第1話 混沌の学園都市
祭事と競争で都市としての繁栄を、住人である子供たちに自立と成長を促す機関、学園都市
しかし今や、その理念は見るも無残に打ち砕かれていた。
「ひゃっほーっ!!」
「とっ捕まえろ!!」
始まりは、格闘技、スポーツ方面の成績優秀者の行方不明事件から
それらは保安部機動部隊員、上流階級SPにまで及び、それらはやがて学園都市そのものを揺るがす大事件にまで発展していくこととなる。
“レイダー”
そう呼ばれる、装着することによりこれまで誘拐された者たちの技能、能力を手に入れることが可能となる機器を装備した兵、レイダー兵の軍勢。
それらの進軍、占拠によって、学園都市は搾取と暴力の楽園と化してしまっていた。
むろん、学園都市生徒総会も黙っている訳もなく、保安部機動部隊や生徒会SPを動員してこれに対抗。
ただ、生半可な戦力は逆に誘拐され、敵の肥やしとなってしまう為に、少数精鋭による電撃作戦がメインとなる。
しかし対抗できる少数精鋭と言えど、彼らもまた人間
疲労が積み重なる時期にはまた、苦戦を余儀なくされていた。
「……撒いたか」
所々を包帯あるいはガーゼで覆われ、痛々しさを醸し出している裕樹が、電子ツールの刀を片手に周囲を見回している。
そのそばには、彼の妹である裕香と友人が2人。
「……大丈夫? みんな、ケガは」
「私たちより、ユウ兄ちゃんのほうが……」
「ごめんなさい、あたしのせいで……」
組織が朝霧裕樹の妹、裕香を狙ってレイダー兵を差し向けた事から。
裕樹は裕香を助けるべく、疲労を押して無理な強行手段を行い、1人を庇って負傷してしまい、3人を連れて逃げるのがやっとという有様だった。
「それより、安全な場所まであと少しだ。急ごう」
「まず、休んでからにしましょう。無理ですよ、そんな体で」
「安全な場所についてからな……さて」
ズゥン!
「……見つかったか」
「ははっ、見つけたぜ朝霧裕樹。お前をとっ捕まえて献上なんざ、もうバラ色の未来しか見えねえぜ」
「言ってくれんじゃねえか、三下が……これ位のハンデで、もうお花畑かよ?」
レイダー兵が使う改造電子召喚獣、マリス
4足歩行の獣型だが、その姿が黒い霧のような何かで覆われており、その全貌は窺い知ることができない異様な様相。
ただわかっている事は、これも誘拐した者たちの電子召喚獣のデータを使い強化した特別版であり、そこらの違法どころか機動部隊の電子召喚獣すら圧倒する。
無論裕樹にとっては、万全であろうとなかろうと、敵ではないレベルに過ぎないが……。
マリスが裕香に狙いを定め……。
ドカアッ!!
「ぐあっ!!」
とっさに裕樹がそれを庇った。
「ははっ……いいねえ! あの朝霧裕樹が、惨めな姿さらしてはいつくばってるたあよ!!」
「……!」
「レイダー、マリス……最高の気分だ! もう平凡のレッテルを張られ、上を見上げる日々なんか送らなくていいんだ!」
「--けないでよ」
「ん?」
「ふざけないでよ……レイダーだかマリスだか知らないけど、そんなものに頼って最強を奪ったつもり? ただ平凡から最低でもなくなっただけじゃない!!」
「よおし、全身をくまなく痣だらけにしてやる!! 礼儀をわきまえないクソガキには、きっちりお仕置きしてやらないとな!!」
バンッ!
「ぶぐっ! だっ、誰だ!!?」
「気分はもう天使様ってところかい? ……ふざけんな。人が天国に住めるわけないだろ」
「てっ、テメエは!!?」
突如現れた男……東城太助に、レイダー兵が動揺を見せた。
その隙をついて、レイダー兵とマリスが突如黒い鎖に雁字搦めにされる。
「……東城!」
「心配しなくても、助けに来ただけだよ。しかし、さすがは君の妹だね……強者の在り方を、ちゃーんと理解してる」
とりあえずの止血を裕樹に施し、太助は裕香に目を向ける。
「そう……人は天国に住もうとした時点で、それ以上はない」」
「あなたは……」
「兄を信じ、その兄を信じる自分を信じる君に、奴らに対抗する力を渡しに来た」
そういって太助は、タブレットを起動し--1本の杖を差し出した。
先端に五芒星を模し、両側に翼を生やした玩具を連想させるデザインの杖を。
「これは……」
「唱えるんだ、テイクオーバー」
「テイク、オーバー」
『パスワード承認。マスター未設定、認証開始--完了』
「え? 何?」
「落ち着いて--これは君が兄を、そして友達を守るための、君がさっき欲しがっていた力なんだ」
「力……?」
「朝霧君、これを」
裕香が渡された杖に戸惑っている間に、太助は今度は裕樹に水晶玉を差し出した。
「--これは?」
「テイクオーバー……その意味は分かるかい?」
「? ……! まさか……!」
「奴らが“奪った力”なら、それに対抗するのは“受け継いだ力”だ。そう……朝霧裕香は、朝霧裕樹の力を使って戦うのさ」
バキィン!!
「この野郎があっ!!」
激昂したレイダー兵とマリスが、
「……ちっ! --どうすればいい?」
「承認--朝霧裕香を信じて、そういえばいい。少しでも疑えば……」
「承認!」
「--って、まだ途中なんだけど」
「疑えばなんて聞くだけ無駄だ」
「言い切ったね」
『受信完了--データ作成、構築--完了!」
「え? 何? 何?」
『システム起動!』




