32.終末遺産の価値
本に目を戻し改めて文章と向き合う。理解に時間がかかる単語はあれど第一章の冒頭には、この世界の成り立ちが書かれている。ゲーム本編開始前――古き良きロールプレイングゲームのオープニング部分といったところだ。俺の知っている知識と照らし合わせて確認する。
・天上界、冥界が存在し、二世界間で争いが起こっていた。それを〝天冥の戦い〟と呼ぶ。
・戦いの理由はどちらが先に生まれた世界なのかどうか。わかりやすく二つの世界の優劣、善悪の基準を争っている。
・この世界〝ユー・レティシア〟は争いを嫌い、天冥の戦いを集結させた英雄が造り直した世界、三番目の世界である。
〝天界と魔界の物語〟の冒頭は天上界の女王の嘆きと冥界に住まう若者の慟哭シーンから始まっており、シリアス一直線の壮大なファンタジー戦記であると想像できる。
この硬派な英雄譚ももちろん気になるが、一章として顕現した薄くはないページ数から劇場版二部作品のスケールになっているのではないかと察する。とりあえず俺はミカにわからない単語を質問するにとどめる。
「ミカ、ちょっと聞きたいんだがこれはなんて読むんだ? あと意味」
そう言って俺は有限本のページを指し示す。
「〝終末遺産〟ね。これはジンの住んでいた時代――ユー・レティシアになる前の歴史的な品を指すわ」
「……あれ? そうなると、この世界ができたのは割と最近なのか?」
「今のジンの感覚からするとそうでしょうね。何もない大地となっていても、星自体が消えたわけじゃないから。地面を掘るとごくごくまれに終末時代の物品がでてくるわよ?」
「なるほど、歴史的な価値があると」
となると、俺がこっちに来たときに道連れにしてしまった現代日本のアイテムたちは、研究者やマニアの間では百億円とかそういう値がつくのかもしれない。
(――もしかして、金策ができるのでは!?)
デモナクに乗っていたイベント――闇チャリティーオークションを思い出す。出品すれば楽して稼げるのではないだろうか?
親父から『コンラート帝国元首の地位を譲る』と伝えられているので、お金を必要に迫られているわけではない。……実はこの国が借金まみれで〝借金返済! 異世界改革〟といった経済学分野を求められることがなければ。それ自体は大学の専攻的にできる可能性も無きにしも非ず。
そんな現実的な問題はさておき、俺は純粋な気持ちでオークション会場に行ってみたいのである。
そして、無駄にドヤ顔で桁の違いを見せつける、あの入札・競りをやってみたいのである。
純粋な気持ちで俺は『十億』とか言いたい。
1,000,000,000である。
千円札を一万円札のように感じ、十円、二十円の駄菓子を友達と交換し合ったあの頃のように――一万円の限界突破、月給と年収の先にある世界を見たいのだ!
その暁にはオークションにかけられてしまったパーティーメンバーや旅の助けとなる妖精など僅差で競り合い、やっとのことで落札できる――と思った瞬間、『一億』などと嫌みったらしい顔で値を吊り上げる悪役貴族ごっこをしたい。
その吊り上げられた値段をやすやすと超える、十億なんて額を涼しい顔で提示する謎の行商人か王族ごっこも絶対に楽しいだろう。恥を忍んで闇チャリティーオークション会場を借りて、オークションごっこを一回でいいのでしたい。




