表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六階の異世界  作者: 駒津榊
3/10

暖かい風

エレベーターの狭く、硬い床が私の心を見透かしたかのように足音を反響させた。

彼女はとてもおびえていた。何かに食べられてしまう感触。

それは今回だけの話ではなかった。私は同じような体験を、以前したことがあった。

ただ、それは今はいわなくてもいい。

ただ、その時体験したときのように私は、自分自身の思考と対面しなければならなかった。

それはすごい怖かったことだし、自分の内面を認めなければならなかった。

その行為が辛かった。私はまだできる。今の私は未来の私じゃない。

先の見えない向上心はこの世界では褒められる。

だけどそれは今の自分がこの世界で認められていないことへの裏返しにでもなる。

エレベーターの中で、もう一度自分を認識し、私という自我を形作る。

深呼吸をする。涙が出そうになる。

でも、私はその行為をしなければ、どの世界であっても生きていけない。


それでもエレベーターはなおも6階を指し示し、

開きっぱなしのドアの先は明るい太陽の光がずっと途切れることなく地上を照らしている。

どうして?どうして私にはこの6階が6階じゃなく、ちがう世界に来てしまうんだろう?

考えることが多すぎて、脳が働かなくなる。

エレベーターがこの階に「到着」してから、およそ十数分がたっていた。

しかし彼女にとってはこの十数分は数十秒程度に感じた。

それだけ、彼女は緊張していた。

新しい階段を一歩、踏んでしまうことを本能的に悟っていたのだろうか。


彼女のその緊張とは裏腹に、

エレベーターに風が続々と入り込んできた。

彼女はその風を意識的に感じてみた。

暖かい風、春の風。

気が付いたら私は異世界に駆け出していた。

ここは「六階」私の世界。

私しかいない。私のための世界。そうなんだ。

だれにも邪魔をされない世界。暖かい世界。

それがこの異世界。素晴らしい世界。


心がずっと高ぶっている。

走るのに疲れたので、草原に腰かけた。ぼーっと空を見上げる。

青い空と、白い太陽と、草原と、風が吹くと聞こえるひゅう、という音。すべてが調和している。

あのところのような、すべてが自己主張していて、自分という存在が気を抜けば消えてしまいそうな、

そんな恐怖感はみじんも産まれなさそうな場所だな、と思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ