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ナナミ -The Gifted Challenger- ~天才少女の麻雀挑戦記~  作者: 蝶捕銀糸
第4半荘 おちゃ、わがし、さんま
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第56話 さんまのちーちゃ

 サイの目が決まり、配牌が行われる。

 最初から注意しなければいけないことがある。12枚目までは今まで通り4枚ずつ持っていけばいいのだが、最後の2枚はちょんちょんではなくなる。3人が1枚ずつ持って行ったあと、山ノ下側である下ヅモを持ってくる。

そして、もう1つ流れが違うのは、ドラ表示牌だ。ワンパイの数は7列14枚で変わらないのだが、ドラ表示牌でめくられるのは端から5列目だ。というのも、抜きドラを抜いた時に補充される牌はリンシャンパイなのである。だから、あらかじめリンシャンパイを8枚用意する必要があるのだ。

 めくられたドラ表示牌は三索。

 いよいよ、勝負の時が始まる。


東一局 一巡目 東家 ナナミ 35000点 ドラ表示:三索

一筒 二筒 三筒 四筒 七筒 七筒 八筒 九筒 三索 四索 六索 九索 西風 北風


 4人打ちに慣れていたわたしは、早速の配牌に違和感を覚えた。萬子が1枚もないのである。――まあそれはきっと珍しい事ではないのだろうけれど。

 そして、早速手元に北がある。いつ、どのタイミングでドラとして抜くかが肝要になってくるはずだ。

 ――けれど、考えても仕方がない。

「ペイです!」

 わたしはさっそく手元の北を手牌から抜いた。表に向け、卓の右端へ滑り込ませる。

 これでドラ1確定。手元にすでに四索が1枚あるのでもうドラ2である。こうなったら、手役としてはタンヤオで十分だ。

 わたしの第1打、目の前に座るカガミさんの役牌である西を警戒して九索を切り出す。

 立ち上がり、ヤナギさんが一萬を捨てて緩やかになると思った直後、カガミさんの第1捨て牌で動きが出る。

「ポン」

 おしとやかで柔らかな声が響いた。ヤナギさんが南を鳴いて手に加える。

 ――やはりそうだ。サンマではコーツが作りやすい。

 彼女の手元にジカゼのトイツ(2枚組)があったのは偶然だったとはいえ、その手の予感は感じていた。

 実際、わたしの手はすんなりと重なっていく。


東一局 四巡目 東家 ナナミ 35000点 ドラ表示:三索

一筒 一筒 二筒 三筒 四筒 七筒 七筒 八筒 九筒 三索 四索 六索 西風

抜き:北風

ツモ:西風


 ――トイツが早々と3つ。しかも流れ的にはタンヤオから遠ざかる良くない状況だ。

 けれど手数はイーシャンテンと上がりまで2手の良形だ。ドラ2だから十分対抗できる。

 三巡目で攻撃姿勢を見せるのも気が引けるが、最初からプレッシャーをかけていきたいわたしにとっては追い風になりそうだ。

 わたしはためらいなく六索を切り飛ばす。

「ポン」

 途端、再び和やかな声が響く。ヤナギさんがリャンフーロした。

 これだけの攻撃態勢。ただの早上がりとは考えにくい。トイトイぐらいはつけてくるかもしれない。

 対するカガミさんはいたって物静かだ。牌をツモってきて手牌と入れ替え、卓上にさらして置く。その所作も丁寧で角が立たない。なめらかというか、気品があってとても初心者の打ち筋には見えない。

 けれど、打ち筋の内容はいたってシンプルだ。


ホー カガミ

一萬 紅中 東風


 一般的な字牌整理。すべて手変わりだから進んではいるんだろうけれど、手牌はどんな姿をしているかはとても想像できない。


東一局 五巡目 東家 ナナミ 35000点 ドラ表示:三索

一筒 一筒 二筒 三筒 四筒 七筒 七筒 八筒 九筒 三索 四索 西風 西風

抜き:北風

ツモ:八筒


 流れは徐々に良くなってくる。トイツが重なったとはいえ、これはピンフまで手が伸ばせる。このまま牌が重なり続けるのならば、イーペーコーだってつく可能性も出てくる。

 まだまだ手牌の読めない序盤。攻める手は緩めたくない。

 わたしは一筒を切り捨てた。

 次巡、絶好の形でテンパイになる。ツモってきたのは赤五索。2枚含まれている赤牌の内の1つで、持っているだけでドラ1である。つまり、この手、早々にピンフドラ3の好手の上、九筒が出ればマンガン確定だ。この手が上がれたら安めの六筒でも幸先の良いスタートになる。

 ここは一気に攻め落としたい。

「リーチです!」

 さらに一筒を切り飛ばし、点棒を放り投げて宣言した。

 その後、二巡は沈黙が堤、穏やかな流れとなる。けれど、ヤナギさんが三筒、カガミさんが四索とだんだん厳しいラインを攻めてくる。

 ししおどしが1つ音を奏でた。丸みのある音が心臓の音と重なった。

 ――攻める手を緩めていない。つまり、ヤナギさんとカガミさんもテンパイとみていいだろう。

 攻め切れるか、攻められるか。

 2つに1つの現実が頭をもたげ始めた。

 リーチをかけたわたしはもう前に進むしかない。

 緊張がほとばしる人差し指でそっと牌山に触れ、1枚牌を持ってくる。

 手牌に重ねられたそれは、ションパイ(1枚も切られていない牌)の發だった。

 脳髄にずがんと衝撃が走った。

 トイトイを警戒すべきヤナギさんはもちろん、動向の全く見えないカガミさんにも必ずしも安全とは言えない、悪く言えば非常に危険な牌だ。

 完全につかまされた。

 けれど、リーチをかけてしまった以上、捨てるしか選択肢はない。

 ――通れ!

 わたしは期待の念を込めて卓上に叩きだした。

 この部屋には似つかわしくないしびれるような一瞬。

 ヤナギさんが牌山へと手を伸ばした。

 そして、彼女は手出しの發を合わせ打つ。

 ――通った!

 一段と心臓の鼓動が高まる。彼女も發を抱えていたということは、ゆくゆくは上がり牌候補になっていたということ。

 一瞬、早かった。だから助かった。

 緊張の糸が一瞬緩んだ直後だった。

「ツモ! ハク、イーペーコー、40符三翻は2000・3200でお願いしますね」

 カガミさんがすっと優しく牌を倒した。


ホーラ形 カガミ ドラ表示:三索

九萬 九萬 九萬 五索 六索 六索 七索 七索 西風 西風 白板 白板 白板

ツモ:五索

メンゼンツモ 一翻

ハク     一翻

イーペーコー 一翻 40符 三翻 2000・3200

供託:1本


カガミ 35000+6200=41200点

ヤナギ 35000-2000=33000点

ナナミ 34000-3200=30800点


 警戒はしていたが、上がられてしまった。渋々ながらも、点棒を渡す。

 サンマの得点計算は少しだけ複雑になる。符と翻数から基礎店を出すところまでは同じだが、子のツモなら基礎店の1.5倍、2.5倍をそれぞれ子と親から受け取る。今回の場合、基礎店は、


40×4×2^3=1280点


 だから、各得点数はそれぞれ、


子:1280×1.5=1920≒2000点

親:1280×2.5=3200点


 となる。ちなみに親のツモは基礎店の3倍をそれぞれの子から受け取る。ロン上がりは4人打ちと同じで子は基礎店の4倍、親は6倍になる。

 とにかく、しょっぱなから親かぶりは少し痛い。けれど、心理戦で負けたわけではないので、必要以上に悔しがることもない。

 しかも、幸か不幸かカガミさんの手の内にはドラが1枚もない。通常の表示牌、抜きドラの北、赤牌と合計10枚のドラが存在するゲームでこれは不幸中の幸いと言える。

 問題は、この点差を今後どうやって埋めていくかだ。

 わたしはふぅっと小さくため息をついた。




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