第68話 ていきほうこくかい
「以上で、風紀委員の報告を終わります」
わたくしは書類を手にしたまま、着席しました。
わたくしの報告を聞いた反応は個々人によって大きく違います。生徒会副会長や図書委員長は明らかに不機嫌な態度を示している一方で、保険委員長や購買委員長は好意的にとらえてくださったようです。
「さすがにまずいんじゃないの~?」
放送委員長がそんな雰囲気もどこ吹く風と言った様子で書類を放り投げました。
「まあ、然るべき処置の反中ですから」
「でもでも~、カガミちゃん、結構独断で動いてるじゃん? そういうの、チームの和を乱すから困るんだよね~」
ねっとりとした放送委員長の声がゆっくりと耳朶を打ちます。
「『大和撫子』も落ちたな」
生徒会副会長が厳しい口調を差し向けてきます。
針の筵に座る気持ちです。
「まあまあ皆さん落ち着いて」
保険委員長がそっと救いの手を差し伸べます。
それに購買委員長も続きます。
「せやせや、別にええんちゃうの? ブルマくらい。変な輩はそもそも女学院に寄りつけへんし、誰もブルマなんて穿こうと思わへんて」
「そういう問題化?」
副会長の鋭い眼光が購買委員長に突き刺さります。購買委員長はぺろっと舌を出しただけでした。
「あの、よろしいですか?」
すると、生徒会長が資料から目を外して皆の方へ向き直りました。
大きく蓄えられた茶色の巻髪、気品と色気を兼ね備えた美貌、そして神々しいまでの立ち居振る舞い。
女性のわたくしから見てもとても魅力的で見とれてしまいます。
「最近、1年C組のユリアさんとツグミさんが2人で寮の部屋に戻っていないらしいの。寮に戻らないことは珍しいですし、何よりルームメイト同士だったらしいの。見回りして気づいたことはなかった?」
会長の澄んだ声が生徒会室を響き渡ります。しかしその意味するところは、議題から外れたものでしたた。
「ええ、特に変わったところは」
わたくしは率直に質問に答えました。
「会長、議題がそれています」
副会長がいさめの言葉を述べますが、逆に会長は少し声を荒げました。
「ミハギ、わたしたちの目的は何?」
「目的、ですか?」
副会長が身構えます。
「星愛女学院の全生徒が快適な学校生活を送れるよう支援することでしょう? 『NANA☆HOSHI』のユニフォームについて許可するかどうかはわたしたちの課題ではありません。それはカガミの課題です。カガミが許可をしたのですから、わたしたちが口出しすべきことではありません」
威厳のある文句に一同は沈黙を許しました。
威風堂々とした態度、快刀乱麻の決定、そのすべてがわたくしの憧れでもありました。
「問題は行方不明になった生徒2人の安否確認が最優先です。タマコ、2人の外出記録は確認したかしら?」
「ええ、確認済みです。5日前に3日間の外出許可を寮長からもらっています」
保険委員長がはきはきと質問に答えます。
「コサメ、2人のSNSは?」
現在解析中故「」
図書委員長は渋々と言った表情で答えます。
「スズネ、一応校内に危機意識を浸透させて長大」
「はいはい~」
放送委員長はひょうひょうとした態度で答えます。
「んでんで、うちは何したらええんや?」
購買委員長が意気揚々と尋ねます。
「カズハは待機よ」
「ええ~っ! うちだけ仲間外れかいな!」
ふて腐れた態度で椅子に深く座り直しました。
その後は再び、生徒会室は静まり返りました。みなさん、それぞれ会長の支持を副委員長に伝えているようです。
わたくしも、副委員長に夜の見回りを強化するよう予定の再編をお願いしました。
「けれど、『NANA☆HOSHI』をあんまり遊ばせすぎるのも問題ね」
不意に、生徒会長によって議題が戻されました。
いいえ、厳密には戻っていません。
それはまるで将棋の駒を進めるような話の運び方でした。
そして、続けざまに驚くべき言葉が出てきました。
「わたしが動きましょう」
それは青天の霹靂でした。皆さんが一様に言葉を詰まらせます。
「それじゃあ、カズハは準備してもらえるかしら?」
名前を呼ばれた購買委員長ははっと我に返ります。
「あ、ええで!」
「予定は追って連絡します。他に言い残したことがある人はいるかしら?」
わたくしはすっと手をあげました。
「あの、会長様が動くというのは?」
「わたしがわたしなりに『NANA☆HOSHI』のけじめをつけようと思っています」
その意味するところは、わたくしと全く同じでした。
すなわち、会長が直々に勝負する、ということです。
それは大きな意味を持ちます。
生徒会長はまさに星愛女学院の星です。彼女の元で決定したことは覆ることはないでしょう。
もし仮に失敗するようなことがあれば、生徒会の名折れにとどまらず、女学院の秩序さえ乱れてしまいます。
わたくしたちとしては、勝負に出てもらっては困るのです。
「会長、私が代わりに」
その空気を察したのか、副会長がすっと立ち上がります。
「ミハギ、あなたにはまだ早いわ。しっかりけいこしてからにしなさい」
しかし、会長はぴしゃりと言い放ちます。
彼女の言葉には、誰だって閉口してしまうでしょう。
「――分かりました」
副会長もおとなしく座り直しました。
会長が書類をかき集めてとんとんと1つにまとめます。
「それでは、今月の定期報告会は終了したいと思います。解散」
会長の言葉を合図に、銘々が動き出しました。
「ミハギ、カズハ、カガミ、この後時間があるかしら?」
会長も豪奢な椅子から立ち上がります。
「はい」
「あるで! 何や?」
「はい、大丈夫です」
それぞれが会長に答えます。
「これから一戦どうかしら? わたしも、久しぶりに本気出さないとね」
うふふと笑う会長は、あどけないお姫様のようでした。
「一戦というのは、麻雀ですか?」
わたくしが確認の言葉を紡ぐと、大きく1つうなずきました。
その後、風紀委員の一室で麻雀牌が擦れる音が響き渡ったのですが、結果はあまりに圧倒的なものでした。




