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六階の異世界  作者: 駒津榊
7/10

おしまい

仕事が少し忙しくなってきて、異世界についてあまり考えないようにしていた。

仕事がだんだん面白くなってきて、異世界よりも興味が移ってしまったからだ。

いつでも6階のボタンを押せば、異世界に飛べるのだから。

それでも二週間に一回は、異世界が拡張しているかどうかを確認するために(という口実で)

異世界に行き、疲労を取っていた。

AIは現れなかった。でも勝手に来ても排除されないのであるならば、別にいいだろう。

朝、新宿は雨だった。

土曜日、午後から出社するから、それまで少し考え直してみる。

異世界は現実世界に干渉し始めている、とすると、

この新宿にも異変が起こり始めているんじゃないかな、わからないけれど。

あの6階の階段から入ったら、また違うのかも。

午後、階段を上って扉を開けた。

屋上、昨日から降っていた(とテレビで言っていた)雨で水たまりができていた。

変化なし。

「うーん、なんでだー」

階段を下りながらぶつぶつ独り言をつぶやく。

どうしてだろう。あの風の気配がしない。

仕事を終える。いい感じに仕事が回ってる。

だから、異世界にそんなに気に掛けなくなった。

「異世界のおかげかも」

PCの画面に向かってつぶやいた。

今日は6階行きのエレベーターに乗らなかった。

同期とお酒を飲みに行って、なぜ仕事がうまくいくのか聞かれたけれど、

いっていいことかどうかわからなくて、適当にかわしてしまった。

同期も愚痴を聞いてほしそうな感じで聞いてきたから、

取り立てて答える必要がなかったのがありがたかった。

お酒が少し入った状態で外を歩くのは楽しい。

私はロング缶(コンビニで買ったおつまみをカバンにいれて)を片手で挟みながら、

路地裏で女の子と男の子がいい感じになっているそばを素通りし、月を仰ぎながらぼーっと歩きながら考える。

そういえばあの時もお酒が入っていた時だった。

良い時間だし、行こうかな。

エレベーターは通電していた。

上のボタンを押して、いつものように乗って、いつものように異世界が、なかった。

なかった。この事実は、とてもショックだった。

違う、違う!

もう一度1階に戻り、6階のボタンを押す。

ない!

もう一度!やっぱり高層ビルしかない。

もう一度!私が望んでいたのは、異世界であって、ぼろいビルの屋上じゃないの!

世界中でたった一人だけ、私だけだろう。

エレベーターでボタンを押して、きちんと階についてしまうのが嫌な人は。

向こうの世界の拡張が進んでいるのなら、絶対に6階に行けると信じていた。いや、勝手に思っていた。

そうだ、向こうの世界はこちらの世界と違う。

世界が違えば、拡張のしかたも違う。

私がこの世界を押し付けていたのね。


私がこの世界で生きる意味。この世界でしか生きられない意味。



自分の愚かさを恥じた。ダメだったんだ。

何回か、6階へのボタンをおして試行錯誤したのち、23歳、入社二年目の会社員は、誰もいないエレベーターホールの壁によりかかって、虚無を頭でなぞりながら、この受け入れがたい事実をかみしめていた。

よろり、と私は立ち上がり、家までの道をよろよろとあるいた。

「私は世界から、拒絶されたのかもしれない」

もしそうなのであるならば、私の異世界の物語は、もうおしまいだ。

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