第5話 朝霧裕香の試練
「……裕香ちゃんは、兄の力を悪用するような子じゃない。それは俺から断言する」
生徒総会では早速、裕香とエリアルのことが議題に挙げられていた。
「それでもやはり、僕たちとしては賛同は出来ないよ。早急にエリアルと言う電子ツールは、取り上げるべきだ」
「天草総会系の意見には反対します。公に支持を得てしまった以上、そのような強引な手段は避けるべきかと……まあだからと言って、一条総書記の主張に賛同は出来ませんが」
生徒総会はほぼ全員が難色を示していた。
天草総会計は裕香からエリアルを取り上げるべきだと主張し、岩崎執行部長もそれを否定しつつも、宇宙の主張を否定する。
そして特に反対意見を強く主張しているのが、井上総会長。
「朝霧裕樹がどれだけ、学園都市の治安を脅かす難題を打ち払ってきたか、そして我ら生徒会に貢献してきたかを知らんわけでもあるまい?」
「それはわかっている。ユウには親友としても生徒会の一員としても、感謝を絶やしたことなど一瞬たりともない」
「ならば我ら全員が何を危惧しているか位、わかるだろう? 朝霧裕樹の強大過ぎる力を子供が、それもこんな遊び感覚で振るうだなど、許容できるわけがない!」
「……その遊び感覚と思わしき部分は、俺の方でも叱っておいた。それにユウだって、妹が自分の力で増長することを黙ってるわけもない」
「それでもなお、朝霧の妹が兄の力をふるうことを許容すると? ……しかし一体東城はなぜ、朝霧の妹にこんなものを」
「確かに東城が、レイダーやマリスについて黙ってる訳がないと思ってはいた。しかし裕香ちゃんにエリアルを渡した理由は……」
「ふぅっ……良いんじゃないか。好きにやらせれば」
そこで、今まで黙っていた総副会長が、唐突にそう告げた。
「--大神、いきなり何を!?」
「朝霧裕香がこの事件解決の糸口になるかは、実戦で試せばいい。途中で折れるようなことがあれば、それまで--それだけのことだ」
「味方してもらってこう言うのもなんだが、意外だな……お前が嫌いそうな内容だと思っていたが」
「優先事項はレイダーとマリス、それ以外の事で討論するだけ無駄だと判断した。それにこんなことで時間を食って、奴らの思うがままにするほうが生徒会の信用に響く……そうだろう?」
「くっ……」
「朝霧裕香の件、好きにしろ。ただし責任を負うといった以上、わかっているな?」
「ああっ--ただ、あの子をプロバガンダに利用することは認める気はない。それだけは理解してもらいたい」
「……それなら、ある程度の不本意はこの際仕方がないとしよう。ではこの話は、一条君と朝霧君に一任すると言う事で」
「確かに、保安部や生徒会SPに不満も出始めている以上、時間も手間も割けない。仕方ありませんね」
「……」
--所変わって。
「やっ!」
生徒会SP訓練場
ほぼ野戦病院化しているその場所の一角にて。
「はっ……はっ……」
裕香は刀となった杖を手に、凪と対峙。
しかし、素手であるにもかかわらず、凪にはかすりさえもしていないどころか、完全にあしらわれていた。
「ゆーちゃん……」
「どうして? だって……」
「いや、むしろ当然だよ」
文字通り子ども扱いされてる裕香に疑問を浮かべるお子様2人に、裕樹は特に動揺もせず成り行きを見ていた。
「だって、御影凪さんって朝霧先輩と同じくらい強いはずなのに……」
「ああっ、凪は俺と同じくらいに強いよ。“総合力”って意味ならね」
「……?」
「簡単に言えば、得意不得意さ--裕香はまだ、総合力の戦いしかできてないから、凪に勝てないのはむしろ当然なんだよ」
「……難しいんですね」
「いや、これはどんな分野でも、ある程度の成長をすればぶつかる壁だよ……まあ今は、それでいいんだけどね」
数分後
「……やっぱりダメかあ」
「幾ら朝霧の力を手に入れたとはいえ、所詮は借り物の力に後れはとらない」
「そう、ですよね……ユウ兄ちゃんがどれだけ頑張ってきたか、どれだけ傷ついてきたかは、ずっと見てましたから」
「……レイダー兵の様になることは、なさそうだな。少し考えておくか」
ヴィーッ! ヴィーッ!
「なんだ!?」
『侵入者です! 数は1人で--うわああっ!!』
『朝霧裕香はどこ!!?』
「子供の声? ……狙いは朝霧の妹だと?」
「--なんだって、ユキナが!? どうして止めなかったんだ!!」
「止めたけど聞く耳もたずで、飛び出して行っちまった」
「ああっ、もう……急いで止めないと。剛、九十九に声をかけて、どこでも良いからレイダー兵が占拠してる場所に攻め入ってくれ」
「了解!」