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「えんとつ」の歌、にんげんの歌

作者: ryure

 はいいろのおそら、「えんとつ」の歌、ちいさな人間の歌。













 ちいさな人間たちは雲のないおそらを見たことがありませんでした。

 とおい昔は空は青や赤や黒だったと昔のご本で知っても、確かに夜のおそらはまっくろだけど、お昼のおそらは宝石のような青でも炎のような赤でもないじゃないかと口々に歌いました。

 ぶおんぶおんと音をたてて、おそらの色と同じ色の「けむり」が「えんとつ」からのぼっていくのが普通でしたから、「えんとつ」の「けむり」がおそらを覆っているなんて当たり前のことでした。


 「えんとつ」はずっとずっと昔からあります。

 ちいさな人間たちはなぜそれがあるのかを知りませんでしたが、ぶおんぶおんと音がするものの近くにいれば食べるものと着るものがあるのは知っていました。毎日毎日「えんとつ」はぶおんぶおんと歌いながら、有り余るほどたくさんの食べるものと着るものをくれましたし、親は子どもに「えんとつ」の近くに住むように教えるのがならわしでした。


 大昔のご本を読んで、青や赤のおそらを見たいといったちいさな人間たちはいつもどこかに旅立っていきました。

 残されたちいさな人間たちは、ここ以外にも「えんとつ」はあるんだから、「えんとつ」の「けむり」のないおそらなんてあるものかと歌いました。


 ぶおんぶおんと「えんとつ」は歌い、ちいさな人間たちはその下で暮らしました。はいいろのおそらのした、「えんとつ」と人間の歌と、はいいろの地面。それがすべてでした。朝と夜。雨とはれ。それだけでした。


 











 ながいこと、ちいさな人間たちは「えんとつ」の下で暮らしました。「えんとつ」はちいさな人間たちの歌う通り、たくさんありました。まるい世界の中にたくさん、たくさんありました。

 ながいながい時間の中で、いつも間にかご本がなくなり、おそらのほかの色の話を知るちいさな人間たちがいなくなったころ、どこかの、ある「えんとつ」が歌わなくなりました。

 その「えんとつ」の下のちいさな人間たちは、仕方がないので別の「えんとつ」のところにいきました。別の「えんとつ」は元気に歌っていましたし、ちいさな人間たちは食べるものも着るものもたくさん余らせていましたから、新しい仲間を受け入れて仲良く暮らしました。


 「えんとつ」はそれから、たまに黙ってしまうようになりました。「えんとつ」が黙るたびに人間たちは別の「えんとつ」へ移動しました。「えんとつ」はたくさんありましたから。

 とおい「えんとつ」までの旅をしたくないちいさな人間もいたので、あんまり人数は増えませんでした。生まれ育った「えんとつ」の下、ここで有り余ったご飯を食べるから、別の「えんとつ」には行きたくないというちいさな人間もいました。

 

 歌う「えんとつ」を求めて旅をするちいさな人間たちは、いつしかずっとずっとはいいろのおそらの色がだんだん変わっていることに気づきました。だんだん、はいいろがうすくなっているなあと歌いあいました。

 旅をして、旅をして、あるとき、どんなにどんなに探しても歌う「えんとつ」がなくなったとき。そのときおそらは真っ黒でした。その日は雨が降っていて、みんなは雨に当たらないように住んでいる人のいない家に入って、外を眺めていました。


 夜だね、雨だね、と旅人は歌いました。朝になれば、どこかの歌わない「えんとつ」のところに行こうか。歌う「えんとつ」探しを諦めたちいさな人間たちはうなずきあいました。

 旅人は並んで寝転がりました。はいいろのおそらになるのを待っていました。

 そのとき、そのときのことでした。

 雨が上がって、おそとが明るくなって。おそらはきらきら光っていました。

 なんだろう、と旅人は歌いました。しろいね、と別の旅人は歌いました。おそらは灰色ではなく、しろい色をしていました。だんだんおそらのはいいろが変わっていることを旅人たちはわかっていましたから、はいいろがうすくなって、とうとうしろくなったんだねと笑いあいました。


 見慣れないお空を眺めながら、「えんとつ」へ向かっていると、ある旅人がおそらを指さしました。

 おそらには、切れ目がありました。一面おんなじ色ではなく、そこだけ別の色をしているのでした。

 青空の切れ目を知らない旅人たちはそれを「おそらのかけら」だと名付けました。初めて見るものでしたが、きれいだったので、みんな欲しくなりました。でもおそらに手が届くはずもないので、せめて近くに行こうということになりました。


 「えんとつ」はたくさんありますから、どこへ行ってもかまわなかったので、旅人のうち何人かは「おそらのかけら」の下の「えんとつ」に行きたいと思いました。

 旅人たちはたくさんの「えんとつ」を回りながら、「おそらのかけら」の歌を広め、旅人は増えていきました。


 そのころ、旅人たちが訪れる「えんとつ」はもちろん全部黙っていたのですが、「えんとつ」に蓄えてあった食料がだんだん減っているという歌をよく聞きました。

 あるとき「ご本」という大昔のものを集めている変わり者が、大昔はご飯を地面からとったんだといいました。変わり者は「たいよう」と「だいち」の恵みの話をしました。

 「たいよう」とはなんでしょう? 「だいち」はきっと地面のこと。でも地面にはざらざらの砂と岩しかありません。それ以外には「えんとつ」しかありません。

 大昔の人はどうやっていたのでしょう? 昔なら「えんとつ」の下に行けば、「えんとつ」がぶおんぶおんと歌いながら「せいたいにんしょう」をしてご飯をくれたのに、と旅人たちは歌いました。


 旅をしてもいつまでも「おそらのかけら」の下には着きませんでしたが、「おそらのかけら」はだんだん広がっていきました。旅人は、いいえ、ちいさな人間たちはどんどん減っていきました。


 「おそらのかけら」がおそらをすべて覆う頃、旅人は「だいち」に不思議な色のものを見つけ、そしてみんな旅をするのをやめました。

ある用途があって書き下ろした短編ですがまるっと書き直したのでここに供養します。

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