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ナナミ -The Gifted Challenger- ~天才少女の麻雀挑戦記~  作者: 蝶捕銀糸
第1半荘 はじめてのまーじゃん
5/108

第5話 ぴんふとさんしょく、いーぺーこー

 ピンチとチャンスのシーソーゲームの渦中、カチューシャのヒメリの親番で局が始まった。

 ヒメリの北切りを見送って、わたしの番になる。


東三局 一巡目 南家 ナナミ 7100点 ドラ表示:八索

四萬 七萬 八萬 四筒 五筒 六筒 六筒 七筒 六索 七索 東風 南風 白板

ツモ:九索


 ――ここを乗り切れば、わたしの親番だ。しっかり切り抜けて、次につなげたい。

 というか、この真っ白な牌は何回わたしの手牌に混じってくるのだろうか。縁があるのかないのか。

 それにわたしの持ってきた牌はドラの九索だ。流れは徐々にわたしの方に傾いてきているのかもしれない。

 作戦は、しゃくだけど今まで通り、字牌からさばいていく方法を取る。

 もっと字牌を有効利用したいけれど、4枚中3枚もそろえないといけないことを考えるとどうしても手が遅くなってしまう上に、他に使い方も思いつかない。最初から2枚そろっていない時は素直に捨てていくのが得策だ、というのが今のわたしの精一杯の戦術だった。

 けれど、


東三局 二巡目 南家 ナナミ 7100点 ドラ表示:八索

四萬 七萬 八萬 四筒 五筒 六筒 六筒 七筒 六索 七索 九索 南風 白板

ツモ:緑發


 何というか、


東三局 三巡目 南家 ナナミ 7100点 ドラ表示:八索

四萬 七萬 八萬 四筒 五筒 六筒 六筒 七筒 六索 七索 九索 白板 緑發

ツモ:西風


 ――麻雀ではこういうことはよくあるのかな、と思うほどここぞとばかりに字牌をよく持ってくる気がする。

 けれど、むやみに持ってきた牌をそのまま捨てることは得策だとは思えない。

 牌を捨てるという行為にはどうも二種類ある。持ってきた牌を手牌に加えて別の牌を捨てるか、そのまま持ってきた牌を捨てるか、これは本質的に大きく違う。

 前者は持ってきた牌が自分の手を作る上で役に立つ、ということだ。つまり、上がりに近づいたことを意味する。

 それに比べて、持ってきた牌をそのまま捨てるということは、自分の手牌が変わっていないということだ。つまり、上がりに近づいていないことを相手に教えるようなものだ。

 どうせ字牌を処理するなら、持ってきた牌よりも手中にある牌を切った方がいい気がする。

 特に白、發、中の字牌は3枚集まると役がつくようだから、切り出すタイミングを間違えるともったいないことになりそうだ。

 問題は、東西南北の牌だ。これも役がつくのだろうか。一度女王ホムラが上がった時は東が強い力を持っていたけれど、それ以上の情報はない。

 仮に、東西南北の牌でも役がつくなら、白、發、中と差がないことになる。でも、そしたら真っ白でつるつるな白、緑色の發、赤色の中に比べて、黒い字の方角が書かれた牌はどうも地味すぎる気がする。

 ――さすがに、考えすぎかな。

 自分の想像力豊かな詮索に苦笑いしそうになりながら、わたしは山から牌を持ってくる。


東三局 八巡目 南家 ナナミ 7100点 ドラ表示:八索

四萬 六萬 七萬 八萬 四筒 五筒 六筒 六筒 七筒 六索 七索 九索 白板 

ツモ:九索


 やっと最後の字牌を捨てられる状況に来た。しかもドラが2枚。3枚一組のペアも六、七、八萬と四、五、六筒の2組ある上、六、七とあと1枚でペアができるいい形だ。

 ここを切り抜けられたら、次はわたしの親番だ。最後にして最大のチャンスが待っている。

 そこで女王ホムラに逆転するためにも、ここは流れをつかむために上がっておきたい。最低でも、女王ホムラに上がられるのだけは避けたい。

 次のポニテのキヨミは持ってきた牌を手元に加えて違う牌を出す。手変わりか。

 切り出した牌は南。やはり字牌はこのくらいゲームが進んでも残ってしまうものなのかもしれない。

 女王ホムラは手にした牌をそのまま切る。四萬。

「チー」

 カチューシャのヒメリが動く。三、四、五萬の形で手に加え、一萬を卓に置いた。

 そして、待ちわびたわたしの番がきた。


東三局 九巡目 南家 ナナミ 7100点 ドラ表示:八索

四萬 六萬 七萬 八萬 四筒 五筒 六筒 六筒 七筒 六索 七索 九索 九索

ツモ:七筒


 わたしが手にした牌は硬貨の七。特に上がりに近づいたわけではないのだけれど、抱えておくといい気がする。

 というのも、四、五、六筒という形から五、六、七筒という形に変えれば、他に六、七筒を持っているので、五筒を引けば五、六、七筒という組み合わせが二つあることになる。

 これはこれで難しそうな形、つまり、役になりそうだ。

 ――まあ、根拠はない。ただの直感だけれど。

 そんなあり得るかどうか、チャンスかどうかも分からない可能性を待つ。

 ここから一気に攻める気持ちでなければ、女王ホムラを追い越すことなんてできない。

 だから、リスクを冒してでも攻めなければ。

「ポンッス!」

 わたしの捨てた硬貨の四をポニテのキヨミが拾い上げ、手牌から南を切り出す。

 ――二巡連続で手元から南を出した?

 やっぱり、東西南北の牌は何かと癖があるらしい。

 もしキヨミが最初から南を2枚持っていれば、わたしが二巡目で南を切り出した時にポンするはずだ。

 仮にその後で南を2枚そろえたとしても、3枚四組み入れられない2枚ペアとしても使えるし、他にも使い道がありそうである。

 それにもかかわらず南を捨てるということは、どうしても邪魔になる、つまり、役がつかなくなるということだ。

 わたしには、一つ考えがあった。

 先ほどキヨミが上がったタンヤオという役、きっとキヨミはまたそれを狙っているのだろう。

 字牌や一、九といった数牌はその性質やこれまでの三人の捨て牌から異常性を感じていたけれど、前局のキヨミの上がりで確信した。

 タンヤオ、おそらくその役は字牌と一、九を使わないで上がる形、つまり二から八までの数牌だけで3枚四組と2枚ペアの形を作る役だ。

 ポニテのキヨミはその役を狙っている。そう考えれば二巡連続で捨てた南も硬貨の四でポンしたのも理解できる。

 下手をしたら、キヨミはもうあと1枚で上がり、すなわちテンパイになっているかもしれない。

 キヨミの次、女王ホムラは再び持ってきた牌をそのまま卓上に置く。今度は竹の六、か。

「ポン」

 静かに発声したのはカチューシャのヒメリだ。そして硬貨の九を捨てる。

 ヒメリはすでに三、四、五萬を表に向けている。そして今度は竹の六を3枚。ヒメリもタンヤオを狙っているのかもしれない。

 そして、わたしの番。


東三局 十巡目 南家 ナナミ 7100点 ドラ表示:八索

四萬 六萬 七萬 八萬 五筒 六筒 六筒 七筒 七筒 六索 七索 九索 九索

ツモ:三索


 露骨に嫌な牌が手に入ってきた。

 キヨミやヒメリがタンヤオを狙っていると考えると、わたしが手に入れた竹の三はうかつに捨てられない。

 だからといって、余分になっている四萬も捨てられない。

 竹の九は捨てられそうに見えるけれど、得点の高くなるドラだ。こっちはこっちで捨てられない。

 キヨミやヒメリに上がられるリスクを背負ってでも上がりを目指すのか。この局の上がりは諦めて、タンヤオを上がられる可能性のないドラを切るか。

 攻めるか、守るか。

 この痺れる感覚、覚えがある。

 ――そう、迷いだ。恐怖から生まれる、迷いだ。

 最初は、自分の牌で上がられるリスクを全く感じていなかった。

 女王ホムラに高得点を取られた後でも、わたしにはどんな役があるかもよく分からなかったから、上がられるリスクがあっても相手の上がりを阻止するとか相手の手牌を読むなんてことはしなかったし、できなかった。

 けれど、今回は違う。キヨミとヒメリの手が読める。読めるといっても完全には読み切れない。

 そんな中途半端な読みが、わたしの恐怖と迷いを喚起させたのだ。

 ――冷静になれ。

 さっきのキヨミの上がりはタンヤオとドラ2つ。それで5200点の上がりだった。

 けれど、今回のドラは竹の九、しかもそのうち2枚をわたしが持っている。

 だから、もしタンヤオを上がられても、わたしの持ち点は7100点だから一発で負ける可能性は低い。

 ――だったら、攻める!

 わたしは山から持ってきた竹の三をそのまま卓上に差し出した。

 誰も動く気配がないまま、キヨミが新しく牌を手に加える。

 ――通った! わたしの捨て牌で上がれる人はいないのだ。

 その後、みんな山から持ってきた牌をそのまま捨てる。一萬、六筒、九筒……やっぱりどうもキヨミとヒメリはタンヤオ狙いのようだ。

 わたしがキヨミやヒメリを上がらせてしまう可能性はあるけれど、何が上がり牌か正確に読めない以上、わたしも上がりに近いのだからわざわざその手を崩す必要もない。


東三局 十三巡目 南家 ナナミ 7100点 ドラ表示:八索

四萬 六萬 七萬 八萬 五筒 六筒 六筒 七筒 七筒 六索 七索 九索 九索

ツモ:八索


 ついに、チャンスをつかんだ。五、八筒待ちのテンパイだ。しかも、五筒なら五、六、七筒が二組、八筒なら萬、硬貨、竹の三種類で六、七、八がそろう。これはこれで役になりそうだ。

 つまり、五筒と八筒どちらでも上がれそうである。相変わらず確証はないけれど、運命を託すだけの価値がある。

 問題はリーチをかけるかどうか、だ。リーチをかければ、1000点失う上、他の三人に警戒されるリスクを負う必要がある。

 今回は、リーチをかけないことにする。今わたしは少し気が大きくなっていて、余計なリスクを負いかねない状態にいる。

 だから、ここは無理しすぎてはいけない。

 わたしが静かに四萬を切った時、あることに気がついた。

 ――前巡の女王ホムラの捨て牌は、六筒。

 それだけではない、ここしばらくの捨て牌が、数字の真ん中に偏っている。しかも、思い返せばすべて山から持ってきたものをそのまま捨てている。

 女王ホムラほどの実力があれば、キヨミやヒメリがタンヤオ狙いであることは分かっているはずだ。

 それなのに、危ない橋を渡り続けているということは、その理由は一つしかない。

 ――女王ホムラは、すでにテンパイしている!

 けれど、その確信は少し遅かった。

 女王ホムラは山から持ってきた牌をそのまま表にして手元に寄せ、手牌を倒した。

「――ツモ。タンピンサンショクイーペーコー。ハネマンは3000・6000だ」


和了形 ホムラ ドラ表示:八索

二萬 二萬 三萬 三萬 四萬 四萬 三筒 四筒 二索 三索 四索 八索 八索

ツモ:二筒


メンゼンツモ 一翻

タンヤオ   一翻

ピンフ    一翻

イーペーコー 一翻

サンショク  二翻

20符 六翻 跳満 3000・6000


ホムラ 41700+12000=53700点

キヨミ 32000- 3000=29000点

ヒメリ 19200- 6000=13200点

ナナミ  7100- 3000= 4100点


 ――女王ホムラに、先を越された!

 しかも、二、三、四萬が2組、その上萬、硬貨、竹で二、三、四を作っている。

 わたしよりもずっと前にテンパイだった。おまけに、わたしの手よりもきれいにそろった手だった。

 わたしは悔しさを噛みしめながら、手牌を閉じた。キリキリと胸の奥が痛む。

 とにかく、わたしは4100点まで追い詰められてしまった。当然だ。経験者と初心者が戦えば、経験者が有利にゲームを進めるのは何も不思議ではない。

 初心者が狙うのは後半の巻き返しだ。

 しかも、わたしには願ったり叶ったりの親番だ。子の時よりも上がり点の多い、逆転にはうってつけのタイミングである。

 時は満ちた。

 ――逆転する! 最後の、わたしの最大のチャンスをつかむ!

 わたしは溜め息と一緒に恐怖や悔しさを吐き出して、今一度気合いを入れ直した。


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