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序章.母さんが言ってた。
「命あるものを大切にしなさい」
母さんは口癖みたいに、いつもそう言っていた。
ペットを飼うのなら、絶対に最期までかわいがること。
食事は命をいただくことなのだから、残さずおいしく感謝して食べること。
誰もが心得ている当たり前の道徳。だがこれらは当たり前すぎて麻痺してしまいがちである。俺も麻痺していたひとりで、母さんがそれを言う度に、うるせえな分かってるよと口の中で毒づいていた。
母さんは虫一匹殺せないほど、命を尊ぶ人だ。
当たり前すぎて忘れていた大切な道徳。
それを、母さんは母さん自身の死をもって、俺に教えてくれたのだった。
だから、いや、そうでなくても信じられなかったと思う。
「ふうん、今回のターゲットは高校生かあ」
「そうだ。だが甘く見るなよ。今回は難易度が高いからこそ報酬が弾むんだから……」
「いや、」
同じ日本の地で。
「三日……ううん、一日で殺ってみせるよ」
まさかこんな取引が行われているだなんて。