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ナナミ -The Gifted Challenger- ~天才少女の麻雀挑戦記~  作者: 蝶捕銀糸
第2半荘 ようこそ、ななほしへ!
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第18話 ななほしのにゅうぶしけん

 わたしはサナちゃんに頼まれて、初めて麻雀をした。

 最強の勝負師、女王ホムラに奪われた麻雀部『NANA☆HOSHI』の部室を賭けて麻雀勝負をしたのだ。

 勝負はかなり絶望的なところまで追い込まれたけれど、何とか逆転の糸口をつかみ、無事部室を取り戻すことができた。

 そして、取り戻した部室の鍵は、クラスメイトで『NANA☆HOSHI』の部員でもあるサナちゃんに無事返すことができた。

『NANA☆HOSHI』の部長さんとは一度会ったけれど、女王ホムラに押しつけられた掛け金を返して回っているうちに見失ってしまった。

 部長さんはわたしのことを知っているらしかったけれど、結局自己紹介はしていないので、名前を聞きそびれてしまった。

 そして、わたしは『NANA☆HOSHI』への入部を決意した。決意と言うと大げさかもしれないけれど、わたしにとってはそれくらい大きな決断だった。


「も~、ナナみんも言ってくれればよかったのに!」

「ごめん、サナちゃん。サナちゃんは早く部長さんに会って話した方がいいと思ったから……」

 激闘から二日後の放課後、わたしはご機嫌ナナメになってほっぺを膨らませているサナちゃんと一緒に部室に向かった。

 結局、サナちゃんやポニテのキヨミことヨミちゃんは昨日一日中部長さんを探したけれど、見つからなかったらしい。

 かくいうわたしはこっそり抜け出して、女王ホムラに賭け金を返しに行っていた。その事実を知らなかったサナちゃんは、わたしが薄情にも黙って帰ったと思っていたらしい。

「お~、来たッスか! 待ってたッスよ!」

 部室の前でヨミちゃんが手を振っている。部室の鍵はサナちゃんが持っているから、部室の前で待っていたらしい。

 けれど、うれしいことが一つ。ヨミちゃんの横にもう一人1年生が立っていた。

 カチューシャをつけた黒髪ボブ、どこかそっけない表情と態度。

 間違いない、女王ホムラと一緒の卓にいたヒメリだ。

「そうそう、預かったお金、ちゃんとヒメリに返しておいたッスよ!」

「その節はどうも」

 カチューシャのヒメリことヒメちゃんはぶっきらぼうにぺこりと軽く頭を下げた。

 どうやら無事ヒメちゃんの分のお金もきちんと返ったらしい。とりあえずほっとした。

「あ、いえ、こちらこそ」

 わたしもヒメちゃんに軽くお辞儀を返した。

「じゃあ四人そろったことだし、あたしたちだけで打っちゃおうか! 麻雀!」

 サナちゃんがうれしそうに部室の鍵を開けた。

 ――勝手に入っちゃっていいのだろうか。まあ、そうは言っても部長さんは見当たらないし、サナちゃんだって『NANA☆HOSHI』の部員なんだし、いいのかもしれないけれど。

 お調子者のヨミちゃんはちゃっかりサナちゃんについて入り、あまり感情を見せないヒメちゃんも付和雷同といった感じで続いて入っていく。

 わたしも細かいことは気にしないで入ることにした。

 部室に入ったわたしは、――いや、みんなびっくりした。

「ようこそ、麻雀部、『NANA☆HOSHI』へ!」

 部室の真ん中にある全自動麻雀卓の前に座っていたのは、黒髪セミロングで眼鏡をかけた3年生、麻雀部の部長さんだった。

「―えっ!?」

 わたしは思わず驚嘆の声を上げてしまった。

「えっ!? どういうことッスか!?」

「鍵はずっとその子が持っていたんじゃないの!?」

「なんだ、部長、部室にいたんだ!」

 みんなも次々に驚きの声を上げる。――あれ? サナちゃんだけ違う気がする。

 今日までずっとサナちゃんが鍵を持っていたわけだから、普通に考えれば中に入れないはずだ。

 部長さんはわたしたちの反応を楽しんだのか、ネタばらしをしてくれた。

「実はね、みんなを驚かせようと思って、マスターキー借りてきたの」

 なんてことはない。いたって普通のことだった。まあ、手品のタネというものは、聞いてしまえば得てしてそんなものだ。

「おお、さすが部長!」

「なんだ、そういうことッスか」

「まあ、そんなものよね」

 サナちゃんは目をキラキラさせて感動しているけれど、ヨミちゃんとヒメちゃんはあきれた表情をしている。

 部長さんは立ち上がり、少しかしこまるように背筋を伸ばした。

「改めまして、麻雀部『NANA☆HOSHI』の部長のナギホです。よろしくね!」

 そして、ヒマワリのような明るい笑顔を見せた。余裕と自信に満ちた頼れる先輩の笑顔だった。

「えっと、わたしは――」

「ナナミちゃん、でしょ? そっちの茶髪でポニーテールの子がキヨミちゃん、黒髪ボブでカチューシャをしているのがヒメリちゃんね」

 ナギホさんはわたしたちが自己紹介する間もなく次々と名前を言い当てていく。

 そういえば初めて会った時も名乗る前からわたしの名前を呼んでいたし、ヨミちゃんやヒメちゃんの名前も知っていた。

「ナギホ部長、あたしたち麻雀部に入部しに来たッス!」

 ヨミちゃんはそんな細かいことはお構いなしといった感じで、入部の意思をナギホさんに伝えた。

「じゃあ早速、ナナミちゃん、サナエちゃん、キヨミちゃん、ヒメリちゃんの四人で入部試験をしましょう!」

 ナギホさんが笑顔を崩さず話を進めた。

 ――入部試験、か。かなり本格的だ。

 果たして、どんな試験なのだろうか。

 一応、麻雀のルールは一通り頭に入れてきた。ゲームの進め方はもちろん、一般的な役の形も覚えてきている。

 けれど、自信のないところもある。点数計算や牌効率は基本的なことは分かっているつもりでも、経験値が足りないので試験に耐えられるかは分からない。

「ちょっといいかしら?」今度はヒメちゃんが尋ねる。「私とキヨミはともかく、そこの二人は部員じゃないの?」

「ざんね~ん! サナエちゃんは仮部員、ナナミちゃんは部員どころかド素人よ!」

「えっ!?」

「マジッスか!?」

「ええっ!? あたしまだ仮部員だったの!?」

 ヒメちゃんヨミちゃんはさておき、サナちゃんがそこまでバカだったことの方が驚きである。

 ナギホさんが咳払いを一つ入れ、少しかしこまった感じで説明を始めた。

「さて、入部試験の内容だけど、あなたたち四人で麻雀を打ってもらうわ」

「えっ? それだけですか?」

 わたしは思わず聞いてしまったけれど、ナギホさんの言葉にヨミちゃんとヒメちゃんは顔をこわばらせる。無理もない。この二人はわたしと一度麻雀を打って大敗しているのだから。

「はいはい、話は最後まで聞いてね」ナギホさんが説明を続ける。「勝負は半荘性、今週金曜日までに十回戦やってもらうわ。牌は標準牌に赤牌なし。ルールは星愛女学院公式ルールを採用するわ。――はい、これがルールブックね」

 そう言いながら、部室の棚から小さな冊子を取り出し、わたしたち四人にそれを配った。

 食いタン、後付けあり、カンドラは先付け、カン裏あり、途中流局あり、――細かくびっしりと取り決めている割にはいたって一般的なルールだ。

 けれど、ルールはしっかりと把握しておかなければならない。たとえ、それが起こりうる可能性が低くても、そういう場面があり得るのだからルールが決まっているのだ。

 この辺りをおろそかにしていると、その場になった時にあっという間に足をすくわれてしまう。

 わたしはさっとルールブックに目を通して、ぱたんと閉じた。

 その時にはすでに他の三人は冊子を閉じて鞄にしまっていた。――おそらく、ろくに読んでいないのだろう。

「それで、試験結果は?」

 一番気になるところだ。わたしはナギホさんに尋ねる。

 すると、ナギホさんはその顔に似合わない不敵な笑みを見せて答えた。

「半荘十回戦で、三人を選抜するわ」

 部長の言葉に空気が一気に凍りつく。さっきまでのどこか和やかなムードはすっかりなくなってしまった。

 ――三人を選抜する。それはつまり、わたしとサナちゃん、ヨミちゃん、ヒメちゃんのうち、誰か必ず一人は落ちる、ということだ。

 勝負の世界は時に残酷だ。なぜなら勝つか負けるかがすべて、結果こそがすべてなのだから。

「みんな、そんな顔しないで! 楽しんで打ちましょう! 25000点の30000点返し、ウマはなしだから気軽に打ってね!」

 ナギホさんが笑顔でわたしたちを卓へと誘導する。

 緊張感と譲り合うような微妙な空気の中、場決めをした。

 場決めは簡単。あらかじめ伏せて混ぜておいた東、南、西、北の牌を各人が選ぶだけ。すでにその準備をナギホさんがしてくれていたようだ。

 わたしが選んだ牌は――東。わたしから反時計周りにサナちゃん、ヨミちゃん、ヒメちゃんに決まった。

 仮親であるわたしがサイコロを振る。出た目は1と4。わたしが最初の親、チーチャだ。

 ヨミちゃんやヒメちゃんとは一度勝負したことがあるから何となく力量や打ち方の癖は分かっている。だから対策は打てる。

 ――気になるのはサナちゃんだ。

 わたしは配牌を取りながら横目で右側のサナちゃんの様子を見る。

 手牌をきれいに並べる理牌の手つきは結構慣れている感じがする。

 うっかりサナちゃんと目が合ったかと思うと、ウインクで返してきた。――サナちゃんらしいと言えばらしいなぁ。

 さて、サナちゃんとは初めて戦う麻雀の始まりだ。


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