すべて夢だった、んだ
すべてが分からなくなっていて、ふっと気を失う。
草原が衝撃を吸収してくれた。
とても暖かい地面。
目を覚ますと、布団がかけられていた。この重さは、私のいつもの布団。
あの太陽はなかった。
代わりに薄暗い天井と、あの猥雑なテレビの音と、外から聞こえる雑踏。
ああ、東京に戻ってきてしまったんだ、とふとため息を漏らす。
そうだ、すべて夢だった、んだ。
時刻は8時半。出社しなくちゃ。あの案件で上司に叱られるのを覚悟で。
そんなことを思い出しながら仕事場まで歩く。
エレベーターホールについた。
あれ、今日は工事中なんだ。
でもいいや。もう急いだところで変わらないし。
階段で歩いてのぼっていく。
カン、カン、カン、カン、と6階まできてしまった。
会社は4階にあるんだけど、素通りして、ここまできてしまった。
6階の扉を開ける。
でも薄曇りの空と、高層ビルは全く変わらなかったし、地面はコンクリートだし。
結局あの異世界は、私が見た夢、幻、とにかく、何かおかしかった。そうなんだ。
くるりともどって、扉のノブに手をかける。
ひゅう、と風をきる音を耳にする。
「あれ?」
振り向くと、特に何の変哲もない新宿がみえる。
でもあの風は、「あの異世界の」風だった。希望がどこか含まれている、風。
私にはわかる。
やっぱりどこかに、必ず存在するんだと思う。あの異世界が。
やっぱり怒られた。
でもいい。私はあの異世界に行く。もう行って帰ってこないんだ。
こんなクソみたいな会社とも、もうおさらばだ。