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ナナミ -The Gifted Challenger- ~天才少女の麻雀挑戦記~  作者: 蝶捕銀糸
第1半荘 はじめてのまーじゃん
3/108

第3話 ぽんとちー、ふぁんぱい

 わたしは、前局上がった。そして様々なものを得た。

 まず、麻雀の上がりの基本的な形。3枚四組の同じ牌もしくは連番と2枚の同じ牌、それを他の三人の誰よりも早く完成させれば上がりになる。

 次に、わたしが素人であるという秘密の露呈。これは状況としては不利になったが、何とかわたしの上がり点の保証材料になった。ゲームの途中で点数の予測はなかなかできないにしても、これは素人のわたしにとってはありがたい。

 さらに、親と子の役割。わたしが上がった時、前局親だったポニテのキヨミが一番多くの点数を支払った。つまり、おそらく親が上がったときは子よりも得点が高いことが予想できる。

 そして、1100点。これがどれほどの重みを持つかは分からないけれど、カチューシャのヒメリは「安手」と言っていた。なら、もっと大きな点数が動くことは十分あり得る。

 とりあえず、今のところ得られた情報はこれくらいだ。

 女王ホムラから反時計回りに牌が配られる。

 ――そう、この局はホムラの親だ。つまりホムラが上がった時、その得点は大きくなる恐れがある。

 この局、初めてのわたしの番が来た。


東二局 一巡目 西家 ナナミ 26100点 ドラ表示:緑發

四萬 五萬 五萬 三筒 八筒 八筒 三索 四索 六索 九索 北風 緑發 紅中

ツモ:九索


 この局は一巡でも早く上がって、女王ホムラの親番を終わらせたい。だから、戦術は先ほどと同じく、最も相対的に価値の低い字牌を切り出していく戦術を取ろう。

 わたしはドラを指し示す牌である發が最も集めにくいと推し量り、手牌から捨てた。

 けれど、今回のドラが何かは気になる。

 前局分かったことだけれど、ドラと呼ばれる牌は持っていると得点が高くなるようだ。積極的に集めたい。

 ドラを示す牌が数牌なら、その次の数字の牌がドラであった。ならば、今回のように、字牌が表示されたら、ドラはどうなるのだろうか。

 ――まあ、考えても分からないようなことは、考えていても仕方ない。

 次の女王ホムラの番、取ってきた牌を手に加え、別の牌、一萬を切り出した。つまり、それはまた一歩上がりに近づいたことを意味する。

 早く上がりたいのは山々だけれど、持ってくる牌は運でしかない。そればっかりは焦っても仕方ない。

 次巡、わたしの手牌は前局とは異なる姿を呈した。


東二局 二巡目 西家 ナナミ 26100点 ドラ表示:緑發

四萬 五萬 五萬 三筒 八筒 八筒 三索 四索 六索 九索 九索 北風 紅中

ツモ:五萬


 ――3枚目の五萬、だ。

 意外にあっさりと3枚の牌を集めてしまった。ここの判断は難しい。

 3枚一組として、3枚同じ牌が認められるであろうことは察しがつく。けれど、ここで三萬か六萬を持ってくれば、三、四、五萬の1組と別の2枚ペアができる。

 これはなかなかいい形だ。けれど、今のわたしの手牌には硬貨の八と竹の九が2枚ペアだ。そんなに2枚ペアがあっても困る。

 どちらにしても、あらゆる牌が来た時に、柔軟に対処できる方がいい。この牌は抱えておいた方がいいだろう。

 そう思って、赤い中の字が刻まれた牌を何気なく捨てた。

 その瞬間だった。

「――ポン」

 女王ホムラが動いた。発声とともに、自分の手牌の内から同じ中の牌を2枚表に向け、わたしの捨てた中を手に加えた。ただ、その3枚の牌は表に向けられたままの上、真ん中の牌が横に向けられている。

 ――3枚四組を作るために、相手の捨て牌を利用する。また麻雀の隠れたルールを見つけ出した。

 これを利用すれば、女王ホムラよりも早く上がれる。

 けれど、状況はわたしが考えているほど甘くはなかった。

「これでドラ3、マンガン確定だ」

 ――しまった! まさか、これがドラだったとは!

 軽い後悔の念を覚えながらも、どうせいつかは切り出さないといけないから仕方ないと割り切る。

 それにしても、一抹の不安を感じる。マンガンとは、何点に相当するのだろうか。

 いや、そんなことは関係ない。自分が先に上がってしまえば、女王ホムラの得点は防げる。


東二局 三巡目 西家 ナナミ 26100点 ドラ表示:緑發

四萬 五萬 五萬 五萬 三筒 八筒 八筒 三索 四索 六索 九索 九索 北風

ツモ:北風


 ――だから、攻める!

 わたしが三筒を切った直後、ポニテのキヨミが北を出す。

「ポンです!」

 わたしは宣言し、その北を手元に引き入れる。

 その後、今度は女王ホムラが山から持ってきた竹の九をそのまま捨てた。

「ポンです!」

 もう一度、わたしは唱えた。


東二局 五巡目 西家 ナナミ 26100点 ドラ表示:緑發

五萬 五萬 五萬 八筒 八筒 三索 四索 六索

副露:対九索、下北風


 これで、竹の六を切ったら、竹の二か五で上がりの形になる。

 果たして、この手は何点くらいになるのだろうか。けれど、上がってしまえばこっちのものだ。

 わたしは竹の六を卓上の捨て牌置き場に置いた。

 続くキヨミが硬貨の三を出した時、女王ホムラが動き出した。

「――チー」

 またわたしの知らない行動パターンだ。女王ホムラは発声と同時に硬貨の一と二をさらし、キヨミが捨てた硬貨の三を取って連番を作った。

 ただ、先ほどのポンとちょっと様子が違う気がする。というのも、表にした牌は数字の順番には並んでいない。あくまでキヨミが硬貨の三を捨てたことを示すようにホムラから見て左側に横向きにして置いている。

 そしてもう一つ違う点がある。なぜかわたしが捨てた硬貨の三でチーを宣言しなかった。

 ――いや、わたしの直感では、わたしの牌でチーはできないのだろう。

 女王ホムラはドラが3つもある状況なのだから、一刻も早い手作りをしたいはずだ。それなのに、みすみすそのチャンスを捨てること自体おかしい。女王ホムラがそんなヘマをするはずがない。

 加えて、同じ牌3枚よりも、連番3枚の方がはるかに集めやすい。誰からでもチーができるのであれば、みんなもっと積極的に使うはずだ。

 だからこそ気づける。『しない』のではなく、『できない』のであると。

 つまり、連番をそろえるチーは、前の人が捨てた牌でしかできない。

 そんなことを考察しているうちにわたしの順番が来た。


東二局 六巡目 西家 ナナミ 26100点 ドラ表示:緑發

五萬 五萬 五萬 八筒 八筒 三索 四索

副露:対九索、下北風

ツモ:三索


 ――ここで竹の三、か。

 わたしのもともとの手牌なら、二と五の竹で上がり。各種4枚だから、上がれる牌の数は合計で8枚あることになる。

 けれど、わたしは竹の三を取ってきた。ここで竹の四を捨てると、わたしの上がり牌は硬貨の八、竹の三の二種類に変化する。各種4枚あるうち、わたしの手の中にすでに2枚ずつあるのだから、残りの上がれる牌の枚数は4枚ということになる。

 つまり、竹の三を捨てて上がり牌を待った方が、竹の四を切って上がり牌を待つよりも確率的に上がりやすいことになる。

 ただ、気になるのは役がつくかどうか、ということだ。

 役がなければしょっ引くと言われた手前、役の有無も判断しなければならない。

 前者の上がりはよく分からないけれど、後者の待ちで上がれば3枚四組すべてが同じ牌3枚組みになる。だから、きっと何らかの役がつくはずだ。

 わたしが持ってこれる牌の残り数は、目算しても多い。まだまだよく分からないことは多いけれど、流れは今わたしにある、そんな気がする。

 わたしは竹の四を卓上に置いた。

 ――今度は1100点より高い手で上がる!

 そう思った直後だった。

「――ロン」

 女王ホムラが自分の手牌を右手でそっとなぞり、まるでドミノのようにきれいに倒した。

 瞬間、わたしは察した。そして、自分の判断力と洞察力の甘さに焦燥と後悔が心の奥から湧き上がり、喉元を駆け上がっていった。

 ――油断していた。相手の捨てた牌で3枚組みが作れるのなら、相手の捨て牌で上がることだってできてもおかしくない。

 聞き慣れない女王ホムラのセリフはそれを宣言するものだった。

「――ダブトンチュンドラ3。親っパネは18000だ」


和了形 ホムラ ドラ表示:緑發

三索 三索 四索 四索 東風 東風 東風

副露:三一二筒、対紅中

ロン:四索


ダブトン 二翻

チュン  一翻

ドラ   三翻

40符 六翻 跳満 18000


ホムラ 24700+18000=42700点

ヒメリ               24700点

キヨミ               24500点

ナナミ 26100-18000= 8100点


 女王ホムラの申告に、わたしの臓腑がキリリと痛んだ。

 ――18000点! 桁が違う。先ほどのわたしの上がりとはレベルが違いすぎる。

 さらに、わたしが上がらせてしまった責任というわけか、わたし一人で全額支払うらしい。これはかなり痛い。

 しかも、わたしの余った牌――竹の三と四、どちらを捨てても女王ホムラの上がり牌だった。上がりに向かう限り、女王ホムラの上がりは止められなかった。

 これで女王ホムラとの点差は34600点。それどころか、わたしの残りの持ち点が8100点しかない。

 ――今のような上がられ方は、もうできない。

 とにかく、今のわたしができることをしなければ。

 そんな怯えに似た焦りを感じながら、麻雀牌が混ぜられる音に誘われて、わたしの頭の中もかき乱される。

 わたしが苦虫を噛みつぶしたような顔をしていると、女王ホムラが点棒を一本卓の上に置き、不吉な宣告をした。

「――さて、一本場だ」

 そして再び女王ホムラがサイコロを振った。

 ――まさか、また女王ホムラの親番!? これが俗に言う連チャンだろうか。

 状況は最悪だ。親は上がったときの得点が高いのだから。

 ここを、何とか凌ぎ切らなければ。

 わたしは口の中ににじみ出た生つばを、敗北への恐怖と共にこくりと飲み込んだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 読ませていただきましたー。同じく麻雀ものを書いてる(書いてた)者ですー。 なかなか面白い切り込み方ですね。私はつい特殊ルールに持って行ってしまうのですが、このお話は普通のルールで打つだけな…
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