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ナナミ -The Gifted Challenger- ~天才少女の麻雀挑戦記~  作者: 蝶捕銀糸
第3半荘 びひんのたのみかた
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第44話 おめかしのあとは

 前局、私はついに1位の座を受け渡した。

 ナナミちゃんの言い知れぬ気迫に押され、麻雀は1対1の勝負だと誤解させられたおかげで、ノーマークだったハルメちゃんに振り込んだのがきっかけだ。

 そしてこの局、ハルメちゃんにとっては絶好の逆転のチャンスだ。4位とはいえ、1位のナナミちゃんとの差は9900点だ。ハルメちゃんは親だから、四本以上の上がりで一発で逆転できる。

 そればかりか、何もイッパツで逆転する必要すらない。連荘で上がれば安い手でも逆転のチャンスは十分にある。


南三局 一巡目 南家 マリコ23100点  ドラ表示:七筒

二萬 四萬 六萬 五筒 六筒 八筒 二索 二索 六索 六索 八索 九索 東風

ツモ:五萬


 字牌は少ないが、良好な手とも言い難い。

 書くいう私はトップとは6100点打。ロンならマンガン、ツモなら40符三翻以上が必要になる。この手がせいぜいタンヤオドラ1の二翻であることを考えると、あまり楽観視できる状態ではない。 逆にドラ八筒が重なればチャンスである。3枚はもちろん安全圏、2枚でメンゼンで手を作れば40符は難しくない手だ。

 とにかく、私としてもここは上がっておいて、次の親番に弾みをつけたい。

 私は丁寧な手つきで東を河へ捨てた。

 場は再び静かな立ち上がりを見せた。字牌がきれいに整理されて行き、三巡目には7種類すべての字牌が1枚以上顔を見せた。

 しかし、ここまでくると逆に不安な面が出てくる。字牌が誰に対しても安全になってくると、数牌の取り合いになる。そうすれば自然とタンヤオやピンフが目立ってくるうえ、振り込むリスクも上がってくる。

 四巡目も、全員字牌だ。三巡連続字牌ツモは私にとっても想定外の展開だったが、こうも字牌が安くなってくると、残された数牌がどんどん危なくなってくる。

 私は五巡目のツモ牌を手に銜えた。


南三局 五巡目 南家 マリコ23100点  ドラ表示:七筒

二萬 四萬 五萬 六萬 五筒 六筒 八筒 二索 二索 六索 六索 八索 九索

ツモ:六索


 六索がアンコーになったが、タンヤオは遠い。

 ――ここは無理するべきではないわね。

 私はそう直観した。

 得点のチャンスは最後の親番にも残っている。

 ここで私がするべきことは、得点するのではなく、失点を防ぐことだ。そして、1位のナナミちゃんに得点させないことだ。

 1歩ずつではあるが、最速でテンパイへ向かおう。

 そう決めた瞬間に転機が訪れた。

 ハルメちゃんがいきなり七索を捨てたのだ。

 また1つ、選ばなければならない。

 ここでフーロすれば手は速くなるし、タンヤオもつく。しかし、六索が限りなく雀頭に固まりやすくなるので、トイツが多めになってしまい、そろえにくくなる。だからといって七―八―九索で固めるのは上がれなくなるので論外だ。

 上がりを目的としていないとはいえ、そうやすやすと上がりを放棄するわけにもいかない。

 悩んでしまう。しかし、あまり悩みすぎても悟られてしまうのでよくない。

 麻雀は時として、一瞬の判断力が大切になってくる。

 私は自然と指が動いた。

「チー!」

 とっさに六、八索を表に向けてシュンツを固めた。そして流れるように九索を捨てる。

 ――こうなったら速攻だ。タンヤオドラ1の手でもいいので、上がられる前に上がってしまおう。

「ポン!」

 続けさまにサナエちゃんの捨てた二索を手中に収める。


南三局 八巡目 南家 マリコ23100点  ドラ表示:七筒

四萬 五萬 六萬 五筒 六筒 八筒 六索 六索

副露:下に索、七六八索


 ドラ八筒を切れば、ウラスジテンパイで、五筒を切れば七筒カンチャン待ちでテンパイだ。前者は街が広く、後者は得点が高い。

 迷いはなかった。針の穴に糸を通すような感覚で五筒を切り捨てる。

次巡、すべてを見透かしたような瞳をしているナナミちゃんは、五筒を捨てた。

 フーロと捨て牌から、私の手は露骨ではあるがチンイツに見えなくもない。だから索子を捨てるには勇気がある。そこで下りる体制を見せるということは、一番危険なチンイツはさせないとする一方で、タンヤオの芽も残っているので萬子や筒子も捨てにくいことになる。さらには、字牌も幾分か警戒しなければならない。

 ナナミちゃんにとっては、防御は非常に難しい展開なはずだ。

 しかし、ナナミちゃんは間違いなく防御態勢だ。

 ――それだけ、自信があるということね。

 その後、ナナミちゃんは私の安牌を切り捨てたり、サナエちゃんに合わせ打ちしたりと徹底的なディフェンス体勢を見せる。

 それが一瞬揺らいだのは十三巡目だった。ムスジの、しかし迷いもなく六索を河に置く。

 厳しいところをついてきた。もう安牌はないんだろう。

 だったら、ここで脅しを見せておきたい。

「ポン!」

 私はあえてフーロを選択した。


南三局 十三巡目 南家 マリコ23100点  ドラ表示:七筒

四萬 五萬 六萬 五筒 六筒 八筒

副露:対六索、下に索、七六八索


 そして、六筒を捨ててドラ八筒タンキ待ちを取った。

 ここまでフーロされると、チンイツは完全に意識しなければならない。そうなると私の待ち牌とは関係なしに索子はもう捨てられない。

 タンヤオが生きていることに気づけば、ドラ八筒は抑えられるかもしれない。しかしタンヤオが見えているならヤオチュウ牌以外はすべて危険πになるので、抱え込むのも限界だろう。

 実際、ナナミちゃんはすでに現物を切らしている。

 しかし、私はある違和感に気付いた。

 ――六索が切れるだろうか?

 あの索子をリャンフーロしてツモ切りを続けている状態で、ムスジで危険極まりない六索を普通切れるだろうか。

 それを切れるということは、見破られている?

 索子で染めてないことに、ナナミちゃんは気づいているのだろうか。

そして、ナナミちゃんは五索をためらいもなく差し出した。

 ――予想ではない。確信だ。索子で染めていないと確信している!

 だったら、索子なら出るかしら?

 興味本位で、ツモってきた三索のタンキ待ちに変えてみる。すると、待ってましたとばかりにドラ八筒を合わせてきた。

 そのくせ、三索はしっかり押さえてくる。どころか、索子を捨てる気配がすっと消えてしまった。

 私はその時、怖気が走った。彼女の瞳が、何もかもを透かして見ているようだった。

 そして、最後の壁牌が取られ、流局を迎えた。

「ノーテンです」

 目の前に座る少女は、涼しげな顔で宣言した。


流局 ホワンパイピンチュー

ハルメ 待ち:二萬、五萬

二萬 二萬 三萬 四萬 二筒 三筒 四筒 六筒 七筒 八筒 三索 四索 五索


マリコ 待ち:三索

四萬 五萬 六萬 三索

副露:対六索、下に索、七六八索


ナナミ ノーテン 29200-1500=27700点

サナエ ノーテン 28400-1500=26900点

マリコ テンパイ 23100+1500=24600点

ハルメ テンパイ 19300+1500=20800点


 結局、場は静かなまま終わりを迎えた。

 しかし、それはナナミちゃんの防御が成功したことを意味している。

 これでトップとは3100点差と僅差になった。

 加えて、ハルメちゃんもテンパイだったので連荘となった。

 逆転はもう目の前である。

 私は1つため息をついて、鼻眼鏡を整え直した。


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