07.在りしポーション集めの日
「仁ちゃん、そのコートを着てびしっと決めるのです!」
「お、おう……」
愛梨さんの勢いに流されるまま俺はコートを羽織った。昔はかなり大きく感じたものだが、今はちょうどいいサイズになっていて八年という月日の流れを実感する。……といっても、八年でこれといった変化はないように思う。
小さい頃は〝六年生とかすごい大人〟〝成人したらなんかもっと偉くてすごい大人になる〟って漠然と思っていたが、実際その年齢になってもびっくりするほど実感が湧かないアレである。自分が大人だなぁと思う人は(現実を知って幻滅するなどの一部を除き)いつ見ても大人だと思うし、自分はいつまでも自分のままだなぁと思う。
「仁ちゃん似合うね!」
「そうですか?」
似合うといわれてちょっと嬉しくなる。俺もロング丈の上着を持ってはいるが自分に似合う物があまりなく、つい無難なショート丈ばかり選んでしまうからだ。
この手の風に靡いたりバサバサできるシングルコートやトレンチコートは、ドラマでもアニメでも画的にも見栄えがいいと証明されている。つまり、この無駄にバサバサできるコートが似合う俺はいつもの二割増しぐらいは画になっている訳だ。
「――なんだか懐かしいなぁ」
愛梨さんは俺に旅行バッグを手渡しながらしみじみ呟く。
「懐かしいって、親父とコスプレでもしてたんですか?」
渡されたバッグの中身はそれらしいハードカバーの本が数冊、古めのノート、着替え、それに親父の遺灰――世界観を台無しにする食料保存袋に入った遺灰だった。
「……なんで魔法陣とかそれらしいオカルトチックな本とか詰め込んでおいて、一番ミステリアスな遺灰をお料理の下準備や保存に最適な透明な袋に詰めちゃうんですかね。なんかそれらしい瓶とか台所にあったでしょ!? 全種類集めたけど賢い使い道が思いつかないけど捨てられなかった某ゲームのポーション風飲料の真っ青な瓶とか。俺はあれおいしいと思って飲んでたけど」
あの複雑な形をしたポーションがリアルに実装されると知り、コンビニやらスーパーでポーションの在庫を調べ周ったのを思い出す。親父も集めてて無駄に二セットあるんだ……。そういえば俺の分はどこにいったんだろうか。
「えー、あれね紺ちゃんのしかないからダメ」
「俺のがあったと思うんですけど」
「何年か前に紺ちゃんがネットフリマでプレミアつけて売りましたよぉ。『ネトゲ卒業してソシャゲに移動したほうが悪い。アカウント足りなくてボスのポップ独占できねぇしよぉ。まぁオレも引退してブラウザで本格ファンタジーソシャゲで空の海に漕ぎ出しているけど。気付いたら謝っとこう』とか言ってました」
「最っっ悪っっ!!」
オタクの家族がいる行動として、ネトゲのマナーや規約、自分のことを棚に上げている点でいろいろと最悪であった。俺が一人暮らししている間に何してくれたんだあの親父は。
「ん~、でもね。そっちの袋のほうが都合がいいと愛梨は思うんだよね」
「……まぁ確かに。ペットボトルぐらいの飲み口から粉を出すより、袋のほうが取り出しやすいですけど」
「ん~、どうかな? それ以外にも利点はあるけどそんな感じ? ささ、横になって」
くすくす笑いながら愛梨さんは魔法陣の上で寝転がるよう促してきた。確かこのあとは遺灰を魔法陣にかけるとかそんな感じの流れだった気がする。