黒
帰り道の大きなオレンジ色の夕焼けは真っ黒な円盤に見えた。鮮やかな青色の海はまるで真っ黒の絵の具のように見えた。
あーあ。明日は何色の世界が待っているんだろう。
彼の名前はたくと。南高校の2年生。可もなく不可もなくといった極普通の男子高校生。ただ、ひとつだけみんなと違った。彼の目に映る色は、その時の感情を表すものだった。ハッピーな時には空がピンクや黄色に見えたりした。でも、憂鬱な気分の時には真っ青に包まれた。でもそれは彼の目だけに映るもので、他の人からはそうは見えない。そしてこのことはたくと本人しか知らない。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴った。席に着いた僕はぼーっと空を眺めていた。鮮やかな青色のはずの空には色がなかった。白く濁っている。今日の天気予報では快晴だったのにな。
「おい。何ぼーっとしてんだよ。外に可愛い女の子でもいんのか?」
「ちげーよ。なんもねえよ。」
白い歯をきらりと輝かせてニカッと笑っている彼はたくとの唯一の友達だった。名前はそうま。
「なあ。今日ハンバーガー食いに行こうぜ。」
本当はハンバーガーは嫌いだ。僕は和食が好きだ。ジャンクフードは身体に悪いから食べたくなかった。
でも、そんなことよりもたった1人の友達を失うのが嫌だった。
「おう、行こーぜ。」
そうまの真っ白な歯が、まるで大きな虫歯にでもなったかのように黒く見えた。
学校が終わった。みんなは部活に励んでいる。僕は帰宅部。希望も夢もなんにもないからね。
そうまは華やかなサッカー部。水曜日は週に1回の休みで、残りの6日間は夜の7時過ぎまで汗を流している。エースのそうまは格好が良く、優しくて、なんでも出来る。男女関係なくみんなから愛されている。僕なんかとは正反対の人間だ。そんな僕なんかと仲良くしてくれるのはなぜだろう。考えれば考えるほど頭の中が糸くずのようにぐちゃぐちゃに絡まる。うっすらと僕達の間に壁が見える。こんなこと考えてるのは僕だけなのかな。そうまは僕のことどう思っているんだろう。さらに糸くずが絡まる。街の看板は全部緑色に染まっていた。
「チーズバーガーひとつください!あとコーラも!」
「僕はオレンジジュースだけでいいです。」
「え?お前そんだけしか食わねえの?失恋でもしたのか?なわけないかぁ笑」
なんだかイラッとしてしまった。
「俺ハンバーガー嫌いなんだよ。お前が行きてえって言ったから合わせてやったんだよ。」
こんなこと言うはずなかった。口が脳より先に進んでしまっていた。
「なんだよその言い方。嫌なら来んなよ。」
そうまはハンバーガーを片手に飛び出して行った。
あーあ、またやっちゃったよ。
こんな些細なことで喧嘩になってしまうとはね。
何やってんだよおれ。馬鹿だな。
また自分を責めてしまった。まだ夕方なのに、僕だけは真夜中にいるみたいだ。イルミネーションの一つや二つでもついてくれればいいのにな。