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追憶②

 「俺たちは様々な街や村を渡り歩いた。姉さんやシルフィには辛い旅にだったに違いない。

  風の魔法を使役し空を飛べれば楽ではあったんだが、旅をしていた当時に複数属性の魔法はさすがに使えなかった。

  

  街や村には色々な人がいたり、風習があったり、自分の故郷という狭いコミュニティしか知らない俺には何もかもが新鮮だった。

  ある街に立ち寄った時ちょっとした出来事で喧嘩をした男がいてな。

  魔法なんてものに縁がなさそうなとんでもない筋肉男でさ、腕力じゃまったく勝てる気がしなくてすげー悔しかった。


  誤解が解けて話すとこれが意気投合してな。更に俺と同じ年齢っていうもんだから二重に驚きさ。

  思えば同年代の男と語り合うなんてことはなかったから、とても楽しい時間だった。

  名前はアランと言ってとても正義感の強い男。


  俺たちの旅の目的を話すと「俺もついていく!」と無茶苦茶言うもんだから、思わず「筋肉だけのお前に何ができる!」

  と言い合ったもんだが、その時にアランは「お前を守る盾になれる!」と言ってな。

  おもわず笑っちまったよ。

  アランには守らないといけない奥さんとお腹の中に子供もいたのにだ、とんでもないやつだったよ。

  結局一人残される奥さんとお腹の子供の為に全財産を置いてくハメになってしまった。


  なし崩しで4人PTになった俺たちはお互いがお互いを助け合い、技術を磨き高め続けていった。

  それからは旅先で同志や仲間が増えて行って、かなりの大所帯になっていたな。


  アランと義兄弟の契りを交わしたゴランって男もいて、こいつもアランに負けず劣らずの筋肉野郎でさ。

  結局俺はこの二人には返しても返しきれないほどの恩を作ってしまったのさ。


  旅の道中に『月の民』という者たちが住む集落に行き着いた。

  月の民は俺達が信仰している神とは全く別の神を信仰していた。

  彼らが信仰している月の女神ルーナは、村の入り口に銅像が建造されていて、その美貌は見事というほかなく、

  生きていないにも関わらず、その圧倒的な存在感に、俺や仲間たちも見惚れていたものだ。


  聞くところによると月の女神ルーナは数百年ほど前、彼らと共に共存をしていたらしい。

  しかしある日この世界に現れた偽りの神、俺達が信仰を捧げていた神に、ルーナは殺されたと月の民は言っていた。

  月の民は正しい歴史を、偽りの神の存在を、人々に知らしめるため世界を旅しながら暮らしていたということだ。


  やがて人々から迫害を受けるようになり、今はごく少数の民がひっそりと暮らしていると言っていた。

  彼らはたくさんの事を知っていた。事実かどうかは差し引いても、それでも聞くに値する情報だらけで。

  中でも俺達の耳を引いた話と言えば、やはり今いる神についての話だ。


  特に気になる点は、神が魔物を産み出しているという話である。

  月の民の伝承では昔は世界にそれほど魔物はいなかったらしい。月の女神の加護のお陰という話をしていた。

  しかし月の女神が殺されてからというもの、尋常ではないペースで魔物が増えていったということだ。


  月の女神との戦いで大半の力を失った神は、力を取り戻すために使った方法が人々の信仰心を集めることであったという。

  魔物を産み出し、自身の手で屠り、人々から信仰を集める。

  そしてかつての力を取り戻すため、いまなお人間を利用し続けているというのだ。


  嘘か真かは分からない、しかしそれが事実であるのなら俺達は何とかしなくてはいけないという気持ちになっていた。

  数日程だろうか、集落に滞在した後にお礼もほどほどに俺達は新たな目的の元、旅を続けることにした。

  そして月の女神の無念を晴らしたいと、一人の少年が声を上げた。

  俺達はその少年ロクスを快く迎え入れ、真実を追求する旅に向かったんだ。


  俺達で嬉しい誤算だったのはロクスが紛れもない天才だったということだ。

  最年少だったにも関わらず、既に独自の魔術体系を確立していて、ロクスから教わることも少なくなかった。

  中でもロクスの宇宙魔法『メテオストリーム』は群を抜く破壊力で、まさに禁術と呼びにふさわしい威力。


  ロクスに教えを請い覚えようとしたが結局当時の俺には扱いきれなかった。月の女神の信仰心や、

  宇宙への理解が足りなかったせいだと思う。


  そして幾多の戦場を駆け巡り、神を邪神と呼ぶに値する証拠を見つけ、仲間や協力者が芋づる式に増えていき、

  神への反逆者という一大革命組織が結成されたというわけだ。


  そこからは秘術を編み出したり、禁術に手を染めたりと色々あったわけだが、俺は無事邪神を倒すに至り、

  諸々あって今ここに転生してきたというわけだ。」



 「後半部分は思いっきり端折ったけど、また折をみて話すことにするよ」


  そういいシルフィの顔を見ると瞳からは涙があふれ、グスグスッと鼻を鳴らすように泣いていた。


 「カイト、づらかったんだねええ」

 「そうでもないさ、最後には良いこともあったんだ」


  メソメソと泣くシルフィの頭を撫でながら、俺は過去に思いを馳せていた。

  

(姉さん、シルフィ、アラン、ゴラン、ロクス達は元気で暮らしているだろうか……)


  二度と会うことのできぬ家族、幼馴染、旧友の幸せを願うことしか俺には出来ない。

  手助けをすることも、一緒に喜ぶことも、一緒に泣くこともなにもかも。

  みんな俺の事なんて覚えていないだろう、でも俺は大丈夫さ、一人じゃないから心配しないでくれ。


(シルフィ……)

(こっちの世界には……お前とは同一人物じゃないけど、俺が愛してるシルフィがいるんだから……)


  シルフィの涙を軽く拭ったあと、シルフィを抱き上げ立ち上がる。

  シャワーの水滴が「ピチャン」と涙のように零れ落ちる音を、俺の耳は確かに捉え、

  振り返ることなく俺達はそのまま浴場を後にした。 

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