表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sunrise of silver world ~八八艦隊組曲~  作者: 花桃院少将
1章:八八艦隊行進曲
7/8

第5話 栄光への航路

1941年12月、トラック環礁近海において連合艦隊は大勝


このニュースは瞬く間に全国へと広まった。


戦艦4隻撃沈2隻撃破


申し分の無い大勝利である為、大本営発表は事実に即したものであった。


この結果に国民は沸いた


全国で提灯行列が行われ、お祭り騒ぎである。


誰もが無敵皇軍の強さに酔いしれ、輝かしい未来を疑わない。


しかし、このお祭り騒ぎにおいても慢心せずに己の成すべきことをしていた男達が僅かいた



横須賀、海軍航空技術廠



「335計画の進捗はどうだ?」


「芳しくありませんナァ……開発にはもう少しかかりそうです」



「仕方あるまい……これまでとは設計思想が全くことなる『迎撃機』なのだからな」


吉田の視線は図面へと向けられる。


そこには奇妙な形状の戦闘機が描かれていた。


プロペラが機体の前部と後部に付いており、『震電』を越える異質さを感じる機体である。


「山本よぉ……任せとけ2年以内にはモノにしてみせるからよ」


「すまない……吉田、結局お前頼りだ。」


「良いって事よ、お前はお前にしかできん役割がある。………ただ次は良い酒を持って来てくれれば嬉しいがな、ガハハ」






昭和16年12月30日早朝 連合艦隊旗艦『開陽』甲板


「連合艦隊総出の出撃日がこんな悪天候じゃなあ………」

12月の底冷えする寒さの中、僕は思わず悪態をつく。


そんなこと(長官の士気)より問題なのが接触事故。」


しかし横にいる黒髪の少女は朝の空気より容赦がない。


「まあ確かにそうだけれど………。ちょっとひどくない?芍薬。」


「あんたの都合なんて知るもんですか。」


取りつく島もないとはまさにこの事である。


「芍薬?あんまり長官を困らせちゃダメ。」

そんな時に救いの手を差しのべてくれたのは………


「お姉様……だって………」

「あまり長官を困らせるとあの事言っちゃうよ?」


「ちょっとお姉様!!あの事ってもしかして」

我らが旗艦『開陽』の艦霊である白菊である。

さっきから生意気な口を叩く黒髪の少女は『開陽』の姉妹艦の『黒姫』の艦霊である芍薬だ。


『開陽』型戦艦は旧式化しつつある長門型戦艦の代艦として、次世代型戦艦である加賀型代艦の為の新技術を試験する為に建造された試験的戦艦である。


基準排水量は60.000トン 

主砲は次世代艦の試験として41センチ砲を3連装砲にしたものを4基搭載している。

また、長口径主砲の運用実験艦として帝国海軍で唯一50口径砲を搭載している。


速力は艦の延長とディーゼルエンジンの併用によって理論値30ノット、公試時には30.6ノットを叩き出し、波が穏やかな海面かつ軽量時には31ノットを越える速力を出せる。


さらに艦首には新開発のバルバス・バウ(球状艦首)が採用され、造波抵抗の向上に寄与している。


また、装甲部には電気溶接が用いられており、『八八艦隊計画艦』の後継艦としてこれまでの日本戦艦とは一線を画す存在である。

その装甲は部分的に長口径18インチ砲の直撃にも耐えうる。


そのネームシップである『開陽』は艦霊の性格を反映したのか非常に素直な艦なのだが……


『黒姫』の方は……


「何よ、私に文句あるの?」


はっきり言って非常にじゃじゃ馬である。

噂によれば、あまりに機関等が素直でないので『御令嬢黒姫様』という渾名までついているらしい。


「いや、全艦無事で帰って来て欲しいなと思ってな…」


司令長官としてはあるまじき考えであろう

彼女達の存在意義にして宿命は戦う事。


相手が存在する以上、損害は必ず出る。


「ふんっ!私の長槍(長口径16インチ砲)で皆守ってあげるわ、私の優しさに感謝しなさいっ!!」


口が悪いのには変わりがないが、白菊の妹なだけあって仲間思いなのは嬉しい。


「長官、そろそろお時間です。」


「ああ、そうだったな」

できれば豊後水道を超えて、本土が見えなくなるまで景色を眺めていたかったが、そうはいかない


もしかすると、本土を拝める最後の機会かも知れないので後ろ髪引かれる思いで艦内へと戻る。


先日、欧州方面から新たな情報が入った。


ナチスドイツが大規模な艦隊を編成して英国本土への上陸の意思を示しているそうだ。


1939年のドイツ軍によるポーランド侵攻より始まった第二次世界大戦は史実とは異なる様相を呈した。


瞬く間にフランスを制したドイツ軍は史実とは異なる艦隊を以てイギリスへの本土上陸を企図したのである。


北海ヘルゴランド島沖でドイツ海軍と衝突した英国本国艦隊。通称A部隊はセントアンドリュー級戦艦4隻を基幹として編成されておりイギリス最強の艦隊と呼んで差し支えなかったものの、最新鋭のフリードリヒ・デア・グローセ及び、アンハルト・デッサウ級戦艦2隻を擁したドイツ海軍主力艦隊の前に敗北を喫した。


この海戦において、ドイツ海軍側も損傷艦が多く本土上陸こそできなかったものの、『セント・パトリック』及び『セント・デーヴィッド』、アドミラル級巡洋戦艦『フッド』を失った英本国艦隊にドイツ海軍の跳梁を抑止する力は大幅に減退した。


そしてドイツ海軍主力艦隊の損傷艦が戦列復帰し始めた今、ヒトラー総統は好機と捉えて新鋭の『クローズ・ドイッチュラント』及びアンハルト・デッサウ級1隻が更に加わった艦隊を用い、英残存艦隊を撃破して英本土上陸を企図したのである。


史実におけるソ連侵攻作戦が行われていない以上、陸軍戦力には余裕があるので一度上陸に成功すれば英本土の失陥は大いにあり得る。


「天城型の情報を渡したのは失敗だったかも知れないな……」


『開陽』の廊下を歩きながら後悔とも言える言葉がつい出てしまう。


天城型戦艦は八八艦隊計画の基幹とも言える戦艦である。

加賀型と同等の攻撃力を備え、長門型以上の防御力を持つ巡洋戦艦として計画され、天城型の設計は紀伊型戦艦に大きく影響している。

天城型を元に運用に支障をきたさないレベルで速力を削り、防御力を新技術を用いて飛躍的に向上させたのが紀伊型戦艦なのである。

つまり、天城型は八八艦隊の大部分の艦にとって影響しており完成形でこそないものの前期八八艦隊における到達点と呼べる艦なのである。


ドイツ帝国の高度な技術を手に入れる為にバーターとして出せる技術は第一次世界大戦によって大幅に衰退した戦艦設計技術しか無かったのである。


(史実に無い強力な戦艦を得たドイツ帝国は脅威としか言えない。でも……それよりも)


艦橋へと向かう途上、海図室へと立ち寄る。


今回の作戦海域の地図を眺める。

(フィリピンには第三艦隊……グアムとウェーク島には第一艦隊と第一航空戦隊を向かわせるか……幸いにも英国は中立だ。)


宮様のお陰で『健全』な軍令部による方針は、第一にフィリピン・グアム・ウェーク島の攻略、第二にマーシャル諸島の救援と基地機能の強化だ。おそらくその間に米国太平洋艦隊が侵攻してくるので、第一段階作戦終了後に第一・第二艦隊はトラック環礁へと集結する。


第一段階作戦において、第一艦隊がウェーク島及びグアム占領を援助し、第二艦隊はトラックにおいて修理と補給を行う。


そして集結した艦隊は一路マーシャル諸島へと向かい、アメリカ合衆国太平洋艦隊と戦う事になる。


(さて……とりあえず猟犬(TF2)は潰した……騎士(TF1)狩人(TF3)はどう出るか?だな。)


トラック環礁沖海戦は遭遇戦であった事に加えて旗艦及び戦隊司令部座乗艦を撃沈している事を捕虜から確認し、ウィリアム・パイ中将及び、アイザック・キッド少将の戦死を確定視している。その為太平洋艦隊ではTF2の上げた戦果を詳細に得られていない。

これは第二艦隊の後退を前提に侵攻計画を大統領府が考えていることから明らかだ。


その為、第二艦隊は修理・補給の名目は本当だが米国の監視から見えない状態にすることで第二艦隊を戦線離脱させたかのように扱う。


そしてウェーク島の攻略には第一航空戦隊に加えて第三艦隊第七戦隊から分遣隊として『比叡』『霧島』を派遣することで、あたかも不足した巡洋戦艦を補うかのような行動をする。


「これで釣れれば良いのだが…『合力を以て分力を撃滅する』か……これほど難しい事は無いな」


海図室を出た男はぼやきながら、艦橋へと続く階段を登るのであった。




日米の決戦兵器(ヒロイン)が太平洋の覇権を巡って再び戦う日も近い

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ