

 もし魔術師が両親の意に沿わぬものであれば実力を抑えることも可能であるので念の為の確認だ。


「何言ってるのカイト」「何言ってるんだカイト」

「当然じゃない」「当然じゃないか」

 

「……プっ」


 似たような事を二人同時に言うものだからつい噴き出してしまう。


「ごめんごめん、わかったよありがとう、じゃあ俺は魔法学園に通うね」


 笑ってしまったことを謝罪し、適性試験を受ける前から魔法学園に通うことを告げると両親は二人してキャッキャと騒ぎだした。

 この世界のレベルがどれぐらいかはまだわからないけど、まず落ちないであろうという確信が俺にもあったからだ。


「ご馳走様、時間まで自室にいるね」

「うん、ゆっくりしてなさいね」


 ご飯を食べ終わると急いで席を立ち、俺は自室へと戻る。

 適性試験の前に色々と試したい事があったからだ。

 部屋の扉を開け、自室に入るとまずは本を漁ることにした。

 この世界の知識が圧倒的に足りないからだ。


 例えばこの世界の魔法レベルを知らなければ試験で物凄いことになりかねず余計な注目を浴びかねない。


「だって、俺の魔法ステータス十万越えとかどう考えてもおかしいよなあ……」


 なぜそんなことを思ったのかと思えば、先程の食事中に母さんのステータスを覗き見したのだ。

 その時の母さんの魔法ステータスは280であった。母さんが低すぎるのかそれとも、状況によって

ステータスに変動があったりするのかはわからないが、普通に考えれば俺のステータスが高すぎるのだと思うから。


「しかもスキルに女神の加護:極とか神殺しとか不穏そうなのがいっぱいあるし……」


 そんなこんなで時間までにある程度の知識は頭に叩き込んでおきたかったのである。

 そして調べた結果はというと、、、やはり高すぎた。


「歴代に名を残す賢者でも魔力ステータスは1000ほどか……」

「って10万ってめちゃくちゃすぎだろ~」


 さすがにこんなめちゃくちゃな値では手加減しないと余計な悪目立ちをしてしまうだろう。


「なんとか秘策を考えないとな」


 秘策を考えようと魔法適性の試験方法を調べようと書物を読んでいると、参考になる文献がみつかった。


「なになに、試験は標的にファイアーボールを当てること、か」


 書物曰く、ファイアーボールは初球の火魔法で適性のある者ならば意識を集中させるだけで放つことができるらしい。


「ふむ、この試験方法なら手加減しつつ合格することなど容易だな」


 手の甲を顎に押し当て試験の光景をイメージする。実力を晒すことなく難なく合格できそうだ。


「よし、安心できたし、時間もまだ余裕はある」


 時計にチラリと目をやると今は8時過ぎ、試験が10時なのを考えれば行く時間を考えてもまだ余裕があるだろう。


「軽く身体を慣らすため森に出かけるか」

「この森なら丁度よいトレントがいそうだな」


 そんなこんなで俺は母さんに少しだけ散歩に行くと伝えて森に向かい、トレント相手に無事感触を確かめ、

王都へと向かうことにした。


「ねえカイト、お母さんドキドキしてきちゃった」


 母さんを見上げると母さんはぶるぶると震えていた、子供の一生が決まってしまようなものだから当然と言えば

当然なのかもしれない。

 そんな母さんの手をぎゅっと握り俺は母さんにいった。


「母さん大丈夫だから安心して!」

「カイト……」

「うん、わかったお母さん待ってるからね」


 そして見送ってくれる母さんを残し俺は試験会場へと足を運んだ。

 会場にはたくさんの子供たちがおり、同じ誕生日がこんなにいるのかよと多少突っ込んだりもしたが、

 その中でキョロキョロと辺りを見回している女の子が気になり声をかけることにする。


「おい、君どうしてキョロキョロしてるの?」

「え、あなた誰……?」

「俺はカイト、君は?」

「あ、私シルフィード、よろしくね」

「シルフィード…?」


 その時脳裏にはかつての幼馴染が思い出された。シルフィ…。


「カイト、どうしたの?」

「ッ、なんでもない!」

「ところでシルフィードはどうしたんだ?」

「んとね、こんなにたくさんの子供たちに囲まれてちょっと怖いから……」

「ははは、シルフィは臆病なんだな」

「臆病じゃないもん!」

「俺が傍にいるから安心しろ」

「え…? うん…」


 そういうとシルフィードは黙って俺の服をちょんと掴みながらそばにいた。

 しばらくシルフィードと雑談をしていると突然会場に大きな声が響く。


「えーみなさんこれより事前成人の儀を開始します、こちらに一列に並んでくださーい」

「いくぞ、シルフィード」

「うん」


 俺たちは指示通りに一列へと並ぶ。司会がごにょごにょと説明をしていたが俺は隣にいる

シルフィードの事が気になりあまり会話に集中は出来なかった。

 ひとしきり説明が終わると広場には機械のような物が広場にぷかぷかと浮かびだした。


「なるほど、これが標的か……」

「え……?」


 シルフィードの言葉と同時に、「ではまずはそこの先頭にいる子から順番にお願いします!」と俺を指さした。


「一番最初か、緊張するな」

「頑張って、カイト」


 シルフィードの声援を受け、俺は頷き一歩前へと歩く。

 大丈夫だ、あの標的に当てるだけだ。意識を集中させた俺は手のひらにファイアーボールを生み出し、狙いを定める。


「はっ!」


 呼吸を吐くと同時に浮遊していた標的に俺のファイアーボールは直線の軌道を描く。

 当たった! と確信すると同時に標的は慌てたように動きだし俺の魔法を避けようとした。


「この標的避けるのか!?」


 試験がどんな評価基準なのか分からない以上一発足りとも外すわけにはいかないと考えた俺は、

ファイアーボールに魔法追尾を追加詠唱した。

 しかしながらそこは標的、高速移動で逃げ出し中々捕まらない。


「なんなんだこの試験は!?」


 試験の難易度が高すぎるのでは?と思いつつもファイアーボールに高速追尾を追加詠唱すると、いよいよ

標的に魔法が命中し俺の合格は決まることになった。


「……?」


 しかし何かがおかしい、ポカーンとする会場。

 すると視界が慌て焦った表情で俺に言い放つ。


「あのー……標的はあの下に刺さっている木の的ですが……?」


 司会の指の先を目線で追うとそこには地面に木の的が刺さっていた。すごくわかりやすく。


「え、じゃああの動く物体は……?」


 俺はたまらず質問した。


「あれは採点結果撮影ロボットです……」

「!!?」


 こうして俺の適正は文句なく合格という結果とともに、大魔術師の誕生だという噂が巷に巻き起こる

ことになった発端の始まりである。

 ちなみにシルフィードも木の的に難なく命中させ俺と同じ魔法学園へと通うことになった。





 ―――

 ――――――

 ―――――――――




 なんやかんやであれから一か月が経過し今日が魔法学園の入学式である。

 あれから毎日毎日シルフィードが俺の家に押し掛けるようになってそれは大変だった。

 偶然にも家が近くだったらしく俺になついてしまったものだから、父母共にニヤニヤしながら「カイト君はもてるのね~」なんて持て囃す次第だ。


 あまりにも毎日来るものだから「しばらく来るの勘弁してくれ」というと泣いてしまったもので、

もうそういった類の言葉をかけることもできなくなってしまい、現在にいたる。


「シルフィ入学式は緊張してないか?」

「ううん、カイトがいるから平気」

「そっか」

「うん」


 シルフィードは俺から贔屓目で見なくても可愛い美少女であった。ロリすぎる点を除いては。

 精神的に大人の俺には恋愛対象にはならなくて、妹みたいな存在ではあるが同級生からはかなりモテるであろう、まじで。

 そんなシルフィを俺が守ってやらないといけない、今度こそは。

 新たな誓いを胸に俺たちは学園へと足を踏み出す。



―――

――――――

―――――――――



「ほっほっほっ、今年の新入生は楽しみじゃのお」

「あー、ロボを破壊した少年の事ですか?」

「そうじゃの、正直あれを壊されたと聞いてド肝を抜かれたからのお」

「んー、俺じゃあファイアーボールで当てることなんて出来ませんしねえ」

「じゃろうのー、ワシでも無理だし」

「いやー、校長は出来るでしょ?」

「ほんとーにできんよ」

「ご冗談を、それでしたら誰もあの子に太刀打ちできなくなってしまいますよ」

「まあそれはおいおい見極めていくしかないのぉ」

「そうですね……」



―――

――――――

―――――――――



「気に入らねえ」

「どうしたのキリちゃん?」

「あいつが気に入らねえ、試験で俺より目立ちやがって」

「キリちゃん仕方ないよ、あいつと俺たちじゃあ力が別物だって」

「んなわけねえよ!ズルにきまってんだろ!」

「う、うん」



「シルフィ、なんだかあっちの騒がしいやつに近付かないほうがいいぞ」

「んー? あの目が血走った男の子?」

「そうそう、あいつこっち見て睨んできてるから絶対お前に恨みがあるぞ」

「えー、睨まれてるの私じゃなくてカイトだよぉ」

「そうか……? なんも恨まれることしてないけどなあ?」


 仮に俺が何かをしていたとしてもおそらく逆恨みか何かの類だろう。

 前世でも良くあったのだ、俺が強すぎるせいで嫉妬だったり。


「シルフィ、あいつみたいに俺を恨んでるやつが多いかもだからあんまり俺の傍によるな危ないぞ」

「やだよぉ、私はカイトといるのぉ」

「ったく……」


 シルフィの涙は懲り懲りだ、こいつが離れてくれないのなら俺が守るしかないか。

 そう考えている矢先に少年たちがこちらへ向かってきた。


「おいお前、ちょっとこっちこいよ」

「ああ、いいぞ」

「だめだよぉカイト」

「シルフィ、大丈夫だからお前はここで待ってろ、な?」

「やだ!!」

「っ! ……まあいいや、そういうわけで俺は動けないから今ここで用件済ませてくれ」

「お前さあ、生意気なんだよ!」


 ああ、なんとなく予想はしていたが用件はやはりこちらの類だったか。俺はニヤリと笑う。


「ならどうしろっていうんだ? 勝負するか?」


 俺が威圧するように殺気を出すとさっきまで勢いは消え、か細い声でボソボソと呟くのみになった。

 格の違いを見せつけるため魔力を軽く放出すると奴らは完璧に黙るようになり、間髪入れず俺はつぶやく。


「これ以上俺たちにちょっかい出してきたら、ただじゃすまさないからな?」


 軽く脅しを入れると奴らは蜘蛛の子を散らすように各自、自席へとそそくさと立ち去っていく。


「うー、こわい」

「俺が守るから大丈夫だって」

「違う、カイトが怖いのぉ、殺気まき散らしてえ」

「俺……?」


 素っ頓狂な声を上げ驚くとともにそんなに殺気も出してないぞと疑問に思う。

 しかしながら平和な世界のこいつらと殺伐とした世界で育ってきた俺とは隔たるものがあるのだろう。

 そんな風に考えていると教室の扉がガラガラと開き、教師と思われる人物が入ってきた。


「はーい、みんなーこんにちはー」

「僕は担任のテルだよ~よろしくね~」

「ッ!」


 その時一瞬ゾクッとした気配を担任から感じた。

 まるで実験動物を見るかのような、そんな視線だ。


「まあ、目立っちまったからなあ……」

「カイトどうしたの?」

「なんでもない、まあなんとかなるか」


 こうして俺の前途多難な学園生活は始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ