表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sunrise of silver world ~八八艦隊組曲~  作者: 花桃院少将
1章:八八艦隊行進曲
3/8

第1話 『一式艦戦』雄飛ス

昭和16年12月23日 大日本帝国領 トラック環礁沖 190浬

空母『エンタープライズ』艦橋


「貴様らならジャップの戦艦を一隻残らず水葬に出来る……グッドラック!」


指揮官専用の椅子に腰掛けながらそう訓示して攻撃隊を見送るのはウィリアム・ハルゼー中将である。


「全くスタークの野郎もとんでもない計画を立てやがる。……だが面白い。」

彼が毒づいているのはアメリカ海軍の作戦部長であるスタークの事である。


開戦後すぐに日本の中部太平洋における根拠地トラックへの奇襲を考え付いたのは彼だからだ。


スタークはこの案のメリットとして

「日本は我々の『オレンジプラン』に対抗する“オペーレーションゼンゲン“に重きを置いている。その為まともに戦っていては、戦力をすり減らされるのみ。」


「高速のレキシントン級を擁したTF2と空母部隊を組ませて、夜間に高速で接近し早朝からの空母部隊の空襲で混乱してトラックから逃げ出した所をレキシントン級が長口径16インチ砲で叩く」


「日本軍は主力となる『八八艦隊』の半数しかトラックに駐留させていない。レキシントン級は6隻しか無いが空襲で補助艦艇を叩けば圧倒的有利となる。」


「八八艦隊の半数を叩けば、仮にレキシントン級が半数失われたとしてもサウスダコタ級・コロラド級・ロードアイランド級は無傷であるため、戦艦数の有利は揺るぎない。」


「日本の旧式戦艦は英東洋艦隊への対抗上、南方に配置されると予想される」


これらの予想と計画を大統領は是とした為、ハルゼーはここにいる。


そして彼は本来合衆国海軍のTF1に属する空母『エンタープライズ』『ワスプ』の指揮官であった。

しかし、作戦の都合上彼は現在TF2に属する空母『ホーネット』『ヨークタウン』を指揮下におさめている。


「チッ……『エンタープライズ』だけならこんなにモタつく事はなかったんだが……」

攻撃隊を見送ったハルゼーは癖なのか悪態をつく。


このTF1・2合同の空母部隊(便宜上TF12の名が付けられている)の編成にも一悶着あった。

このTF12の本来の編成では『エンタープライズ』『ワスプ』『ホーネット』『ヨークタウン』が想定されていた。


しかし、『ワスプ』がサンディエゴ沖で座礁してしまった為に『エンタープライズ』『ワスプ』の群と『ホーネット』『ヨークタウン』の群に分かれて攻撃を行う作戦に齟齬をきたしてしまう。


『ヨークタウン』『ホーネット』は『エンタープライズ』より就役してから日が短く、『エンタープライズ』攻撃隊が発艦準備を終えたとしても『ヨークタウン』と『ホーネット』を待たなければならなかった。


故にハルゼーは不機嫌だったのである。

ただし、奇しくもこのモタついた時間が作戦の結果に影響するとはまだ彼は知らない。




大日本帝国領 トラック環礁 春島


夏の夜明けは早い。

既に空は白んでおり、もうすぐ曙光が滑走路を照らそうとしていた。


そこでは機体の最終調整が大わらわで行われていた。


「急げ!あと少しで敵は来るぞ!」

ほとんどの機体の最終調整は済み、既に大半の機体がエプロンへと並べてあり、あとは離陸命令を待つのみであったが、整備班長は焦っていた。


一部の機体でエンジン不調が見つかったからだ。


ーーーー三菱 一式艦上戦闘機11型

実践配備が開始されたばかりの新鋭機である。


離昇出力1160馬力の史実よりも強力な発動機『栄』を搭載し、最高速度は時速555km/hに達する海軍期待の戦闘機である。


この機体については紆余曲折あった。

海軍としては新型機の要求性能として空戦性能と航続距離・速度・武装をこれまでの九六式艦上戦闘機より凌駕した戦闘機を欲していた。


しかし、どうしても要求性能を満たす為には弾数と防御力を犠牲にしなければならない。


しかもその要望を踏まえた試作機はテストにおいて急降下時に空中分解してしまう事故が発生してしまう。

その為、この機体は史実とは違う形で誕生することになった。

空戦性能と航続距離を多少犠牲にする代わりに、速度・強度・武装を強化したのである。


そして産まれた期待の新鋭機だが、新鋭機にはどうしても初期不良が存在する。

今回もそれに類するものだった。


15分、それが遅延した時間。


間に合うかは微妙な時間であった。



大日本帝国領 トラック環礁沖 50浬

第二艦隊旗艦『赤城』


8隻の巨艦が堂々たる単縦陣を成してまだ明けきらぬ空を尻目に粛々と航行していた。


最先頭を進む巡洋戦艦の艦首、列強の中で最も流麗な艦首と称えられたその場所で一人の女性が腕を組んで前を見据えていた。

明けの明星の様な金髪に、さらに南方の珊瑚海(コーラル・シー)の様なエメラルドグリーンの瞳。


彼女の名は『紅葉(くれは)』もちろんただの女性ではなく『赤城』の艦霊だ。


「さて……我が主の言う通りに敵は来るのだろうか?…いや、愚問だな。」


第二艦隊のみがこの海域に居るのは理由がある。

それは、2週間ほど前の事であった。


連合艦隊司令長官の山本勝弘大将はこう予想した。


ーーーー敵は開戦直後にトラックを叩く  と


その発言を聞いて幕僚や各艦隊司令官は唖然とした。

しかし、山本は続けてこう言う。


何故ならば理由は簡単だ。


日本の対米戦略としては専守防衛の『漸減作戦』にある。

しかし、日本には守るべき場所が多すぎる。


日本本土・パラオ・トラック等々。


そのすべてを守るためには日本海軍は戦力を分散させなければならない。


今は、ほとんどの艦が呉に集結しているが、


本土に第一艦隊


トラックに第二艦隊


南方に第三艦隊


というのがアメリカ側が予想する妥当な艦隊配置だろう。

事実、この艦隊配置は上層部から厳命されている。


「宮城を危険に晒すな」と


つまり敵は我々が兵力分散をせざるおえない状況を知っているのだ。


ならばどうするかは自明の理だろう?


我々の分力を全滅させるのだ。


その証拠にーーーーと


山本は真珠湾駐在の諜報員からの電文を見せる。


「本日、空母ヨークタウン・ホーネット・エンタープライズ出撃。喫水深シ」

「本日未明ヨリ、レキシントン級巡洋戦艦ノ姿見エズ」


山本が語り終えた時、司令部は静寂に包まれていた。


早急に対策を考えるべきであると誰もが考える。


しかし、巡洋戦艦6空母3の艦隊がトラックに向かうとは限らない。


パラオかもしれない。日本本土かもしれない。

どちらにしても兵力分散を強いられる。


しかし、山本は焦らなかった。

こう言う


だがしかし、我らにも勝機はある。


敵も分力だ。と


そもそもレキシントン級巡洋戦艦はカレイジャス級の大型巡洋艦と同じ運用思想で設計されており、高火力・超高速・軽装甲をコンセプトとしている。


奇襲攻撃を行う艦としては最適であるが、万全の状態である同格の赤城・戸隠型を相手に正面から戦闘を行えば防御力の面から不利である。


レキシントン級の装甲はどうあがいても41cm砲どころか36cm砲に耐えられるかすら怪しいのだから。


しかも、水路情報が不確かな上狭い環礁内に高速で機動性の優れたレキシントン級を投入することはあり得ず、大方空襲から逃げ出した第二艦隊を叩く為に環礁外で待ち伏せている筈だ。


そこに付け入る隙がある。と


第二艦隊は環礁外で待機し空襲をやり過ごしながらレキシントン級を見つけて撃破する。


レキシントン級の最大速力は34ノットであるが、個艦の最大速力が艦隊平均速力になる訳でもなく、駆逐艦の燃料問題から考えても第二艦隊の方が追撃速力が早く捕捉撃滅が可能であるからである。


トラックの防空はニューブリテン及びニューアイルランド島侵攻後に現地で任務につく予定の、最新鋭戦闘機を装備した台南航空隊が行う。


基本が防空戦闘である為に台南航空隊にはうってつけの仕事だ。


かくして日本側の対抗策は決定した。


「敵は必ずここに居る。………血が騒ぐな。」

舞台は再び『赤城』に戻る。


曙光は既に『赤城』の仏塔を思わせる上部構造物を照らしている。

恐らく本拠地であるトラック環礁では既に激しい制空戦が始まっているだろう。


既に第二艦隊各艦からは『一式水上偵察機』が発艦し、索敵任務に就いている。


そして『紅葉』の言葉を証明するように無線封鎖を破って一つの報告が届く


『戸隠3 トラック東60浬ニ敵艦見ユ 戦艦4以上 巡洋艦3 駆逐艦多数 0645』


艦橋において第二艦隊司令部が色めきだつのを感じた紅葉は


「さあ………始まるぞ」

笑みを浮かべるのであった。




06:35 大日本帝国領 トラック環礁上空付近

『エンタープライズ』所属 戦闘機(F4F)隊隊長 マイケル・マコーミック中佐


彼の指揮する戦闘機隊は機銃掃射による敵機破壊を主任務とする筈であった。


奇襲の手筈はこうだ。

錬度高い『エンタープライズ』隊を中心とした雷撃隊が春島泊地を空襲すると同時に戦闘機・錬度の低い『ヨークタウン』『ホーネット』隊の急降下爆撃機が春島等に存在する飛行場を破壊する。


そして、敵艦の交戦能力を奪ってから水平爆撃隊や急降下爆撃隊が春島泊地に存在するであろう艦隊に攻撃を行う。


しかしその前提が崩れた。


「クソっ!ジャップの奴ら感づいてやがった!全機散開(ブレイク)


トラックまであと少しという所で、突如として飴色の戦闘機群が襲いかかったのである。


この時まで米軍が知っていた日本海軍の主力戦闘機といえば九六式艦上戦闘機(クロード)であった。

しかし、目の前の戦闘機は明らかに違う。


飴色に塗装された空力的にも洗練された機体に、サムライ・ソードを彷彿とさせる鋭く捩り上げられた翼。


この時、米軍側の戦闘機が第一次攻撃隊100機中の30機そこそこなのに対して未知の日本戦闘機の数はおよそ40機。

これに米軍は護衛としてのハンデがつく。


予想外の展開であったが、彼らもプロであった。

効果的な攻撃にならない事は目をつぶって全滅を避けるために編隊を解散したのである。


しかし、その解散は少しばかり遅かった。

上空からの高度を生かした奇襲によって第一撃で20機が撃墜され、10機が撃破されたからである。


「「ジャップゥゥゥ!死ねええええええ!」」

たった今目の前で護衛するべき僚機を撃墜されたF4F隊は恐慌状態に陥って、そのまま乱戦へともつれ込む。


「落ち着け!我々は護衛だ!」

マコーミックは必死に隊内無線で呼び掛けるが、ほとんどのパイロットが初の実戦であるために視野狭窄に陥っている。


そして………


「しまっ………」


突如として前に現れた飴色の戦闘機にマコーミックの顔が恐怖に染まる。

その一秒後には敵機主翼に発射炎がみえると同時に20mm弾が風防ガラスを叩き割る。


マコーミックは絶叫すらあげることを許されずに、その意識は永遠の暗闇に落ちた。




『エンタープライズ』急降下爆撃隊(SDB) ウィリアム・パイク中尉


未知の戦闘機に追いたてられ、編隊はバラバラになりながら辛くもトラック環礁への侵入に成功していた。

今彼と飛んでいるのはSDBが3機 TBDが4機にまで減らされている。


「ジャップめ………よくも」


航空機後進国である筈のジャップは恐るべき戦闘機を投入していた。

F4Fよりも素早く動き回り、機関砲が火を吹けば重装甲で知られるF4Fを一撃で叩き落とす。


上層部どころか自分達の誤認で、幾機もの仲間が犠牲になった。


ーーーー俺たちは死んだ仲間の為にもジャップの艦隊に100倍返しをしてやらなければならない。


その執念のみで数を大きく減らした攻撃隊は春島へと向かう。


(果たして奇襲を予知して戦闘機を配置していたジャップが無防備に艦隊を晒すのか?)


そんな疑問がふとパイクの脳裏によぎるが、すぐに打ち消す。


(そんな事は無い!海軍上層部が少なくともジャップに劣っている筈なんてない!)


そう自分に言い聞かせて機体を運ぶ。


しかし………


「嘘だろ…………」

恐れていた最悪の事態。


「何故居ないんだ……」

ジャップの艦艇は小型を除き、一隻すら無かった。


パイクがしばし呆然としていると……

「右後方!敵機(ボギー)!」


見張り員で相棒のスミスが悲鳴のような声を上げる。


後方にはあの恐るべき飴色の新鋭機が12機

奴らは4機いたTBD隊を撃墜した後、返す刀で上昇してくる。


「逃げるぞ!」


パイクはフットバーを蹴ると、爆弾を棄てて機体を身軽にする。

僚機も同じようにして少しでも機体を速くしようともがく。

これがもし九六式艦上戦闘機(クロード)であれば彼らは逃げられたかもしれない。


しかし…


敵機(ボギー)接近!速い!」

もうスミスは半ば叫びながら言う


1160馬力の『栄』は史実よりも強力な上昇能力を発揮し、瞬く間に距離を詰める。


そして10数秒後


「敵機発砲!」

空の巨砲たる20mm機関砲が火を吹いて僚機2機は瞬く間に操縦士の頭を割られ、炎に包まれる。


パイク機も必死に左右へのバンクでの回避やブローニング12.7mm機銃での反撃を試みるが……


「敵機側面!」

横合いより突入してきた戦闘機の機首7.7mm機銃弾が風防を貫いたのが、彼らがこの世で目にする最後の光景であった。


かくして、米軍の第一次攻撃隊は半数以上の機体を失い、生き残った機体の半数も破棄せざるを得ないなど壊滅的な損害を受けて、攻撃は失敗に終わったのであった。


しかもこの光景は数十分後に来襲する第二次攻撃隊でも見られるのである。


だがしかし、この南国の島での戦いはこれが全てではない。

むしろ前哨戦に過ぎなかった。


何故なら海上での決戦は戦艦によって行われる。


東方海上では日米両国の決戦兵器(ヒロイン)同士の戦いが始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ