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息抜き

日本昔話〜ヘッドショット太郎〜

作者: 揚旗 二箱

 むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。子供のいないおじいさんとおばあさんはすこし寂しいけれど、それでも幸せに暮らしていました。


 ある日、おじいさんは山へ火薬の原料となる鉱石採掘に、おばあさんは川へダイナマイトを使った漁をしに出かけました。

 おばあさんが川にダイナマイトを放り込み耳を塞いでいると、腹の底から響くような轟音と共に水しぶきが立ち上ったあと、川の底からどんぶらこ、どんぶらことドラム缶が浮かんできました。

「このドラム缶には、きっといいものが入っているに違いない」

 そう思ったおばあさんは周りに浮かぶ魚たちと一緒にドラム缶を軽トラックに積み込むと、家に持って帰ることにしました。


 その夜のことです。

「おばあさんただいま。今日は硫黄がよくとれたよ」

 おじいさんが家に帰ると、おばあさんが何やら難しい顔で唸っています。

「どうしたんだい」

「おじいさんや聞いておくれ。今日拾ったこのドラム缶、きっと中にはいいものが入っているはずなんだ。だけどさっぱり開かないんだ」

 おばあさんの手にはひしゃげた缶切りが握られていました。

「どれ、アセチレンバーナーを試してみよう」

 おじいさんは若いころ溶接工だったので、どれだけ硬い金属でもたいていはアセチレンバーナーの火力で溶断できることを知っていました。

 しゅぼ、ごぉぉ。

 おじいさんのゴキゲンなアセチレンバーナーが火を吹きます。おじいさんの読み通り、ドラム缶の蓋に切れ込みを入れることができた、その時です。

「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ」

「おじいさんや、中に赤ん坊がいるよ」

 聴覚保護のための耳栓をしていなかったおばあさんがおじいさんの肩を叩き、異変を伝えました。

「そんなばかな。川底に沈んでいたドラム缶だろう」

「でも確かに聞こえるだろう」

「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ」

 おじいさんもおばあさんもすっかり怖くなってしまいましたが、このまま放っておいて赤ん坊が死んでしまうとたいへんです。おばあさんはバールを持ってくると、おそるおそる、蓋の切れ込みからドラム缶をこじ開けました。

「まあ、本当に赤ん坊だ」

「しかも男の子だ、おばあさん」

 中から出てきたのは生後一ヶ月くらいと思われる赤ん坊でした。額に大きなバツ印と『SHOOT ME!』の文字が刺青してあります。なかなかロックです。

「おじいさん、この子をわたしらで育てませんか」

「いいとも、おばあさん。新しい家族にしよう」

 子供が欲しくても出来なかったおじいさんとおばあさんにとって、それは願ってもない宝物でした。

「この子の名前は、ヘッドショット太郎だ」

 こうして、ドラム缶から生まれたヘッドショット太郎はおじいさんとおばあさんの元で暮らし始めました。


 それからヘッドショット太郎はみるみる育ちました。

 いっぱい飯を食えば10インチ、もう一杯食えばもう10インチだけ成長しました。

 さらにおじいさんとおばあさんは、ヘッドショット太郎が将来自分の身は自分で守れるよう、ライフルと手榴弾の使い方、その他の戦闘、サバイバル訓練を施しました。

 そうするうちにヘッドショット太郎は体躯6フィートあまりの立派な男に成長してゆきました。


「おじいさん、おばあさん。俺、ヤードポンドヶ島に行くよ」

 またある日、ヘッドショット太郎はお気に入りのM16ライフルを担ぎながら切り出しました。

「どうしたんだい急に。ヤードポンドヶ島は危ないところだ」

「おじいさんのいう通りだ。ヤードポンドヶ島にいくのはやめなさい」

 おじいさんとおばあさんは涙ながらに引き止めました。しかし、ナショナル○オグラフィックの特別番組でヤードポンド法が引き起こした悲惨な事故の数々を目の当たりにしたヘッドショット太郎の決意は強固でした。

「みんな、ヤードポンド法で苦労しているんだ。だから俺、ヤードポンドヶ島に行ってヤードポンド法をやめさせてくる。SI単位系に従っていたら防げた事故をこれ以上増やすのは我慢ならないんだ」

 ヘッドショット太郎の熱い説得に、おじいさんとおばあさんはついに根負けしました。

「わかったよ。おばあさん、アレを持たせてあげなさい」

「ええおじいさん。ヘ太郎、これを持って行きなさい」

 おばあさんは中身の見える頑丈なケースに入った、黄色い粉末をヘッドショット太郎に持たせました。

「それを見せてお共になってくれる人を集めなさい。きっとヘ太郎の身を守ってくれるよ」

「ありがとうおじいさんにおばあさん、それじゃあいってくるよ」

「予備の弾薬はたんまり持っていくんじゃぞ」

「わかってるさ」

 こうしてヘッドショット太郎の、ヤードポンド法を滅ぼす旅が始まりました。


 道すがら、ヘッドショット太郎は白衣の怪しい男に声をかけられました。

「そこのアンタ、腰に下げているそれは」

「これがわかるのか、なら話は早い。俺のお供になってくれないか」

「もちろんだ。イエ、その腰の黄色い粉を自由に使えるなら、喜んでついていくとも」

 ヘッドショット太郎は白衣の男と契約を交わし、共にヤードポンドヶ島に向かいます。


 さらに行くと、今度はオタク風の怪しい男に声をかけられました。

「も、も、もしかしてお主ら、その腰のを試しに行くのか」

「これがわかるのか、なら話は早い。俺のお供になってくれないか」

「この粉ならわたしがさらに濃縮できる。いまは弾頭の製造知識がある者を探しているんだ」

「そ、そ、それなら拙者、心得ているでござる。ぜ、ぜ、ぜひお供にしてほしい」

 ヘッドショット太郎はオタク風の男と契約を交わし、共にヤードポンドヶ島に向かいます。


 さらにさらに行くと、はたまた軍服を着た怪しい男に声をかけられました。

「ちょっとよろしいかな。諸君らが運んでいるその弾頭はなんだ」

「これがわかるのか、なら話は早い。俺のお供になってくれないか」

「これはわたしが濃縮した"物質"を」

「拙者がこしらえたものでござるよ。理屈上歩兵で運用可能でござるが、肝心の砲がないんでござる」

「それなら吾輩のデ、泥尾君ロケットを使うといい。吾輩が撃たなくてもよいなら、ぜひお供にしてほしい」

 ヘッドショット太郎は軍服の男と契約を交わし、共にヤードポンドヶ島に向かいます。


「あれが、ヤードポンドヶ島」

 ヘッドショット太郎はヤードポンドヶ島から1094ヤードほど沖に浮かぶボートの上で、M16ライフルを構えました。

「あなた、そこから狙撃する気ですか」

「む、む、む、無理でござるよ。スペック的にムチャでござる」

「吾輩のいた軍でも、その銃で狙撃をするような輩はいなかったがな」

「いや、わかるんだ。俺には」

 ヘッドショット太郎には天性の才能がありました。

 まず、上陸前にボートの上から沿岸部を警備する10フィートはあろう大鬼の眉間に一発一発銃弾を叩き込みました。さらに異常を察知して出てきた増援部隊を、ボートのエンジンを全開にして接近しながらさらに狙撃していきます。ヘッドショット太郎は揺れる船の上から次々と弾丸を叩き込み、その全てがヘッドショットでした。

 上陸後、お供達と協力してバッタバッタと大鬼どもをなぎ倒します。接近されてすら、ヘッドショット太郎の銃弾は1インチの狂いもなく大鬼の眉間へと吸い込まれていきます。

「思い知ったか、ヤードポンド鬼どもめ。お前らの居場所はこの世ではない、地獄だ」

 アドレナリンとガンパウダーですっかりハイになりながらも、ヘッドショット太郎は大鬼の殲滅を続けました。そして最後の鬼を倒した、その時です。

「ヘ太郎、アレを見ろ」

 白衣が指差す先を見上げると、なんとそこには3000フィートはあるのではないかと思われる巨大な鬼が立ち上がっています。ヤードポンドヶ島に隠された最終兵器のようです。背には大きなミサイルを背負っており、すでに発射態勢にあるようです。

「ど、ど、どうするでござるか。アレを止めないとこの国は終わりでござる」

「足だ。足に泥尾君ロケットを撃ち込み、この島ごと爆発させるしかない」

「しかしそれではわたしたちも巻き添えになるぞ。頭に当てればまだ助かるかもしれないが」

 お供がうろたえる中、ヘッドショット太郎は冷静に泥尾君ロケットを担ぎました。

「ヘ太郎殿、まさかお主は」

「俺はヘッドショット太郎、あれだけでかい的、外すわけがない」

「しかしヘ太郎、その泥尾君(デイビクン)ロケットはおばあさんがくれた黄色い(ケーキ)からできた大切な一発だぞ」

「吾輩達の最後の切り札なのだ、外したらおしまいだ」

 それでも、ヘッドショット太郎は笑います。

「もろとも巻き添えなんて俺はごめんだ。俺はおじいさんとおばあさんに鍛えられた兵士なんだ、帰還報告(デブリーフィング)の義務があるんだよ。だから、外さない」

 ヤードポンド法よ、さらば。

 ヘッドショット太郎は引き金を引き、みんなで作った絆の弾頭はまっすぐ、巨大鬼のアゴへと吸い込まれていきました。


 その日、向こう岸からは大きな大きなキノコ雲が見えたそうな。

 だいたい1500メートルくらいはありそうな、大きな大きなキノコ雲。

 それはヤードポンド法の終焉を知らせる祝砲でした。

 それから、鉛のベストを着ていたヘッドショット太郎達は無事におじいさんとおばあさんのもとへと帰り、ピカピカのメートル原器とともに、幸せに暮らしましたとさ。

語感だけで走り出すのは、正直嫌いじゃない。

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