プロローグ:中二病親父が死んだ日
昨日、中二病親父が死んだ。
容姿端麗、頭脳明晰、文武両道、一級フラグ建築士、年齢ファンタジー――二次元から来たとしか思えない最強で不死身の親父が。それならば何故死んでしまったのか? その答えは分からない。
俺の父親〝黒沢紺〟は名の知れたファンタジー小説家で、若くて美人な編集兼内縁の妻と高級マンションで暮らしている勝ち組だ。
五十四歳になっても、自分の作品と現実の区別がつかない中二病親父の口癖は『若い頃は天使と魔族とエルフをはべらせた』である。ちなみにこれは著書の三巻あとがきにも書いてある。
この程度ならファンタジー世界を追い求める作家のおふざけにしか思えないだろう。だが、それらは息子の教育にも反映されていたりするのだ。
自身の作品で登場する〝ユー・レティシア〟という創作世界の言語を標準語と偽って教え込んだり、魔法が使用できるようになった際の使用方法や武術訓練(剣技とナイフ投げ)をさも当然のように行っていた。
興味のないものには、とことん興味を示さない子供の俺に『チャンバラで最強になれるぞ!』と誘惑し興味を持たせた。大人というものは本当に汚い生き物だと子供ながらに思った記憶がある。
だが親父の指導のお陰で小学校クラス内チャンバラでは常に一位をキープ。その上〝師範〟と呼ばれるようになっていたのだから、なんだかんだ言いつつも楽しかった。
……あえて一つ言うのならば、親父最推しのナイフ投げはあまり好きではなかった。当時の俺はどちらかといえば侍派なので、投擲は不要だと騒いでいたらこう返ってきた。
『まずパパのメイン攻撃が投げだから。冥元素の闇魔法で武器を成形して使うから、本数無限なんだぞ! あと剣とかぶっちゃけ重いから嫌だし。剣士とか澄まし顔で装備してるけど、あれ地味にドアに引っかかったり大変なんだよね。……いつだったかなぁ? 二刀流のミカがさ、扉に鞘を思いっきりぶつけて大変だったんだよ。あのときはヤバかったね! ――あ、そんな昔話はいいや。ナイフ投げの最大の魅力はモテることだ! ダーツに応用できるからモテモテなんだよな。一石二鳥、そして何と言ってもロマン! ……ふっ、お前には難しいか。だが、女の子にカッコイイと言われたいなら覚えたほうがいいぞぅ~』
と、いつもの長ったらしい創作ファンタジーネタをさも体験してきたことのように語ってくれた。
真名コンラートこと《漆黒の魔王》である親父とその同志である《魂の反逆者》〝二刀流の堕天使ミカエル〟、《強襲する厄災》〝邪竜ラング〟の三人で帝国を作った壮大なお話である。
それを話半分に聞いた俺は、最後の言葉だけを信じ剣技以上に覚えた。
――じゃあモテたか? 答えはノーだ。つまり応用が出来なきゃ意味無いってことだ。
……まぁ、そんな空想世界で生きている親父だが、早くに母親を亡くした自分を男手ひとつでちゃんと育ててくれたし、ちゃんと感謝もしている。本当だぜ?