俺達はオタクじゃない、陰キャラだ!
初めまして! こたつ猫と言います! 拙い文章ですが、最後まで読んで居ただけたら幸いです。どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
高校を卒業してからあっという間に一週間が過ぎた今日この頃、ぼくは久しぶりに中学生の同級生と遊ぶ約束をした。
新しい生活への期待と昔の友達に会える喜びで、歩き慣れた道すら新鮮なものに見えてくる。こんなにも楽しみなのは、期待と背中合わせで渦巻く不安を解消したいせいなのかもしれない。けど、そんな気持ちは刹那のごとく消えていく。
今のぼくの頭の中にあるのは、成長した友人達の姿だけだ。
「ああ……早くみんなに会いたいな〜……」
時間をかけて整えた髪型を崩さない様に、小走りで待ち合わせのファミレスへと向かった。
♢
「ケンちゃん、こっちだよ」
服装を整え店内へとやる気のない声に呼び止められる。声をかけられた方に目を向けると、怠そうに片手を上げた天然パーマの小柄な少年がソファーに座っていた。
「あ、蓮也! 久しぶりだね〜」
「うん。二年ぶりぐらいじゃないかな?」
店員さんに断ってから、相変わらず愛想の無い蓮也の向かい側に座る。
どうやら窓側の隅っこの席だった様で、なかなか直射日光が眩しい。まあ、そんなことを気にしないのは蓮也らしいんだけどね。
「……ケンちゃんは無駄に元気だね。僕は今にも死にそうだよ……」
この小柄な友人は相変わらずダウナーな様子。二年やそこらではこの雰囲気は変わらないみたいだね。
「蓮也、人間はそう簡単には死なないよ? 諦めて性を謳歌しな」
「……ケンちゃんもその厨二病臭い喋り方は健在だね」
む。蓮也に言われると納得できないな。こんな口癖で死にたいって呟く奴に僕をともかく言える資格はないだろう。
と言うか僕は厨二病じゃない! そこだけは譲らないよ!!
「──2人とも変わらないね〜! この雰囲気が懐かしいよ〜!」
「おう。見事にオタクが集結してる」
後ろから声をかけられ振り向くと、そこには2人の対照的な少年が立っていた。
最初に間延びした喋り方をした少年が 水無瀬 祐介。人懐っこい笑みを常に浮かべて、『あ、こいついい奴だわ』と、初対面の人に必ず言われる癒し系男子だ。
恐ろしい事にこいつは、羞恥心を知らない……というか物怖じをしない。入学式の日、クラス全員に『ラ〇ライブ知ってる!?』と話しかけて回った事はもはや伝説だ。そのせいで、コミュ力爆弾と呼ばれているのはご愛嬌だろう。
そしてその背後から傲岸不遜な態度で顎を撫でつつ、とら〇あなの袋を掲げる少年が、飯塚光輝
。僕らの中で一番頭が良く、おっさん臭い風貌をしているのが特徴だ。こいつがまた曲者で、麻雀にパチスロ、花札まで網羅するギャンブラーなのだ。高校二年生の頃にはパチンコ屋に通い、しまいには勝ち分で実台を買う始末(交響詩編エウ〇カセブンの中古を5万で買ったらしい)。
その変人度が高い友人2人が席に着くと、ぼくは2人に話しかけた。
「2人ともあまり変わらないね。いや、光輝は老けたかな?」
「あほ。ダンディになったと言え! そこはデリケートなんだ!!」
「ええ〜。光輝は老け顔のおかげで、えろ本を買っても年齢確認されないじゃん〜。すげ〜羨ましいよ〜」
あ、それには同意見だね。ぼくは未だに年齢確認されて、同人誌も買えないんだ。こういう時だけ光輝の容姿が羨ましくなるよ。
「はあ……えろ本なんて買っても虚しいだけだぞ。この前AVを初めて借りてみたけど、全部モザイクが入ってたしな」
「うわ、その事実は知りたくなかったよ……」
そうか。AVにはモザイクが入っているのか……。これでぼくの夢がまた一つ壊れたよ。
──ふう、現実って厳しいなぁ。
思わぬところで嫌な現実を押し付けられてテンションが下がったけど、みんなはぼくをスルーしてメニューを広げている。ぼくも気を取り直して注文するものを決めなくちゃね。
「ケンちゃんはどれにする〜?」
みんながメニューを見終わるのを待っていると、祐介が気を利かせてぼくにもメニューを見してくれた。やはり、コミュ力爆弾は侮れないね!
祐介にお礼を言いながら、ぼくもメニューに目を通していく。……う〜ん、特に食べたいものが無いな。しょうがない事だけど、チェーン店のファミレスはどこも似たり寄ったりのメニューだ。正直食べ飽きてるんだよな〜……。
「健二はどれにするんだ? お前以外は決まっているぞ」
「本当に!? みんな決めるのが早いよ〜、もう少し待ってて!」
「ちっ、相変わらずトロい奴だ。三十秒だけ待ってやる」
「それだけ!? もっと優しさと時間を頂戴!!」
あ、光輝のやつスマホで時間を計ってやがる! 本気で三十秒しか待たないつもりだな! この性悪ジジイめ!!
隣で鼻歌を歌っていた祐介や、死んだ魚の眼で微動だにしない蓮也も、いつの間にかメニューを仕舞ってスマホをいじっている。どうやらぼくに味方はいないようだ。
「はい時間切れ〜。残念だったな」
ピンポーン。
テーブルに備え付けられていた呼び出しベルを、光輝は躊躇いも無く鳴らす。……コイツ、最初から待つ気なんてなかったな……!
「……ケンちゃんは何度騙されれば学習するんだろうね」
「だよね〜! こうなることはわかりきっていただろうに〜」
笑顔で注文を取りに来たウェイトレスさんに注文を取りながら、祐介やと蓮也がバカにしたように僕を見つめる。
くそう! 光輝の言葉をまともに信じた僕がバカだった! 早く何を頼むのか決めなくちゃ!!
「だいたい、注文をこんなに悩む方がおかしいんだ」
「うんうん。普通はある程度頼むものは決まっているはずなのにね〜」
自分たちは決まっているからって調子に乗りやがって……!
まだ時間をかけて考えたいところだけど、みんなの注文を聞き終わった店員さんの視線が心なしか厳しくなって来ている。まだお昼前で混んでいないけど、仕事は忙しいんだろうな。これ以上迷惑をかける前に注文しなければ!
「──ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「はい。お願いします」
急いでメニューをめくっていると、営業スマイルを残してウェイトレスのお姉さんが厨房へと消えていってしまう。あれ? ぼくはまだ注文していないんだけど……。
「ん? お前の注文なら俺がしといたぞ」
「貴様かァァァ!!! 勝手に何してくれとんじゃァァァ!!」
何しれっと言ってんの!? こいつには遠慮とか、人に気を使うってことを知らないのか!!
それに周りのみんなも声をかけてくれればいいのに……、ってそんな気を使える人間はここには居ないか……。まあ遅かった僕も悪いんだし、ここは妥協するしか……。
気持ちを切り替え、テーブルの上を片付ける。それにしても、光輝は何を注文したんだろう? 金欠の僕はどれが一番コスパがいいか悩んで時間がかかって居たわけだし、長い付き合いの光輝ならその辺も考慮して、いい感じの物を注文してくれているはずだ。
「ねえ、光輝。結局ぼくの代わりに何を注文してくれたの?」
友人のセンスを信じ、そう問いかけてみると、
「ん? そんな心配そうな顔をするな。今のお前が求めているものを頼んでおいた」
無精髭を撫でながらニタっと笑い、ぼくが片付けたメニューを手に取る。どうやら性格の悪るい光輝でも、今回ばかりはまともな対応をしてくれたみたいだ。
……ふう、本当に良かったよ。今のぼくのお財布には野口さん一枚しかないからね。下手に高いものを頼まれてたら、お金が足りなくなるところだったよ。
そんなぼくの心情を察したのか、光輝のいやらしい笑みがより一層輝きを増す。あれ? これはまずいパターンなんじゃ……。
「ほれ、この特上リブステーキを注文したんだ。うまそうだろう?」
「あほかぁぁああっ!! ほんとっ、お前は何を考えて生きてるの!!?」
この野郎……! ぼくの懐事情を知ってて 一番高いものを頼みやがったな!! なんて性格が悪いんだ!!!
「落ちつけ。これだけじゃ足りないと思って、ドリンクバーとライスも注文しといた。どうだ、嬉しいだろう?」
「嬉しくないよ!? むしろ泣きそうだよ!!!」
「そうか、それは重畳。俺も頭を悩ませた甲斐があった」
ぼくが悔しがる姿を見て、心から嬉しそうに光輝が頷く。
確か以前、『お前の不幸は見て居て飽きない』とかほざいて居た光輝だ。こいつに任せた時点でこうなっていることは予想できたはずなのに……。しばらく会わないうちに勘が鈍ったか!!
「ケンちゃんも細かいことは気にしないで、飲み物を汲みに行こうよ〜! いっぱい飲まないと損だよ〜!!」
弓から放たれた矢のように、祐介がドリンクバーに突撃して行った。
……はぁ。祐介のいうとおり、元を取るまでジュースでも飲むかな。そうでもしないと気が済まないよ。
ふざけて居た間に増えてきた他の客を避けながら、ドリンクバーに近づく。さすがは大手のファミレスだ。定番のジュースからスムージーや、ホットドリンクまで揃えているみたいだね。これで二百円以下とは恐れ入ったよ!
「え〜っ! ケンちゃんは野菜ジュースを飲むの〜!? なんかジジくさ〜い!!」
「ほっといてよ!誰かさんが脂っこいものを頼んじゃったんだから、せめて野菜ジュースで栄養を摂りたいんだ!!」
光輝のアホがリブステーキなんて物を注文するから、どこかで体に良いものを摂取しないと不安なんだ! 特に部活をやめて体が貧弱になっているのに、昼から重いものを食べるなんて無謀だよ……。
つまらなさそうな祐介の視線を避け、そそくさと席に戻ってくる。そんなぼくを見て鼻を鳴らし、みんなも思い思いの飲み物を持って帰ってきた。
……おかしいな。こいつらがドリンクバーに行って、何かを仕掛けないはずはないんだけど……。
「ん? そんな気持ち悪い顔してどうしたんだ。──ああ。ついに狂ったのか」
「違うよ! どうしてそんな解釈ができるんだよ!? ぼくはどこからどう見ても真人間です!!!」
「「「………………」」」
「その『え? なに訳のわからないことを言っているんだ?』 見たいな顔はなに!? ぼくは間違ったことは言ってないよ!!!」
……こいつら! 可哀想な人を見る目で見つめてきやがって!! これじゃあ、まるでぼくがバカみたいじゃないか!!
1人憤慨するぼくを無視して、みんなが口々に、
「嘘だな」
「嘘だね〜」
「……嘘に決まっている」
当たり前のように頷きあっている。どうやらここに、ぼくの味方はいないようだ。
「ま、健二の頭が残念なのは元からだ。突っ込まないでおいてやろう」
コーラを一息で飲み干し、光輝がゲップとともに悪口を吐き出す。蓮也と祐介も曖昧な笑みを浮かべるだけで、全く助けてくれる様子もない。
……なんか虚しいだけだし、話題を変えよう。この流れじゃ、ジリ貧なのは目に見えてるしね。
「所で皆んなは、どこの大学に決まったの?」
「「…………っち」」
「なんで舌打ちするのさ!! この時期なら定番の話題でしょう!!?」
もはやぼくが喋るだけで不機嫌になっているよね!? 冷たすぎでしょ!!
口元を歪めて不機嫌そうにスマホをいじる光輝と祐介。あの菩薩のような笑みを浮かべる祐介まで嫌そうな顔をしたのは意外だな。
……もしかして、こいつら……。
「──ねえ? まさかとは思うけど、2人は留年したりしてないよね?」
「「!!!!!」」
苦い顔をして一斉にそっぽを向く2人。……もしかしたらと思ったけど、この反応を見る限り図星なんじゃないかな。
ここはもう少しカマをかけて見るか。
「まさか、あんなにぼくをバカにしていた光輝達が浪人する筈はないもんね〜。いや〜、僕とした事が失言だったよ」
「まったくだ! ノミ程度しかない脳みそしか無いくせに適当なことを喋るんじゃねぇっ!」
「うんうん。ケンちゃんはもう少し考えてから話そうね!!」
ここぞとばかりに言葉を重ねて誤魔化そうとする2人。必死になるところがますます怪しいよ! これはもう確定なんじゃ……!
堰を切ったようにぼくへの暴言を吐き続ける2人を無視して、1人傍観している蓮也にアイコンタクトを取る。年がら年中パソコンにかじりついている蓮也なら、ふたりの進路のことも把握している筈だ。なんせ、気になった事はハッキングしてまで調べる蓮也だ。二人が浪人したなら、蓮也がイジる為に情報を仕入れているに決まっている。
さあ、蓮也! このぼくのパーフェクトなアイコンタクトを受け取ってくれ!!!
「……………ケンちゃん。キモいからこっちを見ないで……」
しまった! あまりにも見つめすぎて、蓮也に誤解されてる!!
グラスでぼくの視線を遮り、物理的に距離を取り始める蓮也。このままだと情報が手に入らないじゃないかっ!! ぼくと蓮也の三年間の絆はこんなものだったのか?
──そんな筈はない! 短くも濃厚だったぼくらの過ごした時間は、言葉なんて使わなくても意思疎通を可能にしたんだ!!! (思い込み)
ぼくの悪口を言うことに夢中になっている光輝達を視界から消し、全ての神経を連夜へと注ぐ。
う〜ん、改めて見ると、蓮也って結構童顔だよね。それに地毛であの天然パーマって、意外とキャラが濃いな。普段纏っている負のオーラがすごすぎて、全然気が付かなかったよ!! これは友達として申し訳無い! せめて今からでも伝えなきゃ!!
「──蓮也。改めて思ったんだけど、蓮也って可愛い顔しているよね」
「……………ズザザー」 ←(蓮也が物理的に距離を取る音)
し、しまった!! これじゃただの変態になってしまう。早く弁解を──
『聞いたか? ついに本性を現したみたいだぞ』
『そう? ケンちゃんは元からホモだったと思うけど〜』
『……ケツを向けると掘られそうだ。気をつけないと……』
──しても意味がなさそうだな。
こいつらから変態扱いされているのは慣れているし、とりあえずは無視しておこう。こいつらの悪口をいちいち気にしていたら、精神衛生上よろしく無いもん。
さて、結局蓮也とのアイコンタクトは失敗したわけだし、この後はどうしようかな? できれば普段いじられている仕返しをしたいんだけど、確信がない以上下手な事は言えない。さっきみたいにカマをかけてもいいんだけど、ぼくはあまり上手くないからな〜。あっさりと躱されちゃうし……。
「ま、あんな変態は無視しようぜ。知り合いだと思われると屈辱だしな」
「そうだね〜! ちょうど注文していた料理も来た事だし、ランチタイムとしゃれ込むぜ〜!」
有耶無耶のまま話が流れてしまい、みんなが美味しそうに食事を始める。
……ぼくのステーキだけ調理に時間がかかるのか、未だに運ばれてこない。これは店員さんの嫌がらせじゃないと信じたいところだ。
「そういえば〜、ケンちゃんはF.G.Oやってたっけ〜?」
ハンバーグが刺さったナイフを向けながら、祐介がふと思い出したように尋ねてくる。
ちなみにF.G.Oというのはスマホのアプリの事で、結構人気のゲームだ。
「もちろんやっているけど、それがどうしたの?」
祐介がやっていたのは知ってたけど、今はもうアンインストールした筈だ。それを今更になって聞いてくるなんて、何を企んでいるのやら……。
ぼくが怪しんでいることなど気づかずに、祐介がのんびりと話を続ける。
「昨日広告で見たんだけどさ〜、今イベントのガチャがやってるでしょ〜? ケンちゃんは引かないのかな〜って、気になったんだ〜」
「祐介。食いながら喋るんじゃない。──で、健二。実際のところはどうなんだ?」
リスのように頬を膨らませながら喋る祐介を窘め、光輝がからかうようにぼくを見つめる。
……こいつ。どうせぼくが外れたと思ってるな? バカめ! ぼくも学習するんだよ!!
「ふふん。それは想像にお任せするかな〜」
「…………そうか、外れたのか。御愁傷様です」
「…………ケンちゃん。生きていればいいことあるよ……」
「どうしてぼくが外れた前提で話すんだよ! 光輝! 手を合わせて念仏を唱えるんじゃない!!」
憐憫の目を向けながら食事を続ける2人。こいつら、ぼくがガチャを当てるなんて微塵も考えていないな!? どんだけ失礼なんだよ!!
「まったく。そもそもガチャを引いてないんだから、当たるわけ無いんだよ!!!!」
「「「──っち、つまんねぇな……」」」
「おい、お前ら!! 一斉に親指を下に向けるんじゃ無い!! それと、そのブーイングをやめろ!!」
ご丁寧に『ぶーぶー』と声に出す光輝達。いい加減周りからの視線が痛いんだよ!!
ほら、今隣のおじいちゃんが舌打ちしたよ!? そろそろぼくのS〇N値は限界だ!!
羞恥心と一般常識が欠けているアホどもを窘め、場を仕切り直す。ついでにグラスが空になっていたのでドリンクバーに行き、飲み物を補充しておいた。
これで一息をつくと同時に、ドリンクバーの元を取りに行くぼく。……ふふふ、こんな策士はなかなか居ないだろうね! 自分の頭脳が恐ろしいよ!!
『おい。健二がバカなことを考えている顔をしているぞ』
『ね〜! ケンちゃんはわかりやすいよ〜!』
『…………扱いやすいのがケンちゃんの長所だ。できればこのままで居てほしい……』
「ん? 何か言った?」
「「「言ってない言ってない。ケンちゃんは気にするな」」」
あれ? 確かに何かつぶやいて居たと思ったんだけど……。まあ、みんなが違うっていうならそうなんだよね。気にしないことにしよう。
「ま、とりあえず健二がするべきことは一つだな」
「……今ここでガチャを引く。それ以外に選択肢はない……」
「なに勝手なこと言ってるんだよ!! ぼくは絶対に引かない──あ、ダメぇ!! スマホを取らないで〜!」
くそ! 筋肉バカの光輝には腕力で勝てない!! こうなったら簡単には取り返せないぞ!?
ニヤニヤとイヤラシイ笑みを浮かべる光輝に頭を抑えられ、スマホのロックを解除されるのをただ見ていることしかできない……というか、なんでぼくのスマホの暗証番号を知ってるの!? かなり怖いんだけど!!!
「よし! このぐだぐだナンチャラのガチャを引けばいいんだな?」
「……いえす。全部石を溶かして、盛大に爆死するといい……」
「お〜! 蓮也は恐ろしいね〜! じゃあ、10連を6回できるみたいだし、1人2回ずつ回そうか〜!!」
「ちょ、ちょっと待って! その石はジャ〇ヌさんを引くためにとってあるんだ!! 沖〇さんの為じゃないんだよ!!?」
ぼくが無課金でために貯めた120個の石。愛しのジャ〇ヌさんを手に入れるために集めてきたんだ。こんなところで浪費されるわけにはいかない!!
勝手にアプリを起動して、吟味を始める3人。勝手に10連を回すという暴挙を止めるためにも、ぼくは立ち上がらなければいけないんだ!!!
「な! スマホのカバーが外れるだと!?」
「ふははは! ぼくのスマホケースはボロボロなんだ! 一定の角度で触ると、手から溢れるんだよ!!」
油断しきっていた光輝の手をはたき、スマホを奪還する。こんな所でボロボロのスマホケースが役に立つとは思わなかったよ……。
我が子を慈しむようにスマホに頬ずりするぼくを引いた目で見ながら、光輝が忌々しそうに舌打ちをする。は! ぼくに挑むからこうなるんだよ!! ざまぁっ!!
「──ケンちゃん。君はなんでガチャを引くことを恐れる?」
コト。蜂蜜で汚れたナイフを置き、真剣な声音で蓮也が問いかけてくる。
……どうしたんだ? いつも亡霊のような声しか出さないのに、今は強い意志がこもっているように感じる。
「な、なんでって言われても……、ぼくは今回のガチャで欲しいものが無──「甘い。このハニートーストのように甘い考えだ」 いって、え? どうしてそんな怒ってるの!? 危ないからフォークを投げないで!!」
蓮也は全力投球をすると肩が抜けるもやし野郎だけど、ソースのついたフォークを投げられると、汚れるし地味に痛いし最悪だ! なんて微妙な技を使うんだよ!! 蓮也、恐るべし……!
「ケンちゃん。ガチャっていうのは、引いたら当たる確率は50%なんだ。言い換えれば、外れる確率は50%しかないんだよ? 躊躇う理由はないんじゃないかな?」
「────っ!!!!」
あ、当たる確率が50%だって……! そんなに当たるんだったら、念願のジャ〇ヌさんも手に入るんじゃ……。
「さあ、早くアプリを起動するんだ! 愛しのジャ〇ヌが両手を広げて待っているよ!!」
悪魔めいた蓮也の誘惑に乗せられ、素早くアプリを起動する。重厚な起動音とともにアプリが開き、メニューからガチャ画面に移動する。
……いざ、勝負の時! 今度こそ星5を当てるんだ……!
明滅する画面に触れた手元にみんなの視線が集中する。息を飲むような静寂に包まれ、ぼくは万感の思いを込めてボタンを押した。
「頼む……! ジャ〇ヌさんが来てくれ……っ!!」
淡々とハズレを引いて行く中、心の呟きが溢れてしまう。あたりが確定のエフェクトが出ないままガチャ画面が閉じ、散々な結果が表示される。
……ま、まだ大丈夫だ! あと10連を5回回せるし、きっと当たるよ!!
蓮也の視線を感じながら焦るように画面をタップし、次々と石を溶かして行く。その結果は──
・1回目 ハズレ
・2回目 爆死
・3回目 そろそろ死にたくなって来た
・4回目 まさかのアンデ〇セン
・5回目 ……神は死んだ…………
「…………………」
「「「………………」」」
「──って、誰か何か言ってよ!? すごく虚しいじゃないかっ!!!」
バカにするでもなく、笑う事すらしない光輝達。さも予想通りだっと言わんばかりに肩をすくめて、
「まあ、予想通りだったよな」
「だね〜。そもそもピックアップでもないのに当たるわけないよ〜」
「…………無様だね…………」
くそっ! 此処ぞとばかりに好き放題言いやがって……! せめて蓮也はぼくに一言あってもいいはずだろう!? どうして哀れみの視線を向けるんだぁっぁあ!!
あまりのショックに立ち直れず、スマホを握りしめたまま机に伏せってしまう。
……このガチャが外れた時、スマホを投げたくなる衝動。共感してくれる人はいないのか……!
「あのなぁ、被害者ヅラしているところ悪いが、蓮也は当たるとは一言も言ってないぞ」
「嘘だぁ! 確かに50%で当たるって……!」
「はぁ……。それは当たる確率が50%って言っただけで、当たるとは一言も言ってないぞ」
「………………そ、そんなバカなぁぁぁぁあ!!!」
「……ケンちゃん。周りの視線が痛いから、地面にうずくまって叫ぶのはやめて……」
ぼくを騙した? 張本人の蓮也が無機質な声で告げる。
ちくしょうっ! 昔から蓮也は人を弄んで楽しむやつだったんだ!! 中学生の頃、遊〇王のサーチをする時散々騙されたのを忘れてたよ!!!
「なあ、健二。今のお前の姿──今日、一番つまんないわ」
「それが傷心の親友にかける言葉!? もっと優しさを頂戴!!!」
このクソ野郎! つまらないとか言っているくせに、スマホでぼくの姿を撮影してやがったな! こいつにこんな姿を保存されたら……──絶対に晒される。スマホを叩き割ってでもデータを消去してやる!!
「──お客様。周りのお客様のご迷惑となりますねで、お静かにお願いします。あと、お済みのお皿は下げさせて貰います」 (意訳:うるせえんだよ! いい加減黙れ! あ、食い終わってんなら出てってくれない? 目障りでしょうがないんだけど)
感情を感じさせない店員さんの声を聞き、お互いに胸ぐらを掴みあっていた僕たちはそっと距離を取る。そしてみんなで顔を合わせてから──
「「「「すいませんでした!! お会計お願いします!!!!!」」」」
速攻で会計を済ませて、逃げるようにお店を出る。……ぼくのステーキ、まだ運ばれて来てすらなかったのになぁ〜…………。
♢
「はぁ。ひどい目にあったぜ。これもどこかのバカが騒いだせいだな」
「どの口でほざいているの!? そもそも光輝が反撃するのがいけないんだ!!」
「カス野郎! テメェが近寄って来たら殴るのが常識だろうが!! くだらないこと言ってないで、さっさと土に帰れ!!」
言わせておけば好き放題言いやがって!! 元はと言えばこいつが全ての元凶なんだ。今までの分を含めて、後腐れないように此処で始末しとくか……!
「は〜い、そこまで〜! これ以上は抑えられなくなるから、もうやめとこうぜ〜」
ぼくと光輝の間に体を割り込ませながら、祐介が僕たちを諭す。祐介が言うな此処は引き下がるしかないけど、別の機会があったら確実に始末しておこう。これ以上こいつを放置しておいたら、どんな目にあわされるかわかったもんじゃない。
車の多い通りにいる事も幸いして、すんなりと距離をとったぼくと光輝。それを見て安心したのか、ほわ〜っと柔らかな笑みを浮かべた祐介。昔からこの笑顔だけには逆らえないよ。なんと言うか、オーラが違うんだよね〜。
「…………TATUYAがあるけど、みんなは寄ってく?」
普段日に当たらないせいで青白い指を掲げて蓮也が僕らに問いかけた。今にも折れてしまいそうな指の示す方向に視線を移すと、そこには大きなレンタルビデオショップがあった。
「俺は別に用事はないな。みんなが行くならついて行くぞ?」
「オレはCDが見たいな〜! そろそろ新作が入荷してる時期だしね〜!」
光輝と祐介もTATUYAを見つけたみたいで、思い思いの感想を口にしている。どうやら明確な反対意見もないみたいだし、TATUYAに入ることは決定みたいだ。
「ハ〇ワのCDはあるかな〜?」
ぶぃ〜ん。鈍い音とともに開いた自動ドアをくぐり、祐介が弾丸のようにCDコーナーに突っ込む。その後を蓮也が幽鬼のようについて行くのを見送って、横に居る光輝にアイコンタクトをする。
(…………………コクン)
(…………………ッグ!)
決して声に出さず、完璧に意思疎通を行う。これからする事は、絶対に蓮也と祐介にバレるわけにはいかないんだ。最新の注意を払わないと……。
不自然にならない程度に早歩きで進み、店の隅っこにあやしく揺らめくピンク色の暖簾を潜る。
「「ゴクッ」」
興奮からか生唾を飲み込んでしまった。でも、それも仕方がない事だろう。なぜなら僕たちは、青少年が夢見た桃源郷に居るんだから……!
「ここがAVコーナーか……。ピンクとモザイクが眩しいぜ!」
「うん。遂に足を踏み入れちゃったんだね……」
変な感慨を覚えながら、恐る恐る物色を開始する。大した事はしてないんだけど、何故か大人の階段を上った気分だよ……。
場の雰囲気と背徳感からだろうか。妙な興奮をしながらも、目についたパッケージを手に取ってみる。AVなんてネットで数えきれないほど見て来たのに、今ほど興奮した事はないんじゃないだろうか……。ともかく、もう少しゆっくり見て回ろう……。
お互い無言のうちに別行動して居る光輝を、視界の端で捉えながら店内を歩いて居ると──
『あれ〜? ケンちゃんと光輝が居ないよ〜?』
『……そんなはずは無い。見逃しただけで、絶対に店内にいるはず……』
「「!!!!!」」
や、やばいぞ!! 蓮也たちがぼく達を探し始めている!!! このままだったらAVを見て居たことがバレちゃうじゃ無いか!!!
(健二! まずいぞ!! 蓮也達に見つかっちまう!!?)
(わかっているよ!! 万が一にでも見つかったりしたら……)
『……………………ケンちゃん、光輝。つまり君達はそういう奴だったんだね(嘲笑)』
って、なる未来が鮮明に見えるよ!! なんとしてでもバレないように脱出しなくては!!!
脂汗が滝のように流れ出し、全身から血の気が引いて行くのを感じながら、気配を消してピンク色の暖簾に近づいて行く。声をした方角から考えるに、今出て行ったら鉢合わせることはないんだろうけど……。
(健二! ビビってないで早く出ろよ!! 手遅れになるぞ!!!)
(そう言うなら光輝が先に出ればいいじゃないか! ぼくの背中を押してばかりで何もしてないじゃん!!)
もし先に暖簾をくぐってバッタリ連夜たちに会ったら言い逃れはできない。そう考えると足が竦み、お互いに相手を外に叩きだそうと胸倉を掴み会うぼくら。
『ケンちゃん達居ないね〜? 本当に何処に行ったんだろ〜?』
『……もしかしたら店の外に出ているのかもしれない。確認してこよう……』
ちゃ、チャンスだ!! 蓮也達が店の外に行っている間に脱出を──
『……なんてね。ケンちゃん達はここにいるよ』
バサ。今にも折れてしまいそうな細い腕で、桃源郷の扉が無造作に開かれる。入る瞬間は天国に見えて居たはずなのに、今は地獄の釜が開くようにしか見えないのが不思議だ。
「な、何で僕たちがここにいると分かったの……!? ──そうか! ムッツリな光輝のことを思い出したからか!!!」
「ああ……歩く猥褻物こと健二を知っていれば、ここに居ることは簡単に推測できただろう……』
『『……………ゲシゲシ』』←(ぼくらが殴り合う音)
「…………ふぅ。どっちもどっちだよ……」
「ねぇ〜! いい加減恥ずかしい、早くお店出ようよ〜」
祐介の言葉に顔をあげると、突き刺さる視線に気づく。おじさんの憐れむ視線は耐えられるけど、女性の店員さんの蔑む視線が辛い!! もうお婿に行けないよ!!!
仲良く変態の二つ名を貰ったぼくと光輝は、刑務所に連行される囚人の気持ちで店を後にした
♢
「まったく! 2人と一緒にいると恥ずかしいよ!! もっと自重してね〜!!」
「……返す言葉もありません……」
「……面目ねえ…………」
ぷりぷりと起こる祐介に連れられ、明かりの消えた信号を渡って行く。あのあと逃げるように店を出てきたんだけど、そのせいで祐介はCDを借りられなかった。それでご立腹なんだけど、全面的に僕らが悪いから祐介に謝るしかできない。
しばらく借りてきた猫のようにおとなしかった僕らだけど、肩をすくめた祐介に腕を掴まれて、
「2人とも落ち込みすぎだよ〜! もう怒ってないから元気出して〜!」
「いや、そう言うわけにはいかない。今回は俺たちのせいで迷惑をかけてしまったからな。ちゃんと償いをするさ」
「うんうん。お金がないから今は無理だけど、バイトしたら必ずおごるよ!!」
気にしてないという風に首をふる祐介だが、まったく僕らを許して居ないようだ。なぜなら──
「……祐介。そろそろ手を離してくれないか? 爪が食い込んで痛いんだが……」
「ん〜? 光輝の気のせいじゃないかな〜??????? 僕はそんなことしないよ〜??????」「あ、あははは……そうだな……俺の気のせいだったな……」
ひぃぃぃ!!! まったく許してくれてないよ!!! あの不自然なほど浮かべられた疑問符がそれをものがっている。このままだと、手の感触がなくなるまで抓られてしまう……!
「──冗談だよ〜。もう僕は気にしてない。けど、一つだけお願いを聞いてほしいな〜」
人はそれを許したとは言わない。でも、交換条件一つで祐介が機嫌を直してくれるなら安いもんだ。
そう思ったぼくらは、
「勿論、なんでも言ってくれ。無茶なことじゃない限り、な……」
「そうだね……お財布に厳しくないことなら喜んで聞くよ!!!」
保身に走りながらも提案を受け入れる。
……光輝のやつ、さりげなく僕を前に出そうと背中を蹴りやがって……。あとで覚えとけよ……!
「むふ〜! そんな難しいことじゃないからね〜。ただ──」
ようやく手を離してくれた祐介は、くるり。踊るようにぼくらを見渡し、満面の笑みで、
「──ただ、またこうしてみんなで集まろう〜!! そうしたら許してあげるよ〜!!!」
月明かりを背景に告げた。
……まったく。しばらく会わないうちにクサイ事をいうようになったじゃないか。不覚にも心が震えたよ……。
遠いクラクションの音を聞きながら、ぼくらは黙って見つめ合う。そして、誰もが不敵に微笑み。
「「「おうっ!!! 必ずまた集まろうぜ!!!!!!」」」」
今度こそブレることなくお互いに言い聞かせるように叫ぶ。
今はちょうど別れと──出会いの季節。これからぼくたちは違う道を歩いて行くんだろうけど、不思議と寂しい気持ちはしない。だって、また、ぼくたちは再び集うんだから──
最後まで読んでいただきありがとうございました! もし皆様がこの作品を読んで、少しでも面白いと感じてくださったなら嬉しいです! よろしければ、感想を書いていただけたら幸いです。ここまで付き合っていただき本当にありがとうございましたm(_ _)m