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ナナミ -The Gifted Challenger- ~天才少女の麻雀挑戦記~  作者: 蝶捕銀糸
第3半荘 びひんのたのみかた
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第43話 ようせいのはんげき

 恐怖と違和感、混乱が入り混じりながら、場は嫌な局面を迎えた。

 ナナミちゃんの親である。

 彼女の反撃は、はっきり言って異常だ。二翻縛りだから手役重視になるのは理解できるとはいえ、前局ドラ無しバイマン手を上がられた。中には、点数調整ともとれる不用意な差し込みもあった。

 そんな悪魔じみたプレイをするナナミちゃんの親番だ。無事で終わるとはとても思えない。


南二局 一巡目 西家 マリコ 30800 ドラ表示:三萬

三萬 三萬 七萬 八萬 二筒 六筒 六索 六索 八索 九索 白板 緑發 紅中

ツモ:西風


 この期に及んでスーシャンテンの重たい手、しかも字牌はすべて役牌だ。字牌整理は速めに済ませたいが、一翻どうしても欲しいこの状況ではどれも残しておきたい。そんな二律背反を含んだ手だ。

 ここで欲張ってはいけない。順当に、リーチでの手作りを目指していこう。

 私は白を卓上にさらして置く。その後も字牌は重なる気配を見せず、順当にさばかれていく。


南二局 四巡目 西家 マリコ 30800 ドラ表示:三萬

三萬 三萬 七萬 八萬 二筒 四筒 六筒 三索 五索 六索 六索 八索 九索

ツモ:九萬


 タンヤオからは遠くなるが、手を進める有効牌だ。ぜひとも抱えておきたい。

 しかし、私には言いしれない不安感があった。

 ――流れが、変わった?

 今までならきっとタンヤオへと手が伸びる六萬をツモって来ただろう。こればっかりは偶然で決まるものなので何とも言えないはずだが、今までの上り調子の手とは一線を画する何かを感じていた。

 ナナミちゃんとの点差はたったの600点。ここで上がれないとかなり厳しい展開が予想される。

 だからこそ、ここで上がっておきたい。ここで上がって流れを取り戻したい。

 しかし、そんな思いが大きくなればなるほど上がりから遠ざかってしまうのが麻雀だ。私の想いが空回りするように無駄ヅモが続いてしまう。


南二局 七巡目 西家 マリコ 30800 ドラ表示:三萬

三萬 三萬 七萬 八萬 九萬 二筒 四筒 六筒 三索 五索 六索 六索 八索

ツモ:七索


 ここで重要となる七索をツモってきた。三索切りで五―六索リャンメン待ちと筒子のカンチャン待ちのイーシャンテンである。

 この場合、先に筒子の三か五をツモってきたい。そうすればピンフが付くのでリーチをかける必要がなくなる。

 僅差の戦いでは、リーチをかける時に供託する1000点が大きくなってくる。今回の場合、私がリーチをかけた瞬間にナナミちゃんが逆転してトップに躍り出ることになる。そうなれば、サナエちゃんかヒメリちゃんが上がるだけでも順位がひっくり返るだけでなく、ナナミちゃんが上がった時に点差がさらに開いてしまう結果になる。

 普段はあまり意識しないリーチ料の1000点だ。

 しかし今は1000点の行方が勝敗を分けるかもしれないぐらい重みを増してきた。

「リーチです!」

 そんな微妙な緊張感の中、一切の不安を吹き飛ばすような宣言が声高にっ響いてきた。

 ――ナナミちゃんが、リーチ!?

  この瞬間、私とナナミちゃんの点差が1600点に広がる。供託した1000点はこの局のホーラ者に与えられるので、ナナミちゃんが上がれば文句なしの逆転であるが、サナエちゃんやヒメリちゃんが上がるだけでも、点差は広がったままなのでナナミちゃんにとっては不利になるはずである。

 ――いや、違う。ナナミちゃんは二翻縛りなのだ。上がるには結局二翻2000点以上の上がりが必要なので、リーチ料1000点は大した重さではなくなる。

 目の前に座る彼女の洞察は、私のそれよりもはるかにしのぐ。


南二局 七巡目 西家 マリコ 30800 ドラ表示:三萬

三萬 三萬 七萬 八萬 九萬 二筒 四筒 六筒 五索 六索 六索 七索 八索

ツモ:四索


 次巡、私は望まぬ形でテンパイになる。ピンフを逃した形だ。本当に、流れが悪い。

 ただ少し、希望が見えている。

 ナナミちゃんがリーチをかけたおかげで、こちらのリーチに関する抵抗感が少し軽減された。リーのみであるが、上がりの望みはある。

 さらに、引っ掛けテンパイの量刑だ。

 リャンメン待ちの上がり牌の関係から、筋という考え方がある。一―四―七、二―五―八、三―六―九の関係は筋と呼ばれ、フリテンと合わせて防御の足掛かりとなる。仮に、四―五筒の三、六筒待ちの時に、六筒を捨てていたら六筒だけでなく三筒でもロンできなくなる。こう考えると、六筒を捨てた相手には六筒だけでなく三筒も安全だと言える。

 しかし、今回のように二―四筒の三筒待ちの場合、六筒子を捨てても上がりには関係ないので三筒でロンできる。逆に、六筒を切ると三筒も安全だと思われるので三筒でロンしやすくなる。

 こういった技法は引っ掛けと呼ばれ、れっきとした戦術になる。

 だから、今回の六筒切りリーチは出上がりが期待できるのだ。

 一方、ナナミちゃんの河はこう。


ホー ナナミ

白板 紅中 南風 西風 九索 二萬

六索 四萬リーチ


 偏りのない、スムーズな捨て牌だ。逆にタンヤオやピンフといった凡庸な手であることを物語っている。

 筒子が1枚も切られていないのでいささかリスクは高いが、そういうことはよくあるので必ずしも筒子が本命とは限らない。

 しかし、ここで決めに行くにはリスクが高い。ナナミちゃんは二翻縛りなので二翻以上は確定だ。一方で私の手はリーのみ。ナナミちゃんが親であることも考慮に入れるとなかなか割に合わない。

 私は引っ掛けリーチはとりあえず見送って、タンヤオへの成り上がりを期待した九萬ぎりで対応した。

 しかし、予想とは裏腹に、次巡、ナナミちゃんは六筒をツモ切りする。

 ――六筒通るのね。

 それは私にとって大変ありがたい情報であった。安牌が増えるだけでなく、私の攻撃にもつながる重要な牌だったからである。

 一方で、さっさと六筒切りでリーチをかけていればという思いもある。

 しかし、それは過ぎた話だ。目的意識をしっかり持って売ったので、ここは着実にタンヤオを付けて上がりたい。

 二巡後、待ち遠しかった六萬を手に入れた。

 これでこちらも二翻の上がりだ。親と子の違いがあるので帯刀とは言えないが、突き放すなら今しかない。

「リーチ!」

 私は六筒切りの引っ掛けテンパイを取った。

 これで、順位を決定づけたい。

 しかし、その思いは思わぬ形で止められた。

「ロン!」

 ――ハルメちゃんっ!

 上家が覚束ない手つきで手牌を晒した。


ホーラ形 ハルメ ドラ表示:三萬

四萬 四萬 五萬 六萬 七萬 二筒 三筒 四筒 四筒 五筒 三索 四索 五索

ロン:六筒

タンヤオ 一翻

ピンフ  一翻

ドラ   二翻   30符 四翻 7700

供託:1本


ナナミ            29200点

サナエ            28400点

マリコ 30800-7700=23100点

ハルメ 10600+8700=19300点


 この瞬間、自分の詰めの甘さを思い知った。

 私は今、ナナミちゃんしか見ていなかった。

 ハルメちゃんはキット山越しなんて狙ってこない。そしたら、ナナミちゃんが六筒を捨ててからテンパイしたことになる。

 これは完全に私のミスだ。

「あの、足引っ張っちゃってすみません」

 ハルメちゃんがぺこりと頭を下げた。

「気にしなくていいのよ」

 私は努めて冷静に振舞った。

 これは勝負の世界。『メタモる!』と『NANA☆HOSHI』の親善試合とはいえ、あくまで相手は私と他家3人だ。ハルメちゃんの行為は恥じる者ではない。

 とにかく、今のハルメちゃんの上がりで、私は3位にまで順位を落とした。

 残り二局、何とか逆転の兆しを掴みたい。

 私は今一度鼻眼鏡を整え直した。



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