魔王四天王をクビになったので、勇者に養ってもらおうと思います
「お前は『クビ』だ……」
「え、なに急に?」
ベッドの上でゴロゴロしていたアーシアは、不意にやってきた上司(魔王)の言葉に驚いた。
アーシア・フェブラリー―『魔王軍』に所属する四天王の一人――と言っても、世界的に見たら『魔王』を名乗る人は結構いるらしい。
それでもそれなりの立場ではあるのだけれど。
「急に、ではない。前々から考えていたことだ」
こもった声で、全身に鎧を着込んだ魔王が言う。
いつも鎧を着ているために、「暑くないのかな?」とよく部下に聞いては苦笑いされたことを思い出す。
「私、なんか悪いことした?」
「違う。悪いことはしていない。お前は、何もしなさすぎるのだ……! 命令を下しても早々には動かない。今だって、勇者の対策に動いてくれと言ったのに、ベッドの上でゴロゴロしているではないか……!」
「そういうのは部下に任せてあるからね!」
「その部下からどうしようもない、と連絡を受けているのだ! お前に任せた地で生まれた勇者は、並々ならぬ力を持っている……分かるか?」
「いや、見たことないから……」
「そういう意味の『分かるか』ではない。そんな勇者を放置しているお前が問題なのだ。お前には、勇者を倒せるだけの力があるだろう!?」
「えー、ないない。私ってただの『サキュバス』じゃん? 勇者って『魅力』が効かないからたぶん勝てないと思うのよね」
そう、勇者が来ていることは知っていた。
しかし、アーシアは勝てない可能性についても分かっている。ならばどうするか――来るまではゴロゴロしておくのが正解ではなかろうか。
どうせ勇者は来るのだから。
「な、何のためにお前を四天王という立場においたと思っている!?」
「んー……?」
アーシアの言葉に動揺した様子の魔王を見て、考える。しばし考えたあと、
「可愛いから?」
目一杯の可愛いポーズをして、申し訳ない感を出してみた。結果は――クビだった。
***
「それで、私のところに来た、と?」
怪訝そうな表情でアーシアを見るのは一人の少女。
アーシアの元領地で勇者として頭角を現したという子だ。
アーシア自身は初の対面で、彼女から見ても全く同じだろう。
「えー!? めっちゃ可愛い子じゃん!」
「っ!?」
アーシアの言葉に、勇者の子は明らかに動揺した素振りを見せる。
「な、何を言っているのですか……!? いきなりやってきてか、可愛い、などと……!」
反応も可愛い。
勇者がどんな子か一目見ておこうと思ってきたアーシアだったが、想像以上に好みのタイプであった。
顔立ちもよく、『勇者』らしく戦いに対しての迷いがない。黒髪を後ろに束ね、鎧に身を包んだ姿は『真面目な騎士』を連想させる。
だが、真面目であるが故に、勇者という立場であるが故に――『可愛い』と言われることに耐性がない。
それは、アーシアのストライクゾーンであった。
可愛いものが好きで、強い人が好き――それで、養ってくれるなら最高である。
アーシアは、すぐに一つの提案をした。
「あなたは可愛いよ。それでね、可愛い勇者ちゃんにお願いがあるんだけど……?」
「お、お願い、ですか? 私は可愛くなどはないですが、お願いの内容くらいは、聞いてあげてもいいです」
素直で可愛い。
しかし、警戒はしているのだろう――抜き去った剣は構えたままだ。
それに対して、アーシアは一切の構えを取らないままに、ゆっくりと勇者へと近づく。
そして、上目遣いで言い放つ。
「このままだと人間社会でも魔族社会でも生きていけないから、勇者さんに養ってもらいたいなって」
「……は? や、養う、ですか?」
「大丈夫。三食昼寝付きなら文句言わないから」
「な、何が大丈夫なのですか!? 私には使命が――」
「私は元魔王軍の四天王だよ。魔王城までの安全な道のりとか、なんだったら城内の案内までできるよ? その見返りとして養ってほしいなぁって。可愛い勇者さんに!」
「か、可愛いと言わないでくださいっ! とにかく、そんなお話なら受けられませんっ」
怒った表情を見せて、勇者はアーシアの元から離れていく。
そんな後ろ姿を見送り、
「……もうちょい押したらいけそう」
そう思うアーシアであった。
メモ帳に残ってたので短編として置いておきます。