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ナナミ -The Gifted Challenger- ~天才少女の麻雀挑戦記~  作者: 蝶捕銀糸
第4半荘 おちゃ、わがし、さんま
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第52話 おちゃのんでいっぷく

 わたくしは、週に1度のこの時間を大切にしています。

 水曜日の放課後、日本庭園の見える12畳の和室の一角に正座し、鹿威しの奏でる音色を聞きながら後輩のたてる抹茶を待ちます。

 このゆっくりと時間が流れるのを肌で感じるのが好きなのです。

 風紀委員長としてやるべきことは山のようにあります。たくさんの報告書を読んでまとめた結果を委員会に報告する。学校の風紀を管理するためのパトロールする役回りを配分する。また、風紀委員自身の心身の清潔を保つための日本武道の運営の管理や各種大会への参加。何より自ら率先して清く正しく美しい立ち居振る舞いを示すのも仕事のうちなのです。

 そんな多忙な毎日においても、休息は必ず必要なのです。

 お茶をたしなむことは多くの作法を守ることでもあるので休息と感じない生徒も多くいることはわかっています。

 しかしわたくしにとっては、この束の間の時間が休息でもあり、楽しみでもあるのです。

 それは、お茶をたてている彼女にとっても同じようです。

 先輩であり風紀委員長でもあるわたくしが相手なので多少は緊張されているようではありますが、彼女にとってお茶をたてることが喜びでもあり、精神的な安らぎを与える機会になっているそうなのです。

「粗茶ですが」

「ありがとう」

 鳥のさえずりの中に二つの言葉が飛び交います。

 しかし、わたくしたちにとってはそれだけで十分なのです。

 いれたての抹茶を作法通りに口へ運びます。芳醇な香りと素材の持つ本来の苦みが口一杯に広がり、そっと肩の力が抜けます。

「また一段とお上手になりましたね」

「お粗末様です」

 鹿威しがまた一つ音を奏でました。

 この有給にも感じられるゆったりとした時間の中、廊下の方でバタバタとあわただしい足音が聞こえてきました。

 そして、ふすまをとんとんとノックする音が耳に届いたのです。

「どうぞ」

 わたくしの一声を合図に勢いよくふすまが開けられました。

「委員長、ご報告があります!」

  現れたのは同級生の生徒でした。

 同級生から『委員長』と呼ばれるのは、いささか肩身の狭い思いをするのですが、風紀委員長としての務めを果たす以上仕方のない事です。

「落ち着いて。まずはお茶でも飲みましょう」

 とにかく一刻も早く報告したい同級生をよそ目にわたくしは一拍入れるよう促します。

 急いては事を仕損じる。

 それがわたくしの座右の銘なのです。

 何事にも焦らずゆっくりと対応することで、本質を見極め、適切な対策を打つことができるのです。

 下級生がお茶をたてる音が辺りを満たします。その間に、同級生は上がった息を整えました。

「粗茶ですが」

「ありがとう」

 差し出されたお茶を飲んで一服。同級生も少しは落ち着きを見せたようです。

「それでイオリさん、何があったのですか?」

 わたくしの問いかけに、同級生ははっとします。

「そうでした! これをご覧ください」

 そういって彼女が取り出したのは携帯端末でした。そこに映し出される写真は、星愛女学院のある風景でした。

「まあ」

 そこに映し出されていたのは、持久走をしている少女たちでした。

 ただ彼女たちの走る姿は、学校指定の体操着でもなければ運動部特有の運動着でもありません。

 今時珍しい、太ももを包み隠さずあらわにしたブルマ姿でした。

「こんな破廉恥な格好でランニングをしている人たちがいるのです!」

 同級生は興奮して訴えます。

「この方」わたくしは少し遅れて走る少女を指さします。「むっちりとした素敵な太ももですね」

「委員長!」

「冗談ですわ」

 慌てる同級生をよそ目にわたくしはうふふと笑顔を浮かべます。

「これは、校則違反ではありませんか?」

 下級生が携帯端末を覗き込みながら尋ねます。

「彼女たちは『NANA☆HOSHI』の部員ですよ」

 わたくしの言葉に2人は呆然とします。

「知っているのですか? この方たちを」

 再度、下級生が尋ねます。

「直接の面識はあまりありませんわ。けれど、ブルマと言えば彼女たちの正装です

 その言葉に、さらに2人は驚愕します。

「こんな破廉恥な姿が、正装ですか!?」

 信じられない、といった様子で同級生が息を飲みます。

「けれど、このまま彼女たちを活動させてもいいんでしょうか? これでは学校の風紀全体が乱れてしまいます」

 下級生が懸念を顔に浮かべてもっともなことを言います。

「そうですね。やめさせる必要はあると思いますが、彼女たちは一筋縄ではいきませんよ」

 そう言って私は立ち上がります。そして押入れの戸を開き、卓と麻雀一式を取り出します。

「さあ、一局打ちましょう」

 その姿は、2人にとってとんでもない光景に写ったようです。

「麻雀ですか?」

「なんで今麻雀を?」

 わたくしは準備をしながら同級生の質問に答えます。

「彼女たちは麻雀の勝負で物事を決めます。だから、彼女たちに何かをさせるためには、麻雀の勝負がいいでしょう」

「けれど、なぜ麻雀セットが?」

「あら、麻雀自体は中国発祥でも、リーチ麻雀の生みの親は日本ですよ。わたくしたちの守備範囲です」

「でも、麻雀は4人で遊ぶゲームでは?」

「もう1つ、日本発祥の独自の規則があります。――三人麻雀です」

 本来、麻雀は4人で遊ぶゲームです。けれど、萬子の二から八を除いた27種類108枚を用いて3人で遊ぶ麻雀もあるのです。

 それが、三人麻雀です。俗にサンマと呼びます。

 普通に4人麻雀で『NANA☆HOSHI』の方と戦えば、経験値の差で負けてしまいます。

 けれど、サンマなら部活の練習項目には含まれてないと聞きます。そしたら万に一つは勝ち目があるでしょう。

 幸い、わたくしは麻雀の経験もありますし、特にサンマは友人とよく打ったものです。

 わたくしはさっと萬子のチュウチャンパイを除いてサンマの準備をします。

「『NANA☆HOSHI』の方々から教本はいただいております」

 わたくしはその教本を2人に渡します。これは生徒会に提出された活動報告書の一部であり、それを複製したものです。

「これがルールですか。意外と複雑ですね」

「規則はやりながら覚えましょう。カガミです、よろしくお願い申し上げます」

 わたくしは一礼します。2人も続いて対局前の例をします。

「イオリです。よろしくお願い申し上げます」

「ヤナギです。よろしくお願い申し上げます」

 風紀委員の一室で、シーパイ椅子る音が響き渡ります。

 一陣の風が抜け、鹿威しがまた1つ時を刻みました。




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